経営統合とは?合併との違いやメリットについて徹底解説!
経営統合は、企業が競争力を高めたり、効率を改善したりするための戦略的な手段の1つです。本記事では経営統合の概要についてご紹介します。
この記事のポイント
- 経営統合では、企業グループの管理が効率化され、各子会社の法人格が維持される。
- 一方、合併では存続企業以外の法人格は消滅する。
- 経営統合のメリットには、子会社の自主性を保ちながら経営を安定させること、企業間の結束強化、従業員の混乱を抑えることが挙げられる。
⽬次
経営統合とは
経営統合とは、 複数の企業が親会社(持株会社)を新たに設立して、各企業は法人格を保ったまま持株会社の傘下に入ることを指します。
持株会社は子会社の株式を保有してグループ会社の管理を実施します。原則として、経営統合後も各子会社の法人格は独立・維持されるので、後述する会社同士の合併などと比べるとそれぞれの会社とのつながりは弱いと考えられています。
持株会社には、事業持株会社と純粋持株会社があります。事業持株会社とは、子会社の株式を保有しつつ自社でもビジネスをおこなっている会社です。
一方、純粋持株会社とは子会社の株式を保有することのみを目的とする会社です。つまり、事業持株会社はグループ会社のコントロールと自社の事業運営が目的となりますが、純粋持株会社はグループ会社のコントロールだけが目的なのです。
経営統合と合併の違い
経営統合では各企業の法人格が保たれるのに対し、合併では存続企業以外の企業の法人格は消滅します。
また、成立後の会社の数が異なります。経営統合では、原則として新たに持株会社を設立するため、グループ会社全体の社数は傘下の子会社の数以上の会社数になります。
しかし合併では存続企業以外は消滅するため、全体の会社数は減少します。
経営統合を行うメリット
経営統合を行うメリットとしては、以下の点が挙げられます。
子会社が自主性・独立性をもって事業を展開できる
経営統合の場合には、各子会社は基本的に独立して運営しているので、各社が独自にビジネスを運営できるようになっています。持株会社は子会社の株式を保有しているので、いざという場合には株主としての権利を行使して子会社の経営に介入できますが、それはあくまでも最終的な手段です。
通常は各子会社の自主性・独立性を重視して、グループの事業計画や経営上のルールに則ってさえいれば、自由にビジネスを運営できることが経営統合の強みです。事業ポートフォリオを分散するため、万が一、グループ内の1社が業績不調であっても他の子会社には影響を与えにくいという点もメリットに挙げられます。
企業を統制&監視する仕組みが強化できる
特に純粋持株会社の場合には顕著ですが、経営統合にはグループ会社を統制(コントロール)および監視(モニタリング)するシステムを強化できるメリットがあります。持株会社はグループ会社全体を俯瞰して高い立場から各社に指示・助言できます。
自社の事業のみに専念していると、グループ内の他の企業にとってはマイナスになってしまう施策を実施していることに気付かない場合もあります。しかし、持株会社があればそうした点に早く気付いて適切なタイミングで調整してもらえます。企業グループとしてのベストを目指せるようになる点は、大きなメリットです。
従業員の混乱を抑えられる
合併を実施する場合には、吸収される会社の従業員に動揺が広がります。処遇はどうなるのか、担当業務が変更になってしまうのか、など今後の自分自身の働き方に大きな影響が発生する可能性がありますので、安心できなくなるでしょう。
このとき、従業員の間に混乱や不満が発生して仕事に身が入らない状態が続くことが懸念されます。
しかし、経営統合の場合には、原則としてこれまでの処遇や仕事内容が急激に変わることはないため、従業員から大きな不平・不満が出たり、混乱が生じたりする懸念は少ないと考えられます。この点は、経営統合の大きな利点の一つです。
経営統合を行うデメリット・注意点
経営統合を行うデメリット・注意点としては、以下の点が挙げられます。
合併と比べると、シナジー効果が発揮しづらい
経営統合では、各社の独立性や自主性を重視しているのでシナジー効果を発揮しにくいデメリットが考えられます。シナジー効果とは相乗効果を指し、異なる企業が協力してお互いに弱い部分を補完したり、共同開発などで成果を上げたりすることです。
経営統合の場合には、グループ会社間でノウハウやスキルを共有したり、新たなアイデアを製品化したりするようなことは難しいかもしれません。持株会社が意識して指導的な役割を果たさない限り、シナジー効果の発揮は簡単ではないでしょう。
間接業務の効率化が課題になりやすい
経営統合しても、グループ各社で経理業務や人事業務などの間接部門の業務は個別に実施するケースが考えられます。こうしたケースでは、複数の会社で同じような業務を行うことは非効率になりかねません。業務を統合しようとしても、採用している会計基準や会計システムが異なっているような場合には、簡単に統合できません。
このような場合には、グループ全体の経理業務を請け負うアウトソーシング会社を設立(あるいは買収)するなどの方法によって、間接業務の効率化を図ることが望ましいと考えられます。
