ゴールデンパラシュートとは?その意味やメリット・デメリットをわかりやすく解説
⽬次
- 1. ゴールデンパラシュートとは?
- 2. ゴールデンパラシュートの由来
- 2-1. 非上場企業でもゴールデンパラシュートの活用は考えられる
- 3. ゴールデンパラシュートのメリット
- 3-1. 買収された際の保険として備えられる
- 4. ゴールデンパラシュートの注意点・デメリット
- 4-1. 株主や従業員の反発を招きやすい
- 4-2. 買収を強行されると経営陣の個人信用度が下がる
- 4-3. 利益相反義務に違反するリスクがある
- 5. ゴールデンパラシュートが用いられた買収防衛事例
- 5-1. RJRナビスコによるゴールデンパラシュートの事例
- 6. ゴールデンパラシュートに対する世界の傾向
- 7. ゴールデンパラシュート以外の買収防衛策
- 7-1. ポイズンピル(Poison Pill)
- 7-2. ホワイトナイト(White Knight)
- 7-3. パックマンディフェンス(Pac-Man Defense)
- 7-4. ティンパラシュート(Tin Parachute)
- 7-5. クラウンジュエル(Crown Jewel)
- 7-6. マネジメントバイアウト(Management Buyout)
- 7-7. ピープルピル(People Pill)
- 7-8. ジューイッシュデンティスト(Jewish Dentist)
- 8. 終わりに
- 8-1. 日本M&Aセンターの企業戦略サービス
- 8-2. 著者
M&Aは友好的な買収がある一方で、会社の支配力を強める目的で敵対的買収が行われることもあります。そうした敵対的買収者の動きを防ぐために発動される防衛策のひとつが、ゴールデンパラシュートです。
本記事では、ゴールデンパラシュートの概要を、事例を交えて詳しく解説していきます。
ゴールデンパラシュートとは?
ゴールデンパラシュートとは、買収価格を高騰させることで買収意欲を削ぎ、抑止効果を高める買収防衛策です。
敵対的買収などで経営権が移動した場合、経営陣側に支払われる退職金を通常よりも高額になるよう、企業があらかじめ経営陣と契約を結んでおきます。買収者側にとっては買収コストが大幅に上昇するため、これが抑止力となり、敵対的買収を防ぐわけです。
ゴールデンパラシュートの由来
ゴールデンパラシュートという名前は「経営陣が会社から追い出されることになっても、高額な手当てをもらって脱出できる」という特徴に由来します。
1960年代、トランス・ワールド航空の社長であるチャールズ・ティンガリスト Jr氏との雇用契約に、仕事を失った際に多額の退職金が支払われるという条件が掲載されていたことをきっかけに、ゴールデンパラシュートという言葉が広まったと言われています。(※)
その後、企業買収が盛んに行われた1980年代には、アメリカの多くの企業が買収防衛策として導入しました。
※出典:TIME “Biggest Golden Parachutes”(条件として掲載はされたものの、実際に発動はされなかった)
非上場企業でもゴールデンパラシュートの活用は考えられる
上場企業以外でも、相続によって株式が分散している場合や、非上場のぺんてる社にコクヨ社が買収を仕掛けたケース(2019年)など非上場企業であってもプロキシ―ファイト(※)が行われる場合、あるいは上場を目指して譲渡制限を撤廃する場合には、敵対的買収のリスクにさらされる場合があります。そのため非上場企業の場合でも、ゴールデンパラシュートの活用は十分考えられます。
※プロキシ―ファイト:株主総会における議案の採否をめぐり、特定の株主と会社の経営陣との間で、他の株主の議決権獲得を目的として他の株主を勧誘し、その委任状を争奪し合うこと。
ゴールデンパラシュートのメリット
本来の買収を抑止する以外に挙げられるメリットは、主に以下の通りです。
買収された際の保険として備えられる
敵対的買収が実行されて解任・解雇されることになっても、経営陣には高額な退職金が約束されています。解任・解雇によって突如すべてを失うよりも、退職金を元手に、新たな事業を始めるという選択肢も考えらるでしょう。
このように経営陣にとっては、万が一の場合に備えて保険としての側面がある点は大きなメリットに挙げられます。
ゴールデンパラシュートの注意点・デメリット
