株主総会の特別決議とは?決議される内容や、普通決議との違い、注意点を解説
企業が行う判断について、その内容に応じて誰がどのように行うのかが会社法で定められています。この決断の最上位に位置するのが株主総会であり、特に重要な事項を決議するために行われるのが特別決議です。
本記事では、株主総会で行われる決議について整理したうえで、特別決議と他の決議との違い、注意点について解説します。
株主総会とは
会社法では、株式会社における最高の意思決定機関を株主総会と定めています。会社法第295条第1項では「株主総会は、この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる」とあり、株主総会の権限がどれほど強いかがわかります。
ただし、取締役設置会社に関しては、例外規定が存在します。
株主総会で選任された取締役3名以上で構成される会社の業務執行の意思決定をする取締役会が設置されている会社(取締役会設置会社)では、会社法もしくは定款で定められている重要事項以外は取締役会で決議できるように定められています(同条第2項)。
この記事のポイント
- 株主総会は株式会社の最高意思決定機関で、会社法に基づき重要事項を決議する場であり、普通決議、特別決議、特殊決議の3種類がある。
- 特別決議は資本金の減少や定款変更など重要な事項に必要で、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が求められる。
- 株主総会は書面決議も可能で、全株主の同意があれば議事録を作成し、決議があったものとみなされるが、記録の保存が義務付けられている。
⽬次
株主総会で行われる3つの決議
株式総会における決議事項は数多く存在するため、会社法ではそれぞれの重要度合によって決議の要件が設定されています。
株主総会の決議方法について、株主総会に出席する株主の割合(定足数)と、決議に投じられる議決権の割合(表決数)によって、「普通決議」「特別決議」「特殊決議」の3つに大別されます。
会社法では、決議事項によりその決議方法が定められています。決議方法が会社法に違反した場合には、総会決議取消しの訴えが認められます。株主総会の決議の種類は、以下のように定められています。
普通決議
普通決議とは、株主総会において最も一般的な決議方法です。後述する特別決議や特殊決議のような特別な議案を除けば、原則としてすべての議案は普通決議によって話し合われます。
会社法では、「普通決議とは、定款に定めがある場合を除き、 議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席 し、かつ 出席した株主の議決権の過半数 をもって行う決議である」と定めています(同法309条1項)。
普通決議の定足数・表決数
普通決議を成立させるためには、「出席要件(定足数)」と「決議要件(表決数)」の2つを満たさなければなりません。
「出席要件」とは、 出席する株主が保有する議決権が過半数であること を意味します。
「決議要件」とは、 出席した株主の議決権の過半数が賛成票であること を指します。
例えば、以下のケースを考えてみましょう。
会社にはA、B、Cの合計3名の株主がおり、それぞれが50株、30株、20株(1株=1議決権)を持っているとします。
この会社の株主総会を成立させるためには、まず出席要件(定足数)を満たさなければなりません。
したがって、議決権の過半数を有する株主が出席するためには、3名のうち少なくともAとB、もしくはAとCという2名の株主が出席しなければなりません。
Aのみ、もしくは、BとCの出席だけでは議決権の合計が過半数に届かないため、定足数を満たさないことになります。
次に決議要件(表決数)を満たす必要がありますが、出席した株主の議決権の過半数が賛成していることが必要です。
AとB(もしくはC)が出席した場合は、A(50株)が賛成すれば出席した株主の議決権の過半数が賛成していることになるため、決議要件を満たすことになります。
つまり、B(30株)またはC(20株)が反対しても、Aが賛成していれば可決されることになります。
A、B、C全員が出席した場合は、Aだけ賛成しても出席した株主の議決権の過半数は満たさないため、Aに加えて、BもしくはCが賛成する必要があります。
いずれの場合でもAが反対すれば、あらゆる議案が否決されることになります。
特別決議
特別決議とは、資本金額の減少や定款変更のような会社の根幹に関わる重要事項で行われる決議方法です。なお、特別決議が必要となる事項については、後述します。
特別決議の定足数・表決数
会社法では、特別決議は「議決権を行使できる株主の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)の株主が出席し、出席した株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上が賛成しなければならない」と定めています(会社法309条2項)。
