資本参加とは?資本提携との違いや注意すべきポイントを解説
⽬次
- 1. 資本参加とは?
- 2. 資本参加と資本提携の違い
- 3. 資本参加と業務提携の違い
- 4. 資本参加と株式取得の違い
- 5. 資本参加と事業譲渡との違い
- 6. 資本参加を持ちかけられた時に注意すべきポイント
- 6-1. 出資比率をどの程度与えるか
- 6-2. シナジーがどのように見込めるか
- 6-3. 相手側と長期的に良好な関係を保てるか
- 7. 終わりに
- 7-1. 著者
資本参加は、会社や事業の売買を行わずに自社の成長につなげられる経営戦略の1つとして有効な手法です。本記事では資本参加の概要、資本提携など他の手法との違いや、資本参加を持ちかけられた時に注意すべきポイントについて紹介していきます。
資本参加とは?
資本参加とは、他企業との関係性を強化するために株式を取得し、資本提供する手法です。援助により成長が期待できる企業や、連携を深めたい取引先に対して資本を提供し、企業の経営拡大や新事業の設立などに協力することで良好な関係性を築きます。
株式の取得による援助を行うものの、資本参加の枠組みでは基本的に経営権の獲得を目的としません。ただし、経営権を得ずとも多額の出資を行った企業は取引において存在感を強めることになり、関係性に影響を与えます。一方的に資金提供を行う名目上、資本参加を行う企業はそれを受ける企業よりも規模が大きいケースが一般的です。
資本参加と資本提携の違い
資本提携は、企業がお互いの株式を持ち合う形式で行う出資方法です。規模の近い企業同士が資本を出し合い、双方で業務支援を行うことで強固な協力関係を構築します。
対して資本参加は、一方の企業が資金援助を目的として他社の株式を取得する手法です。企業の経営に関与する目的では行わないため、3分の1の比率を超えない範囲で株式を取得することで対象企業の独立性を保持します。
資本提携では株式の取得比率が限定されず、提携する目的に応じた株式の取引を行います。基本的には資金面での連携のみを目的とし、こちらも株式の3分の1以上は保有しないのが定石です。
なお、資本参加を行った結果として、資本提携や経営統合などへ進展するケースもあります。
資本参加と業務提携の違い
業務提携は資本の提供や交換は行わず、業務面に限定した提携です。技術や生産、販売など、企業が持つ業務上のリソースを相互に提供し合います。資本参加の際に行われる株式の移動などがなく、出資手続きが不要なため、契約書を交わすだけの短い手順で提携が始められます。
技術面での提携では技術資源やノウハウの共有が可能で、新しい商品・サービスなどを開発するために活用できます。
生産では、商品の製造に必要な設備や人材を共有します。設備の提供を受けることで、設備投資にかかるコストや手間を削減でき、迅速な収益化につなげられます。
また販売では、他企業の販路や市場ノウハウを得られるため、新規事業へ参入するなどの状況で効率的に販売活動を進めることが可能です。
業務提携を結ぶにあたっては資本を必要としないため、企業の規模にかかわらず提携可能です。一方で資本面での結びつきを築く資本参加よりも関係性の弱い連携手法であると言えます。
資本参加と株式取得の違い
株式取得とはM&Aの1つで、企業の株式を取得してその企業の経営権を得ることです。先述の通り、資本参加では経営権に関与しない程度に取得を抑えるため、経営権の獲得を目的とするかが株式取得との大きな違いと言えます。
株式取得では、株主から直接株式を取得して得た株式の持分に応じた経営権を持ちます。株式の25%以上を取得した場合は「相互保有株式の議決権制限」、3分の1を超える数では「合併・事業譲渡等の重要事項についての特別決議拒否権」、過半数に達した場合「取締役選任等の普通決議議決権」などの経営権を行使できます。
さらに3分の2を超える場合には「合併・事業譲渡等の重要事項についての特別決議議決権」、100%を取得した際には他の主張が発生しない完全な経営権の取得が可能です。株式取得は経営権を得る目的で行うため、3分の1未満の割合では行われません。(会社法308条・309条)
資本参加と事業譲渡との違い
企業が経営している事業の全て、または一部の譲渡を行うことが事業譲渡です。資本参加は対象企業に対して株式を取得する形で資金を提供、関係性を高める手法のため、事業の権利には関与しません。
事業譲渡では、株式だけでなく事業を譲渡する「承継」が行われます。買い手は、譲渡対象の事業を選択してから資産や負債、顧客、雇用関係、契約など、事業に関連する権利の移転を個別に行い、契約者や契約内容を新しく切り替える必要があります。
