株式の持ち合いとは?メリット・デメリット、解消される理由について解説
株式の持ち合いとは?
株式の持ち合いとは、会社同士が任意でお互いの会社の株式を持ち合うことを指します。
株式の持ち合いは、日本企業に特有の慣行です。戦後の財閥解体後、経営が不安定な企業が自分の会社を安定して経営するために、また、外資による買収を防ぐために利用されました。安定株主に自社株を保有してもらったことからはじまったと言われています。
「自分の会社の株式を保有してもらった代わりに、あなたの会社の株式も保有させてもらいます」ということで、株式の持ち合いはお互いに会社の経営を安定させる目的に資するものでした。
また1960年代には資本の自由化がはじまり、外資系企業が日本企業を買収できるようになりました。当時、株式の持ち合いは外資系企業の攻勢を防ぐ役割も担っていました。
その後バブル期になると、投機手段として株式の持ち合いが利用されました。余剰資金を持ち合い株式に投資することで、関係強化と株価上昇による含み益増加が期待できたからです。
しかし、バブル崩壊によって株価低迷の影響を受け、株式の持ち合いのデメリット面が大きくクローズアップされるようになりました。こうして株式の持ち合い解消の動きが加速することとなり、現在に至ります。
この記事のポイント
- 株式の持ち合いは経営の安定化や外資による買収防止を目的としており、特に戦後からバブル期にかけて広まった。
- 株式の持ち合いのメリットには、敵対的買収の防衛策となること、経営の安定化、企業間の結束強化がある。
- 一方で、デメリットとしては、少数株主の意向が反映されにくくなること、株主による監視機能が形骸化すること、資本効率の低下や株価暴落のリスクがある。
⽬次
株式の持ち合いと資本参加の違いとは
株式の持ち合いとは、お互いに経営の安定を目的として相互に株式を保有し、基本的にお互いの経営権は維持したままの比率で株式を保有することです。ただし、株式の持ち合いの比率が変化すれば合併などによって、より深い関係に進展する可能性があります。
一方、資本参加とは他企業との関係を強化するために株式を取得することを言います。資金援助の側面が強く、相手企業の全株式の2/3 以上は取得しないなど、相手企業の独立性を維持するように配慮するのが一般的です。
また資本提携の場合は持株比率に配慮せず、提携の目的に応じた株式の取得を行います。資本参加から資本提携、経営統合、へと進む可能性も十分に考えられます。
株式の持ち合いと業務提携の違いとは
業務提携には明確な定義がありませんが、一般的には複数の企業がリソースを持ち寄って1社単独では解決できない課題を協力して解決する経営施策を指します。したがって、株式の持ち合いをしてもしなくても業務提携できます。
たとえば、研究の実績やスキルが豊富な人を相手先企業にレンタルして、研究成果が出たらその成果をわけるような場合を考えてみましょう。このケースでは、株式の移動をともなわない業務提携になります。もちろんお互いの協力関係をより強固にするためには、株式の持ち合いを実施して業務提携も進めるケースも十分に考えられます。
株式の持ち合いのメリット
株式の持ち合いの目的は、安心して会社の経営に臨めるようになる点です。反対株主が多かったり、競合企業から乗っ取りを仕掛けられたりするようでは、安心して会社を経営できません。そこで株式の持ち合いを利用して、安定した経営を行えるようにするのです。
株式の持ち合いのメリットとしては、➀敵対的買収の防衛策になる、➁経営が安定化する、➂企業間の結束が強化される、という点が挙げられます。それぞれについて見ていきましょう。
➀敵対的買収の防衛策になる
敵対的買収とは、買い手側企業が買収対象となる企業の取締役会の同意を得ずに、企業買収を行うことを言います。買収が敵対的か友好的か、の区別は取締役会の同意の有無によって決まります。敵対的買収が成功すると経営の自主性が損なわれたり、顧客や取引先への対応方針が大きく変更になったりするケースが考えられます。
敵対的買収の是非はともかく、少なくとも現在の経営陣にとっては経営環境が大きく変更される可能性が高いため、防衛策の導入は重要な課題となっています。浮動株(安定株主に保有されておらず、株式マーケットなどで売買できる可能性が高い株式)が多い会社では、いつ敵対的買収を仕掛けられるかわかりません。
逆に言えば、株式の持ち合いによって安定株主の持株比率が高ければ敵対的買収を仕掛けられても成功は見込めず、諦めざるを得なくなる可能性は高いと考えられます。したがって、株式の持ち合いには敵対的買収を防ぐ有効な手段になるメリットがあるのです。
➁経営が安定化する
