組織再編とは?代表的な手法やメリット・注意点についてわかりやすく解説
組織再編とは
組織再編とは企業の組織や体制・形態を抜本的に変更して編成し直すことを指します。企業の経営課題の解決を目的に実行される手段であり、会社法では第五編 に合併・会社分割・株式交換・株式移転などの手法が定められています。
出典:会社法 第五編 組織変更、合併、会社分割、株式交換、株式移転及び株式交付(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086)
この記事のポイント
- 組織再編の具体的な手法には、合併、会社分割、株式交換、株式移転などがあり、経営課題の解決を目的として実施される。
- 主な目的には、事業の拡大や縮小による成長力の強化、グループ企業管理の効率化がある。特に、経営資源の最適化を図るために、他社の経営権や事業を取得したり、不採算事業から撤退したりすることが含まれる。
- 組織再編時の注意点としては、再編にかかるコストの増大、人件費の増加、社内風土の変化による人材離れが挙げられる。
⽬次
組織変更との違い
組織再編と似ている言葉に組織変更がありますが、組織変更は 法人格の一体性を保ちつつ、ひとつの法人が実施 するものです。例えば、合同会社が株式会社に変化することや株式会社が持分会社に変わることを指します。
一方、組織再編では 再編スタート時あるいは再編終了時には複数の法人格が関与 する点が組織変更と異なります。例えば、合併の場合には2社が1社に、会社分割の場合には1社が2社になるように、それぞれ会社数が変更します。
組織再編を行う目的
組織再編を行う主な目的は、主に次の2つに集約されます。
事業の拡大・縮小による成長力の強化
事業再編は他社の経営権や事業を取得して自社の成長力を高めたり、反対に不採算の事業から撤退したりするなど、自社ビジネスの効率的な運営を目的に行われます。あるいは、自社のみならずグループ企業全体の効率的な事業運営を目的に実施されるケースもあります。
また、組織再編は自社内・グループ内だけでなく、外部の企業と実施する場合もあります。どちらのケースでもビジネスの拡大・縮小を目的として成長力の強化を図ることを目指して組織再編が実施されます。
事業の拡大は企業の成長をイメージしやすいですが、不採算の事業を縮小、撤退、またカーブアウトのように切り出して他社へ譲ることで、他の事業に注力でき、企業の成長に寄与する場合もあります。
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グループ企業管理の効率化
事業が成長し、グループ企業の数が増加すると、管理コストや時間も比例して増加します。各社において重複する業務や事業を整理・削減することでグループ全体の管理工数の削減、効率化を図ることができます。ただし、効率化だけを重視し、本来必要な業務や事業まで削減してしまわないよう注意を払うことが必要です。
組織再編の5つの手法
前述の通り、会社法では主な組織再編の手法として、合併(吸収合併・新設合併)・会社分割(吸収分割・新設分割)・株式交換・株式移転・株式交付といった主に5つが挙げられています。
これらを、「既存の会社が既存の会社から引き継ぐもの」と「新設の会社が既存の会社から引き継ぐもの」に分類して、それぞれの特徴やメリット・注意点について詳しく解説します。
「既存の会社」が既存の会社から引き継ぐ場合
「既存の会社」が既存の会社から引き継ぐ場合の組織再編手法としては「吸収合併」「吸収分割」「株式交換」「株式交付」が挙げられます。各手法の特徴やメリット・注意点をそれぞれ見ていきましょう。
「吸収合併 」
吸収合併とは、一方の会社が相手方の会社を取り込み1つにまとまる合併を指します。合併によって消滅する会社の資産や負債、許認可や免許など権利義務は合併後存続する会社が承継します。
吸収合併の主なメリット としては
- 会社の規模が拡大することで、取引先の拡大・スケールメリットが生まれやすい点
- 消滅会社の許認可などをそのまま引き継ぐため、新規事業に参入しやすい点
- 後述の新設合併と比べると、合併のための手続きが簡素に済む点
- 合併における対価の支払いを自己株式の交付で行えるため、新たな資金調達やキャッシュフロー悪化を心配する必要がない点
が挙げられます。
吸収合併で注意すべき点 としては
- 存続会社が未上場の場合は、自己株式を対価にできない点