主に株式の取得のみで手続きが完了する資本参加とは異なり、事業譲渡はそれに伴う契約の移転にコストや手間がかかります。また、譲渡後には、売り手の企業が同一市町村や隣接区域で原則20年間は譲渡した事業を行えなくなるといった制約が課されます。事業譲渡は、負債が多い企業において企業全体の譲渡が難しい場合などに、将来性が見込める事業だけ譲渡したいといった状況で行われるのが一般的です。
(会社法第21条)
資本参加を持ちかけられた時に注意すべきポイント
自社が資本参加を持ちかけられた場合には、次の3点をふまえた検討が不可欠です。ポイントを押さえて資本参加を受けることにより、少ないリスクで高い効果が期待できます。
出資比率をどの程度与えるか
株式を取得すると、出資した割合によって株主提案権、株主議決権を獲得します。
持ち株比率/保有権利の一例
持ち株比率 | 保有権利 |
---|---|
100% | すべて自分の意志で決定する事ができる(完全子会社化が可能) |
66.7%以上(2/3以上) | 株主総会の特別決議※を単独で成立させられる*例:会社の合併、事業譲渡の承認など |
50.1%超(1/2超) | 株主総会の普通決議※を単独で成立させられる※取締役の選・解任、配当など |
33.4%以上(1/3以上) | 株主総会の特別決議を単独で阻止できる |
3%以上 | 株主総会の招集、会社の帳簿等、経営資料の閲覧ができる |
1% | 株主総会における議案提出権 |
対象企業の株式を50%超取得して、株主総会の普通決議が単独で成立可能になれば、経営権を取得したことになります。
資本参加を行った企業が株式を譲渡した企業に経営権が発生しないようにするには、株の出資比率に注意しなければなりません。株主は、たとえ数%の株式を保有する程度でも、会社法により「少数株主権」の行使が認められます。
少数株主権は、株式比率に応じて会計帳簿の閲覧権、株主提案権、役員の解任請求権などを行える権利です。例えば取締役会設置会社では、議決権の1%以上または300個以上の株式を6か月間から保有している場合に株主提案権の行使が可能になります。(会社法:303条)
資本面での結びつきを構築する以上、経営権を行使できない資本参加企業でも、そこから発せられた意見は経営陣にとって無視できないものとなります。また資本参加の名目で援助を受け入れた結果、資本参加企業と他の株主が結託して株主提案権を行使する状況も起こり得るため、株式を保有する各社や個人の関係性にも注意が必要です。
シナジーがどのように見込めるか
資本参加の効果を倍増させるのがシナジー効果です。資本参加では、「売上シナジー」「研究開発シナジー」「コストシナジー」などの「事業シナジー」効果が期待できます。これらのシナジーが資本参加によりどのように得られるかも重要なポイントです。
資本参加で関係を強めることにより、技術やノウハウなどお互いの事業を補完し合えるようになると、企業の生産力向上につなげられます。
ただし、資本参加に想定していたほどのシナジー効果が両企業で得られない場合もあります。シナジー効果を発揮するためには、互いにどんな強みがあるのか、また不足する要素はなにかという点をよく把握しなければなりません。
そして、相手企業の社風や債務などの情報から自社とのシナジー効果が期待できる企業かどうかを事前によく調査することが大切です。事業内容の噛み合った関係が築ける企業を選び、さらに万が一のリスクを避けるためにも詳細に取り決めを設けておくことで、目的に沿った高いシナジー効果が見込めます。
相手側と長期的に良好な関係を保てるか
資本参加は経営戦略として有効な手法のひとつですが、永続的なものではありません。健全な投資目的による資本参加が成立している状況でも、両企業に強制力が働くことはないため、契約満了時に更新を拒否されれば資金提供が打ち切られることもあります。
打ち切りになった場合、資本参加を受けた企業が株式を買い戻すか、資金が不十分ならば第三者に株式を転売するといった対応に迫られます。問題の発生を防ぐためにも、事前に契約終了時の処理方法を明確に定めておく必要があります。
資本参加の打ち切りを防ぐためにも、相手企業とは友好関係を構築して関係性を長く維持することが大切です。資本参加を受ける際には、関係保持のために無理な努力を行う必要のない、良好な関係を築ける企業を選びましょう。
終わりに
資本参加を持ちかけられた際には、資本参加を行う企業の出資比率やシナジー効果が得られるかといったポイントに注意する必要があります。資本による結びつきを通じて強固な関係性を構築できる一方で、結託による議決権の行使や打ち切りによるリスクもあるため、慎重に相手を選びましょう。