大学生が在学中に上場企業グループ社長に!飲食業界に起こした革命
⽬次
- 1. 上場企業グループ社長に大学生が就任
- 2. 飲食業界に革命を起こしたバーチャルレストランとは
- 3. バーチャルレストラン誕生の瞬間
- 4. 伸びている時ほど先手を打つM&A。夢を叶えるM&A
- 4-1. 著者
日本M&Aセンター食品業界専門グループの渡邉です。
当コラムは日本M&Aセンター食品業界専門グループのメンバーが業界の最新情報をお届けします。
今回は2022年9月1日にリリースされた株式会社バーチャルレストランと株式会社USEN-NEXT HOLDINGSのM&Aについて考えてみたいと思います。
▼バーチャルレストランYouTube対談はこちら
上場企業グループ社長に大学生が就任
2022年9月1日にプレスリリースがされたM&Aの内容は非常に衝撃的なものでした。
「USEN-NEXT GROUP に25歳最年少・現役大学生社長誕生 デリバリーサービス市場参入に向け、(株)バーチャルレストランを子会社化 ~既存設備を活かして新規開業、飲食店の売上UPを支援~」
経営者として非常に著名な宇野康秀氏が率いる株式会社USEN-NEXT HOLDINGS(東証プライム市場上場企業)が中央大学商学部4年生の牧本天増氏が創業した株式会社バーチャルレストランをM&Aによりグループ傘下に迎え入れたというニュースです(牧本氏は代表取締役を続投)。牧本氏のInstagramによれば、創業2期目で流通総額は約10億円、営業利益は約4億円という圧倒的な業績を実現させた傑物であることは間違いないですが、東証プライム上場企業が現役大学生をグループ社長として迎え入れたUSEN-NEXT HOLDINGSの懐の深さもまた大きいものであると感じさせられるM&Aとなりました。
多くの学生にとって就職戦線を勝ち抜き内定を獲ることが目的となっている中で、起業だけではなく、在学中に上場企業グループの社長に就任したという本件は多くの若手起業家にとって刺激となると共に、日本にもこれだけのビジネスチャンスがまだ眠っているのだということを気づかされる素晴らしい機会となるかと思います。
私自身はバーチャルレストランという新しい業態の誕生や、それを世の中に広めた若者の登場に、日本の将来への期待も高まり非常にワクワクさせられるM&Aだと感じました。
本コラムでは、今回のM&Aについて考察を深めていきたいと思います。
飲食業界に革命を起こしたバーチャルレストランとは
ここ数年よく耳にする「バーチャルレストラン」や「ゴーストレストラン」という業態は、飲食店が「実店舗とは異なる看板で、オンライン上のみでデリバリー専用に複数のブランドを展開する」ことを支援している業態で、近年その存在感を大きく増しています。
何故、支持されるかというと飲食店には家賃・人件費など、売上があってもなくてもかかる固定費が存在します。
同じ家賃や人件費であれば、営業時間にできるだけ売上が上がることが利益を出すうえでは望ましいことは言うまでもありません。例えばラーメン店では、日本人の国民性から「せっかくならラーメンの『専門店』」を求める傾向にあるように思います。ランチタイムやディナータイムの売上は良いことでしょう。しかし、朝食の時間帯やティータイムではどうでしょうか?
ラーメン専門店だからこそ人気が出ているお店にとって、ティータイムにスイーツを出すことで専門性が薄まり、また顧客側も「まさかラーメン店でスイーツが食べられる」とは思っていないので、そもそもティータイムに足が向かないかもしれません。そんな時にオンライン上でのデリバリーであれば顧客が店舗に来店する訳ではないので例えば「ワッフル専門店」として出店することができるのです。
これがバーチャルレストランです。飲食店の中には「作り方のノウハウがない」と思われる企業もあるでしょうが、バーチャルレストランでは「温めるだけ」「混ぜるだけ」など、ほぼ完成品に近い状態の商品が店舗に納品されます。特に今回M&Aをした牧本氏のバーチャルレストラン社は30秒~で調理が可能な商品をメインとしており、店舗側に負荷ない運営を魅力としています。また、その味も専門店のクオリティと評判で、人気の飲むチーズケーキ「GOKUCHEE」は、2021年12月23日TBS東京放送の「ラヴィット」で「プロが選ぶ!2021年ベストヒット商品ランキング飲料部門」で第1位に輝いています。
更には、加盟店側に売上の3割程度が利益として残るビジネスモデルになっていることが好評に繋がっているようです。
(※人件費や家賃は既に店舗側に発生しているため、バーチャルレストランを通じた注文はあくまで店舗側にとっては追加の売上になるため、高い利益率へと繋がります。また、ロイヤリティも売上実績に連動する形式であることから、仮に売れ行きが良くなかったとしても店舗側へのリスクが低く抑えられます。)
バーチャルレストランという業態については私も執筆している食品業界専門グループの著書「The Story 食品業界編」でも触れていますので、是非ごの機会にご一読ください。
【新刊】2022年7月6日発売『The Story〔食品業界編〕業界を勝ち抜くために知っておきたい秘密 業界動向・業界再編・M&A』
バーチャルレストラン誕生の瞬間
