【The WAY 】2度のM&Aを成功させた起業家が導きだした! 経営戦略3つの秘訣(Vol.1)
⽬次
- 1. 2017年に2度目のM&Aを実施
- 2. 事業売却が前提だった起業の出口戦略
- 3. 納得感のある決断
- 4. 経験で磨かれた勘
- 5. 元オーナーが考える「社長の役割」
- 5-1. M&A事例インタビュー
日本M&AセンターでM&Aを実行した経営者たちにフォーカスし、M&Aを実行するに至ったストーリーや経営哲学を不定期連載でお届けする「The WAY」。
第1回目は、広告デザイナーから美容クリニック経営者に転身した医療法人社団銀美会の元代表・浅田幸次氏が登場します。起業する際に、もともと出口戦略としてM&Aを考えていたというその理由とは。
2017年に2度目のM&Aを実施
1940年に奈良県橿原市で生まれ、戦時中の厳しい環境で育ちました。奈良県立御所実業高等学校卒業後の1958年は「なんばデザイナー学院」のグラフィック科に入学し、その時に挑んだデザインのコンテストで賞を獲得したことがきっかけとなり、講師としてデザインの指導を行うようになります。1961年にはスタンダード通信社に就職し、クリエイティブディレクターとして大手電機メーカーや自動車メーカーなどの広告宣伝を一手に担い、広告賞を複数受賞しました。
その後、1970年に独立してデザインプロダクション「Peac(ペアック)」、総合広告代理店の「ado.輝亜(アドキア)」を設立するも、ビジネスの厳しさを知り1980年に倒産せざるを得なくなります。それから知人の紹介で広告宣伝の責任者としてエステサロンの最大手「アール・ビー・エム」に1981年に入社したのち、1986年に再び独立して「サンショウネットワーク」を設立しました。ただ、本格的に美容業界に進出するも、共同経営者と意見の食い違いが起こり退任します。
そして翌年1999年に、医療脱毛を中心とした「渋谷美容外科クリニック」を開院して経営を軌道に乗せることができましたが、2002年に体調を崩して会社を売却しました。
これが初めてのM&Aです。
その後、自由な時間と十分な経済力を手にしましたが、家族からの後押しもあり、売却することを前提に2010年に「銀座美容外科クリニック」を開院しました。
美容クリニックは合計3箇所に立ち上げました。渋谷院のほかには2010年3月に池袋に開院し、脱毛や簡単な施術の美容医療から始めて徐々にメスを使うような大掛かりな施術にもメニューを増やしていきました。その後、銀座院を2013年4月に開院。リスクの少ないレーザートーニング施術を中心とした診療メニューと、当時の美容医療業界では珍しくカウンセリング制度を取り入れ、リピーターとなって何度も通われる患者さんが定着してきた2014年には売り上げが7億円を突破します。
そして新宿院を開院した2015年には、立地にこだわったマーケティングが成功したこともあり、会社全体として売り上げが8.3億円に成長しました。さらに美容外科で最も難しい施術の一つでもある豊胸手術の名医をヘッドハンティングできたことで売上・利益ともに増加し、2016年には売り上げが11.7億円を突破します。
カウンセラーだけではなく、医師にも患者様との向き合い方について教育を行うことでトラブルのリスク低下を実現し、2017年には最高売上の14.6億円を達成しました。もともと出口戦略としてM&Aを考えていたため、波に乗っているタイミングで会社の売却を実行に移し、2017年に 二度目のM&A を実施して今に至ります。
事業売却が前提だった起業の出口戦略
そもそも会社を売却する選択肢は起業前から考えていて、もともと出口戦略としてM&Aを見据えて会社経営をしていました。
日本ではまだまだM&Aと言えば、後継者不足だったり、業績の不振だったりとマイナスな理由が多いのが現状です。ただ、私はポジティブなM&Aもあっていいと考えています。
売却をするための準備としては、企業価値を高めるために売上や利益を伸ばしたり、安定成長が見込めるビジネスモデルを確立したり、私が居なくなっても社員が路頭に迷わないよう、教育をしっかり施しました。会社(クリニック)の売却に際して、既存の患者様には今後も安心して通っていただけるように説明を行いました。
スタッフたちには、私が経営から退くことを伝えると、嬉しいことにとても残念がってくれました。中には泣いて引き止めてくれるスタッフもいて、私自身これまで何よりもスタッフを大切にしてきたので、自分の気持ちは伝わっていたのだとわかって嬉しかったです。
家族はそもそも経営を共にしていましたし、もともと出口戦略については共通の認識を持っていたので、いざ売却をすることになっても特に異論もなく話がまとまりました。会社を売却するのであれば、そのように関係者たちの納得が得られるように日頃から誠実に接することで信頼関係を構築して、売却後の不安を取り除くことが大切だと思います。
