法人の廃業にかかる費用とは?廃業の流れ、解散・倒産・破産との違いを解説
会社の廃業を検討する際には、廃業を決断するタイミングや、廃業した場合の課題について正しく理解しておくことが重要です。
本記事では、法人(株式会社)が廃業をする場合、どのような手続きや課題があるのかご紹介します。
法人の廃業とは
法人の廃業とは、経営者が自らの意思で法人の事業を廃止することを指します。
近年、後継者の不在や、業績悪化などにより事業継続が難しくなった企業の多くは、廃業の選択を迫られています。
法人が廃業すると資産や負債はすべて整理され、最終的には法人格も消滅するため、一度廃業してしまうと、二度と元に戻すことはできません。
この記事のポイント
- 法人の廃業は経営者の意思で事業を停止し、資産や負債を整理する必要があり、一度廃業すると再開は不可能である。
- 廃業を選ぶ企業が増えている背景には、業績悪化だけでなく業界の先行き不安や後継者不在が影響している。
- 廃業手続きには株主総会の解散決議や清算手続きが必要で、従業員や取引先への影響が大きいため、M&Aなどの選択肢も考慮すべき。
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法人の廃業の動向
帝国データバンクが公表した『2022年度版の全国企業「休廃業・解散」動向調査』によると、政府系・民間金融機関による実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)や新型コロナウイルス対応の補助金などにより、中小企業の廃業件数は前年を下回る傾向が続いています。
ただし、ゼロゼロ融資はすでに終了し元本の返済が始まっていることから、2023年10月の倒産件数は前年同月比で33%も増加しています(※2023年11月9日版日本経済新聞 )。
したがって、エネルギー資源の高騰や急激な円安による物価高や人材不足などが引き金となり、今後廃業を予定している企業数は、倒産件数と同様に増加していると考えて間違いないでしょう。
次に、休廃業を選択した企業の損益構成を確認してみると、休廃業を選択した企業のうち半数以上が黒字であったことが分かります。
したがって、業績不振によって廃業を選択した企業よりも、その他の理由で休廃業や解散を選択した企業が多いということになります。
法人の廃業が増えている背景
業績悪化の理由以外に、廃業を選択する企業が増える背景として、大きく以下の2つが考えられます。
業界の先行きに対する不安
背景の1つとして、大企業の再編に伴い、これまで堅調だった業界に変化が生じ、業界の先行き、見通しに不安を感じた経営者が廃業を選択するケースが挙げられます。近年のグローバリズムやデジタル化の加速によって、競争は激化する一方で顧客のニーズは細分化され、ビジネスモデルの耐用年数も年々短くなっています。
以前と比べ時代の変化が早いため、対応しきれない業界や企業が増えれば、将来の展望を持てずに廃業を選択せざるを得ない企業が増えてしまうでしょう。このような状況下では、経営者が親族など次の候補者に承継させることに対して消極的になり、まずます後継者探しは熱心に行われなくなります。こうした状況が重なり、最終的に廃業を選択するケースも少なくありません。
後継者不在や人手不足
身内や社内などに後継者として相応しい人物が見つからなかったケースでは、経営者の意思とは関係なく、事業承継を諦めて廃業を選択せざるを得ないことがあります。
M&Aによる事業承継は、政府や金融機関、仲介業者、税理士事務所などによって後押しされてはいるものの、まだ広く認知されているとは言えない状況が続いています。そのため、外部に会社を引き継ぐ選択肢がない場合、後継者不在を理由に廃業を選択してしまうケースも考えられます。
法人の廃業と閉業、解散、倒産、破産の違い
廃業と同じように法人を閉鎖することを指す言葉として「解散」「倒産」「破産」の3つがあります。廃業とどのように違うのかを解説します。
解散との違い
解散とは、会社の事業を停止し、「廃業のための清算手続きを行う準備に入った状態」を指します。つまり、会社を清算・消滅させるためのスタート地点です。
なお、会社の解散は従業員や取引先、顧客など周囲に与える影響が大きいため、理由もなく解散することは認められていません。会社法第471条 では、解散が認められる事由を以下のように定めています。
- 定款で定めた解散の事由が発生した場合
- 株主総会で解散が決議された場合
- 合併によって会社が消滅する場合
- 破産手続の開始が決定された場合
- 休眠会社のみなし解散が行われた場合
※会社法 第8章 第471条より抜粋
倒産との違い
