譲渡オーナーとの語らい Vol.14 (茨城県・受託開発ソフトウェア業)
⽬次
茨城県で受託開発ソフトウェア業を営む会社を経営、2022年に自社の成長を目的に銀行向けパッケージソフトウェア業を営む上場企業へ株式を譲渡し、上場グループの一員となりました。
社長である唐田様は様々なご経験をお持ちで、地域の若い方たちにご自身の経験を伝え地方創生に貢献していきたいと仰っております。
唐田様のたくさんのご経験談から、今回のM&Aについてお話を伺いました。
成長速度をスピードアップさせるためにM&Aという選択は必然でした
青井:20年ほど前に起業をされ、一貫して「コミュニケーションが取れるエンジニア」の重要性を説いていたと伺いました。
当時はまだ、お客さんとエンジニアが会話をする重要性があまり周知されていなかった時期だと思います。
唐田様は、随所にそういった先見の明を持たれていると感じておりまして、そのあたりも含め、創業の経緯など教えて頂けますでしょうか。
唐田様:実際には、30年程前からコミュニケーションをとれる人材が必要だということは感じていました。
私は元々、異業種で会社員をしていましたが、ある時からITに魅力を感じ、その道を目指すようになりました。
その後、IT企業に転職し起業しました。
その際、お客さんとコミュニケーションをとりながら、開発を行い、潤滑油のような役割をしたことがとても重宝されました。
システム会社には10年ほど勤めておりましたが、入社して2、3年ほどでお客さんの間に入って会話をする人材が必要で、プログラムだけできてもだめだな、と感じるようになりました。
しかし当時のシステム会社では、私が考えるコミュニケーション力やチーム力に重要性をあまり見出しておらず、社内で取り組みがなされる事は多くありませんでした。
一方で、私はそれらを必要だと感じていましたので、それなら共感してくれる人たちと一緒に会社を作った方が良いかもしれない、と思ったのが起業のきっかけです。
最近になってそういったコミュニケーション力やチーム力が大事だという市場の流れになってきました。
それは茨城県では、震災がきっかけだったように思います。
震災後は業界問わず、地域や企業の協力・連携・参画が強く言われるようになりました。
青井:東日本大震災をご経験されて、とても厳しい時代も過ごしてこられたと思います。
現在、事業は黒字で推移していて、とても順調だったかと思いますが、そんな中、M&Aを考え始めたきっかけは何だったのでしょうか?
唐田様:22年ほどの業歴がありますが、創業からの10年とそれ以降で取り組み方が変わりました。
茨城県という地方ならではの環境やそこで働く人たちの特性による難しさを感じました。
地方の人達は、一つのことを真面目にしっかりやっていくことはできるのですが、変化や新たなことへの取り組みを受け入れる事があまり得意ではない人が少なからずいらっしゃいます。
自分自身も地方で育ちましたが、その辺はちょっと変わった存在かもしれません。
創業当初は、新しいサービスを創るなどチャレンジしてきましたが、そういった自分の考え方と会社の在り方にギャップが生じてきた時に、リーマンショック・震災が起こり立て続けに大打撃を受け、方向転換が必要だと感じました。
2010年から2011年にかけて、経営基盤の再構築のため、地元発祥の企業である日立製作所様との信頼関係を真剣に築いていこうと決断しました。
それまでもお付き合いはありましたが、より真剣に向き合っていくべきだと思い、ビジネスの選択と集中をしました。
その効果もあり、業績は安定してきましたが、「下請け企業という立場で、従業員は幸せなんだろうか?自分たちは地域貢献ができているのだろうか?」という新たな疑問を持つようになりました。
2015年に5年計画、10年計画として数値計画やビジョンを策定しました。
4年5年と経っていくうちに、当初の計画を実現していく難しさに気が付きました。
真面目に事業をしても、新しいことにチャレンジしていくことが難しい。
従業員の周りにそういった事例が無く、イメージがつかないので、経営側から示していかなければならないのだと思いました。
また、時代の変化も私が起業をした時よりもずっと速いです。
インターネットの普及、スマホやタブレットと言ったデバイスの進化もありますが、このスピードにあわせて成長することを考えた時に、自社単独で進むことが本当に最良なのだろうか?色々な形で業務提携や地元の会社同士で何か連携できないか、など考えました。
その頃は、単独でどこまでやるかと考えていましたが、ここ3年くらいで、M&Aがベストなのかなと思うようになりました。
事業の業績は安定していましたが、横ばいの状態が続いていました。
みんな本当に一生懸命やっているのですが、IT業界全体の成長スピードになんとかついていっている、という状態だったと感じていました。
会社として、将来を見据える動きをスピーディーにやっていかなければならない。
成長速度をスピードアップさせるためにM&Aという選択は必然でした。
M&Aを決断した理由の一つは、社員が成長できる教育環境を作れると思ったから
青井:M&Aは、後継者不在の解決をする手段だということをご存知の方はとても多いのですが、成長戦略としてのM&Aに対するご理解のある方はまだまだ少ないと感じています。
そのなかで、何故会社の成長スピードを上げる為にはM&Aが最良だと思われたのでしょうか?
