跡継ぎとは?後継ぎとの違い、選び方、必要な資質・能力について解説
日本では多くの中小企業が後継者問題に直面しています。本記事では事業を承継する跡継ぎについて、後継ぎとの違いや承継方法などを解説します。
跡継ぎとは
「跡継ぎ」とは、家督(かとく)、すなわち相続すべき財産、事業、権利関係を引き継ぐこと を意味します。かつて日本では一家の長男が跡継ぎになるのが一般的でしたが、現代ではあまり見られません。その理由としては、家父長制的制度の崩壊や少子高齢化による出生数の激減が挙げられます。このような現状において、経営者の跡継ぎを決めて自分の会社を継いでもらうことは容易ではありません。したがって、跡継ぎの選択や育成は、事業を継続する上で重要な経営課題になっています。
この記事のポイント
- 「跡継ぎ」とは、相続すべき財産や事業を引き継ぐ人を指し、現代では経営者の選定や育成が重要な課題となっている。
- 跡継ぎと後継ぎの違いは、跡継ぎが家族内の相続者を指すのに対し、後継ぎは一般的な後任者を指す点である。
- 事業承継には親族内承継、従業員への承継、第三者への承継があり、それぞれにメリット・デメリットが存在する。跡継ぎには経営に関する理解や能力、リーダーシップが求められる。
⽬次
「跡継ぎ」と「後継ぎ」の違い
「跡継ぎ」に類似している言葉として、「後継ぎ」が挙げられます。
「後継ぎ」とは、前任者の後を継ぐこと を広く意味します。一般的には、後継者として事業や地位など引き継ぐ場合に用いられます。
「跡継ぎ」=家督を引き継ぐ人
「後継ぎ」=前任の後を継ぐ人(後任者)
両者は引き継ぐという点で共通しますが、「跡継ぎ」は相続者としての意味合いがより濃い、という点に違いが表れます。
日本企業が抱える後継者問題
大手調査会社の調査結果によると、企業の経営者不在率は60%前後の水準で推移しています。
具体的には帝国データバンクの調査では61・5%、東京商工リサーチの調査では58・6%という高い水準で後継者不在の企業が多い事実が明らかになっています。後継者不在で経営者が高齢の場合は廃業リスクも高まるため、各種事業承継支援が導入されるなど社会的課題として注目を集めています。
事業を引き継ぐ方法
次期経営者に事業を引き継ぐ方法には、主に①親族内での承継、②従業員への承継、③第三者への承継の3つが挙げられます。それぞれのメリット・デメリットについて見ていきましょう。
①親族内承継
従来の主流であった、現経営者の子など身内に承継させる方法です。一般的に他の方法と比べて、内外の関係者から受け入れられやすく、スムーズな承継が期待できます。あらかじめ決まっていることで、後継者本人に早期から跡継ぎとしての自覚を持ってもらいやすい、準備期間を確保しやすい、というメリットがあります。また、相続等により財産・株式の所有と経営の一体的な承継が期待できることもメリットとして挙げられるでしょう。
一方で、親族内に候補者がいるとはいえ、経営者としての資質や、経営に対する意欲の有無は別問題です。資質や意欲に欠ける後継者に引き継ぐことで「継がす不幸」というケースが発生しうることも考慮しなければなりません。
また、相続人が複数人いる場合、後継者以外の相続人に対する配慮が必要になります。親族内で経営権をめぐる争いに発展しないよう、親族会議などで十分なステップを踏んで検討する必要があります。
②従業員への承継
親族以外の役員・従業員等に承継する方法です。社内の関係者であれば経営者の考え方や仕事の進め方に精通しているため、引き継いだ後も一貫性を保ちやすいでしょう。また、これまでの働きぶりなどから、適切な人選を行える点がメリットに挙げられます。
ただし親族内承継と同様に、適切な人材が社内にいるとは限りません。資金面、債務保証のリスクを負うことになるため意欲だけでは、簡単に承継できない点に注意が必要です。
また、従業員への承継を行う際は重要親族株主の了解を得ることが必要になります。株主間での調整を行い、進めることが大切です。
③第三者への承継
親族や従業員に適切な後継者がいない場合には、M&Aを活用して第三者に会社や事業を承継する選択肢が挙げられます。
