日本M&Aセンターの海外拠点紹介 ベトナム編
⽬次
日本M&Aセンターは2013年4月、海外支援室を設立し、現在はASEAN5拠点(シンガポール・インドネシア・ベトナム・マレーシア・タイ)体制で、友好的なM&Aを通じて、海外進出・海外撤退・日本市場参入のご支援を行っています。
今回はベトナム現地法人代表の渡邊に、拠点開設の背景とベトナムM&Aの今について聞きました。
2020年2月、ベトナムに現地法人設立
ー渡邊さんは、もともとベトナムと接点があったのでしょうか。
渡邊:私は2004年に日本M&Aセンターに入社し、国内外のM&Aに長年携わってきました。
2010年代のはじめ頃、お客様からご相談を受けたことをきっかけに、ベトナムM&A案件と関わるようになりました。タイやマレーシア、中国、インドなど各国でのクロスボーダーM&Aの経験がありますが、特に、ベトナムに早くから進出したいと考えていました。
ーいろいろな国がある中で、なぜベトナムだったのでしょうか。
渡邊: ひとことで言うと、仕事で出会った人たちが皆親切で、ベトナムの人たちに人間的魅力を感じていた、というのが大きな理由でしょうか。
わかりやすく交渉の場面での例を挙げると、国によっては「金額面以外はあまり興味が無い」とあからさまな態度を示されることが、たまにあるんですよね。
一方、ベトナムの人たちは、常に一生懸命な姿勢で、メモをとって質問をする。交渉の場面なので当然と思われるかもしれませんが、ものすごく真剣なんです。契約書の定義を決めるのも、日本より細かく決めているように感じます。
真面目な姿勢であることや、仕事を超えて、人生観や歴史など本質的な話を突き詰めて語り合える。そういうベトナムの人たちに、人間として魅力を感じていました。
あとは、総合商社に勤めていた父親が、昔ベトナム政府に助けられたというエピソードを聞いていたこともあり、もともとベトナムに対する印象が良かったのではないかと、今となっては思います。
ただし、現地に拠点がないので、日本の企業から相談があった際にご紹介できる案件がない。そんな中、2018年にベトナムでのM&Aを数件実現できたため、会社としても「本格的に進出しよう」と方針が決まりました。
ーそして2020年の設立につながるんですね。
渡邊: はい。ベトナムはシンガポール、インドネシアに次いで海外3番目の拠点になります。2019年のはじめから準備を始めて、2020年2月に現地法人を設立しました。
2020年の2月というと、ちょうど新型コロナウィルスの感染が拡大し始めた頃で、会社をオープンしたものの行けない状態になってしまって。その後、ロックダウンなどもありましたが、現在は通常通りの状態に戻っています。
ものをつくる場所からマーケットに変貌したベトナム
ー日本企業が続々と進出を加速させている印象ですが、現在のベトナムの状況を教えてください。
渡邊: これまでは「ベトナム製」などの言葉をよく耳にするように、ベトナムは「モノをつくる拠点」として認識されていました。今も日本企業の工場が稼働していますが、現在は完全にマーケットとして捉えられています。
例えば小売でいうと、ユニクロ、無印なども出店を進めています。ユニクロに関してはすでに15店舗まで増えていると聞いています (2023年2月28日現在)。無印は一昨年、東南アジア最大級の売場面積の店舗をハノイにオープンしました。
店舗数が増えているのは、法律の改正により外資の営業規制が緩和されてきたことも影響しています。
小売以外では電鉄系の東急グループが都市開発のプロジェクトを進めているなど、日本企業の進出は引き続き加速していくものと考えます。
コンサルタントとして、ベトナムM&Aに携わる醍醐味
ーベトナムと日本のM&Aの違いはどういうところにあるのでしょうか?
渡邊: 日本のM&Aの多くは事業承継という切り口ですよね。後継者不在であるため、外部の第三者に100%株式を譲渡して、経営のバトンを渡すという。
一方、ベトナムは成長市場なので、会社を100%すべて譲渡するのではなく、いわゆる部分出資(30%~80%)のケースがほとんどです。
「日本など海外から成長資金を受けて、会社を伸ばしていこう」と、成長戦略の手法としてM&Aを活用する中小企業の経営者がほとんどですね。
100%譲渡は、ある意味シンプルです。共同出資の場合、売り手が引き続き株を保有しています。そうすると「どうやって共同経営していくのか」「どうやって配当をわけるのか」「どうやってイグジットするのか」「残りの株を買い取るのか、もしくは撤退するのか」など、いろいろストラクチャリングを戦略立てて、突き詰めて考えなければなりません。
専門的な知識や現地の税法を理解し、英語で交渉、アドバイスする。このように日本のM&Aと異なる経験を積めることは、コンサルタントとして、非常に財産になると考えています。
ベトナムにおけるM&A事例
ー実際に当社がご支援した、M&A事例についてご紹介をお願いします。
渡邊: 直近だと、日本の製菓・製パン材料販売大手の株式会社富澤商店様が、ベトナムの食品輸入卸売りと子会社の食材メーカーを子会社化した事例があります。先ほどマーケットとしてのベトナムの話をしましたが、ベトナムはオーブンのある家庭が増え、お菓子作りをする消費者が増えると見込まれています。同社は本件を契機に、東南アジア諸国への進出を進めていくと見られています。
製菓・製パン材料販売の富澤商店(東京都千代田区)は、ベトナムの食品輸入卸売の「ホラフーズ」と子会社の食材メーカー「ファリナ」の2社を子会社化、ホラフーズに約51%出資。
富澤商店はこれまでシンガポールや台湾などに商品を輸出販売していたが、海外売上高比率はわずか2%だった。2023年中にも東南アジアの他地域の企業に出資を計画、海外売上高比率も50%超を目指す。ホラフーズの現在の売上高は100億円程度で、買収後は年率20%の成長を目指す。
出典:日本経済新聞 (2022/12/16)
その他、各国で様々なM&A事例があります。詳しくは海外事業の事例ページをご覧ください。
日本M&Aセンター ベトナムチームのこれから
ー最後にメッセージをお願いします。
渡邊:日本はテクノロジーや資本が累積していますが、ベトナムには成長マーケットがあります。そして、ベトナムは、同じ民族が9割で地理的にも他の国に比べて全体的に発展しやすい、そういうところにビジネスに関わるものとして面白さと期待を感じています。
ベトナムの譲渡オーナーさんは私と同年代が多く、1,300人の会社を経営していたりします。そうした経営者として話していると刺激を受けますし、とても楽しいです。
ベトナムチームも優秀なスタッフが増えてきていて、今春には日本から「世界で戦えるビジネスマンになりたい」と手を挙げたコンサルタントが、私たちチームに合流する予定です。そうした動きは、社内でも今後増えていくように感じます。
現在私たちはホーチミンのオフィスで活動していますが、今後は体制をより強化し、将来的にはハノイにもオフィスを開設していきたいと考えています。引き続きM&Aを通じて、ベトナムと日本の両国の発展の架け橋となるべく貢献してまいります。