事業ポートフォリオとは?作成するメリットや手順や最適化のコツを紹介
⽬次
- 1. 事業ポートフォリオとは
- 2. M&Aにおける事業ポートフォリオの活用
- 3. 事業ポートフォリオを作成するメリット
- 3-1. ビジネスチャンスの見極め、スピーディーな経営判断につながる
- 3-2. 既存ビジネスのリスクを顕在化できる
- 3-3. 自社の競争相手を明確化できる
- 4. 事業ポートフォリオの作成手順
- 4-1. ①現状を把握する
- 4-2. PPM分析の活用
- 4-3. ②注力すべき主力事業を決める
- 4-4. CFT分析の活用
- 4-5. ③コア・コンピタンス(自社の強み)を明確にする
- 4-6. SWOT分析の活用
- 4-7. ④ビジネスモデルの決定
- 5. 事業ポートフォリオを最適化するためのポイント
- 5-1. 投資の優先順位を決める
- 5-2. 目先の損益より資本効率を上げることが重要
- 5-3. 事業再編や事業撤退も選択肢に入れる
- 5-4. ガバナンスの強化を行う
- 5-5. 定期的に分析・評価を行う
- 6. 終わりに
- 6-1. 著者
事業ポートフォリオとは、企業が運営しているすべての事業を組み合わせて可視化したものです。事業ポートフォリオを作成すれば、それぞれの事業の収益性や成長性などを確認しやすくなります。
本記事では事業ポートフォリオを作成するメリット、作成手順、事業ポートフォリオを最適化するためのポイントなどについて解説します。
事業ポートフォリオとは
事業ポートフォリオとは、企業の事業を一覧化したものを指します。
企業経営において、経営資源を有効活用する目的で、どの事業に経営資源を投入するべきか検討するためのツールとして用いられます。
なお、「ポートフォリオ」は例えば金融業界では投資家の預金や株式、債券の構成を指すなど、ビジネスシーンでは「組み合わせ・構成」の意で用いられます。
M&Aにおける事業ポートフォリオの活用
事業ポートフォリオは、M&Aにおいても不可欠です。M&Aを成功させるには、まず自社の事業を詳細に把握・理解してM&Aの目的を明確にすることが重要です。
業界、市場の動向、自社の強みや課題、成長ポイントを分析し、M&Aの目的を実現するための戦略を立案し、最適な相手企業と交渉します。この時、自社の事業ポートフォリオが適切に用意されていれば、M&Aを実施する際の重要な判断材料や分析指標として活用できます。
事業ポートフォリオを作成するメリット
事業ポートフォリオを作成するメリットは、主に以下の3つです。
ビジネスチャンスの見極め、スピーディーな経営判断につながる
事業ポートフォリオを活用すると、自社の事業を俯瞰して眺めることができます。
各事業の成長性、収益性、安定性など俯瞰的に把握することで、どの事業にビジネスチャンスが隠れているかといった見極めや、スピーディーな経営判断につながります。
既存ビジネスのリスクを顕在化できる
ビジネスチャンスの見極めに役立つ一方、既存ビジネスのリスクを顕在化できるメリットもあります。
例えば、何度も改善を試しているのに収益が好転しない事業や、売上は伸びているのに利益が一向に改善しないような事業など、収益性を判断基準に撤退の判断を下しやすくなります。
自社の競争相手を明確化できる
自社の競合となりうる企業を見定めるためには、各社の収益性や成長性、強みや弱みなどを分析し、自社と比較することが必要です。
分析結果によっては「実は競合相手だと思っていた企業がライバルではなかった」ということもあるかもしれません。自社の事業ポートフォリオを作成することで、本当のライバル企業を明確に設定できるメリットもあるのです。
事業ポートフォリオの作成手順
事業ポートフォリオの作成手順について、それぞれ見ていきましょう。
①現状を把握する
事業ポートフォリオを作成するには、まず自社の現状を把握します。自社の現状把握に活用される方法が、PPM分析です。
PPM分析の活用
