「電子部品業界の展望」村田製作所、京セラの事例を踏まえて
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電子部品とは、テレビやパソコン、スマートフォンなどの電子回路に使用される部品を指します。電子部品と言っても様々な種類があり、例えばコンデンサ、抵抗器、スイッチや電子回路基板など、その種類は多岐にわたります。
日本国内において、1950年代にテレビ・洗濯機・冷蔵庫の「三種の神器」が普及してから電子部品業界は盛り上がりを見せました。今日においても、IoTの発展や金融サービスとITを組み合わせたフィンテックの一般化により、ますます電子部品の需要は伸びることが予想されます。
国内の電子情報分野という括りで見てみると、半導体や液晶の企業と比べ、電子部品の製造を行っている各社の業績は堅調です。その強さの秘密はどこにあるのかを知るべく、各社の取り組みについて解説をします。
電子部品業界とは
電子部品業界は、底堅い業績の企業が多いですが、基本的にB to Bを主としているため、一般的な消費者から知名度が低い傾向にあります。機器メーカーへ部品を供給することに徹し、いわゆる「黒子役」と言われています。
国内の電子部品メーカーは世界で4割のシェアを持っており、堅調に推移をしています。国内においては村田製作所、日本電産、京セラ、TDK、ミネベアミツミなどが代表的な企業となります。業界全体に言えることは、それぞれの企業に強みを持っている製品や分野があるということです。
例えば、村田製作所はショックセンサやSAWフィルタに強みを持ち、日本電産は各種モータに圧倒的なシェアを有するなど、ある特定の分野において他社に負けない分野を持っていることが特徴です。言い換えれば、むやみに事業を増やすのではなく、自社が絶対に勝てる分野で戦うことで、営業利益率を維持してきました。
電子部品業界と比較される分野として、半導体業界が挙げられます。半導体業界は、シェアの多くは海外にあり、赤字の国内企業が多い中、電子部品業界は、例えば「モータと言えば日本電産」というように、それぞれの企業がブランドを確立しており、国内で強い基盤を持った日本企業が多く存在しています。
村田製作所、京セラのM&A事例
ここで電子部品業界の代表的な2つの企業を例に、どのような戦略で今日まで成長してきたのかを見ていきます。ここでは、村田製作所と京セラのM&A事例をご紹介します。両社とも共通して言えることは、M&Aを通じて事業拡大を図っているということです。自社が絶対に勝てる分野で戦うことが大事とお伝えしましたが、事業拡大で生き残りを図っており、業界全体で転換期を迎えています。
村田製作所の事例
村田製作所電子部品業界を代表するグローバル企業です。同社の特徴は、高シェア製品を複数保有していることです。高シェア製品は例えばチップ積層セラミックコンデンサ、表面波(SAW)フィルタ、EMI除去フィルタ、ショックセンサについては世界シェアが第一位であると言われております。また、売上の91.6%が海外であり(2021年3月時点)電子部品メーカーを代表するグローバルな企業であることです。海外の関係会社はおよそ60社有しており、高い技術力と併せて多様な販売網を持っていることが強みです。
M&Aを複数回行っている村田製作所ですが、代表的な海外M&A事例をご紹介します。
2017年3月には米アークティックサンドテクノロジーズを買収しました。電源IC(半導体集積回路)を主に扱い、変換効率の高い電源ICを小型、薄型で実現する点に強みを持つ同社を買収しました。小型、薄型、省電力が求められる成長市場において、顧客のニーズに迅速に対応する狙いがあったようです。
2017年10月には米ヴァイオス・メディカルを買収しました。買収金額は約114億円です。同社は心拍数、呼吸数、心電図等を計測できるチェストセンサの開発と、それらをモニタリングするためのソフトウェア、クラウドサービス等を開発・提供している企業です。村田製作所は、ヘルスケア・メディカル分野を自動車、エネルギーと並ぶ注力市場の一つとして位置づけているため、買収を実行しました。単なる事業拡大ではなく、村田製作所の保有するセンサや通信の技術とのシナジーも狙っていました。
その他、同社の代表的な国内M&A事例をお伝えします。