- 消滅会社の従業員の士気をケアする必要がある点
が挙げられます。
詳しくは吸収合併とはをご覧ください。
「吸収分割 」
組織再編のひとつの手法である会社分割は「吸収分割」と「新設分割」の2つに分けられます。このうち吸収分割とは、自社内の一部の事業を分割して、その権利・義務をすでに存在している他の会社に引き継ぐことを指します。不採算の事業を切り離して、より当該事業に強い第三の会社に承継する場合に用いられます。
吸収分割の主なメリット としては
- 事業を包括的に承継できるため、手続きの負担が比較的少なく済む点
- 株式を対価とすることが可能であるため、資金調達の心配をせずに実行できる点
- 売り手側としては不採算事業の切り離しにより、経営のスリム化が図れる点
が挙げられます。
吸収分割で注意すべき点 としては
- 包括的に承継するため、簿外債務など引き継ぐリスクがあるため事前の監査が欠かせない点
- 対価を株式で支払う場合に、新株発行で株式の保有割合、つまり株主構成が変わる可能性がある点
- 規模が大きい吸収分割の場合、債権者の異議申し立てに対する弁債手続き、株主総会の特別決議が必要となり、事務的コストの負担が大きくなる点
が挙げられます。
詳しくは吸収分割とはをご覧ください。
「株式交換 」
株式交換とは、売り手側の全株式を買い手側の株式と交換することにより、完全に親会社・子会社の関係を構築するM&A手法を指します。完全子会社化する対価を自社株式とするのが、この株式交換の大きな特徴の一つです。株式交換によって、親会社・子会社の関係を構築できるため、グループ内の組織再編の手法として用いられます。
株式交換の主なメリット としては
- 株式を対価とすることが可能であるため、資金調達の心配をせずに実行できる点
- 株主総会の特別決議で承認を受けられれば、合意を得られない少数株主がいても強制的に買い手企業に株式を移動できる点
- 株式譲渡と異なり、売り手側の株主は買い手側である親会社の株式を受け取るため、配当金を受け取る権利が得られる点
が挙げられます。
株式交換で注意すべき点 としては
- 株主総会での特別決議(議決権の過半数を有する株主の出席、株主の議決権の三分の二以上の同意)が必要になる点
- 手続きが複雑であるため、完了まで長い期間を要する点
- 売り手側の株主に買い手側の株式を交付するため、買い手側の株主構成が変化する点
が挙げられます。
詳しくは株式交換とはをご覧ください。
「株式交付 」
株式交付は、2021年3月1日に改正された改正会社法によって新たに設定された組織再編の方法です。株式交換に似ていますが、株式交換は売り手側(消滅企業)のすべての株式と買い手側(存続企業)の株式を交換(完全子会社化)しますが、株式交付では売り手側は一部の株式の交換をすることで「単なる子会社化」ができるようになりました。
株式交付の主なメリット としては
- 株式交換と異なり、必ずしも完全子会社化する必要はないため、経営の独立性を保つこともできる点
- 対価として自社株を交付するため、現金による子会社化と比べて、資金調達の負担が圧倒的に軽減される点
- 株税制上の優遇措置が設けられている点
が挙げられます。
株式交付で注意すべき点 としては
- 子会社化できる会社は株式会社に限られている点(持分会社、外国会社や清算株式会社は子会社化できない)
- すでに議決権の過半数を取得している会社(すでに子会社である企業)を対象にはできない点
- 税の優遇措置を受けるためには、対価の8割以上を株式としなければならない点
が挙げられます。
詳しくは株式交付とはをご覧ください。
「新設の会社」が既存の会社から引き継ぐ場合
「新設の会社」が既存の会社から引き継ぐ場合の組織再編手法には、新設合併、新設分割、株式移転が挙げられます。それぞれの手法の特徴とメリット・注意点を解説します。
「新設合併 」
新設合併とは、複数の企業が新たに会社を設立して、すべての会社をその新設会社と合併させる組織再編の手法です。合併前の会社の法人格はすべて消滅し、合併によって新たに設立する会社に資産や負債が引き継がれます。
新設合併の主なメリット としては
- 吸収合併と同様に、会社の規模が拡大することで、取引先の拡大・スケールメリットが生まれやすい点
- 合併前のすべての会社が消滅するため、対等合併としてポジティブなイメージがつきやすい点
が挙げられます。