PPMとは、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(Product Portfolio Management)の略語で、経営リソースを効率的に各事業に配分するための経営分析です。
1970年代に有名なコンサルティング企業であるボストン・コンサルティング・グループによって提唱されました。PPMでは、縦軸に市場成長率、横軸に市場占有率をおいて自社の事業を「問題児」「負け犬」「花形」「金のなる木」の4つに分類します。
【問題児】
市場成長率が高い領域にあっても、現状市場のシェアが低い事業は、「問題児」に分類されます。「問題児」の事業は市場のシェアを高めて「花形」に近付けることが重要な経営目標です。
「問題児」の事業は利益はまだ多く得られないものの、市場シェアさえ確立できれば「花形」へと転換する可能性があります。
一方で「問題児」は激化する市場競争にさらされやすいため、事業の維持には積極的な投資の継続が必要です。また他の事業から得た利益を利用する必要があります。
したがって「問題児」が今後期待するほど利益を生み出さない、と判断した場合は撤退を決断することも重要です。
【負け犬】
市場の成長の伸びしろが無く、市場のシェアも低い事業は「負け犬」に分類されます。いわゆる成熟期から衰退期にある商品、事業が対象となります。
追加の投資や販売促進によって復活する可能性も無くはありませんが、市場が縮小傾向であれば撤退を検討することが必要です。「負け犬」に割いていた経営リソースは他の事業に回した方が得策でしょう。
【花形】
市場の成長性・市場におけるシェアがともに高い事業は「花形」に分類されます。「花形」の事業は市場成長率が落ち着いてくれば、「金のなる木」になります。
市場成長率が低くても市場占有率が高ければ、安定的に収益を稼ぐことができる継続すべき事業だと言えます。経営リソースは有限なので選択と集中が重要です。
PPMは各事業に対する選択と集中を判断するために有用な分析方法です。具体的には、「花形」は競合企業が多いため、ライバル企業に負けないよう投資が求められます。「問題児」の事業も市場占有率を向上させるために資金の投入が必要です。
【金のなる木】
市場の成長性は低いものの、市場においてシェアを高く獲得している安定的な事業は「金のなる木」に分類されます。現状以上の利益獲得は難しいですが、安定的に利益を生み出しやすいため、コスト削減を実施して利益率のアップを目指します。
この「金のなる木」で得た利益は、「問題児」や「花形」に投入することを検討しましょう。
このようにPPM分析は、自社の事業が市場でどのようなポジションに位置しているかを分析する仕分け作業のようなものです。
しかし、市場の動向や製品のライフサイクルによって、「問題児」が「負け犬」に転落したり、「花形」が「金のなる木」に移行する変動が生じるため、定期的にPPM分析を活用することが必要です。
②注力すべき主力事業を決める
PPMを活用して各事業の現状分析を実施したら、次に自社が注力すべき事業を見定めます。ここで用いられるのが、CFT分析です。
CFT分析の活用
CFT分析とは、事業ドメイン(企業が事業を行う領域)を設定する際に用いられるフレームワークです。
デレック・エイベルという経営学者が提唱したこのフレームワークの名は「Customer(顧客)」「Function(機能)」「Technology(技術)」の頭文字に由来し、これら3つの要素から事業ドメインの設定が行われます。
言い換えると、「誰に何をどのような方法で提供するのか」を事業ドメインと定義しています。
Customer(顧客) は、誰に対して事業の価値を提供するのかを年齢・性別・好みなどにもとづいて分析して定めることです。自社にふさわしい顧客を明確化することとも言えます。自社商品でニーズを満たせるのはどのような顧客層なのかを、客観的に市場分析から把握します。
Function(機能) は、どのような価値を顧客に提供できるのかを定めます。
つまり、自社商品を利用することで顧客にどんな利益を与えられるのかを明確にします。Function(機能)は事業ドメインの定義において最重要だと言われています。なぜなら、自社の強みを上手に活用して競合他社と差別化した機能を選択することは、ライバル企業との競争に勝利するために不可欠だからです。