僅か創業2年にして、流通総額約10億円、営業利益約4億円という驚異的な実績をあげた株式会社バーチャルレストランはどのように誕生したのか、その経緯を調べてみました。
牧本氏は大学在学中に様々な起業を行っています。当時ブームになりつつあったタピオカ店にも参入しました。2019年には生タピオカ専門店『OWL TEA 明大前店』を創業し、最高月商1,300万円達成、Uber Eatsタピオカドリンク部門店舗売上規模全国3位に輝いています。1年で直営店5店舗、FC3店舗まで急速に拡大し、その経営は順風満帆に見えました。その最中に起きたのがタピオカブームの終焉とコロナ禍です。
ブームの終焉とコロナ禍により実店舗での売上は激減し事業はピンチを迎えます。そんなある日、実店舗の売上よりもデリバリーの売上のほうが高くなったことがデリバリー業態に着目するきっかけとなったようです。更に、知り合いのアイスクリーム店が「コロナ禍で店舗に人が来ない。かといってアイスクリームは溶けるのでデリバリーでも提供できない。牧本さんのタピオカをデリバリーでうちの店でも扱わせてもらえないだろうか?」と依頼されたことが、バーチャルレストランというビジネスモデルが生まれるヒントとなったそうです。
商品を提供するのは何も自分のお店だけではなく、周囲のお店に取り扱ってもらうことで事業拡大ができるという単純な経験を、新しいビジネスモデルへと昇華できたのは日頃から牧本氏が常に新しいビジネスを探し続けているからではないかと想像します。若いからこそ、柔軟な発想があり、流行しているU-NEXTやNetflixなどの動画配信サービスからもヒントを得て「今の飲食店のフランチャイズビジネスは1つのブランドに縛られるけど、動画配信サービスが定額で見放題のように、フランチャイズに加盟したらブランドは使い放題という自由なモデルのほうが喜ばれるのではないか」と自社のサービスに落とし込みました。
オンライン上の店舗は物件や看板が必要ないため、売れ行きによってブランドを瞬時に切り替えられるこの新しいサービスは瞬く間に飲食店に受け入れられました。こうして、店舗の忙しい時間を邪魔されず、まるで飲食店にとっては副業のように稼ぐことができるバーチャルレストランというビジネスモデルが誕生し、コロナ禍の飲食店の救世主として浸透していったのです。
(※フランチャイズ加盟店の売上保護の観点から、同一商圏内においては、ブランド毎に利用できる店舗数に制限等はあるようです。参入店舗がまだ少ない今のほうが加盟店にもチャンスが大きいため、ご検討されている飲食店は早めの問合せがおススメです。)
伸びている時ほど先手を打つM&A。夢を叶えるM&A
大学生にして営業利益約4億円を実現した時、みなさまだったらどういう人生の選択をするでしょうか?
「まだまだ自分で経営したい」もしくは「どこかを買収して更に事業規模を拡大したい」といった考えを持つ方が多いのではないでしょうか。
意外にも牧本氏が選択したのは株式譲渡、つまり「会社を売る」という選択でした。それは「業界最高峰のプロダクトを提供し、日本一・世界一のデリバリーチェーンを創りたい」と考える中で、どのような経営体制が今の自社にとって本当に必要なのかを冷静な目で判断した結果と言えるでしょう。
バーチャルレストランのプレスリリースによればUSEN-NEXT HOLDINGSには約90万件の顧客基盤があります。確かに音楽の有線放送を流している飲食店は数多くある印象です。こうした飲食店にバーチャルレストランのサービスを導入できれば、多くの飲食店にとって副業として儲かる仕組みを提供でき、日本の飲食市場を活性化させることができます。牧本氏の考える「世界一のデリバリーチェーン」への道のりは時間的に大幅に短縮されることでしょう。
USEN-NEXT HOLDINGSはグループで店舗DX推進も行っておりますが、今回のバーチャルレストラン社のM&Aを通じて飲食店の「売上そのものを伸ばす」サービスまでも提供できることとなり、飲食店への総合的な収益機会の提供が行える企業へと更に進化を遂げたことになります。
また、グループ会社である株式会社USEN Mediaが運営するグルメメディア「ヒトサラ」の掲載店舗を通じて提供するデリバリーブランドの数を拡大することが企画されているそうです。ブランド数が増えることで、飲食店側に選べる選択肢が増えることに繋がります。飲食業界におけるUSEN-NEXT HOLDINGSの重要性は今後ますます高まっていくことが予想されます。
売主にとっても買主にとって双方に明確なシナジーがあり、スピード感のあるお互いの成長を実現できるという点において、私も食品業界専門のコンサルタントとして、このM&Aは「最高のM&A」の一つではないかと感じている次第です。
こうして、大学生にして上場企業グループ会社社長が誕生しました(牧本氏は現在は大学卒業済)。このM&Aは、自社が伸びている時ほど次の一手を打つことの重要性を感じさせてくれます。レガシー産業と言われる飲食業界に満を持して登場したこのバーチャルレストランという新業態が、どれだけ私たちの食生活を豊かにしてくれるのか今後も目が離せません。
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いかがでしたでしょうか?
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