食品製造業の製販一体型のM&Aによる成長戦略

高橋 空

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高橋空

日本M&Aセンター業種特化2部/食品業界専門グループ

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こんにちは。日本М&Aセンター食品業界専門グループの高橋です。
当コラムは日本М&Aセンターの食品業界専門グループのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。
今回は高橋が「食品製造業の製販一体型のM&Aによる成長戦略」についてお伝えします。

増加する製販一体型М&A

食品小売や食品卸において、商品調達の中間マージンの削減、独自商品の提案による営業力の強化を目的とした、製造会社と販売(営業)会社の一体型のM&Aが増加しています。

食品小売であれば、東海エリアを中心に展開しているバローホールディングスや、急速的に店舗数を伸ばしているロピア・ホールディングスなどが、積極的に食品製造の会社の譲り受けを行っており、製造機能の内製化に力を入れているが、製販一体型M&Aを大々的に打ち出しているプレイヤーとしては業務スーパーなどを展開している神戸物産が挙げられます。

神戸物産は1985年に設立した業務スーパーのFC展開及び食品製造・卸売などを行う企業であり、2021年10月期で売上高3,620億円、時価総額1兆円を超える(2021年3月末時点)日本を代表する食品企業です。神戸物産は「食の製販一体体制」を確立テーマに、生産から製造加工・流通販売まで全てを自社で管理できるような体制づくりを目指しており、現在では国内14社25工場を保有しており、その多くをМ&Aによって譲り受けを行っています。

代表的な事例としては、2013年に神戸物産グループ入りした愛知県の牛乳メーカーである豊田乳業株式会社です。豊田乳業株式会社は売上の9割以上が牛乳でしたが、景気低迷による消費の落ち込みや牛乳離れに加え、少子化により学校向け牛乳の需要も下火となるなど苦しい経営状態となっていきました。2013年にM&Aで神戸物産のグループに参画した後、既存設備を生かし、牛乳製造の工程に合う別の商品を考えました。初期に完成した一つが1キロの水ようかんであり、価格は248円。安さに加え、温めればお汁粉にもできるなど手軽さが受け、大ヒット商品となりました。その後、「杏仁豆腐」「チョコババロア」「マンゴープリン」など1リットルの牛乳やジュースと同じ紙パックなどを横展開していくことで、売上を拡大させており、現在では神戸物産を支える主要グループ会社の1社となっています。

その他にも、2009年にグループ入りした岐阜県のパン製造メーカーである株式会社麦パン工房は、神戸物産のメディア戦略により、天然酵母食パンやビール酵母パンなどが各種メディアなどで紹介され話題となったことで、М&A後に業容が拡大し、2020年に新工場の設立を行い、現在では生産量が4倍に拡大しています。

また、食品卸の企業であれば、業務用食品卸大手である西原商会が「自らお客様のニーズをつかみ、自ら作り、自ら仕入れ、自ら届ける」といった一貫体制をテーマに、自社の販路を活用できる食品製造の会社の譲り受けを積極的に行っており、2022年3月末時点でグループ29社体制を構築しています。その中でも食品製造の会社は18社あり、オリジナリティあふれる食材をグループとして品揃えをすることにより競合他社との差別化を図っています。

このように、販売(営業)が得意な会社と製造が得意な会社の両社の強みを活かしあう形によって、各々が得意とする領域にのみ注力すればグループとして業容を拡大できるといったシナジーを生みだせるところが製販一体型М&Aの面白いところなのです。

自前主義からの脱却こそが成長の鍵

製販一体型のM&Aで実現出来るは“自前主義”からの脱却です。数十年前の日本と比べて、明らかに食品業界における経営の難易度が劇的に高まる中で、自社単独で全ての課題を解決しようとしても無理があります。

例えば、とある老舗の食品製造の会社においては、代々脈拍と引き継いできた食品製造の技術には自信がある一方で、それを広げるための営業はどうしても苦手意識を持っていました。社内の営業マンに県外に出張してくれというと「県外に出張するくらいなら仕事を辞めます」と言われる始末です。これまではルート営業だけをすれば市場の拡大に伴い業容を伸ばせていたが、時代が変わり、今では新規を安定的に獲得しなければ、自然減になってしまうことは言うまでもありません。これが日本の地方の中小企業の現実であり、やりたくても出来ない現状がそこにはあります。