最後に、 Technology(技術) を実現する方法について定めます。
どのような自社独自の技術にもとづいて、顧客に商品・サービスを提供するのかを分析して決定します。
Technology(技術)は自社の強みを発揮しやすい領域です。例えば、競合他社が真似できない配送インフラを保有している場合には、商品を顧客に迅速に送り届けるサービスを取引内容に組み込むことで差別化できます。
事業ポートフォリオを作成する上で事業ドメインを設定する場合には、自社の強みを生かす点と事業ドメインを適切な範囲に設定する点が大切です。自社の得意分野をきちんと把握・理解して、事業を選択することが重要であり、また競合他社と差別化することが求められます。
しかし、事業ドメインの範囲が広すぎると経営リソースの分散投資によるリソース不足が生じやすく、逆に狭すぎるとすぐに市場の伸びが止まってしまい市場の成長を期待できなくなってしまいます。
つまり主力となる事業ドメインの適切に設定することは、企業成長の重要なカギと言えます。
③コア・コンピタンス(自社の強み)を明確にする
注力すべき主力事業を決めたら、コア・コンピタンス(自社の強み)を明確にします。その際、多く用いられるフレームがSWOT分析です。
SWOT分析の活用
SWOT分析とは、自社を取り巻いている外部環境(競合他社、市場動向、法律など)と自社が内包している内部環境(資産、ブランド、価格など)をプラス面とマイナス面に分類して分析する方法です。
自社の戦略策定やマーケティングにおける意思決定や経営資源配分の最適化などを実施するために用いられるフレームワークの一つです。
SWOT分析は、Strength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の各項目の頭文字をつなげた名称です。
自社の事業戦略や事業計画を立案するには、外部環境と内部環境の双方を正確に把握・分析することが不可欠です。SWOT分析を活用すると、上記の4項目を軸にして今後の事業戦略やビジネスの機会を導き出したり事業課題を明確化することができます。
また、SWOT分析は事業目標を明確にしたり、事業を遂行する前提条件を整理したりする場合にも利用されます。SWOT分析には、内部環境だけでなく外部環境も考慮することで、客観的に事業の状況を把握できるメリットがあります。
一方で、強みと弱みに分類することが困難な場合もあり、この点は注意が必要です。
④ビジネスモデルの決定
SWOT分析を活用して自社の強みを把握したら、ビジネスモデルを決定します。
その際、企業理念の基づいているかという観点は重要です。目先の利益にフォーカスした事業ポートフォリオになっているビジネスモデルだと、企業イメージの低下や顧客離れが発生する恐れがあります。したがって、企業理念にもとづいた事業ポートフォリオになっているかどうかのチェックはとても大切なのです。
事業ポートフォリオを最適化するためのポイント
事業ポートフォリオを最適化するためのポイントは主に以下の2つです。それぞれ見ていきましょう。
投資の優先順位を決める
事業ポートフォリオを最適化するには、まず投資の優先順位を決めることが大切です。事業ポートフォリオの最適化には効率的な経営リソースの配分だけでなく、優先的に投資を実行する事業を決めることも求められます。
無駄なコストの発生は抑制すべきです。しかし、ライフサイクルにおける自社製品の位置によっては追加投資が必要な場合が考えられます。つまり、限りある経営リソースを有効に活用するためには事業の「選択と集中」が必要なのです。「選択と集中」については下記の記事をご参照ください。
目先の損益より資本効率を上げることが重要
事業ポートフォリオを最適化するには、資本効率を向上させることが重要です。資本効率とは、会社が投資家や銀行などから調達した資金をどれだけ効率的に利用しているのかを表す考え方を指します。