無駄なコストが生じやすい
傘下のグループ会社が増えると、それだけ重複する部門も増加する可能性があります。典型的な重複する部署が、経理部門や人事部門などの間接業務の部門です。同じような業務を複数のグループ会社で実施することはそれだけコストも多くかかってしまいます。
こうした無駄なコスト発生を抑制するためにも、各社で共通している業務を整理してアウトソーシングすることは無駄なコストを削減する一つの解決策です。
合併を行うメリット
合併を行うメリットとしては、以下の点が考えられます。
会社組織が大きくなる
他の企業と合併すれば、企業のサイズやビジネスの規模がともに大きくなることが期待できます。会社の規模が大きくなればマーケットにおけるプレゼンスも大きくなるので、事業展開には有利になると考えられます。
合併先が有力な企業であれば、より会社の社会的信用度は増加することが期待できます。つまり、合併前より事業が推進しやすくなるのです。
シナジー効果が発揮しやすい
経営統合と異なり、合併の場合は同じ会社内で仕事をすることになるので保有しているスキルや技術を共有できます。つまり、期待しているシナジー効果を発揮しやすくなるのです。
合併によって同じ会社で働く仲間で不足している能力やスキルを補完し合えば、これまでの会社だけでビジネスを進めるよりも大きな効果や結果を生み出すことが期待できます。
コスト削減が期待できる
合併により各社に存在していた部門を統合することで、人件費やシステム利用費などを削減できるようになります。コストを削減できる部分をきちんと調べて、どのような効果が生じるのか検討しましょう。
場合によっては各社に別個に存在していることにメリットがあるような場合(例えば、多忙時に他社がバックアップできる体制を構築しているなど)に無理してコスト削減を推進してしまうと、結果的に大きなデメリットが発生してしまうおそれもあります。そのため、事前にきちんと確認してからコスト削減の施策を実施してすることが必要です。
比較的スムーズに統合が実現できる
他のスキームと比べて、比較的スムーズに統合が実現できることもメリットの一つです。吸収合併の場合は消滅会社の債権や債務をはじめ権利義務のすべてが存続会社に引き継がれます。例えば吸収合併では、労働規約や雇用契約が存続会社に引き継がれますので、再度契約を締結する必要がある買収と比べると従業員の混乱も少なく、スムーズに早期の経営が実現できるでしょう。
業績不振が改善される
経営統合の場合は1社の業績不振が他社に影響することは考えにくいですが、一方で他社の業績不振に対してもあまり口出しできません。しかし合併の場合には、合併前に業績不振だった会社とも一緒になって事業に臨めますので、方法次第で業績不振から脱することもできます。つまり、合併と手法でM&Aを実施した場合には業績不振の会社の業績を改善させられるメリットが考えられるのです。
ただし、合併の前に業績不振の内容や原因などをきちんと調査・把握しておくことが重要です。そのため、合併によって業績不振から抜け出せる可能性があるのかどうか確認しておきましょう。
合併を行うデメリット・注意点
一方で合併を行うデメリット・注意点には以下の点が挙げられます。
統合作業の負担が大きい
合併の場合には、人事制度の統合やさまざまな制度やシステムの更新・入れ替えが伴います。その統合作業には相当な時間や労力・コスト負担がかかります。合併前に使用していた機械設備などの更新なども考えられるのでコストが過大になってしまうおそれがあります。
そのため、合併前にこうした負担を含めて合併の費用対効果を見積もっておくことが必要です。ただし、合併のプロセスの進行中に想定外の負担が判明するケースもあるので、ある程度のアローアンス(許容範囲)を前もって設定しておくことは必要でしょう。
ステークホルダーに対する十分な説明が必要になる
経営統合とは異なり、合併の場合には新設会社や消滅会社が生じます。特に消滅会社の従業員や取引先はこれまで勤務・取引していた会社がなくなってしまうことに心理的に反発を感じてしまうケースも十分に考えられます。場合によっては、退職や取引中止などが発生する影響があるかもしれません。
特に従業員に対しては、合併後も処遇は変わらず、貢献次第で合併後の会社の業績が好転する可能性が高く、結果的に処遇も改善することも十分に考えられることを伝えて、合併に理解を持っていただくことが離職防止には極めて重要です。よってステークホルダーに対して、適切なタイミングで合併に関することを丁寧に説明することが求められます。
株価にネガティブな影響が生じるリスクがある
上場企業が合併する場合には、株価に悪影響が生じる可能性があります。合併前には慎重にデューデリジェンスを実施しているはずですが、合併の公表直後に合併相手の不祥事などが明るみになってしまった場合や新株発行による既存株主の株式希薄化などによって、自社の株価が大きく低下してしまうリスクがあり得ます。
そうしたリスクを回避するためには、合併契約書(株式譲渡契約書など)に表明保証を付けてもらい、リスク顕在化の場合の契約破棄や損害賠償請求などの措置を施しておく方法が考えられます。しかし、合併を株価に影響させない方法はありませんので、基本的にはデューデリジェンスを徹底的に実施することが重要です。
