ポイズンピルとは?2種類の手法やメリット・デメリット、導入事例を解説

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ポイズンピルとは?

ポイズンピルと(Poison Pill)は、企業が敵対的な買収者以外の株主に対し、あらかじめ新株を市場価格より安く取得できる新株予約権を付与する買収防衛策です。

敵対的買収が仕掛けられた際には株式を大量発行して敵対的買収者の持株比率を引き下げ、結果的に支配権の獲得、買収を断念させます。 正式名称は「Shareholder rights plan」であり、日本では「ポイズンピル」または「ライツ・プラン」と呼ばれています。

ポイズンピルは毒薬条項とも呼ばれます。持株比率の低下につながる新株予約権の発動は、敵対的買収者にとっては毒を飲まされるイメージがあるため、この名が付けられました。このポイズンピルは、アメリカの企業法務の大家、マーティン・リプトン弁護士によって1980年代前半に考案されたと言われています。その後は様々な買収防衛策が登場したことや後述するデメリットなどの影響もあり、ポイズンピルを活用する動きはあまり見られなくなりました。

しかし近年の世界的なパンデミックによって、株価が急落した多くの企業が本格的な買収防衛策を講じる必要が生じ再びポイズンプルの活用が注目を集めています。
2020年3月には米国企業10社が新たなポイズンピルの導入を決定し(※)、その効力がまだまだ健在であることを世に示すことになりました。※FactSet Research Systems Inc ,Deal Point Data LLC 調べ

本記事では、ポイズンピルの概要、メリットやデメリット、実際に活用された企業事例についてご紹介します。

この記事のポイント

  • ポイズンピルとは、敵対的買収者が現れた際に、企業が新株を市場価格より安く取得できる新株予約権を既存の株主に付与する防衛策である。これにより、敵対的買収者の持株比率を低下させ、買収を断念させる効果がある。
  • ポイズンピルのメリットには、強力な買収防衛策として機能することや、発動しなくても抑止力として効果がある点が挙げられる。
  • 一方、デメリットとしては、株価の低下を招く可能性や新株発行の差し止め請求のリスク、敵対的買収が強行される可能性がある。

⽬次

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ポイズンピルの仕組み

株式会社では、株主に与えられる権利は保有する株式数に応じて与えられます。例えば発行済株式総数の3分の2を超える株式を保有すれば、実質的に経営の支配権の掌握したと言えるでしょう。このように、持株比率によって株主に与えられる権利が変動する点に着目したのが、ポイズンピルです。

持ち株比率/保有権利の一例

持ち株比率 保有権利
100% すべて自分の意志で決定する事ができる(完全子会社化)
66.7%以上(2/3以上) 株主総会の特別決議(※)を単独で成立させられる
(※会社の合併、事業譲渡の承認など)
50.1%超(1/2超) 株主総会の普通決議(※)を単独で成立させられる
(※取締役の選・解任、配当など)
33.4%以上(1/3以上) 株主総会の特別決議を単独で阻止できる
3%以上 株主総会の招集、会社の帳簿等、経営資料の閲覧ができる
1% 株主総会における議案提出権

前述のとおり、ポイズンピルを用いる場合、敵対的買収者以外の株主に対して、市場価格よりも安価で新株を発行できる新株予約権を付与しておきます。
この新株予約権は、敵対的買収者が現れた場合などに発動するよう定められるものです。そのため、通常時には株主が安価で新株を発行されることはありません。

敵対的買収者が本格的に買収を仕掛けてきた場合には、既存の株主に付与していた新株予約権が発動します。
新株予約権の行使によって大量に株式が発行されれば、1株あたりの価値が大幅に下がり、敵対的買収者の持株比率は低下します。
結果、株主としての影響力が薄まるため、敵対的買収者による買収は失敗に終わるというのがポイズンピルの仕組みです。

ポイズンピルの2種類の手法

ポイズンピルの手法は、「いつ」「どのように」新株予約権を発動するのかによって以下の2種類に分類されます。それぞれ詳しく見ていきましょう。

①事前警告型ポイズンピル

事前警告型とは、ポイズンピルを発動する前に敵対的買収者に対して警告を発することで、その抑止的効果によって買収を防ぐタイプです。事前警告型のポイズンピルは、以下の手順で新株予約権を発動します。