納得感のある決断
会社を売却する際は、M&Aのアドバイザリー会社に依頼をすることにしました。担当してくださった方の人柄に惹かれたことが一番の理由です。M&Aは完了するまでに半年から1年ほどの期間を見据えなければならないので、そこで中長期的にお付き合いを続けられるような信頼できる担当者でなければ任せられないのです。
買い手の候補は複数あって、中には私の希望売却額を大きく上回る金額を提示してくる会社もあったのですが、そういった会社は企業体質が不透明だったり、決裁権を持たないナンバー2しか話し合いの場に出てこなかったりしたので不安もありました。
そのような中でも、最終的に会社を売却することになった相手企業の第一印象はかなり好印象で、お互いに自分の内面をさらけ出せるような、裏表がなく素直で良い社長だと思いました。交渉が始まる早い段階で、アドバイザリー会社の担当者と相手企業の社長の3人で食事に行ったのですが、仕事の話はあまりせず、お互いの人となりを知れるような話をたくさんしました。自分の経営スタイルを貫くような、良くも悪くも頑固な一面もあるかとは思いましたが、とにかく不信感がなかったので、私も納得感を持って決断することができました。
株式譲渡契約について、前回のM&Aの時は簡単な手続きだけですんなり進んでしまったので少し物足りない気持ちもありましたが、今回は厳格に執り行われたので自分の育てた会社を引き渡す実感を持つことができて、気持ちが高まっていきました。
経験で磨かれた勘
69歳で再度起業を決意したきっかけは家族からの提案でした。以前に体調を崩したことで一線を退きましたが、身体が回復して時間に余裕ができた時に、私と同じく会社経営が好きな妻や、美容の仕事が好きな娘の声を受けてもう一度美容外科を始めることにしました。
家族経営を選択した理由は、それまでの経験が大きな影響を与えています。過去に友人や近しい関係の相手とともに起業をした際に、結局トラブルに繋がってしまったり、経営方針で揉めたりすることが多々ありました。
一方で、家族の場合は絶対的な信頼関係が構築されていますし、裏切られたり経営方針で揉めたりするリスクが限りなく低く、安心して仕事に取り組むことができます。実際、経営において大きな揉め事は特にありませんでしたし、現場の声を直接聞きやすかったので、メリットのほうが大きかったです。
元オーナーが考える「社長の役割」
社長の役割は、組織作りと社員育成です。私が考える理想の組織とは、トップが一人だけ上にいて、その下は全員横並びになる構造です。その理由は、社員全員を見渡すことができ、現場の情報が入ってきやすいためです。会社の規模を大きくすることを考えるとピラミッド型の組織体制を想像する人も多いかもしれませんが、それでは組織を統率しづらくなるデメリットも生まれます。
社員育成については、私が業務を直接担うのではなく、任せられるギリギリのところまで社員に任せることで、成長機会を創出していました。仕事を任せられた社員には責任感が生まれ、モチベーションも上がるので自然に成長してくれます。そのように社員が育てば、私自身もさらに新しいことにチャレンジできるようになるので、結果として会社が発展していきます。
また、これまでの私の経験から、会社経営を成功させるためには3つのポイントがあることがわかりました。
1つ目は 時代の流れを読むこと です。特に現代は流れが早いので、しっかり情報を見極められることがビジネスの成功を左右します。自分のいる業界の流れはもちろん、他業界にも目を向けて、今後拡大しそうな市場や業界を見つけることが大切です。
2つ目は覚悟を持って素早い決断を下すこと です。「社長の仕事は決断をすること」と言っても過言ではありません。膨大な選択肢の中から選んだ決断が会社の未来をつくります。その過程で、間違った方向に進むことは人間誰しもありますし、もちろん私も沢山の失敗をしてきました。ただ、ここで大事なことは、選択が間違っていると気づいたらすぐに引き返して軌道修正することです。その判断は早ければ早いほど良いでしょう。逃げ足を早くしなければ、どんどん泥沼にハマってしまいます。家族や社員を守るためには、何よりも素早い決断をすることです。
そして3つ目は 良い人脈を持つこと です。闇雲に知人を増やせばいいわけではなく、良質な情報やご縁を運んできてくれるような人脈を作ることができれば、ビジネスチャンスを掴んだり困った時に助けてくれる人が現れたりするでしょう。
M&A事例インタビュー
日本M&Aセンターでは多くのお客様がM&Aを選択し、事業承継や会社の成長につなげています。
中堅・中小企業におけるM&Aは主体となる会社・関係者が異なるのはもちろんのこと、実行する背景、目的がさまざまに存在するため、ひとつとして同じ事例はありません。
お客様の数だけ存在するストーリーを、M&A事例インタビューとしてもご紹介しています。合わせてご覧ください。