ゴールデンパラシュートを導入する注意点・デメリットは、主に以下の通りです。
株主や従業員の反発を招きやすい
株主や従業員にとって大切なのは、会社経営を安心して任せられる経営陣です。それが現経営陣でも敵対的買収者でも、株主たちには関係ありません。仮に敵対的買収者の方が経営者として優秀であるならば、おそらく株主たちは現経営陣の退陣を求めるでしょう。
しかし、ゴールデンパラシュートが導入されてしまうとそのチャンスを逃してしまうだけでなく、ゴールデンパラシュートが発動すると経営陣だけがメリットを受けることになりますので、株主や従業員からの反発を招く可能性があります。
買収を強行されると経営陣の個人信用度が下がる
買収者にとって、経営陣の退職金が大きな損失にならないと判断とし買収を強行する可能性もあります。経営陣だけがメリットを享受したと認識されて、経営陣個人の信用度が低下することが予想されます。経営陣が退職金を元手に新たなビジネスを展開を予定していた場合には、不利な状況になるでしょう。
利益相反義務に違反するリスクがある
前述の通り、ゴールデンパラシュートが買収によって発動してしまったとしても、退職金が上積みされる経営陣にとっては必ずしもデメリットにはなりません。このように、どちらに転んだとしても経営陣にとっては都合が良い状況になると判断された場合は、利益相反義務に違反するリスクがあります。
ゴールデンパラシュートが用いられた買収防衛事例
ゴールデンパラシュートが防衛策として用いられた事例をご紹介します。
RJRナビスコによるゴールデンパラシュートの事例
ゴールデンパラシュートの発動事例として広く知られている事例は、アメリカのRJRナビスコをめぐる買収劇です。1980年代後半に起きたこの事例は世界中に広く知れ渡っており、後に書籍化やテレビ・映画など映像化もされました。
RJRナビスコ社は、1989年に投資ファンドKKRによって敵対的買収が仕掛けられます。結果的に買収は実行され、当時CEOだったロス・ジョンソン氏は経営権を明け渡すことになりますが、ゴールデンパラシュートを設定していたことにより、同氏には5,800万ドルもの巨額の退職金が支払われました。
ゴールデンパラシュートに対する世界の傾向
1980年代に敵対的買収が活発に行われたアメリカでは、役員報酬のパッケージとしてゴールデンパラシュートを導入する企業が増えていましたが、行き過ぎた役員報酬の高額化は世間から厳しい目で監視されるようになります。
たとえば、フランスではゴールデンパラシュートを含めた役員退職金の上限を年収の2倍に定めた結果、ゴールデンパラシュートの効果は限定的なものになりました。
またスイスでは、2013年の法改正により、ゴールデンパラシュートが実質的に禁止となりました。アメリカはまだそこまで厳しくはないものの、ゴールデンパラシュートは世界的に規制傾向にあると言えます。
ゴールデンパラシュート以外の買収防衛策
ここまで解説してきたゴールデンパラシュート以外にも、多くの買収防衛策が世界中の企業で導入されています。そのうち、主要なものが以下の8つです。
- ポイズンピル(Poison Pill)
- ホワイトナイト(White Knight)
- パックマンディフェンス(Pac-Man Defense)
- ティンパラシュート(Tin Parachute)
- クラウンジュエル(Crown Jewel)
- マネジメントバイアウト(Management Buyout)
- ピープルピル(People Pill)
- ジューイッシュデンティスト(Jewish Dentist)
どのような買収防衛策なのか、それぞれ見ていきましょう。
ポイズンピル(Poison Pill)
ポイズンピルとは、企業が敵対的な買収者以外の株主に対し、あらかじめ新株を市場価格より安く取得できる新株予約権を付与する買収防衛策です。
新株予約権は市場価格よりも安い価格に設定されているため、権利を行使することで既存の株主(敵対的買収者は除く)は安価、もしくは無料で新株が手にできます。
なお、敵対的買収を仕掛けられた後で買収目的や事業計画の開示を求め、その内容次第でポイズンピルを発動する「事前警告型ポイズンピル」と、信託銀行に新株予約権を預け、敵対的買収が仕掛けられたタイミングでポイズンピルを発動する「信託型ポイズンピル」の2種類があります。