倒産は正式な法律用語ではありませんが、一般的に企業経営が行き詰まり、債務が弁済できなくなった状態を指す言葉です。
廃業のように自ら選択して事業を閉鎖するのではなく、事業が続けることができなくなる状態です。
具体的には、手形交換所で取引停止処分を受け銀行取引停止処分となった場合や、裁判所に破産手続きの開始や特別清算手続きなどを申請した段階で、倒産となります。また、経営者と連絡がつかなくなった状態も、事実上倒産とみなされます。
倒産は会社を清算(消滅)させる清算型と、事業継続しながら債務を弁済する再建型の2つに大別されます。
破産との違い
破産とは、債務超過や債務不履行などにより企業経営の継続が困難になった会社が、裁判所に申し立てを行い、清算手続きを行うことを指します。
具体的には、会社が所有している財産や事業をすべて清算するのと引き換えに、会社が負っていたすべての債務を免除してもらうことを目的とした裁判上の手続きのことです。
会社の倒産手続きには「破産」や「特別清算」、「民事再生」、「会社更生」などが含まれていることから、破産は数ある倒産手続きのひとつであると言えます。
法人を廃業した場合の課題
法人の廃業を選択した後、想定される課題は以下の通りです。
債務の解消はできない
債務が残っている場合、法人を清算することはできません。つまり法人を廃業するためには、法人の債務をすべて返済する必要があります。
したがって、法人の保有する資産で債務の返済ができない場合は、経営者個人の財産を切り崩して返済しなければなりません。
従業員や取引先に迷惑をかける
法人を廃業させると、従業員を解雇する必要があります。また、長年取引関係のあった企業も、新たに取引先を探す必要が発生してしまいます。
このように顧客をはじめ、従業員や従業員への家族、取引先などに対し多大な影響を生じる点を、経営者は強く意識しておかなければなりません。
これまで培ってきた技術やノウハウが消滅する
会社が長年培ってきた技術や独自のノウハウ、会社のブランド力は、財務諸表に計上されていないものの、収益力の源泉として稼働する大きな力を持っています。
廃業を選択すると、これらは消滅してしまうか、あるいは従業員の転職によって他社に移転する恐れがあります。
法人の廃業と、個人事業主の廃業の違い
法人のほか、個人事業主が廃業するケースもあります。廃業の流れ、手続きにおいて両者は異なります。
例えば、法人が廃業を行うには、株主総会を開催し、株主の承認を得る必要があります。そして法務局で解散登記・清算人等を行い、最終的に法人格を消滅させます。一方、個人事業主の場合はこれらのステップが不要となるため、廃業届など手続きを行う必要はあるものの、法人の場合に比べてシンプルな流れとなります。
法人の廃業手続きの流れ
法人を廃業するための流れの中で、主なプロセスをピックアップして見ていきます。
株主総会の開催・解散決議
法人(株式会社)を廃業するためには、株主総会を開催して解散決議を行い、株主の承認を得る必要があります。
会社の解散のような重要事項を決議する場合は、株主総会の特別決議によって3分の2以上の同意を得るか、株主全員の賛成を書面決議で行わなければなりません。
株主総会で解散が決議されると会社の営業活動は終了し、以降は会社の持つ財産を整理するための清算会社に移行します。
それにともない取締役が退任するため、会社の清算業務を行う「清算人」の選任決議を行います。
清算人の選任方法は「定款に定めている者が清算人になる」「取締役が清算人になる」「裁判所が選任する」などがありますが、一般的には取締役が清算人にされるケースが多く見られます。
解散登記と清算人専任登記
株主総会で解散が決議されたら、解散決議から2週間以内に、法務局で解散登記と清算人選任登記を行います。
登記の申請書類は法務局のホームページからダウンロードし、必要事項を記載したうえで、管轄の法務局へ期限内に提出します。
登記が終了したら、登記簿謄本を添付して関係各所に届出書類を提出します。また、法人を廃業する際には、税務署や都道府県税事務所、市区町村役場に税務上の届出書を提出しなければなりません。
この他、社会保険に関する書類は日本年金機構へ、雇用関係はハローワークへ、そして労務関係は労働基準監督署へ必要書類を作成して提出します。
財産目録と貸借対照表の作成、解散確定申告
清算人は、会社にどのような資産・負債があるのかを整理し、解散時の決算書類を作成します。具体的には財産目録と貸借対照表を作成し、株主総会の承認を得ます。また、株主総会の解散決議から2ヶ月以内に、通常の事業年度開始日から解散を決議した日までを一事業年度とする確定申告(解散確定申告)を行います。
なお、これ以降は解散の日の翌日から1年ごとに、清算が終わるまでの間確定申告を行います。
