注目のパーパス経営、そしてパーパスM&A戦略とは?

M&A全般
更新日:

⽬次

[非表示]

国内外のM&Aの専門家 が、独自の視点でM&Aのポイントをわかりやすく解説します。

「パーパスM&A戦略」とは、そもそも何?

本日のテーマをお願いします。

今回のテーマは「パーパスM&A戦略」についてお届けしようと思います。 M&A実施後に、買収した側の従業員、譲渡した側の従業員と時々面談する機会があります。数多くの面談を通して、私は「パーパスM&A戦略」の導入がこれからますます必要になってくるだろうと感じています。

―「パーパス経営」というのは聞いたことがありますが、「パーパスM&A戦略」とは聞いたことがありませんが・・・。

そうですよね。私が最近M&Aの実態を説明するのに用い始めた言葉です。 まず、最近よく耳にする「パーパス経営」について、おさらいをしたいと思います。 「パーパス」とは、企業の根本的な存在意義であり、「なぜ、その企業は存在するのか?」「何をしている会社なのか?」という質問に対する端的な回答です。

そしてその特徴は、「自社の強み」、「社会性」そして「共感性」の3要素を兼ね備えていなければなりません。そうした「パーパス」を重視する経営のことを「パーパス経営」と言います。以前から日本には「パーパス」に近しい言葉がありました。

―企業理念、ミッションやビジョンなどは、よく耳にする言葉です。

そうです。「理念」です。経営していく上で、その会社の理念です。 ちなみに「ミッション」とは、パーパスを実現するための戦略であり、「ビジョン」というのは、未来に向けたあるべき姿を指します。

パーパス経営に取り組む企業が増えてきた背景は様々あります。経済情勢、外部環境がすさまじく変化していく中、企業がどの方向に進むべきなのか迷うことが多くなってきたことが一つとして挙げられます。

また、最近は従業員の姿勢も変わってきました。従業員は、働く意味・自身の存在意義(働きがい)・社会貢献をより重視するようになってきました。

加えて、投資家の考え方・スタンスも変化してきました。短期的収益性を追い求めるだけでなく、社会的課題解決の貢献度、そして長期企業の成長性を高く評価するようになってきたからです。SDGsを重んじるのもその一つですよね。

パーパス経営が実現すること

ーでは、「パーパス経営」が実現されるとどのような効果があるのでしょうか。

中長期的には、企業のイメージアップ(ブランディング効果)があげられます。

また、企業経営方針については、事業領域が明確となり、付加価値向上活動そして新事業創出活動が積極的になります。

さらにパーパスを拠り所に採用基準・育成基準が明確となり、社員のモチベーションの高まりも期待できます。結果、社内に笑顔が増え、チームワーク向上・生産性向上につながるでしょう。

加えて、投資家もその経営方針に共感しやすく、コンプライアンスも重視されている企業とわかり、長期安定投資できます。 このように、パーパス経営を通じて、あらゆるステークホルダーに良い影響の輪を広げることができるのです。

パーパス経営に必要な3つのこと

―パーパス経営を推進していくうえで重要なことは何でしょうか。

大きく3つあります。

まず1つめは「クライアントファースト目線であること」。 2つめは「自社の強みを遺憾なく発揮し、消費者や投資家の共感をえること」。 最後に3つ目は「経営者だけなく、社員全員が自分事ととらえ、常にパーパスをベース、最上位として行動すること」です。 最も重要なのは最後の3つ目です。当たり前ですよね。でないと「仏作って、魂入れず」となってしまいますね。

パーパスM&A戦略とは

―「パーパス経営」についてはよくわかりました。けれども、今回のテーマは「パーパスM&A戦略」ですよね?

そうです。M&Aにもパーパスに基づくM&AとそうでないM&Aに分けることができます。そして、パーパスに基づくM&A戦略を「パーパスM&A戦略」と名付けました。具体的に説明していきたいと思います。

自分の会社を譲渡する経営者の視点で考えてみましょう。日本の中小企業が譲渡を決断する背景の多くは「後継者不在問題」です。それはさらに2つのケースに分けて考えることができます。

ひとつは、後継者不在ではあるが、譲渡条件で最優先するのはプライス(譲渡価格)。M&A後の経営には一切関与しないという方針でM&Aを検討するケース。

もうひとつは、同じく後継者不在でありながら、オーナー自身が置かれている環境や個人が持っているパーパスも変化した時に起きるケースのことであり、自ら経営を続ける、もしくは、一族のみで経営を続けることが「会社の成長や従業員の未来にとって、ベストな選択ではない」と考え、第三者への承継(M&A)を検討するのが2つ目のケースになります。 なにもプライスを重視することが悪いと言っているのではありません。バランスが重要です。

