大きく潮目が変わった2023年上半期外食業界のM&A動向

江藤 恭輔

日本M&Aセンター業種特化2部 部長

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当コラムは日本М&Aセンターの食品業界専門グループのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。
今回は江藤が「大きく潮目が変わった2023年上半期外食業界のM&A動向」についてお伝えします。

既存店売上はコロナ禍前対比でプラスだが、人材確保と原材料の高騰に苦しむ中堅中小外食企業

2022年後半から2023年にかけて、新型コロナウィルスの脅威の鎮静化に伴い、外食業界はコロナ禍前の勢いを取り戻し、コロナ前対比で既存店売上がプラスになる店舗も数多く出てきました。

また、コロナウィルス禍で各上場企業は経営体質の強化とキャッシュポジションの向上に努めたことによって、一層利益の出しやすい体質を獲得することが出来たと言えるでしょう。

【主要な外食上場企業の売上高利益率】

会社名 2019年売上高
経常(営業)利益率
2023年売上高
経常(営業)利益率
ゼンショーHD 2.9% 3.6%
吉野家HD 0.2% 5.2%
トリドールHD 1.6% 3.9%
イートアンドHD 2.7% 3.2%

一方、中堅中小企業に目を向けてみますと、コロナ前からの人気店や予約困難店などは、同様にコロナ前対比で売上自体はプラスになっている店舗も数多くありました。

しかし、人材不足に伴う採用コストの増加や人件費そのものの高騰、輸入食材などを中心とした原材料高により、過去最高の売上高をマークしながら、粗利率や営業利益率は過去最低、と言った状況の企業が数多く出て来ています。

また、昨年からスタートしたコロナ融資の返済スタートなどで、キャッシュフローの面でもより一層難しい経営環境に陥りつつあり、先が見えないと言った点においては、コロナ禍以上に厳しい環境に晒されているのではないかと言っても過言ではない状況です。

我々日本M&Aセンター食品チームにおいては、新型コロナウィルスが本格的に世の中を席捲する2020年2月より前から、日々外食企業のオーナーと面談させていただいており、他社を買収して規模を拡大する戦略や、大手企業と資本提携を行い、その傘下の元で安定かつ就労環境の良い企業に生まれ変わり、成長軌道に乗せて行きたい、と言った相談を数多く受けておりました。

その後新型コロナ禍では「買収したい」「他社と資本提携したい」という内容の相談が極端に減り、外食企業のM&Aの件数自体も大幅に減少したものの、2022年後半より2023年にかけて、再びM&A戦略を取って行きたいという企業オーナーからの相談が一気に増えてきています。

2023年の外食フードビジネス業界のM&A増加要因

  • 大手企業は内部留保を新たな事業の柱を構築するため投資活用
  • 中堅中小企業のオーナーは経営環境の悪化への対応による戦略的株式売却
  • 投資ファンドによる外食企業への継続投資

上記が入り交ざって、外食業界のM&Aは2023年、一気に増加傾向に転じることとなりました。
それでは、2023年に入って実施された代表的な事例を見て行きましょう。

特に、つい先日発表されたゼンショーホールディングスによる、北米や英国で寿司チェーンを展開するスノーフォックス・トップコの買収は、日本国内企業がこれまでに実施したM&Aの中でも、最大規模と言えます。

2023年に実施された主な外食M&Aの事例

【買】ゼンショーホールディングス ×【売】スノーフォックス・トップコ(2023年6月)

ゼンショーホールディングスが、北米やイギリスを中心に持ち帰る寿司や、寿司の製造販売事業などの日本食事業を展開するスノーフォックスを874億円で買収しました。

日本食が拡大する海外を、ゼンショーHDは成長戦略の要と位置付けており、店舗の新規出店数も海外が国内を上回っています。

【買】ゼンショーホールディングス ×【売】ロッテリア(2023年4月)

ロッテホールディングスの完全子会社であるハンバーガー業界第3位のロッテリアは全国に358店舗のファーストフード店を展開しており、ゼンショーグループは、保有する食材調達・物流・店舗運営機能が、ロッテリアの事業拡大・発展にシナジー効果をもたらすと判断し、本件実行を決定しました。