出席要件(定足数)については普通決議と同じですが、決議要件(表決数)は出席株主の2/3以上となっているため、普通決議と比べてハードルがかなり高く設定されていることがわかります。
特殊決議
特殊決議とは、全部の株式を譲渡制限とする定款の変更や新設合併契約等の承認など、極めて特殊な事項を決議する場合に用いられる決議方法です。
特殊決議の定足数・表決数
会社法では、「株主総会において議決権を行使することができる株主の半数(株主の議決権の過半数ではない)以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)かつ、当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上が賛成しなければならない」と定めています(会社法309条3項)。
また公開会社でない株式会社において、剰余金の配当を受ける権利や残余財産の分配を受ける権利・株主総会における議決権を決議する場合の特殊決議はさらに厳しく、議決権の四分の三(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の賛成が必要であると定められています(会社法309条4項)。
特別決議が必要となる事項
今回の本題となる、特別決議についてフォーカスして解説します。
まずは株主総会で特別決議が必要となる事項について、代表的なものをそれぞれ個別に見ていきましょう。
M&Aに関する事項(事業譲渡・合併)
M&Aに関する事項には、M&Aのスキームごとに特別決議が必要かどうか異なります。主なスキームごとに整理しました。
主なスキーム | 特別決議の必要有無 |
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株式譲渡 | 株式譲渡は株主が株式を売却する行為であるため、原則として売り手側の株主総会で決議を行う必要はありません。 しかし、親会社が子会社の株式の過半数以上を売却するような場合には、株主総会の特別決議が必要となります。 一方、株式譲渡によって買い手となる場合には、株主総会で決議を行う必要はありません。 |
事業譲渡 | 事業譲渡の売り手側となる場合や、 「事業の全部」や「事業の重要な部分」などを譲渡する場合では、株主総会の特別決議が必要です。 また事業譲渡の買い手が事業の全部を譲り受ける場合も、株主総会の特別決議が必要となります。 |
合併 | 新設合併や吸収合併によって組織再編を行う場合は、それらに関するすべての会社の株主総会で特別決議が必要となります。 ただし吸収合併の際に、消滅会社の株主に交付する対価の帳簿価額の合計額が、存続会社の純資産額として法務省令で定める方法で算定される額の1/5を超えない場合には、株主総会で決議を行う必要はありません。 また、当事会社の一方が他方の議決権の90%以上を保有している「略式合併」の場合も、子会社側で株主総会の決議を行う必要はありません。 |
解散
会社を解散して法人格を消滅させる、もしくは事業を継続といった決断は、会社にとって極めて重大な事項です。このようなケースでも、株主総会の特別決議が必要になります。
定款の変更
定款は会社の組織や事業内容などの基本的なルールを定めたもので、株式会社を設立する際には必ず作成する大切なものです。したがって、定款を変更する際には特別決議が必要になります。
減資
資本金額の減少も、株主総会の特別決議が原則として必要です。ただし、定時株主総会の決議によって欠損の額を超えない範囲で資本金額を減少するのであれば、特別決議でなく普通決議によって決議されます。
役員等の損害賠償責任を一部免除
役員等の任務懈怠によって損害が生じた場合、その責任をすべて免除するためには株主全員の同意が必要です(会社法424条)。
しかし、その役員等が善意にもとづき職務を行い、その過失が重大でない場合は、賠償の責任を負う額から一定金額を控除した額が株主総会の特別決議によって免除できます。
株主に大きな影響を及ぼす事項
他にも株主に大きな影響を及ぼすと考えられる以下の場合などには、株主総会の特別決議が必要となります。
- 金銭以外の財産で株主に配当をする場合
- 特定の株主から自己株式を取得する場合やその条件の決定
- 非公開会社において、新株予約権付社債を発行する場合
- 累積投票で選任された取締役または監査役を解任する場合
株主総会の特別決議における注意点
次に、株主総会で特別決議を行う場合の注意点について解説します。特別決議の注意すべき点は、主に以下の2点です。
普通決議との決議内容の違いを把握する
株主総会の決議は原則としては前述の普通決議で行われます。したがって特別決議を行う際には、まずその議案の決議が特別決議で行うべきものなのかどうか、十分に確認しておく必要があります。