株式の持ち合いでは、経営の支配権を得る持株比率を得て経営の独立性が侵害されるリスクが考えられます。しかし、慣行として株式の持ち合いによる持分比率は経営には干渉しない、という暗黙の了解があります。株式の持ち合いはお互いに「モノ言わぬ株主」として安定経営に資するのです。
株式の持ち合いには、敵対的買収の防衛手段というメリットのほかにも、経営陣にとって大きなメリットがあります。具体的には株主の権利を積極的に活用しようとする株主よりも、現在の経営陣の方針に基本的に賛同してくれる株主が多い方が経営しやすい点です。そのため、株式の持ち合いは安定した経営の遂行には欠かせない施策のひとつなのです。
➂企業間の結束が強化される
株式の持ち合いは企業グループ内の複数(3社以上)の企業間で実施される場合も少なくありません。企業間の結束力を高めて、経営の効率化や取引関係の強化(売上高のアップ)などに資することも期待されています。また、株式の持ち合いはグループ規模の拡大や緊密な関係の維持にも大いに役立つと考えられています。
株式の持ち合いのデメリット
株式の持ち合いにはメリットだけでなく、デメリットもあります。株式の持ち合いのデメリットとしては、➀少数持分の株主の意向が反映されにくくなる可能性がある、②株主による監視機能が形骸化する可能性がある、➂資本効率の低下、株価暴落のリスクが発生する、といった点が挙げられます。それぞれについて見ていきましょう。
➀少数持分の株主の意向が反映されにくくなる可能性がある
株式の持ち合いによって持ち合い株主の持分比率が高くなれば、少数持分の株主の意向を株主総会などで反映させることが難しくなります。つまり、株主総会が形骸化してしまう可能性があるのです。市場原理に則った自由競争が阻害されるおそれもあるので、会社の競争力も低下することが考えられます。
つまり、リスクをとって勝負に出るより安定した利益を稼げれば良いと考えている経営陣に持ち合い株主が同調してしまうと、リスクを回避して収益機会を逃してしまうケースが考えられます。そのため、少数意見も含めて会社の経営に役立つ意見なのかどうかを客観的に判断できる仕組みの導入が求められます。
②株主による監視機能が形骸化する可能性がある
株式会社における主権者は株主であり、株主が取締役を選任して経営を任せています。したがって、株主には取締役が適正に経営を執行しているかどうかを監視する機能があります。この監視機能を「株主による経営ガバナンスに対するモニタリング機能」と言います。
しかし、株式の持ち合いの状態では、株主は「モノ言わぬ株主」になってしまっている可能性が高く、十分に監視機能を果たしていない可能性があります。株主が監視機能を果たさなければ経営陣が自分たちに都合の良い施策ばかりを実行するようになり、会社のガバナンス機能も大きく低下するでしょう。
➂資本効率の低下、株価暴落のリスクが発生する
株式の持ち合いによって、本来は成長が期待される事業などに投資されるべき資金を、持ち合い株式に投下しますので、効率的に資本を利用できていない事態に陥るリスクがあります。つまり、株式の持ち合いは資本効率の低下を発生させる可能性が高いのです。
資本効率が低い企業に対して、投資家は投資を控えるようになります。その結果、株価が低迷・暴落して企業価値も大きく低下するリスクがあるのです。
株式の持ち合いの「議決権の制限」について
株式の持ち合いの「議決権の制限」については会社法308条に規定が定められています。この規定によると、X社がY社の株式を25%以上保有している場合に、Y社もX社株を保有しているケースでは、Y社はX社の株主総会において議決権を行使することができない、とされています。議決権とは、株主が株主総会に出席して決議に参加できる権利を指します。これは株主にとって、非常に重要な権利のひとつです。
しかし、株式の持ち合いをしている場合には、議決権を行使できない可能性がある点がデメリットとなります。
会社がこの制限に抵触するかどうかは、株主名簿を調べれば持株比率から確認できます。ほかの株主の動向によっても自社の持株比率は変動するので、持ち合い株式の取得時だけでなく、定期的に自社の持株比率をチェックしておくことが重要です。
株式の持ち合いが解消される理由とは
株式の持ち合いには経営の安定化などメリットがあったため、多くの日本企業で利用されてきました。しかし、1990年代のバブル経済の崩壊後は金融機関だけでなく多くの事業会社も株式の持ち合いの解消(「持ち合い崩れ」と呼ばれることがあります)へと動くことになりました。こうした株式の持ち合いの解消の動きの理由としては、以下のようなものが挙げられます。
株式の持ち合いが解消される理由➀:金繰りの悪化