なお、2016年にはゼンショーホールディングスに次いで国内外食企業第2位のコロワイドが、ハンバーガー業界第4位のフレッシュネスバーガーを傘下に収めており、今回のロッテリアの買収劇で、ハンバー業界の再編は一気に進んだといえるでしょう。

【買】壱番屋 ×【売】竹井(2023年3月)

全国でカレーハウスCoCo壱番屋を展開する壱番屋は、京都・大阪でつけ麺店8店舗を展開する竹井の全株式を取得しました。竹井は、関西では非常に有名なつけ麺店「麵屋たけ井」を展開しており、国内で1,200店舗を超え、出店網の拡大が頭打ちになっている壱番屋にとって、出店コストを抑えて店舗拡大をして行ける次の事業の柱としての期待から、本件の実施に至っております。

【買】あみやき亭 ×【売】ニュールック(2023年3月)

ニュールックは売上高約16億円、「野毛ホルモンセンター」をはじめとした焼肉・ホルモン・焼き鳥業態などを横浜市エリアを中心に約30店舗(FC含む)展開しています。

あみやき亭は横浜市エリアの基盤の強化を図るとともに、ニュールックの特徴ある商品企画力をグループに取り入れることで、グループ間での商品開発力の強化を図っています。

【買】エンデバー・ユナイテッド×【売】アートオブウォー、バサラダイニング(2023年2月)

国内大手PEファンドであるエンデバー・ユナイテッドは、関西地方を中心とする西日本エリアにおいてレストラン事業(洋食、和食、とんかつなど)を展開しており、2004年の創業以来、新型コロナウィルス禍に置いても確実に店舗数を増やしていた実績のあるアートオブウォー、バサラダイニングへの投資を実施しました。

商業施設に特化した店舗展開により高い出店精度を有しており、現在の外食業界を取り巻く環境を逆手に更なる出店拡大を志向出来ると企業として、エンデバー・ユナイテッドは今回の資本提携に踏み切っています。

加速する外食M&A業界でどのように生き残っていくか、中堅中小オーナーが採るべき選択

###最近の外食業界M&Aの件数推移(参照:レコフM&Aデータベース)
抽出条件:【検索期間】1996/01/01~2023/08/02 (公表日など) 【データ種別】[M&A]M&A 【業界】外食 【形態】合併, 買収, 事業譲渡(営業譲渡) 出力日時:2023/08/07

上記グラフの通り一旦コロナ禍で落ち込んだ外食業界M&Aですが、2022年は増加に転じており、2023年は更に増加していくことが予想されます。

外食企業のオーナーの皆様にお伝えしたいことは、コロナ禍以上の厳しい経営環境に一人で立ち向かうのではなく、大手企業の人材力や、PEファンドの経営力を借りて、より安定的かつ持続的な成長を実現できる可能性があるということです。

これまで守ってきた伝統の味やお店の看板、従業員の雇用を維持し、そのお店の良さを活かして更なる多店舗展開を実現するためにも、自社だけではなく他社との資本提携を前向きに検討してみてはいかがでしょうか。

いかがでしたでしょうか?
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著者

江藤 恭輔

江藤えとう 恭輔きょうすけ

日本M&Aセンター業種特化2部 部長

1982年12月、宮崎県生まれ。青山学院大学法学部卒業後、大手金融機関にて約10年法人営業に従事した後、2015年10月、日本M&Aセンターに入社。その後、食品業界専門グループを立ち上げ、大手外食企業のM&Aを中心に、数多くの食品関連M&Aを手掛ける。2023年4月には同グループを部署に昇格させ、メンバー全員で、全国の優れた食文化の存続と発展をサポートしている。代表的な成約実績は、トリドールHDとアクティブソース(立ち飲み居酒屋晩杯屋)、トリドールHDとZUND(ラーメンずんどう屋)、サッポロライオンとハンエイ(餃子専門店である大阪王)、佐賀県の老舗アイス菓子メーカーである竹下製菓と生クリームパンメーカーの清水屋食品、PEファンドであるエンデバー・ユナイテッドと関西レストランチェーンのアートオブウォー・バサラダイニングの資本提携など。

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