新設合併において注意すべき点 としては
- 新たに会社を設立するため、吸収合併に比べて煩雑な手続きやコストがかかる点
- 吸収合併と異なり、許認可や免許は引き継げず、新たに取得が必要になる点
- 対等合併として新たにルール策定が必要になるため、吸収合併に比べて統合の負担が大きくなる点
が挙げられます。
詳しくは新設合併とはをご覧ください。
「新設分割 」
新設分割とは、自社内の一部の事業を分割し、新たに設立した会社にその事業を引き継ぐ組織再編の手法です。多くの場合、事業の分社化によって経営のスリム化や倒産リスクの分散などを図るために採用されます。
新設分割を実施すれば事業を包括的に承継できるため、分社化が容易に行えます。好調な事業だけに経営資源を集中投資したい場合などでも、少ない手続きで済みます。また、消費税が非課税になるなど、税務の面で優遇される点もメリットといえます。
新設分割の主なメリット としては
- 事業を包括的に承継できるため、資産や組織の引き継ぎが容易である点
- 適格要件を満たしていれば課税優遇を受けられる点
が挙げられます。
新設分割で注意すべき点 としては
- 包括的に承継するため、簿外債務など引き継ぐリスクがあるため事前の監査が欠かせない点
- 吸収分割の場合と比較すると、管理する会社数が増えて組織構造が複雑化する点
- 新設した会社が未上場の場合、対価として支払われる株式を現金化することが難しい点
が挙げられます。
詳しくは新設分割とはをご覧ください。
「株式移転 」
株式移転とは、複数の企業がそれぞれすべての株式を新設した会社に取得させる組織再編の手法です。新設会社は、持株会社として他の企業を傘下に組み入れることになります。
株式移転の主なメリット としては
- 買い手側は対価として新株を発行するため、新たな資金調達は不要である点
- 対象企業の株主の賛成(3分の2以上)で少数株主を強制排除して子会社化できる点
- 対象企業は別法人として存続する点
が挙げられます。
株式移転で注意すべき点 としては
- 買い手側が上場企業の場合、1株当たりの利益(EPS)が減少し株価に影響を与えるリスクがある点
- 売り手側の株主に買い手側の株式を交付するため、買い手側の株主構成が変化する点
が挙げられます。
組織再編時に注意すべきポイント
組織再編を実行することで、次のような問題が起こりうる可能性があります。
組織再編にかかるコストの増大
組織再編においては、再編の手法によってシステムや各種規定類の統合が必要になるケースがあります。こうした統合にかかる費用は、場合によっては高額になってしまう可能性があります。したがって、本当に必要なコストかどうかを慎重に検討して統合作業を進めることが重要です。
人件費などのコスト増加
組織再編においては、人事上の処遇をどうするのかという点も重要です。原則として、会社の数が増えれば従業員も増えるので、単純に人件費も増加します。そのため、人件費を抑制するために配置転換や雇用調整を検討する必要があるかもしれません。
社内風土・ルール変更による人材離れ
会社というハコを変更しても、会社の風土やルールが変わってしまうことに嫌気がさして会社を辞める人が増えてしまう可能性があります。こうした事態を防ぐためには、会社が求めている人材像を明確に示して個別に従業員に必要性と期待を説明することが必要です。
組織再編を検討する際に、把握しておくべき税制
組織再編を検討する前に把握しておくべき税制として、組織再編税制があります。組織再編税制には適格組織再編税制と非適格組織再編税制があります。
適格組織再編の実態は、純粋な組織の統合・分裂・再編成に近いため、資産・負債は簿価で移転して、移転時には課税されず繰り延べされます。
一方、非適格組織再編の実態は、資産の売買取引に近いため、資産・負債は時価で移転して、移転時に課税(譲渡益課税)されます。ただし、組織再編税制は複雑で例外規定も多いので、この分野に精通している税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
終わりに
以上、ご紹介した通り組織再編には会社合併・会社分割・株式交換・株式移転などの手法があります。それぞれの特徴を把握し、M&A仲介会社など外部の専門家をまじえて自社に最適な方法を検されることをお勧めします。
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