美容師の収入が2.5倍に 美容業界の変革を目指すサロウィンのビジョンに迫る

広報室だより
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日本M&Aセンターではスタートアップ領域におけるM&A支援実績の増加を背景に、2018年から次世代の日本経済を牽引するスタートアップ企業を表彰する「スタートアップピッチ」を開催しています。2021年は「日本M&Aセンター30周年記念スタートアップピッチ」と題して、約2,000社の中から15社がエントリーし、サロウィンは「イノベーション賞」を受賞しました。今回は、サロウィンの「その後」をテーマに、同社代表取締役の阿部友哉氏に創業後のハードシングスや今後の展望について、日本M&AセンターIT業界専門グループの竹葉聖が伺いました。


サロウィン 代表取締役 阿部友哉氏(左)日本M&AセンターIT業界専門グループ 竹葉聖(右)

会社概要

会社名:サロウィン株式会社
設立:2019年7月
事業内容:美容師一人ひとりが活躍・稼げる社会を目指し、売上80%を還元する美容師向けシェアサロンを提供。
(代表の阿部氏のNoteはこちらから:https://note.com/salon43)

竹葉:まずは阿部さんの自己紹介をお願いします。

阿部氏:キャリアのスタートは新卒で入社した某大手コンビニチェーンで、1年ほど店舗運営を担当していました。その次は、ヘアメイク専門サロンにて6年ほどエリアマネージャーや店舗開発をしていたのですが、経営やIT、マーケティングに関する知識を補完したいと思い、オウンドメディア、SNSマーケティング、運用型広告などのコンテンツマーケティング事業を行うサムライトに入社しました。サムライトには社員として入社し、最終的には執行役員になりました。

竹葉:サロウィンの創業経緯について教えていただけますか。

阿部氏:役員を務めていたサムライトは2016年に朝日新聞社にM&Aでグループジョインしました。M&A後2年ほどはPMIのためサムライトに残り、PMIの目途が立ったタイミングでサロウィンを創業しました。

竹葉:創業にあたり、美容業界にどんな課題を感じていたのですか。

阿部氏:私は、「腕1本で人を幸せにすることができる」美容師の方を尊敬しています。平均年収は約280万円と言われているのですが、収入を上げようと思うと独立という選択肢しかないんですよね。それでやっとの思いで独立しても、20坪程度のサロンでも初期費用が1,000万円ぐらいかかってしまいますし、店舗を用意できたとしてもその6割は1年間で閉店に追い込まれてしまいます。

そこでサロウィンでは「場所(家賃)」、「電気・水道・ガス」、「薬剤」、「集客」などの独立する美容師にとって必要なインフラを提供し、利用料をいただく事業を展開しています。具体的には、美容師の方には、月額5万円利用料と売上の20%を歩合でいただく形にしています。

竹葉:施術料金の還元率が平均して20~30%と言われているサロン業界で、売上還元率80%というのは驚異的な水準ですよね。

創業期の大胆な方向転換でシェアサロン事業に参入

竹葉:創業当初から現在と同じような事業を構想していたのでしょうか。

阿部氏:最初は美容師個人の資金繰りを改善するための給料前借りサービスを構想していましたが、やはり美容師の環境をより良くするためには、自分たちがその場所を作ることが重要なのではないか?と考え、最終的にはシェアサロン事業でスタートしよう、ということになりました。

竹葉:肝心のサービスを利用する美容師はどのように集めたのですか。

阿部氏:美容師への売上還元率が業界平均で20~30%の中、当社は大幅に高い80%だったので応募者が殺到するだろうと踏んでいました。しかし最初は全く応募がなくて。ただ、ある著名な美容師の方が当社のサービスを利用するようになってからは、口コミ経由で広がり、利用者が増えていきました。

あとは、利用してくれた美容師の方にフィードバックをもらって改善するという作業をひたすらやり続けた点です。「薬剤が高い」「シャンプー台が低い」などの意見や、椅子の高さも4㎝間隔で調整するなど、とにかく美容師の方が働きやすい環境づくりに努めました。そのような地道な努力の甲斐あって、独立をしたい美容師のなかで徐々に評判が回っていきました。

竹葉:お客様の側の集客はどのようにしていたのでしょうか。

阿部氏:お客様の集客は完全に美容師の方に任せて、お客様を持っている美容師を集めることに注力しました。美容師の方自身は、基本的にはSNSで集客していてInstagramやTikTokをメインに使っています。美容師個人が発信する情報インフラが整っていなかった従来までは、美容業界はホットペッパービューティーなどの検索・予約サイトに集客を依存していたのですが、SNSの発達がシェアサロン事業の浸透を加速させました。

コロナ禍の資金ショート危機と資金調達

竹葉:事業運営におけるハードシングスを教えてください。

阿部氏:3店舗目となる池袋店を2020年2月にオープンしたのですが、その後すぐに緊急事態宣言が出され一気に客足がゼロになりました。5月末までに8,000万円用意できなければ潰れるという状況でした。なんとか資金調達に成功し、逆に緊急事態宣言が解除された直後の6月には、これまで髪を切れなかった人たちの需要が一気に爆発し、過去最高の売上を記録しました。また、2020年11月にはマネーフォワードグループのHIRAC FUNDからも大型の資金調達にも成功しました。

竹葉:ギリギリのところで食いつないだのですね。VCからの資金調達においてはどのような苦労がありましたか。

阿部氏:当社のビジネスモデル上、店舗であるが故にVCの方々からは「テックはないの?」と質問されるケースが多く、エクイティは苦労しましたね(※2)。
加えてBSが重いという指摘もありましたが、そこはいい面もあって、銀行の反応は良かったんです。借入による調達の資金使途としては運転資金と設備資金という2通りあり、ITスタートアップの場合は採用費や広告費などの運転資金に使うことが多いのですが、当社は店舗ビジネスのため設備資金として融資審査を受けていました。運転資金と違って設備資金の場合は、見積もりが出るため融資稟議書を作りやすいらしく借入による調達のほうが事業モデル的に向いていたみたいです。

