買収への対応方針・対抗措置(買収防衛策)とは?
買収への対応方針・対抗措置(買収防衛策)とは?
買収への対応方針・対抗措置(買収防衛策)とは、同意なき買収に対し、防衛手段として実施される対策を指します。
近年、上場企業において同意なき買収に対する買収防衛策の導入・発動の傾向は増加しています。
この記事のポイント
- 買収への対応方針・対抗措置(買収防衛策)は、近年上場企業での導入が増加している。2023年の行動指針では、企業は「真摯な買収提案」に対しても検討することが求められている。
- 買収には「同意なき買収(敵対的買収)」と「友好的買収」があり、防衛策は主に同意なき買収に対して発動される。ポイズンピル、ゴールデンパラシュート、ホワイトナイトなど、さまざまな防衛策が存在する。
- 買収防衛策には事前警告型と有事導入型があり、資産ロックアップや第三者割当増資などが具体的な手法として用いられる。これらの対策は買収者の意欲を削ぐ効果が期待されるが、注意が必要なリスクも伴う。
⽬次
企業買収における行動指針
2023年8月に経済産業省が策定した「企業買収における行動指針」は、M&A促進による日本企業の競争力向上を狙い、上場企業は同意なき買収の場合にも「真摯な買収提案」に対しては「真摯な検討」を行うことが求められています。
同指針ではこれまでの「敵対的買収」は「同意なき買収」に、「買収防衛策」は「買収への対応方針・対抗措置」に改められ、発動するには株主の意思尊重を重視しすることが明示されています。
「同意なき買収(敵対的買収)」と「友好的買収」
買収は、「同意なき買収(敵対的買収)」と「友好的買収」の2つに分かれます。今回ご紹介する防衛策は前述の通り同意なき買収(敵対的買収)に対し発動・導入されます。
同意なき買収(敵対的買収)とは
一方、「同意なき買収(敵対的買収)」は買収の対象となる企業の経営陣の同意を得ないで進められる買収です。敵対的買収者は経営権を掌握する目的で、議決権の過半数を取得するために株式を買い進めていきます。
同意なき買収のための株式取得は原則として公開買付(TOB)によって進められます。(まれに市場内の取得だけで議決権の過半数が取得されるケースも存在します。)
なお、同意なき買収では、経営陣にとって望ましくない場合でも、株主にとってはそうであるとは限りません。
例えば経営方針に対して株主が不満を持ってる、あるいは敵対的買収者が経営権を握る方が企業価値向上を見込めるなど、株主にとって買収が望ましい場合には、前述の通り防衛策が決議されず、敵対的買収が成立してしまう可能性はゼロとは言えないでしょう。
友好的買収とは
友好的買収は、買収の対象となる企業の経営陣の同意を得たうえで行われる買収を指します。
買収の条件や買収後における従業員の処遇などを話し合い、お互い完全に同意したうえで買収が行われるため、手続きがスムーズに進められます。中小企業のM&Aのほとんどは友好的M&Aとして実行されます。
事前警告型の買収防衛策
買収防衛策事前に備えておくことができる事前警告型の予防策と、実際に起きてから講じる対抗策があります。まずは主な予防策をご紹介していきます。
ポイズンピル(Poison Pill)
ポイズンピル(Poison Pill)とは、企業が敵対的な買収者以外の株主に対し、あらかじめ新株を市場価格より安く取得できる新株予約権を付与する買収防衛策です。 敵対的買収が仕掛けられた際には株式を大量発行して敵対的買収者の持株比率を引き下げ、結果的に支配権の獲得、買収を断念させます。
ポイズンピルには事前警告型と信託型の2種類があり、抑止効果も高いため日本企業でも買収防衛策として数多くの企業に導入されています。ただし、新株発行により株価が急激に低下する点や、買収側から新株発行の差し止め請求をされた結果、場合によっては新株発行が無効になるリスクがある点などに注意が必要です。
ゴールデンパラシュート(Golden Parachute)