ホワイトナイト(White Knight)
ホワイトナイトとは、敵対的買収を仕掛けられた企業が新たに友好的な買収者(=ホワイトナイト)を探して買収もしくは合併してもらうことで、敵対的買収者の買収を防ぐ方法です。
ホワイトナイトになる企業は予定外のM&Aを持ち掛けられるため、通常よりも有利な条件が提示されます。そのため、敵対的買収は防げる一方、被買収会社にとっては不利な条件を提示しなければならない点や、友好的買収者による買収・合併によって会社の独立性が低下するリスクを孕む点に注意が必要です。
パックマンディフェンス(Pac-Man Defense)
パックマンディフェンスとは、敵対的買収を仕掛けてきた買収者に対し、逆に買収を仕掛ける買収防衛策です。
しかし、敵対的買収者が被買収会社より事業規模や保有資産額が大きいケースがほとんどであるため、仕掛けることはほぼ不可能です。ただし、買収会社の株式を4分の1取得できれば、会社法上、買収会社による被買収会社に対する議決権は失われます。このルールを利用して、相手の発行済株式総数の4分の1を目指して株式を買い進めるのがパックマンディフェンスです。近年では利用されることがほとんど無いといわれています。
ティンパラシュート(Tin Parachute)
ゴールデンパラシュートの従業員版が、ティンパラシュートです。あらかじめ敵対的買収が行われた際に解雇される従業員への退職金を増額しておくことで、買収に対する意欲低下や抑止効果を狙います。
ゴールデンパラシュートは役員退職金を増額するため株主総会の承認が必要ですが、ティンパラシュートでは取締役会の決議のみで決定できるため、導入するハードルが低く使いやすいです。
クラウンジュエル(Crown Jewel)
クラウンジュエルとは、敵対的買収を仕掛けられた際に、自社のコア事業や重要な資産などの第三者に譲渡もしくは分社化して社外へ流出させてしまうことにより、自社の価値を低下させて買収の意欲を削ぐ買収防衛策です。
クラウンジュエルは王冠についている宝石を意味し、これを外してしまうことで自社(=王冠)の価値を下げてしまうことからこの名前がつけられました。なお、コア事業などの譲渡には株主総会の特別決議が必要ですが、重要資産の処分は取締役会の決議のみで行えます。
マネジメントバイアウト(Management Buyout)
マネジメントバイアウト(MBO)とは、経営陣が既存の株主から広く株式を買い集め、株式を集中させることにより経営課題の改善や事業譲渡、上場廃止などを行う方法です。経営陣に株式が集中する点から、買収防衛効果が生じることになります。
ピープルピル(People Pill)
ピープルピルとは、敵対的買収が行われた際に経営陣をはじめ業績を支えるリーダーなどが一斉に総退陣することをあらかじめ定款などに定めておき、買収意欲の低下と抑止効果を狙う方法です。
コア事業や会社を支える主力サービスが優秀な一部の社員やリーダーなどへの依存度が高い場合には、買収防衛策として高い効果を発揮します。
ジューイッシュデンティスト(Jewish Dentist)
ジューイッシュデンティストとは、敵対的買収者に対してマスコミなどを通じてネガティブなイメージを広めることにより、世論を味方につけて買収者の社会的信用を失墜させて、買収意欲を削ぐ方法です。
かつて、ユダヤ人の歯科器具メーカーが敵対的買収を仕掛けられた際にこの方法を用いて買収者を撃退したことから、「ジューイッシュデンティスト(ユダヤ人の歯科医)」という名がつけられました。
終わりに
1980年代のアメリカでは、M&Aの増加にともない敵対的買収が増えましたが、それを防ぐための買収防衛策も多く生み出されました。ゴールデンパラシュートも買収防衛策のひとつであり、世界中の多くの企業で導入されてきた歴史があります。
しかし抑止力がある反面、発動されても恩恵を受けるのは経営陣だけであることから世界的には縮小傾向に向かっています。
前述の通り、上場企業だけでなく非上場企業においても、経営権をめぐる争いは決して他人事ではありません。このような混乱を避け、会社経営をスムーズに行うため、専門家のアドバイスを受けながら対策を進めていくのが良いでしょう。
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