唐田様:M&Aに限らず情報収集は常にするように心がけております。本やインターネット、YouTubeを観たりしていました。
元々、まずは自分でやってみよう。という性格なので、何でも調べる癖は昔からありました。
それでうまくいくこともあれば、うまくいかなかったこともありますが、そういった全ての経験を元に正しい方向に考えられるようになっていると思います。
そういった経験から「経験に勝るものなし」が座右の銘の一つになり、2015年くらいから社員が様々な経験をできる環境を作っていきたいと思うようになりました。
しかし自社単独で社員が様々な経験をできる教育の場を作ろうと思っても、資金や人員的な問題でなかなか環境が作れずに歯がゆい思いをしました。
今回M&Aを決断した理由の一つに、よりスピーディーに社員が成長できる教育環境を作る事ができるだろうというイメージを、青井さんとの話の中でしっかりと出来たことでした。
青井:素晴らしいお考えです。
社員の方々の成長も考えると、M&Aが最良だったとのことですが、過去には社内での事業承継をお考えになった事はありましたか?
唐田様:もちろん、社内でも同時並行で後継者を育てていこうと考えていました。
M&Aを選択したとしても必ず成功するかわからないので、とにかく同時進行して、一番自社が成長する選択をしようと考えて進めていました。
同時進行で進めていかないと、チャンスを逃してしまうので。
判断を誤らないよう、選択できる準備を常にしなければという考えでした。
青井:確かに、何が一番いい形になるかは進めていってみないとわからない部分が大きいので、同時進行してチャンスを逃さないように準備していくというのはとても大事なことですね。
新しいシナジーで共に成長できる先とM&Aをしたい
青井:現在の唐田様のご年齢ですと、周りの経営者からは、まだまだ事業承継をするお年ではないと言われることが多いとおっしゃっていましたが、65歳になってから考えよう等、年齢で区切って後継者を探そうと思ったことはございますか?
唐田様:
確かに、まだ若いのに・・・、と言われることが多いのですが、私は「じゃあいつから考えるの?」と思ってしまいます。
じっくりやっていけばなんとかできるものはたくさんありますが、世の中のスピード感を考えた時に本当にその考えで大丈夫かな・・?と不安になりました。
地域課題も同じだと思います。
地元日立市は人口減少で悩んでいますが、おそらく20年くらい前から同じことを言われています。
そういう課題があって、じゃあ、それに対して個人も含めて何をしてきましたか?という話でその時になって悩むのではなく早め早めに考えて対処していく、ということでした。
周りから見ると、「なんで?まだでしょ?」と思う方がほとんどだと思いますが、そうではありません。
当社しか取り組んでいないことは、基本的に経営者の私の考えでやっていることなので、リスクという観点から考えると「私に何かあったらどうなるのか。」その時にどうにかできる状況であれば問題ないのですが、私はそこに一抹の不安がありました。
早めの決断というものとは少し違うかもしれないですが。
社内的には、今、何とか世の中についていっているかもしれません。
でも、今ついていけているからと言って、何もせず同じことしか続けていかなかったら、私も社員も人間として成長せずに年をとっていきます。
自分の経験からも、年々新たなものを取り入れていくという発想を持っていないと、50歳になって本当についていけなくなってしまい、この業界から足を洗うことになってしまいます。
そうなるともう働く場所が無いかもしれません。
一生働ける環境を作っておく事と体が健康であればどうにかなる、そういうことがわかっていれば、最大のリスクは、準備も何もしないでただ判断を先送りにしている事だと思います。
会社の譲渡は物の売買ではない。
青井:先ほどのお話にもありました通り、一生働ける環境、様々な経験ができる環境をスピーディーに作ることができるだろうとイメージが出来たからこそ、M&Aを進めることに舵を切った。ということでしたが、M&Aを進めていくにあたって、多くの仲介会社さんと面談されたと伺っています。
当社を選んで頂いた決め手は何だったのでしょうか?