ゴールデンパラシュートとは、買収価格を高騰させることで買収意欲を削ぎ、抑止効果を高める買収防衛策です。具体的には敵対的買収により経営陣が退陣したときの退職金を高額に設定しておき、買収するためのコストアップによる抑止効果を狙います。
ティンパラシュート(Tin Parachute)
経営者以外の従業員に対しても割増退職金などを支払う契約を締結するのがティンパラシュート(Tin Parachute:ブリキのパラシュート)です。ゴールデンパラシュートの従業員版とも言えるティンパラシュートは、ゴールデンパラシュートと同様に買収価格を高騰させることにより買収意欲を削ぎ、抑止効果を高めます。
マネジメントバイアウト(Management Buyout)
マネジメントバイアウトとはMBOとも略され、経営陣が既存株主から自社の株式を広く買い付けて行う、企業買収の手法のひとつです。筆頭株主である創業家が中心となり、事業承継のために市場の株式を買い取って上場廃止にする場合や、上場するメリットが少ないことから廃止する場合などにこの方法が用いられます。市場に流れる株式を買い取るため、買収防衛策として機能します。
チェンジオブコントロール条項(COC条項)
チェンジオブコントロール条項とは、敵対的買収などを理由に契約の当事者の支配権に変更が生じた場合、もう一方の当事者が契約内容に制限をかけたり、契約そのものを解除できたりする契約規定のことです。チェンジオブコントロール条項を締結しておけば、事業を行うための大切な契約が解除されてしまうので、買収意欲を削ぐ抑止効果があります。
ピープルピル(People Pill)
ピープルピルとは、敵対的買収が完了した場合、主力業務に携わる優秀な人材が退職する契約を事前に結んでおき、抑止効果を狙う買収防衛策です。
プットオプション(Put Option)
プットオプションとは、特定の商品について、そのときの市場価格とは関係なく、一定の期間内にあらかじめ決められた数量・価格で売る権利のことです。この方法を実施すると買収コストを大幅に増額させられることから、抑止効果が高められます。
黄金株
黄金株とは、買収などの株主総会決議事項について、拒否権を行使できる株式のことをいいます。正しくは「拒否権付種類株式」といい、株主の権利内容について、特別な条件がつけられた種類株式の一つです。たった1株で決議内容を拒否できるため、黄金株を安定株主などにあらかじめ交付しておけば、敵対的買収を防げます。
絶対的多数条項
絶対的多数条項はスーパーマジョリティ条項とも呼ばれ、あらかじめ定款を変更して特定の議案を決議するためのハードルを高くしておき、敵対的買収者が支配権を確立しておくことを難しくしておく買収防衛策です。たとえば、取締役の解任に必要な賛成数を増やしたり、普通決議で済む内容を特別決議にしたりしておく方法などが挙げられます。
全部取得条項付株式
全部取得条項付株式とは種類株式の一種で、株主総会の決議によって会社側が発行する株式の全部を取得できる株式です。全部取得条項付株式の発行を行うには種類株式発行会社であることが必要であり、また発行にあたっては株主総会の特別決議が求められます。
この方法は、敵対的買収に対する買収防衛策だけでなく、少数株主に対するスクイーズアウトなどにも活用できます。
有事導入型の買収防衛策
続いて、実際に敵対的買収に直面した際に講じられる主な対抗策について紹介します。
ホワイトナイト(White Knight)
ホワイトナイトとは、敵対的買収を仕掛けられた企業が、別の友好的な買収者を見つけて買収あるいは合併をしてもらい、敵対的買収を阻止する防衛策のことです。ホワイトナイトを用いることで、結果的に他社の傘下に入る点などには気をつける必要があります。
パックマンディフェンス(Pac-Man defense)