特別決議は普通決議と比べると定足数は同じですが、表決数が異なります。普通決議では出席した株主における議決権の過半数の賛成が必要であるのに対し、特別決議は2/3以上の賛成が必要です。
また普通決議は定款を変更しても表決数は変更できませんが、特別決議は定款の変更によって表決数を2/3より大きくすることもできます。したがって、特別決議を行う場合は「特別決議だから評決数は2/3」と定型的に考えず、定款を見直して必要な表決数を確認しておかなければなりません。
可決後に覆される可能性がある
特別決議で決議される議案は普通決議のものと比べると内容が限定されているだけでなく、決議のためのハードルも高く設定されています。しかし、こうして決議された議案が、可決後に覆される場合があります。それが以下の2つのケースです。
①拒否権
特別決議は、定款で変更してない限り、基本的には議決権を行使できる株主の過半数の株主が出席し、出席した株主の議決権の三分の二以上が賛成すれば成立します。しかし、この特別決議が覆る場合があります。これが「拒否権」です。
株式(=議決権)の1/3超を持つ株主は、特別決議で決議された内容に対して拒否権を発動できます。そのため、せっかく苦労して決議した特別決議が拒否権によって覆る場合があります。
たとえば、発行済株式数100株(1株=1議決権)のうち31株を所有している株主がいるとします。残りの69株は、69人が1人1株ずつ持っていると考えてみましょう。このケースで、31株を持っている株主以外が株主総会に出席し、特別決議をしたらどうなるでしょうか?
必要な定足数は株主の過半数ですから、全株主(1人+69人=70人)のうち35人を超える数が出生すれば成立です。次に表決数ですが、これは出席した株主の議決権の2/3以上ですから、69×2/3=46人を超える株主が賛成すれば、株主総会で特別決議が成立することになります。
しかし、1/3を超える株式を持っている株主がこれに異を唱えれば、この特別決議を覆せるのです。そのため、1/3を超える株式を持っている株主が存在すると、理論上ありとあらゆる特別決議が通らなくなる可能性から、会社の運営が行き詰まるリスクが生まれてしまいます。
②黄金株
1/3を超える株主がいない場合でも、特別決議が覆される場合があります。それが黄金株による拒否権の行使です。
黄金株とは種類株式のひとつで、正式には「拒否権付種類株式(通称黄金株)」と言います。この黄金株は たった1株だけで特別決議を否決できる特別な株式 で、信用できる友好的な株主に持たせて、敵対的買収の防衛策として活用される場合があります。
ただし、拒否権とは違い、あらゆる決議内容に対して反対できるわけではありません。拒否権の範囲は会社が自由に決められるため、限定された範囲でした拒否権は発動できません。
株主総会の特別決議は「書面決議」で行うことも可能
株主総会は原則として株主に通知を行い、出欠をとってから開催されますが、株主の都合や新型コロナウイルスなどの影響により、正規の手順を踏んで実際に開催するのが難しい場合があります。
このようなケースでは、書面のやり取りを通じて株主総会の決議が行われます。
書面決議とは
株主総会の書面決議とは、書面(もしくはメール)などによって株主が決議事項に同意することで、株主総会があったものとみなす手続きを指します。この書面決議は、「みなし決議」と言われることもあります。
会社法第319条第1項において、「株主の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、議案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす」と定められています。
書面決議を行うための条件・注意点
書面決議を行った場合は、株主総会の議事録を10年間保存しておかなければなりません。また議事録には、以下の内容を必ず記載しておかなければなりません。
- 株主総会の決議事項
- 決議事項の提案者の氏名
- 株主総会の決議日(正確には「決議があったとものとみなされる日」)
- 議事録作成者の氏名
なお、書面決議を行うには株主の全員の同意が必要です。
終わりに
株式会社では、重要事項を決定する際には株主総会を開催し、株主の同意を得なければならない場合があります。その多くは普通決議によって決められますが、M&Aのような重要事項に関しては、特別決議によって株主の承認を得なければなりません。
この特別決議は、定款に特別の定めがない限り、会社法で定められている定足数と表決数を満たせば成立しますが、1/3超の株式を持つ株主が反対すればあらゆる議案が否決され、会社の運営はたちまち立ち行かなくなってしまいます。
このことからわかるように、株主の適正な配分は会社の安定的な経営にとって欠かせません。専門家などの意見も交えながら、定期的に株主の持分比率などをチェックしておくことが大切です。