公告・催告
会社が廃業によって消滅するとと、廃業の事実を知らずに清算手続きから外れてしまった債権者は、最終的に債権が回収できなくなってしまいます。こうした事態を防ぎ、債権者の権利を保護するために、会社法では官報に解散公告を2ヶ月以上掲載することが定められています。
またこれと並行し、会社が把握している債権者に対しては、書面などで個別の催告を行わなければなりません。なお、こうした債権者に対する公告と催告の手続きを「債権者保護手続き」と言います。
清算事務と残余財産の分配
清算人は、清算業務を行う過程で債権を回収するとともに、会社が保有している資産を売却して現金化し、それを債務の支払いなどに充てる必要があります。こうしてすべての債権・債務が消滅したうえで残った財産(残余財産)がある場合は、持株比率に応じて株主に分配します。
こうして、会社からすべての資産・負債がなくなったら株主総会を開催し、決算報告書の承認を行います。
清算事務を終了、清算結了登記
株主総会で決算報告書が承認されたら、2週間以内に法務局で清算結了登記を行います。
こうして清算結了登記が終了すると会社の法人格は消滅し、会社の情報は登記簿謄本から閉鎖謄本へ移行されます。
また、残余財産の確定日から1ヶ月以内に清算確定申告を行い、同時に税務署などの関係各所に閉鎖謄本を添付のうえ、清算結了届を提出します。
以上で、法人を廃業する主なプロセスが完了します。
法人を廃業する際にかかる費用
法人を廃業するためには、さまざまな費用が必要となります。その中でも特に重要となるのが、以下の6つです。
登録免許税
登録免許税とは、不動産や会社、人の資格などについて登記や登録をする際に課税される税金のことです。
会社を廃業するためには、解散登記と清算人の選任登記、そして清算結了登記を行わなければなりません。その際に、以下の金額が登録免許税として必要になります。
- 清算人選任登記・・・9,000円
- 清算結了登記・・・2,000円
官報公告費用
債権者保護手続きのために行う官報の公告費用は、1行あたり3,589円(税込)と定められています。
一般的に債権者保護手続きのための広告は9~11行程度であることから、おおむね36,000円程度が必要となります。
登記事項証明書の発行手数料
税務署に解散時や清算時の届出書類を提出する際には、登記事項証明書を添付しなければなりません。1通あたり600円が必要となるため、登記事項証明書の発行手数料は最低でも1,200円が必要となります。
なお、都道府県税事務所や市区町村役場、日本年金機構や労働基準監督署などに届出を提出する場合も登記事項証明書の添付は必要となることがありますが、原本でなく写しでも良い場合が多いため、事前にコピーを取っておくと費用が抑えられるでしょう。
専門家への依頼費用
廃業を進めるには、2度の登記、最低2回の税務申告、税務署などへの届出書類の作成が必要です。その他にも、社会保険や労働保険関係の届出書類も作成しなければなりません。
スムーズに進めるためには弁護士、税理士、司法書士など士業の専門家に依頼することがベターです。依頼内容や会社の規模にもよりますが、清算手続きを士業などの専門家に依頼すると、数十万円程度の専門家報酬が別途かかります。
在庫・設備の処分費用
商品の在庫や機械などの設備は、ある程度値段を下げることで売却できる場合もあります。しかし、不良在庫や古い設備などは、処分するために費用が必要です。
在庫の量や設備の規模などによって処分費用は大きく変わりますが、近年では増額傾向にあるだけに、数十万~数百万円程度は必要になると考えておいた方が良いでしょう。
不動産の原状回復費用
事務所や工場などを借りていた場合は、原状回復したうえで貸主に返さなければなりません。そのためにも費用がかかります。小規模な事務所などであれば安価に抑えられる可能性もありますが、工場の一部を改造しているようなケースでは、まとまった支出が必要となります。廃業を決断して解散決議を行う前に、こうした不動産の原状回復費用の見積もりを取っておくと良いでしょう。
法人の廃業を決断する前に
以上、法人の廃業について概要をご紹介しました。廃業は経営者の意向に沿って計画的に進めることができます。
しかし廃業を選択してしまうと、これまで築き上げてきた技術力やブランド力などが消滅し、取引先との関係停止や、従業員の解雇など周囲に多大な影響を及ぼします。
もしそのような事態を回避する場合には、外部の第三者に会社を引き継ぐというM&Aという手段があります。経営権(株式)を譲渡することで、会社や従業員だけでなく、技術力やブランドが引き継がれます。
近年は、オーナー経営者は譲渡後も継続して会社に関わり続けるケースが増えています。