パックマンディフェンスとは、敵対的買収を仕掛けられた被買収企業が、逆に買収企業を買収してしまう買収防御策のことです。ただし、買収企業を買収すると言っても、買収企業の株式の過半数を取得するのではありません。
会社法で定められたルールにより、買収を仕掛けてきた企業の株式を4分の1以上取得すれば買収を阻止できるため、そのラインまでの取得を目指します。
ジューイッシュデンティスト(Jewish Dentist)
ジューイッシュデンティストとは、敵対的買収を仕掛ける企業に対してメディアなどを通じてネガティブキャンペーンを行うことによって買収に対するイメージを落とし、敵対的買収を阻止する方法です。
「買収に応じることは社会正義に反する」というイメージを、メディアを通じて株主に浸透させて、株主が公開買付に応じて株式を売却しないように働きかけることで買収を阻止します。
クラウンジュエル(Crown Jewel)
クラウンジュエル(焦土作戦)とは、買収企業が狙っている財産価値の高い資産や収益性の高い事業を関連会社へ売却したり、金融機関からの負債を引き受けたりすることによって、買収されたあとの企業価値を低下させる買収防衛策です。
どのような方法を使ってでも買収を阻止したいならば、この方法で目的を達成できるかもしれませんが、買収を阻止した後は文字通り自社が焦土と化すため、用いた場合の重大なリスクを認識しておく必要があります。
資産ロックアップ
資産ロックアップとは、買収終了後の一定期間内は資産の売却ができないように定款に定めることでで、敵対的買収を防ぐ方法です。
敵対的買収を仕掛ける企業の中には、買収後に土地などの含み益の大きい保有資産を売却して現金化することを目的としている場合があります。このようなケースでは、資産ロックアップが防衛策として有効に用いられるでしょう。
第三者割当増資
第三者割当増資とは、増資をするにあたり、特定の第三者に対して新株を発行することです。第三者割当増資が敵対的買収の防止策として用いられる場合は、買収が仕掛けられたときに新株、もしくは新株予約権を第三者割当することで株式の希薄化を行い、買収者の持ち株比率を下げさせます。
買収者の持株比率が下がってしまうと、買収ができなくなります。また新たに資金を用意する場合でもコストが大幅に増えてしまうため、買収意欲を削ぐ効果があります。
スタッガードボード(Staggered Board)
スタッガード(staggered)とは、「交互の・ジグザグ状」を表します。取締役の任期を揃えず、バラバラにしておくことで、任期満了によりすべての取締役が同時に入れ替わるのを防ぎ、敵対的買収者によって経営権を掌握されるまでの時間を稼ぐ買収防衛策です。
スタッガードボードを実行しておけば、買収完了後に経営権を完全に掌握するまでに時間を要し、買収側は投下した資金を回収するまでに時間がかかるため、買収意欲を削ぐ効果があるとされています。
株式交換
株式交換とは、会社が発行している全ての株式を、他の株式会社に取得させることで、完全親子会社関係を構築する方法です。
株式交換は主にグループ企業内の組織再編などに使われるケースが見られますが、これを行うことによって、親会社以外が株式を持つことができなくなるため、結果的に買収防衛策となりえます。
新株予約権
新株予約権とは、予約権を受けた者がその権利を行使することで、当該株式会社の株式の交付が受けられる権利です。新株予約権を行使すれば、あらかじめ定められた価格で新株が発行されます。
敵対的買収者のみ行使できない差別的行使条件を付した新株予約権を用いて、一般株主がこの権利を行使することで、敵対的買収者の議決権が希薄化されるため、買収防衛策としての効果が生じます。
終わりに
買収防衛策は、敵対的買収者から企業価値や株主などの利益を守るために役立つ方法です。上場企業だけでなく、非上場企業でも株式が分散している場合は注意しておいた方が良いでしょう。
今後の企業運営を安定的に行うには、買収防衛策も含めた包括的な株主構成戦略を構築しておくことをおすすめします。