  1. 買収者BがA社の持株比率を高め、敵対的買収を仕掛けてきます。
  2. そこで買収者Bに対して買収の理由や目的、買収後の事業計画などの開示を求めます。
  3. A社の株主が納得できる有効な回答が得られない場合、A社は新株予約権を発動します。

買収者は、株主が納得できる買収理由や事業計画を開示できなければ新株予約権が発動されてしまうため、力押しでの買収はできません。これが事前の抑止力として買収者に作用します。
ただし、株主が納得できる正当な理由や買収後の事業計画が提示できれば、ポイズンピルは発動されることなく買収が進んでしまうことになります。

②信託型ポイズンピル

信託型とは、新株予約権を株主でなく信託銀行に対して発行し、買収者が登場した際には新株予約権を無償で発行して買収者の持株比率を低下させることで、敵対的買収を回避するポイズンピルです。
信託型のポイズンピルは、以下の手順で新株予約権を発動します。

  1. 敵対的買収者だけが行使できない差別的行使条件を付した新株予約権を、信託銀行に直接発行(もしくは特別目的会社に発行して信託銀行に譲渡)し、信託銀行が新株予約権を管理します。
  2. 買収者の持株比率(正確には議決権割合)を超えた段階で、信託銀行は時価以下(例えば1円など)で発行できる新株予約権を敵対的買収者以外の全株主に付与します。

新株予約権を預けた信託銀行が実行するため、敵対的買収が発生した場合、企業側は手続きをする必要がないため、ポイズンピル実施の手間やコストを抑えられます。(一方で、信託手数料の支払いが発生する点に注意が必要です。)
なお、ポイズンピルを導入している日本企業のほとんどは、信託型でなく事前警告型を採用しています。

ポイズンピルを導入するメリット


ポイズンピルを導入する主なメリットについて解説します。

強力な買収防衛策になる

繰り返しになりますが、ポイズンピルによって、敵対的買収者の出現に合わせて新株予約権が発動されます。その結果、大量の株式が敵対的買収者以外の株主に極めて安価(場合によっては無料)で発行され、敵対的買収者がこれまで買い進めてきた株式の価値の総額だけが大幅に下がり、持株比率も低下します。この状況で再び買収を進める場合、さらに大量の資金を用意しなければなりません。これはまさに、買収者にとって悪夢と言えます。

また、新株の大量発行によって株価は大幅に下落してしまうため、敵対的買収者が買収を諦めて持っている株式を市場で売却しようと思っても、買値よりかなり安い価格でしか売却できないため巨額な損失が生じてしまいます。敵対的買収者だけに莫大な損失が生じるポイズンピルは、強力な買収防衛、抑止策となります。

発動しなくても抑止力として十分な効果がある

ポイズンピルは、敵対的買収者に対して甚大なダメージを与える極めて効果的な買収防衛策です。買収者にとっては、これまで投入した資金の大半がなくなるリスクを負いかねません。買収戦が長期戦に持ち込んだ場合、買収者側が苦境に立たされるのは明らかです。

ポイズンピルを導入するデメリット


次は、ポイズンピルを導入するデメリットについて見てみましょう。

株価の低下を招く

ポイズンピルを発動すると、敵対的買収者以外の株主に対して大量の新株予約権が付与されます。市場価格をはるかに下回る株価(もしくは無償)で株式が発行されますので、ほとんどの株主はこの権利を行使するはずです。
したがって、ポイズンピルを発動すると発行済株式数が大幅に増えることから、株価の低下を招いてしまいます。

ただし、既存の株主には安価で新株が発行されるため、敵対的買収者以外の株主が株価の低下によって被害を受けるわけではありません。
また、株価の低下によって株式分割と同様の効果が生じるため、これまで購入を控えていた投資家にとっては株式が買いやすくなるメリットも生じます。

新株発行の差し止め請求が行われるリスクがある

敵対的買収者の出現に合わせて新株予約権を発動しようとしても、既存の株主から新株発行の差し止め請求をされるリスクがあります。
例えば、敵対的買収者の提案が既存の株主にとって納得のできるものであった場合です。既存株主が、普段から経営に疑問を持っている場合、「むしろ敵対的買収者に買収されてしまった方が良い」と思われる可能性はゼロではありません。
このように、買収防衛策として新株を発行しようとしても既存の株主から差し止め請求をされてしまうリスクが存在します。