(※2)一般的にVCは、IT領域などのレバレッジをかけることで急成長させられる事業に投資する傾向が強く、店舗型ビジネスについては、「レバレッジの効きやすさ」という観点から敬遠されるケースが多い。

竹葉:HIRAC FUNDが出資を決断したポイントは何だったのでしょうか。

阿部氏:共同創業者である柴田泰成(※3 )が、スマートキャンプをマネーフォワードグループにM&Aした経緯でHIRAC FUND代表の古橋智史さんとつながりがありました。そのため、同じくHIRAC FUND共同代表の金坂直哉さんが「これからシェアサロンが伸びると思う」という話をたまたま古橋さんにしたようで、「シェアサロンをやっているスタートアップあるよ」と当社を紹介いただきました。
(※3)柴田泰成氏、起業家兼ベンチャー投資家。楽天、リクルートを経てサムライトを創業し朝日新聞社にM&Aで譲渡。のちにマネーフォワードグループにM&Aでジョインすることになるスマートキャンプの取締役共同創業者でもある。スマートキャンプがマネーフォワードグループにジョインした後、マネーフォワード初のVCとしてHIRAC FUNDが創業。スマートキャンプの代表であった古橋氏が同VCの代表を務める。

竹葉:HIRAC FUNDからの出資でどのような変化がありましたか。

阿部氏:資金調達前は、銀行へ融資審査に行くと一担当者の方が出てこられて「奇跡が起きて300万円だね」と鼻で笑われていたのですが、それが金坂さんからの紹介になると部長や支店長が出てこられて「全力を尽くします」と。世界が変わりましたね。感謝しかありません。

大躍進を支えるサロウィンの出店戦略

竹葉:今は全国に出店しているのでしょうか。

阿部氏:はい、出店スピードもかなり速く、2023年5月だけで8店舗を出店しました。良い場所を先に押さえて、競合より先にマーケティングを行い、美容師を集めています。ちなみに、現在720名の美容師と契約しています。

竹葉:事業の成長は順調でしょうか?

阿部氏:現在5期目ですが、3期目4期目ともに計画に対してオーバーラップして達成しています。事業計画を作成する際はかなり細かい数値まで加味していて、タオル1枚のコストから全ての必要経費を積み上げて予算を作っています。SaaS企業だとJカーブ型の成長を描くことがありますが、当社は店舗ビジネスなので細かい数値を精緻に積み上げて経営することを心掛けています。

竹葉:出店戦略で工夫している点はありますか。

阿部氏:同じエリアにドミナント戦略で出店することが多いのですが、内装を意図的に変えています。全て同じ内装にしてしまった方がオペレーションの効率は良いのですが、利用者の選択肢を拡げるために多様な内装の店舗を用意しています。
また、これまでの出店ノウハウから、修繕や清掃にかける時間を抑えるために、汚れが目立ちやすかったり劣化しやすかったりする内装材などは極力避けるようにしています。
店舗数が増えても13名という少ない社員数で回せているのも、このような店舗作りの工夫があるためです。将来的にIPOを見据えているので管理系の人材は増やしていきますが、IPO時でも40名ぐらいの少数精鋭のチームでありたいと考えています。

竹葉:M&Aを活用するお考えはありますか。

阿部氏:既存のシェアサロン事業を堅実に伸ばしつつ、2023年2月にローンチしたALL SHAREという美容室を丸ごとお貸しするサービスを拡大していきたいです。そのために美容室のM&Aも選択肢の一つとして考えています。ニーズとしては2つあって、1つは髪質改善やショートカットなどあるカテゴリーでトップの地位にある美容室を運営している企業。あとは地方で美容室を7,8店舗運営している企業です。上場で得た資金で買収するという考えもありますが、もちろん上場前に実行する可能性もあります。

「新たな選択肢」を増やすことで美容師の幸せに貢献

竹葉:「美容業界をこう変えたい」というようなビジョンはありますか。

阿部氏:幸せの形は人それぞれですが、我々は「選択肢を増やす」ことで美容師の幸せに貢献したいです。自分の店を持ちたいという方に対してはALL SHAREという選択肢を提供していますし、妊娠・出産をしながらキャリアを継続したいという方に対しては女性専用のシェアサロンを年末にローンチする予定です。
また、事業承継に悩む美容室のオーナーさんに対してもM&Aという選択肢を提供できればと考えています。


「日本M&Aセンター30周年記念スタートアップピッチ」の参加景品であるフィギュアを今でもデスクに飾っている。


日本M&Aセンター30周年記念ピッチで、イノベーション賞を獲得した阿部友哉氏

インタビュアー

業種特化1部 チーフマネージャー IT業界専門グループ グループリーダー
竹葉 聖
公認会計士試験合格後、有限責任監査法人トーマツを経て、2016年に日本M&Aセンターに入社。IT業界専門のM&Aチームの立上げメンバーとして7年間で1000社以上のIT企業の経営者と接触し、IT業界のM&A業務に注力している。18年には京セラコミュニケーションシステム(株)とAIベンチャーの(株)RistのM&A、21年には(株)SHIFTと(株)VISH、22年には(株)USEN-NEXTHOLDINGSと(株)バーチャルレストラン等を手掛ける。
IVS2022 LAUNCHPAD NAHA審査員。

著者

M&A マガジン編集部

M&A マガジン編集部

日本M&Aセンター

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