サーチファンドとは?事業承継を解決し、個人が経営者のキャリアをスタートする選択肢
事業承継問題の解決策、そして新たな経営者のキャリアとして注目を集めるサーチファンド。
日本におけるサーチファンドの第一人者、伊藤公健氏が率いるサーチファンド・ジャパンは2020年の設立以来、国内にサーチファンドを広めるべく精力的に活動を行っています。今回はサーチファンドの概要、そして日本M&Aセンターとの取り組みについてお届けします。
この記事のポイント
- サーチファンドとは、個人が主役となる投資ファンドであり、経営者を志す個人(サーチャー)が後継者不在の企業を探し、M&Aを実行して経営を担う仕組み。
- サーチャーは投資家から支援を受けて活動を開始し、企業を承継することで事業の成長を図る。
⽬次
サーチファンドは「個人が主役の投資ファンド」
―サーチファンドについて改めてご紹介をお願いします。
伊藤: はい。サーチファンドをひとことで表すならば 「個人が主役の投資ファンド」と言えると思います。経営者を志す個人の方を「サーチャー」と呼ぶのですが、サーチャー自らが承継したい会社を探して、オーナーさんと交渉してM&Aを実行します。そしてM&A後はサーチャーが社長としてその会社の経営を担っていく、というのがサーチャーによるM&Aの主な流れです。
―ファンドとしてはどのような役割を果たすのでしょうか。
伊藤: M&Aは時間もお金もかかりますし、個人ですべてを行うには限界があります。そのため、サーチャーは投資家から支援を得るところからスタートします。といっても個人ですので、企業に比べて信用力はありません。
いきなり何億というお金を預けてもらうことは難しいでしょう。そのため、譲り受ける企業を見つける活動費用を支援してもらいます。1~2年の活動費用、と限定すれば投資家としてもリスクは少ないですし、優秀な若者と魅力的な企業を見つけるチャンスにつながるため投資判断がしやすくなります。
投資家から支援を集めるので「ファンド」と名がついていますが、経営者を志す個人が活動の主体であることが先ほど「個人が主役の投資ファンド」と表現した所以です。
宮森: 「起業したい!」「新しいビジネスしたい!」と思う人はたくさんいても、なかなか良いアイデアを生み出すことは難しいですよね。一方で「後継者がいない」「経営をバトンタッチしたい」と悩むオーナーがいた時に、両者が出会うことで会社を次のステージに持っていくビジネス、と言ったらイメージしやすいのではないでしょうか。
サーチファンド・ジャパンを志を同じくする仲間と設立
ーサーチファンドが始まったとされるアメリカではだいぶ一般化されてきている、と耳にしました。
伊藤: そうですね。特にここ最近伸びてきているようで、アメリカでは毎年40~50人の人材がサーチファンド活動を始めていると言われています。日本でも増えてきていますが、私がサーチファンドで事業承継をした2015年ごろは、まだサーチファンドそのものを知っている人がほとんどいませんでした。数年経つと徐々にサーチファンドに関する相談が増えてきたのですが、そうした方を応援する投資家が日本に現れないとこの仕組みが広まらないと感じ、仲間集めをしてサーチファンド・ジャパンを立ち上げました。
ー日本に無い業態ということで、その仲間集めには苦労されたと思うのですが。
伊藤: これはまさにご縁が重なって、ということが大きく言えるかなと思います。仲間集めを始めた当初、日本政策投資銀行(DBJ)や日本M&Aセンターにプレゼンに行ったのですが、彼らの中に実は前からサーチファンドに関心があり、社内でやりたいと考えている人がいました。他の会社さんにも志が同じ方がいらっしゃったので、そうした方たちと皆でこの企画を通していった、というのが設立のストーリーです。
サーチファンドは事業承継の切り札。日本M&Aセンターの関わり方
―先ほど名前が挙がりましたが、日本M&Aセンターはサーチャーさんの活動に具体的にどう関わっているのでしょうか。
宮森: 端的に申し上げますと、日本M&Aセンターにお相手探しを依頼いただいた譲渡を希望する企業にサーチャーさんをご紹介、もしくはサーチャーさんに企業をご紹介する、というマッチングの部分で協業を行っています。
―従来のいわゆる売り手、買い手の企業同士のマッチングとサーチファンド(サーチャー)のマッチングは異なるように感じます。サーチャーと企業のマッチングのポイントはあるのでしょうか。
宮森: 会社同士のマッチングから譲渡する企業を個人(サーチャー)が引き継ぐことになりますので、よりその個人の特性、人柄が重要になってきます。譲渡企業様にとっては、いわば跡継ぎの養子を迎えるといったらイメージしやすいでしょうか。
伊藤: サーチャーの能力や実績はもちろん重要ですが、大切に育ててきた会社を譲る企業さんの立場からすれば「この人なら信頼して任せられる」という人間力、「生涯をかけてこの事業に挑戦していきたい」という熱意が感じられるか、という点が成約のカギになると感じています。
宮森: 譲渡を希望される企業はもちろん「引き継ぐ相手は誰でもいい」というわけではありません。例えば、業績が順調で独自の強みを持つ商品・サービスを持つ会社、地域の伝統的な製品を扱う会社さんは、大手のグループ傘下に入ることよりも、会社を主体的に成長させてくれる相手を望む場合があります。そうした場合にサーチファンド、サーチャーさんを紹介するケースもあります。
―日本M&Aセンターとして、サーチファンドを通じたM&Aをどのように捉えているのでしょうか。
宮森: 個人的には、長年M&Aに関わる中で、M&Aを行った後にその会社がどうなるかが気になっていました。統合した後、さらに会社が発展し成長していってほしいですし、統合して終わりではなく、従業員の方が活躍の場を広げ、さらには地域経済が活性化していくことが重要です。ただし買い手側の企業は優秀な人材、リソースが不足していることが多々あります。つまり譲り受けた会社を活性化させるようなリーダーシップがある人がいない、ということを課題に感じていました。
私自身は伊藤さんからサーチファンドの「個人がリーダーシップをもって会社の成長にコミットする」という仕組みを聞いて、まさに我々が求めていた仕組みだと感じ、現在一緒に協業させていただいているという状況です。
―具体的にサーチファンドを活用して事業承継が行われた事例を簡単にご紹介いただけますでしょうか。
伊藤: 1人目のサーチャーとして大屋さんの事例が挙げられます。大屋さんは山梨県出身で、広告代理店や商社、コンサルティング会社など国内外で活躍をされていました。中小企業のコンサルティングを行う中で、コンサルタントとしてできることは限界があると感じ、経営者となることを志望されサーチャーに転身されました。2021年5月から本格的にサーチ活動を行い、2022年1月に事業承継を実現されました。譲受けた会社は地元山梨県の会社であり、ある意味Uターンで経営者としてのキャリアをスタートされています。
サーチファンドで「事業承継」と「経営者育成」という2つの社会課題の解決へ
―最後に、サーチファンドを通じて実現したいことを教えてください。
伊藤: サーチファンドには事業承継問題の解決の一つという側面のほか、個人が経営者になるキャリアの一つとして可能性を感じています。日本では組織の中で時間をかけてサラリーマンから経営者になる、ベンチャーなど起業をしてなる、など「経営者になる」道は意外と多くありません。
日本には、ゼロから1を立ち上げるというよりも、既存の事業をより良くすることに長けた優秀な人材が多いと個人的には感じています。日本には会社を引っ張っていくようなプロ経営者が少ない、その層を育てていくきっかけとしてサーチファンドが今後大きな役割を果たしうると考えています。