バブル経済の崩壊による景気悪化により、多くの企業が業績を低迷させる結果になりました。また業績の低迷によって手元資金が枯渇して、資金繰りに窮する企業も増えました。このように、借入金への返済にも困る企業が一気に増加したのです。
そこで流動性を確保するために、持ち合い株式の売却をして資金にせざるを得ない状況が拡大しました。こうした動きが株式の持ち合いの解消を加速させることになったのです。
株式の持ち合いが解消される理由➁:株式の持ち合いについてのルール変更
バブル経済の崩壊とともに株式の持ち合いを解消することになった大きな理由としては会計基準の変更が挙げられます。日本の会計基準は米国会計基準(US GAAP)や国際会計基準(IFRS)と大きな差異があり、日本企業の国際的なビジネス展開の障害となっていました。
そこで金融ビッグバンと呼ばれる金融制度改革が、1996年から2001年にかけて実施されました。持ち合い株式は取得原価から時価評価へ、そしてバランスシートの資本の部に計上されることになりました。それまで持ち合い株式の価格の変動は影響がなかったのですが、変更後は持ち合い株式の損益が自己資本に影響するようになったのです。
こうした会計制度の変更は、自己資本比率を重視する銀行を中心に、株式の持ち合いを解消する動きが進んでいきました。株式の持ち合いは一方が解消すれば、もう一方もよほどのメリットがない限りは解消することになります。
したがって、資金繰りの悪化と会計制度の変更は、日本企業の株式の持ち合いの解消を加速させる大きな要因になったと考えられるのです。
株式の持ち合いが解消される理由➂:経営上のリスクと捉える風潮
株式の持ち合いに対するイメージは、現在ではあまり良いものとは言えません。現在のビジネスマンにとっては、株式の持ち合いは経営陣が権利意識の強い株主に影響されず経営できる、という印象があります。
つまり、本来経営に対して意見できる株主をないがしろにしている経営が行われている、と思われてしまうリスクがあります。
また、効率的な資本の活用ができておらず無駄な投資をしていることで、業績の悪化や株価の低迷を引き起こす原因とも捉えられてしまいます。したがって、投資家は株式の持ち合いをしている企業に対して積極的に投資をすることはないでしょう。これからもこうした風潮はなかなか変化しないものと考えられます。
株式の持ち合いが解消される理由④:海外投資家からの影響
外国人投資家の動向は日本の株式市場に大きな影響を与えています。こうした海外投資家が、議決権行使助言会社からのアドバイスを受けて株式の持ち合いに反対することは十分に考えられます。合理性に乏しい株式の持ち合いに対して海外投資家からの圧力が強まれば、株式の持ち合い解消へと動く会社も少なくないでしょう。
特に海外展開を進めている企業にとっては、海外株主の動向・評価は非常に意識されています。海外投資家に高く評価されれば、現地でのビジネス展開も順調に進む可能性が高いからです。
株式の持ち合いの解消方法
株式の持ち合いを解消するためには、一方的に解消するのではなくお互いの合意が必要不可です。株式の持ち合いの具体的な解消方法には、➀第三者への売却、➁自社株買い、があります。
➀第三者への売却
株式の持ち合いを解消するひとつめの方法は、自社が保有する相手会社の株式を第三者に売却することが考えられます。この場合には長期間にわたって少しずつ売却するのではなく、お互いに合意した価格(持ち合いを実施した際の譲渡価格など)にもとづいて短期間で売却します。
➁自社株買い
もうひとつの方法が、自社株買いによる株式の持ち合いの解消です。これは相手先の会社が保有していた自社の株式を買い取るのですが、その際に市場を通さないで株式を買い取る場合(相対取引)には、株主総会の特別決議の承認が必要です。
特別決議とは、会社法309条2項に定められている議決権の過半数を保有している株主が出席して出席した株主の議決権の2/3以上の賛成が必要な決議を指します。株主総会の開催を避けたい場合には、市場で売却してもらった自社株を買い戻す方法も考えられます。
しかし、この方法には株価操縦の疑義が生じる可能性があるので取得日前日にはその事実や内容を開示する必要があります。ちなみに、株式の持ち合いを解消する場合にはこの自社株買いの方法が利用されるのが一般的です。
終わりに
株式の持ち合いは、戦後の経営の安定化が重要視されていた時代には大きなメリットがあったので日本企業では盛んでしたが、バブル崩壊以降は株式の持ち合いのデメリットがクローズアップされ、解消に向かっている傾向です。ですが、株式の持ち合いは安定した経営を維持するために重要な役目を果たすことができるとも考えられます。そのためには、効率的に資本を活用していることや明確な投資実績を残していることなどを示す必要があるでしょう。