資本効率を判断するときには、ROE(Return On Equity、自己資本利益率)やROIC(Return On Invested Capital、投下資本利益率)など代表的な財務指標が用いられます。
ROEの計算式は、以下のとおりです。
ROE= 当期純利益÷自己資本 ×100
原則として、ROEが高いほど効率的に投下資本を活用していると考えられます。
一方ROICの計算式は、以下のとおりです。
ROIC= 税引後営業利益÷投下資本(株主資本+有利子負債)×100
ROEと同様に、ROICが高いほど投下資本を効率的に利用していると言えます。
投資家や銀行は、提供した資金を企業がどのように事業に活用しリターンを生んで還元してくれるのかという点に注目しています。そのため資本効率が高い事業を営んでいる企業に対しては、継続的な資金提供を実施してくれることが期待できます。
目先の利益ばかりを追いかけるような事業ポートフォリオとなっている企業は、短期的なリターンは期待できても、長期的なリターンを得ることは難しいケースが考えられます。この場合、投資家や銀行からの継続的な資金提供は期待できませんので、目先の利益よりも資本効率の向上を目指して最適な事業ポートフォリオを構築することをおすすめします。
事業再編や事業撤退も選択肢に入れる
企業の経営者や事業責任者の立場からは、これまで育ててきたビジネスに愛着を感じている人も多いでしょう。そのため、時間や手間をかけて育ててきた事業を手離す、撤退することは、なかなか決心がつかないかもしれません。
しかし、事業の再編や撤退が遅れれば遅れるほど、損失が発生し続ける恐れもあります。最適な事業ポートフォリオを構築するには、PPM分析やSWOT分析などの方法を活用して、撤退すべき事業や再編すべき事業をしっかりと見極めて事業の選択と集中を実行することが必要です。客観的に必要と判断される場合には、事業再編や事業撤退も検討する覚悟が求められます。
ガバナンスの強化を行う
経営陣によるガバナンスの強化も、事業ポートフォリオの最適化には必要です。
トップマネジメントによるガバナンスが適切に行えている企業は、組織における意思決定フローや必要な業務内容がきちんと整備されていて、事業もスムーズに進められていると考えられます。
一方、ガバナンスが機能していない企業では、従業員が経営陣の指示を守らず、自らの判断で業務を行っている可能性もあります。どの事業の効率性が高いか、どの事業に資金投下すれば良いか、といった判断を行うための実態把握が難しくなる可能性があります。
したがって事業ポートフォリオを最適化するには、事業運営のベースとなっているガバナンスを強化させることが重要なのです。
定期的に分析・評価を行う
事業ポートフォリオの分析・評価は、定期的に実施する必要があります。市場動向や競合企業の状況は時間が経過すれば変動するものです。つまり、以前分析・評価した結果が今では役に立たないというケースも十分考えられます。特に外部環境の変化は、注意深く観察していないと気づきにくいものです。
例えば、新型コロナウィルスの影響が拡大していることは知っていても、その影響による消費者の行動パターンの変化には調べないと分かりづらいことが挙げられます。感染症が拡大していることから消費は低迷しているイメージがありますが、実際には自宅にいながら買い物をする行動・ニーズが増えており、巣ごもり需要が高まっています。この変化は、今後の事業の展開に大きな影響を与えそうな動きです。
こうした消費者に関する変化などを定期的な分析・評価を通じて常にアップデートしておくことが、最適な事業ポートフォリオ構築に求められます。
終わりに
本記事では、事業ポートフォリオの概要、作成するメリット、作成手順、最適化するコツなどについて解説しました。事業ポートフォリオを作成して、その最適化を実施する方法は、限られている経営リソースを効率良く各事業に投下して収益を向上させるために必要な作業です。
またPPM分析やSWOT分析などの方法を活用して、収益を出せる事業とそれ以外の事業を分類して、追加投資や事業撤退などの経営判断をスピーディーに実行できる環境を整えましょう。