また、ポイズンピルによる新株発行は、敵対的買収者が大きく不利になるため、敵対的買収者によって新株発行の差し止め請求が行われるケースも十分考えられます。
過去の事例でも、2005年にライブドアがニッポン放送を買収しようとした際に、ニッポン放送側はポイズンピルを発動しようとしました。
しかしライブドア側による申し立てが認められ、東京地裁および東京高裁はこの新株発行を「著しく不公正な発行」とし、ライブドアによる新株発行の差し止め請求を認める結果となりました。

敵対的買収を強行される場合がある

前述のとおり事前警告型の場合、敵対的買収者に対して買収の理由やその後の事業計画などの開示を求めます。このとき買収する理由や開示された事業計画に多くの株主が支持する場合は、敵対的買収が株主の合意を得てスムーズに進められることになってしまいます。敵対的買収の準備を綿密に進めてきた買収者に対しては、効果が発揮されにくいと考えられます。

ポイズンピル以外の買収防衛策


ここまで解説してきたポイズンピル以外にも、多くの買収防衛策が世界中の企業で導入されています。そのうち、主要なものが以下の8つです。

  • ホワイトナイト(White Knight)
  • パックマンディフェンス(Pac-Man Defense)
  • ゴールデンパラシュート(Golden Parachute)
  • ティンパラシュート(Tin Parachute)
  • クラウンジュエル(Crown Jewel)
  • マネジメントバイアウト(Management Buyout)
  • ピープルピル(People Pill)
  • ジューイッシュデンティスト(Jewish Dentist)

どのような買収防衛策なのか、それぞれ見ていきます。

ホワイトナイト(White Knight)

ホワイトナイトとは、敵対的買収を仕掛けられた企業が新たに友好的な買収者(=ホワイトナイト)を探して買収もしくは合併してもらうことで、敵対的買収者の買収を防ぐ方法です。
ホワイトナイトになる企業は予定外のM&Aを持ち掛けられるため、通常よりも有利な条件が提示されます。そのため、敵対的買収は防げる一方、被買収会社にとっては不利な条件を提示しなければならない点や、友好的買収者による買収・合併によって会社の独立性が低下するリスクを孕む点に注意が必要です。

<ホワイトナイトが活用された企業事例>
2005年:ドン・キホーテによるオリジン東秀への敵対的買収
2019年:コクヨによるぺんてるへの敵対的買収

パックマンディフェンス(Pac-Man Defense)

パックマンディフェンスとは、敵対的買収を仕掛けてきた買収者に対し、逆に買収を仕掛ける買収防衛策です。
しかし、敵対的買収者が被買収会社より事業規模や保有資産額が大きいケースがほとんどであるため、仕掛けることはほぼ不可能です。ただし、買収会社の株式を4分の1取得できれば、会社法上、買収会社による被買収会社に対する議決権は失われます。このルールを利用して、相手の発行済株式総数の4分の1を目指して株式を買い進めるのがパックマンディフェンスです。近年では利用されることがほとんど無いといわれています。

ゴールデンパラシュート(Golden Parachute)

ゴールデンパラシュートとは、敵対的買収者によって買収された後に、経営陣が退職するときに支払う退職金を大幅に増額しておき、敵対的買収者の買収意欲を削ぐ買収防衛策です。
「墜落する飛行機から、旧経営陣が黄金のパラシュートで脱出する」という比喩に由来します。退職金は高額にしやすいため防衛効果は大きく、万が一買収された場合に多額の退職金を受け取れるため、経営陣にとってメリットが大きい防衛策です。
しかし、従業員や株主からは反感を買うリスクもあります。

ティンパラシュート(Tin Parachute)

ゴールデンパラシュートの従業員版が、ティンパラシュートです。あらかじめ敵対的買収が行われた際に解雇される従業員への退職金を増額しておくことで、買収に対する意欲低下や抑止効果を狙います。
ゴールデンパラシュートは役員退職金を増額するため株主総会の承認が必要ですが、ティンパラシュートでは取締役会の決議のみで決定できるため、導入するハードルが低く使いやすいです。

クラウンジュエル(Crown Jewel)