このようなことは営業に限った話ではなく、やらなければいけないこと、やりたいことは沢山あるが、自社だけでではリソースが足りないといった壁に多くの企業が悩まされています。そのような環境下において重要になってくるのは、出来ないことは出来ないと割り切り、戦略的なアウトソーシングを実践していく必要があります。

しかし、いまだにアウトソーシングをすると余計なコストがかかってしまうという「もったいない」発想になっており、新たな付加価値業務へ移行することにブレーキがかかっている企業が見受けられます。しかし、目先のコストに目が囚われてしまい、それ以上の機会損失を生じている可能性があります。自社の現状を冷静に俯瞰し、今やるべきことは何なのかというの見極め、戦略的なアウトソーシングを実践していくことは企業の競争力を高めることに繋がります。

その一方で、アウトソーシングに偏重しすぎてしまうと、外注した業務では社内にノウハウが蓄積されずソフトの部分での競争力を生まないといった問題もあります。これらを同時並行で解決する手段の一つがМ&Aです。

前述させて頂いた通り、製販一体型М&Aにおいては、商品を拡販させることが得意な食品商社と、商品を作ることに秀でている食品製造業の会社がグループとして一緒になることにより、それぞれが営業と製造といった違った機能のプロフェッショナルとして、業務に従事することが出来ます。更にグループ内で機能分担を行っているため、外部にノウハウが流出することなく、グループ内で蓄積することができ、ソフトにおける競争力の強化を実現することも出来ます。

いずれにせよ、非成長市場の食品業界においては、自前主義からの脱却こそが、これからの時代に企業を存続させ発展させるために重要な取り組みであると言えるでしょう。

業界再編が必至な時代にこそ製販一体型のM&Aを

食品業界はあらゆる業種で従来のように、拡大する市場のパイを分け合う形での成長を見込むことができなくなっており、「業界再編」が必至となってきている。これまでは様々な地域に、その地域の食文化に根差した食品関連の企業が多数のビジネスを行っていたが、食品スーパーやコンビニ、大手食品卸の再編が加速していく中で、地方の食品製造業や食品卸の会社も取引先の消滅などに伴い、再編を余技なくされてきています。

この再編の流れは不可逆的なものであり、一度流れ始めると誰もこの流れを止めることが出来ません。業界再編が起こると、中途半端な企業規模の会社は低収益性につながる場合が多くなり、そのような環境下で求められる企業の選択肢は、

「とことん規模の追求を行い収益性が良くなる臨界点まで突き進む」

「戦略的な規模の圧縮を行い高付加価値型のビジネスへと転換していく」

のどちらかに舵切をする必要があります。

特に中小の食品製造業が、「とことん規模の追求を行い収益性が良くなる臨界点まで突き進む」にあたっては、他社の力を借りる製販一体型のМ&A戦略は重要な戦略の一つとなってきます。
自らがその業界・地域を引っ張っていく存在になるのか?それとも他社のリソースを活用して、業界再編という荒波を乗り越えていくのか?経営者はまさに今、重要な選択をしなければいけない岐路に立たされているのではないでしょうか。

これからの時代にどうあるべきかという「未来」を作るために、1人の経営者、単独の1社ではできない世界観をМ&Aを使って切り開いていっていただきたいです。

いかがでしたでしょうか?

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著者

高橋 空

高橋たかはし そら

日本M&Aセンター業種特化2部/食品業界専門グループ

1991年9月、神奈川県生まれ青山学院大学経営学部卒業後、株式会社船井総合研究所にてフードビジネス専門のコンサルティングに従事した後、日本M&Aセンターに入社。食品業界専門グループにて、食のベンチャー企業のイグジット支援から創業100年を超える老舗企業の事業承継支援まで幅広くM&A支援に携わる。

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