唐田様:会社の譲渡は物の売買ではなくて、そこには人がいて、生きている人がいて、その人の人生があって、そういう中でマッチングの話があり、M&Aを実行して終わりというものではありません。
実行するまでも重要ですが、実行してからも重要なので、すべて含めて安心感のあるところにお願いをしようと考えていました。
自分でもいろいろ勉強したつもりですが、何か抜けている可能性はありますし、それが命取りになるかもしれない。
そう考えた時に会社の大きさや安定感、担当者との相性や考え方などを聞かせてもらいました。
青井さんの日本M&Aセンターへの思いや説明を聞かせていただいたのも大きかったと思います。
青井:私自身、転職をする際に、この業界のことは色々調べて、同業他社もたくさん見たうえで当社に転職をしましたので、この会社のどういうところが良いかは、ただ純粋に思っている事を唐田様にお話させていただきました。
良いところはちゃんとお伝えして、しっかりと企業の存続と発展を実現するために支援していくというこだわりを持ってやっています。
唐田様:青井さんと他社のコンサルタントの説明は決定的に違っていました。
他社さんは「手数料が安いです」「IT業界強いです」と仰っていて、言いたいことはわかりますし、そうなのでしょうが、その「業界が強い」と言えるバックボーンはいったい何なのか?というところはよく伝わりませんでした。
一方青井さんのお話からは、日本M&Aセンターはこういうバックボーンがあって、強みがこうです、という「なるほどな」という説明がきちんとあり、よくわかりました。
先ほども申し上げましたが、M&Aは一大決心であり、とても重要な決断なため、安心感のある会社が良いと考えていましたし、それを思えば「これだけの手数料を支払う価値はある。」と理解をしていました。ここをケチってしまうのは自分の過去の経験的にも良くないと感じていました。
青井:それはとても嬉しいお言葉です。ありがとうございます。
当社と契約を締結して進めるにあたって、M&Aに期待していたことはなんでしたか?
唐田様:自分たちでは見つけられない企業さんを見つけてきて貰えたら良いな、と思っていました。
違う業界でも良いとお伝えしていたと思いますが、それは新しいことをやっていく中でシナジーを見つけられる相手が良いと考えていたからです。
そういう新しいシナジーを見つけられる先とマッチングしていただけそうだったのも日本M&Aセンターと契約させていただいた理由でもあります。
ただ、そんな理想の相手先がすぐに見つかるとは思っていませんでした。
時間はかかるかな、とは思っていました。
最悪、見つからなかったらしょうがない、自分たちはそういう価値なんだ、と思うしかないと覚悟していました。
最初は、まずは周りが自分たちの事をどう見ているのか、自分たちの価値がどんなものなのかを知って、現実どうなるんだろうと思いながら、期待をしていました。
上場企業の社長が地方に出向いてくださって、全社員の前でお話をして頂いた
青井:M&A後の従業員の開示のときには株式会社情報企画の松岡社長が自らダンク社のオフィスに出向いてくださり、全社員の前でお話をしてくださいました。
私はとても良かったなと思ったのですが、社員の方々のその後の反応はどうでしょうか?
唐田様:松岡社長にはとても感謝と尊敬をしています。
上場企業の社長が地方にまで出向いてくださって、社員の前で対等な関係で事業成長を目指していきましょうと語ってくださいました。
社員も前向きに捉えてくれていたと思います。
誰でもそうだと思いますが、変化に対する不安を持つ方も一部にはいたかもしれません。
しかし、状況に慣れてくればそういう問題はなくなるかな、と感じました。
松岡社長からお話しいただき、その後私からも話をしてこれからは色々なチャンスが増えてくるだろうということ、プラスはあってもマイナスはない、ということは理解してくれています。
退職者も出ていないので、前向きに捉えて頑張ってくれています。
ここ最近、管理系の内部統制や連結決算等の業務フローについて色々とやっています。
本人たちは凄く大変だと思いますが、管理系の従業員は色々業務を整理できるようになってきたと思いますし、上場会社のやり方をみさせてもらって、自分たちが出来ていること・出来ていないことの区別・棚卸が出来たのではないかと感じています。
今は大変だと思いますが、徐々に慣れていき整理されていけば今後も業務がスムーズにいくと感じます。
情報企画さんが私たちの会社を、地域性や業態が違うことも含めて理解をしてくださっているので、お互い模索しながら進めていけていることが良いのだと思います。
若い人たちがこの地域から離れず、働きたいと思える場所や環境を作っていきたい
青井:今までのオーナー会社の社長という立場から上場会社のグループ会社の社長となり、色々目線や表現の仕方などを変えていかなければ、と話されていたことがあったと思いますが、社長として、個人として、今後はどのようなビジョンをお持ちでしょうか?
唐田様:とにかく、まずはグループとして成長できるように、我々がどう貢献していくかということで今は頭がいっぱいです。
上場会社のグループの一員としてグループ全体が成長できるようにしっかり貢献したいです。
これまでサラリーマンをして、起業してオーナー社長で22年やってきました。
次のステージは、上場会社グループの社長として、上場会社の視点や基準で会社を見ていくことになります。
ゆくゆくは、こういう経験を茨城県の若い人たちに伝えていきたいと考えています。
地方で、上場会社の社長や自ら起業をして22年経営をやってきたという経験をしている人はあまり多くいません。
若い人たちがこの地域から離れず、働きたいと思える場所や環境を作っていきたいですね。
今は、若い人たちにこの地域には、たくさんの可能性があるということを伝えていくための経験や準備をしているところです。