クラウンジュエルとは、敵対的買収を仕掛けられた際に、自社のコア事業や重要な資産などの第三者に譲渡もしくは分社化して社外へ流出させてしまうことにより、自社の価値を低下させて買収の意欲を削ぐ買収防衛策です。
クラウンジュエルは王冠についている宝石を意味し、これを外してしまうことで自社(=王冠)の価値を下げてしまうことからこの名前がつけられました。なお、コア事業などの譲渡には株主総会の特別決議が必要ですが、重要資産の処分は取締役会の決議のみで行えます。

マネジメントバイアウト(Management Buyout)

マネジメントバイアウト(MBO)とは、経営陣が既存の株主から広く株式を買い集め、株式を集中させることにより経営課題の改善や事業譲渡、上場廃止などを行う方法です。経営陣に株式が集中する点から、買収防衛効果が生じることになります。

ピープルピル(People Pill)

ピープルピルとは、敵対的買収が行われた際に経営陣をはじめ業績を支えるリーダーなどが一斉に総退陣することをあらかじめ定款などに定めておき、買収意欲の低下と抑止効果を狙う方法です。
コア事業や会社を支える主力サービスが優秀な一部の社員やリーダーなどへの依存度が高い場合には、買収防衛策として高い効果を発揮します。

ジューイッシュデンティスト(Jewish Dentist)

ジューイッシュデンティストとは、敵対的買収者に対してマスコミなどを通じてネガティブなイメージを広めることにより、世論を味方につけて買収者の社会的信用を失墜させて、買収意欲を削ぐ方法です。
かつて、ユダヤ人の歯科器具メーカーが敵対的買収を仕掛けられた際にこの方法を用いて買収者を撃退したことから、「ジューイッシュデンティスト(ユダヤ人の歯科医)」という名がつけられました。

ポイズンピルの活用事例


最後に、ポイズンピルを活用した直近の企業事例を2つ紹介します。

ツイッターの事例

2022年4月15日、電気自動車「テスラ」や宇宙開発「スペースX」などの創業者であるイーロンマスク氏はツイッターに対して430億ドル(約5兆4000億円)の買収提案を行います。これに対して経営陣はただちにポイズンピルの導入を決定し、買収に対して徹底抗戦の構えを見せました。同年4月初めに9.2%のツイッター社の株式を保有していたイーロンマスク氏は株式を買い進め、15%を超えた段階で発動されるように設定されていたポイズンピルによって、両社のにらみ合いは続きます。
その後、イーロンマスク氏側は買収撤退を表明し訴訟合戦に発展するなど、引き続き動向が注目されています。

新生銀行の事例

2021年9月9日、SBIホールディングスは新生銀行に対してTOBを行い、持株比率を現在の約20%から最大48%に引き上げて連結子会社化することを発表しました。敵対的買収を仕掛けられた形となった新生銀行側は、これに対抗する形でただちにポイズンピルの導入を発表します。両者の話し合いは平行線のまま話は進まず、いよいよ全面対決となる寸前に、状況は大きく変わります。

主要株主であった香港のヘッジファンドオアシスマネジメントや旧村上ファンドなどのアクティビストが臨時株主総会でポイズンピルの導入に反対する可能性が高まったのです。ポイズンピルを導入するには株主総会で承認を得なければなりませんが、これに失敗してしまうと株主は買収に対して賛成していることが世間に公表され、かえって買収が加速してしまいます。

そのため株主からの圧力に折れる形でポイズンピル導入を見送り、新生銀行はとうとうSBIホールディングスに対する態度を軟化せざるを得ない状況へ追い込まれてしまいました。その結果、SBIホールディングスによるTOBは無事終了し、新生銀行は連結子会社としてSBIグループの傘下に入ることになりました。

終わりに

上場企業の株式は誰でも買えるため、経営陣は敵対的買収を仕掛けられるリスクに常にさらされることになります。そのための防衛策として有効なのがポイズンピルです。ポイズンピルは他の防衛策と比べて抑止効果や実際の防衛力が非常に強い反面、ご紹介したデメリットを持つため注意が必要です。

国内で用いられた例では「コクヨ」と「ぺんてる」の事例が存在します。敵対的のリスクが低い中小企業のような非公開会社であっても、TOBが仕掛けられる可能性はゼロではありません。また敵対的買収ではないものの、相続による持株比率の変化によって経営の混乱が起きるケースは珍しくありません。このような混乱を避け、会社経営をスムーズに行うためには、準備期間を十分にとって専門家のアドバイスを受けながら進めていくのが良いでしょう。

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