また、中堅以上の規模の企業が一部事業(子会社)を切り離すカーブアウトの場合も同じことが言えます。単純に不採算事業を整理しようと切り離すケースだけではないと考えます。

例えば、自社グループのパーパスに照らし合わせると、当該事業は当社グループの事業として積極的に投資していく事業ではない。 あるいは当該事業で働く従業員にとってもよりこの事業を大切に、積極投資をしてくれる企業のもと働いた方がよりベストな選択になるに違いないと考え、M&A(企業譲渡)を検討するケースが挙げられます。M&Aを検討するタイミングも二者で異なります。

私が今回「パーパスM&A戦略」が重要であり、それをテーマに挙げたのはぜひ、パーパス経営から考えてM&Aに取り組んでいただきたいということです。そのM&Aに携わる方々が皆ハッピーになるからです。

全国でM&Aを決断する企業が増えていくにつれ、中には自社のパーパスと齟齬が起きているようなケースを見聞きすることが増えてきました。パーパスという観点に立ち戻り、M&Aをご検討していただくことを強くおすすめしたいと思います。

パーパスM&A戦略を表す最近の事例

ーパーパスM&A戦略と言える最近の事例はありますか。

ある大手居酒屋チェーンが、取引先でもある大手飲料グループから居酒屋事業を買収しました。飲料グループは多角化経営の一環で居酒屋事業を行ってきましたが、事業ポートフォリオを見直した結果、今回の決断に至ったとされています。

一方、譲り受け側の居酒屋チェーンは、両社の成長に向けて十分シナジーを期待できること、そして自分たちの存在意義に立ち返り、事業を通じて社会に貢献するという理念を叶えるため、M&Aを実行しました。

自分たちの現在地を見直して、未来志向で共に成長を目指す。これはまさに「パーパスM&A戦略」の例であると考えます。

この記事に関連するタグ

「M&A戦略・M&A」に関連するコラム

【M&A成約式】 上場企業とのM&Aで生産力向上、メイドインジャパンの製品力で成長促進へ

広報室だより
【M&A成約式】 上場企業とのM&Aで生産力向上、メイドインジャパンの製品力で成長促進へ

「メイドインジャパンの製品を世界に発信したい」という思いが合致したM&Aとなりました。野菜調理器製造事業を行う株式会社ベンリナー(以下、ベンリナー、山口県岩国市)は、印刷品製造業を営む三光産業株式会社(以下、三光産業、東京都)と資本提携を結びました。両社は、2022年12月22日、広島県内のホテルにてM&A成約式を執り行いました。握手を交わす三光産業株式会社代表取締役社長執行役員石井正和氏(左)と

【2025年版】会社売却の教科書!初心者向けに流れやメリット、事例を紹介

M&A全般
【2025年版】会社売却の教科書!初心者向けに流れやメリット、事例を紹介

会社売却とは、会社の経営権や事業を第三者に売却し、対価を受け取るプロセスを指します。近年は、後継者問題の解決や企業の成長促進を主な目的として、中小企業の会社売却が増加傾向にあります。現在様々な問題に直面している経営者はもちろん、そうでない方も、会社売却の手続きや税制、メリットなどについて知っておくことで、より柔軟な経営判断ができるようになります。本記事では、企業売却の流れや税金に関する基礎知識のほ

IPOとM&Aの違いとは?メリットやデメリット、選択するポイントを解説

M&A全般
IPOとM&Aの違いとは?メリットやデメリット、選択するポイントを解説

企業がさらなる成長を目指す際に、多くの場合検討される選択肢が、IPO(新規株式公開)とM&A(合併・買収)です。どちらも企業価値を高める手段として非常に効果的なものですが、両者の目的やプロセスには大きな違いがあります。本記事では、IPOとM&Aの違いやそれぞれのメリット・デメリット、さらには選択する際の判断基準について解説します。日本M&Aセンターでは、M&Aや上場を経験・実績豊富なチームがご支援

【全国から500名が参加】M&A仲介協会が入会説明会開催

広報室だより
【全国から500名が参加】M&A仲介協会が入会説明会開催

日本M&Aセンターなど大手M&A仲介会社や金融機関等で構成する業界自主規制団体「一般社団法人M&A仲介協会(現M&A支援機関協会)」は2024年1月23日、中小企業庁登録M&A支援機関向けの入会説明会を都内で開いた。オンラインも含めて全国のM&A仲介会社等から約500人が参加した。代表理事の荒井邦彦氏(ストライク代表取締役社長)は「皆さんと一緒に中小企業の存続と発展に貢献していきたい」と入会を呼び