経営統合と資本提携の違い
資本提携は、企業がお互いの株式を持ち合う形式で行う出資方法です。規模の近い企業同士が資本を出し合い、双方で業務支援を行うことで強固な協力関係を構築します。
経営統合に比べて資本的な結びつきが強化される以外には、事業や経営に大きな影響は生じません。そのため経営統合に比べてステークホルダーから受け入れられやすいという点が違いとして挙げられます。また提携相手によっては、株価上昇の可能性も期待できます。
経営統合と業務提携の違い
業務提携とは、 複数の企業が経営資源を出し合い、1社だけでは解決できない問題を協力し合うことで事業成長、競争力強化を行う施策 の一つです。業務提携には、技術開発に関する「技術提携」、自社製品の製造の一部を委託して製造能力を補完する「生産提携」、販売ルートやチャンネルを持っている他社に製品の販売を委託する「販売提携」等が用いられ、競争力の強化やコスト削減の効果を期待できます。
経営統合や上述の株式を取得する資本提携と比べてよりゆるやかな結びつきといえます。
M&A(合併・経営統合)後のプロセス
M&A(合併・経営統合)後のプロセスは、PMIと呼ばれています。具体的にどのようなプロセスで統合作業が進行するのか詳しく解説します。
➀統合プロセスの全体像の把握
・統合の基本的な方針やシナジー効果の目標を策定します。
・具体的な作業プロセスのメルクマール(節目)を設定します。
②プロジェクトチームの組成
・意思決定機関や事務局を設定します。
・各部門における分科会とメンバーを設定します。
③課題抽出
・新たな体制における業務や目標達成に関する問題点やリスクを抽出・整理します。
④具体的な対策方法の検討
・生産、営業、財務経理、人事労務、法務、IT、などの各分野から具体的に対策方法を検討します。
⑤統合後の事業計画を策定
・決定事項の書面化します。
・決定事項を踏まえた統合後の事業計画を策定します。
⑥機関決定・施策の実行
・事業計画を取締役会などで機関決定して施策を実行し新たな体制に移行します。
・適宜適切にモニタリングを実施して改善が必要な事項に対しては速やかに改善を図ります。
PMIについて詳しくは関連記事をご覧ください。
経営統合の事例
具体的な経営統合の事例として、マツキヨココカラ&カンパニー、Zホールディングス株式会社についてご紹介します。
マツモトキヨシホールディングスとココカラファインの経営統合事例
2021年10月、マツモトキヨシホールディングスとココカラファインの経営統合によってマツキヨココカラ&カンパニーが発足しました。当時ドラッグストア業界で第2位(単純な売上高の合計ベース)に相当する巨大企業の誕生は、他社に大きな衝撃を与えました。マツモトキヨシホールディングスは業界首位への返り咲きを狙い、アジアNo.1の地位を狙っています。一方、ココカラファイン側はマツモトキヨシの強力なPBブランドを活用したい思いが強く、事業戦略上お互いのビジネスに魅力を感じていたことが今回の経営統合に至った理由だと考えられます。
〈経営統合までの経緯〉
2019年4月 ココカラファインがマツキヨHDと資本業務提携に向けた検討開始を発表
2019年6月 同社がスギHDと経営統合について協議をスタート
→直後にマツキヨHDが資本業務提携に代えて統合を打診、ココカラファインは特別委員会を設け、両社による統合提案の内容について検討
2019年8月 ココカラファインがマツキヨHDとの統合協議の開始を発表
2020年1月 両社が正式に経営統合する契約を締結、2021年10月に経営統合すること発表
2021年10月に両社が経営統合、マツキヨココカラ&カンパニーが誕生
ZホールディングスとLINEの経営統合事例
Zホールディングス株式会社とLINE株式会社は、2021年3月に経営統合が完了したと発表しました。Zホールディングス株式会社とLINEの承継会社が、2020年1月31日付で締結した株式交換契約書に定められた株式交換の効力の発生をもって経営統合を完了したとされています。両社の強みがある部分を中心にシナジー効果を発揮して、「コマース」「ローカル・バーティカル」「フィンテック」「社会」の4つの集中領域にAI技術を活用して取り組んでいく意向です。新生Zホールディングス株式会社は、巨大海外IT勢にも対抗すべく企業基盤を強化し売上を増やして企業規模の拡大も目指しています。
〈経営統合までの経緯〉
2019年11月 経営統合に関する基本合意書を締結
2019年12月 経営統合契約書を締結
2020年1月 株式交換契約書を締結
2020年8月 業務提携に関する基本合意書を締結
2021年3月 株式交換の効力発生をもって経営統合が完了
終わりに
以上経営統合について、合併やそのほか提携との違いを含めてご紹介しました。それぞれが持つメリット、デメリットをふまえて慎重に検討することが大切です。
日本M&Aセンターでは企業戦略のコンサルティングをはじめ、経営課題の解決に向けて専門チームを組成しサポートを行っています。
ぜひお気軽にお問合せください。