外部から幅広く人材を求めるため、適任者を見つけられる可能性は高まります。
さらに買い手企業とのシナジーにより、会社のさらなる成長を期待できる点、前オーナは個人保証などから解放される点、創業者利益を獲得できる点がメリットに挙げられます。
一方、自社だけの力で適任者を見つけることが困難である点、会社の文化や風土などの統合に時間を要する点、取引先などステークホルダーに十分な説明が必要である点には注意が必要です。
跡継ぎに必要な資質・能力
続いて、跡継ぎに必要な資質・能力について見ていきましょう。
自社の事業に関する理解
自分の会社が具体的にどのような業務を行っているのか、把握できていないと経営の舵は取れません。親族内承継の場合は、計画的に社内の各部門をローテーションで経験させて必要な知識を習得することができるでしょう。
外部の第三者への承継の場合も、実務経験を重ねる、もしくは現場の知識を早期にキャッチアップすることが求められます。
経営能力
経営能力は、現場経験や実践なしにマスターできるものではありません。経営能力の基礎となるのは、論理的思考力です。現場で発生する様々な経営課題に対応する経験を重ねることが、経営能力を鍛える近道と言えます。したがって、経営者の近くでサポート役を経験しておくことが重要でしょう。実践が難しい場は、マーケティング、組織のマネジメントなど学べる外部研修などを有効活用することもできます。
リーダーとしての責任性、決断力など
会社を引き継ぐ覚悟と同時に、会社の経営に関与している人たちに対する責任感や気概も重要です。リーダーシップ・決断力などの人間性は一朝一夕で身に付けること困難であるため、跡継ぎを選定する基準の一つになりえるでしょう。
跡継ぎを選定する際の注意点
これまでご紹介したいずれかの承継方法を用いて跡継ぎを選ぶ際に、どのような点に注意が必要でしょうか。それぞれ確認していきましょう。
跡継ぎへの移行に相応の時間を要する
事業承継を行う時、後継者への移行期間(後継者を決めてから完了するまで)はどのくらいかかるかご存じですか。
帝国データバンクの調査(※)によると、後継者への移行期間(後継者を決めてから完了するまで)に、中小企業の半数以上が「3年以上」を要すると回答しています。業界別でみると「建設」業界が、技術の習得などを背景に最も長期化することがわかりました。
したがって、跡継ぎの育成に必要な時間も十分に考慮して、跡継ぎの選定、承継計画を定めることが重要な鍵になります。
※出典:帝国データバンク「事業承継に関する企業の意識調査」2021年8月
資質・能力は育成が難しいものもある
引き継ぐ覚悟、リーダーとしての資質など内面的な要素は、教えられても一朝一夕に身に付くものではありません。経営者がどんな思いで会社を経営してきたのか、あるいはどのような理念を持って事業を運営してきたのか、前経営者とともに経営に携わることで徐々に身に付けることが近道だと思われます。
人選に失敗すると経営に支障をきたす可能性もある
適切でない人物を跡継ぎに決めてしまうと、従業員や顧客との関係を悪化させてしまう可能性があります。さらには、取引先や従業員が離れていき会社が立ち行かなくなってしまうことも考えられるでしょう。したがって、跡継ぎを誰に決定するかは会社の将来にとって非常に重要なファクターなのです。
家族内承継では相続にも注意
家族内承継の場合には、相続にも注意する必要があります。会社の株式を相続する時には、相続税が課される場合があります。親族内承継ができたと思っても、承継した相続人には相当の税金の支払いが必要になるケースがあるので、顧問税理士などと相談して適切な節税方法に取り組んでおくことが求められます。
終わりに
多くの中小企業では、跡継ぎ候補を見つけることが重要な経営課題になっています。適切な跡継ぎを見つけられなければ、経営に支障をきたすほどその影響力は大きいでしょう。ご紹介した承継方法や自社のおかれてる状況をふまえ、余裕を持って跡継ぎの選定、承継の計画を描き進めておくことが非常に重要です。
「どの承継方法が自社にふさわしいのか。」「今から何を準備しておけばいいのか」日本M&Aセンターでは随時ご相談を承っております。お気軽にお問合せください。