2017年9月にソニーの電池事業を約175億円で買収しました。対象事業にかかる社員約8500人は村田製作所グループで雇用を受け入れました。ソニーの国内100%子会社であるソニーエナジー・デバイス株式会社が営んでいる電池事業、ソニーが電池事業に関して中国及びシンガポールに有する製造拠点も譲受け、グローバル企業として力を付けました。
M&Aを度々行っている村田製作所の中でも、特に注目されるのがこのM&Aと言えるでしょう。需要が好調なリチウムイオン電池事業は売上が増加しており(2023年3月期 第1四半期決算説明会資料より)、新中期計画では25年3月期までの3年間で6400億円の設備投資を計画しています。
ソニーが本事業を持っていたころは収益の悪化が目立っていましたが、M&Aを実行し、村田製作所の目玉事業へ成長を遂げようとしています。双方にとって、有効なM&Aだったと言えるでしょう。
京セラの事例
京セラは、日本の代表的なエレクトロニクスメーカーです。言わずと知れた京セラ名誉会長の稲盛和夫氏が創業し、全員参加型経営「アメーバ経営」と、事業の多角化が特徴です。産業・車載用部品、半導体関連部品からなる「コアコンポーネント事業」、コネクタやコンデンサを扱う「電子部品事業」、機械工具やドキュメントソリューションからなる「ソリューション事業」の3つの事業を収益の柱としています。具体的な製品を挙げると、スマートフォン、複合機、太陽光、そしてセラミック包丁などのキッチン用品など、幅広い事業を展開しているのが最大の特徴です。
事業拡大を行う上で、M&Aも取り入れてきました。2020年には米Soraa Laser Diode, Inc.を100%子会社化しました。同社はレーザー製品を開発、製造、販売し、モビリティ、特殊照明、コンシューマ、産業用途等、幅広く事業を展開しており、京セラは、市場の開拓を通じて各種産業の発展に寄与できることを見見越して、M&Aを実行したのです。
2022年3月期の決算は、過去最高の売上高を記録しました。5Gや半導体関連市場向け部品の増産が起因しました。2023年3月期には、売上高2兆円を予想しており、勢いが衰えることはありません。
現社長の谷本秀夫氏はPMI(M&A後の統合プロセス)にも力を入れます。16あったセグメントを「コアコンポーネント事業」「電子部品事業」「ソリューション事業」の3つに集約し、部門間の連携の強化や経営資源の再分配により、さらに成長を目指します。
今年の6月には東京都心部に点在していた営業拠点を東京都港区の新拠点に統合することを発表しました。この動きもグループ間でのシナジー発揮や営業体制強化を狙ったもので、来年以降段階的に移転を行う予定です。
まとめ
京セラの谷本氏は、攻めの4施策を掲げています。その中の1つに、積極的なM&Aを行うことも入っています。M&Aを行い、既存事業の強化および新規事業の創出を目的としており、売上高3兆円も視野に入っているとのことです。決算説明会資料において、京セラは2007年、2008年では稲盛氏が提言した「アメーバ経営への回帰」を目指しておりましたが、2012年3月期には「M&Aによる既存事業の強化」を新たに経営施策として掲げられており、それが功を奏し、現在のポジションを確立したといっても過言ではないでしょう。
村田製作所、京セラの両社ともに今後もM&Aにより新たな技術獲得を目指していると明言しており、更なる成長が期待できます。
電子部品業界は、単に他社に負けない強みを持つだけでなく、他社に負けない強みをどれだけ持てるかが勝負になってきています。今後も事業多角化を目指したM&Aは続いていくと予想されます。特に医療・IoT、5Gの関連企業は、買収対象企業として現在注目されています。
電子部品業界の中小企業の経営者からも「事業拡大を図りたい」「後継者がいなくて困っている」等のご相談を多くいただいています。
日本M&Aセンター 業種特化事業部では、業界ごとの論点に知見を持つ業種専門チームを組成し、M&Aのご支援をさせていただいております。電子部品業界でも多数の成約実績がありますので、まずはお気軽にご相談いただければと思っております。
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