個人保証とは?メリットやデメリット、関連ガイドラインを解説

M&A全般
個人保証とは?メリットやデメリット、関連ガイドラインを解説

中小企業の経営者が金融機関から融資を受ける際、個人保証を求められることがあります。個人保証に応じると融資が受けやすくなる反面、資金難に陥った場合は、経営者の個人資産を切り崩すなどの必要が生じます。本記事では、個人保証の概要、メリットやデメリット、そして「経営者保証に関するガイドライン」について取り上げるほか、M&Aによる個人保証の解除についてもご紹介します。この記事のポイント個人保証は、企業が融資

事業売却とは?会社売却との違い、メリット・デメリットを解説

M&A全般
事業売却とは?会社売却との違い、メリット・デメリットを解説

企業が不採算部門を整理し、主力事業へ経営資源を集中するなど、事業戦略の見直しを行う場面で活用されるのが、事業売却です。本記事では、事業売却の概要、メリット・デメリットなどをご紹介します。この記事のポイント事業売却は不採算部門の整理や経営資源の集中を目的とする。売り手にとっては、売却後も経営権を残せるという点が大きなメリットに挙げられる。買い手にとっては、譲受ける事業範囲を指定できる一方、事業に必要

「M&A戦略・M&A」に関連する学ぶコンテンツ

買い手にとってのM&A。目的や留意点とは?

買い手にとってのM&A。目的や留意点とは?

買い手の買収戦略には様々な目的があります。M&Aの成功に向けて、押さえておきたいポイントを確認していきましょう。この記事のポイント買い手がM&Aを行う目的には、市場シェアの拡大、事業領域の拡大、事業の多角化、人材獲得・技術力向上、効率性の向上がある。買収により、企業は迅速に成長を加速し、顧客ベースや販売チャネルを拡大することができる。M&Aにはコストや中長期的な取り組みが必要で、成約後の経営統合計

売り手にとってのM&A。目的や留意点とは?

売り手にとってのM&A。目的や留意点とは?

譲渡オーナーの中には「M&A(=会社売却)」自体が目的になってしまい、M&Aを通じて会社をどうしていきたいのか、何を実現したいのか、目的が見えづらくなるケースが少なくありません。目的がぶれると、譲渡したい相手の条件や、判断軸も定まらず成約まで長期化してしまいかねません。あるいはM&Aを実行したとしても、満足を得られる結果に至らない可能性もあります。本記事では、中小企業の売り手がM&Aを行う目的につ

M&Aの事前準備。売り手が押さえておくべきポイント

M&Aの事前準備。売り手が押さえておくべきポイント

自社の売却を考える譲渡オーナーの多くにとってM&Aは未知の体験であり、不安はつきません。本記事では、相手探しを始める前に何を準備しておけばいいのか?どのような状態にしておけばいいのか?売り手が押さえておきたいM&Aの事前準備として資料収集・株式の集約についてご紹介します。この記事のポイントM&Aの事前準備として、売り手は企業価値評価や資料収集が必要で、特に決算書類や財務関連資料が重要である。M&A

「M&A戦略・M&A」に関連するM&Aニュース

日本エコシステム、テッククリエイトの全株式取得へ

日本エコシステム株式会社(9249)は、株式会社テッククリエイト(石川県金沢市)の全株式を取得し、グループ化することに関し、株主との間で株式譲渡契約を締結することを決定した。日本エコシステムは、環境、公共サービス、交通インフラに関する事業を行う。テッククリエイトは、北陸三県の鉄道線路・施設の保守点検、石川県内の工場・商業施設・公共施設などの給排水衛生設備、空調設備工事等を行う。テッククリエイトのグ

ウエルシアホールディングス、子会社の現物配当により孫会社が異動へ

ウエルシアホールディングス株式会社(3141)の完全子会社であるウエルシア薬局株式会社(東京都千代田区)は、保有するウエルシア介護サービス株式会社(茨城県つくば市)の発行済全株式を、ウエルシアホールディングスへ現物配当することを決定した。これにより、ウエルシア介護サービスの発行済全株式を取得することとなり、同社はウエルシアホールディングスの完全子会社となる。ウエルシアホールディングスは、調剤併設型

ニッスイのグループ会社、ニュージーランドの漁業会社IFL社を買収へ

株式会社ニッスイ(1332)のグループ企業であるSealordGroupLtd.(ニュージーランドネルソン市、以下シーロード社)は、インディペンデント・フィッシャリーズ(ニュージーランドクライストチャーチ市、以下IFL社)との間で、同社の買収契約を締結した。今後、同国の通商委員会および海外投資局の許可・承認を得ることなどを条件として、買収が成立する見通し。シーロード社は、ニッスイのグループ企業で、

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース