のれん償却とは?メリットやデメリット、仕訳方法などをわかりやすく解説

山崎 祐慶

企業評価総合研究所 /公認会計士

佐潟 直弥

日本M&Aセンターコーポレートアドバイザー2部/公認会計士

M&A実務
更新日:

会社の財政状態及び経営成績を理解する上で、企業価値を左右する「のれん償却」は見過ごせない要素です。本記事では、のれん償却の概要や、メリット・デメリットなど詳しく解説します。

のれん償却とは

のれん償却とは、会計処理の一つで、主に企業の買収や合併などで発生する「のれん」の価値を、一定期間にわたり規則的に償却することを指します。

具体的には無形固定資産に計上した「のれん」の一部を、一定の期間ごとに「のれん償却」として費用(販売費及び一般管理費)に計上し、その価値を減らしていきます。

のれんが大きいほど、計上する費用は大きくなるため、M&Aにおいて適正な額かどうかを十分に検討する必要があります。なお、負ののれんについては発生時に一括で収益計上されます。

のれんとは

M&Aにおいて、買収金額が対象企業の時価純資産を上回る場合があります。
この差額部分を会計上、無形固定資産として計上したものがのれんです。これは、企業のブランド価値や顧客基盤、技術ノウハウといった「無形の価値」が含まれるため発生します。

日本基準の会計上、こののれんは実質的な自己創設のれんの計上防止の観点等から、一定期間にわたり規則的に償却を行います。これを「のれん償却」と呼びます。

この記事のポイント

  • のれん償却は、企業の買収や合併で発生した「のれん」の価値を一定期間にわたり償却する会計処理であり、無形固定資産として計上される。日本では最長20年の償却が定められている。
  • のれん償却には、減損による大きな損失を回避できるメリットがある一方、償却費が営業利益を圧迫し、企業の財務状況に影響を与えるデメリットも存在する。
  • 国際基準(IFRS)では、のれん償却を行わず、毎年減損テストを実施するため、会計処理が異なり、税務上も事業譲渡などに伴うのれんが影響を及ぼす点に注意が必要である。

⽬次

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のれんの償却期間


のれんの償却期間は、日本の会計基準により「20年以内のその効力が及ぶ期間にわたって行う」と定められています。

つまり、最長20年を期限として、事業や業界の特性などに基づき、各企業が償却期間を設定します。一度決定した償却の期間は、変更することはできません。

償却期間を短く設定した場合、計上する費用が大きくなり、営業利益に影響が出る可能性があるため、期間は慎重に決める必要があります。

また後述の通り、国際財務報告基準(IFRS)では、のれんの償却を行わない代わりに、必ず毎年減損テストが行われるなど、会計上ののれんの償却は国や地域、使用する会計基準によって異なります。

のれん減損との違い


「のれん償却」と「のれん減損」は、ともに企業が他の企業を買収した際に生じる「のれん」の帳簿価額を減少させる会計処理ですが、その方法とタイミングが異なります。

のれん償却は上述の通り、買収した企業ののれんを一定期間にわたって等分し、毎期同額を費用計上することです。これにより、のれんの帳簿価額が規則的に減少し、特定の期間内でのれんの価値をゼロにすることを目的としています。

一方、のれん減損は、定期的に(通常は年に一度)のれんの価値を評価し、現在の価値が帳簿上の価値を下回っている場合に、のれんの価値を減少させる(減損する)ことを指します。

具体的には減損の兆候の判定を行い、兆候があると判断された場合に、減損損失の認識の判定を行います。そして減損損失を認識することとなった場合に、減損損失の測定を行います。

例えば、買収した企業が期待通りのパフォーマンスを発揮できなかった場合や、経営環境の著しい悪化、最初に予想されていた価値が低下している場合等には、のれんの過大計上のおそれがあります。

この場合、帳簿価額から回収可能価額まで、その差額を一度に減額するのが減損処理です。

ここで重要な違いは「のれん償却が規則的に価値を減じていく」処理であるのに対して、「のれん減損は一度に大きな価値を減じる」という点です。

のれん償却を行うメリット


のれん償却を行う際の、主なメリットは以下の通りです。

のれん減損による大きな影響を回避できる

前述の通り、のれんの減損時には、減額した金額分を減損損失として計上するため、一度に多額の特別損失が発生します。のれんを規則的に償却することで、このような減損によって突如大きな損失が発生することを回避できます。

のれんの実態を反映できる

固定資産と同様に、企業のブランド力など、のれんの価値は永続的なものではありません。のれん償却を行うことで、のれんの実態を認識した上で経営を行うことができる点も、メリットとして挙げられます。

のれん償却を行うデメリット

のれん償却を行う際の、主なデメリットは以下の通りです。

のれん償却の分だけ利益が圧迫される

のれん償却は、最長20年にわたり行われます。したがって、その期間内は償却に相当する金額分だけ、毎期利益が減少することになります。

本来、のれん償却によって利益が圧迫されたとしても、M&Aによって新たな利益が生み出されれば、その分はプラスに作用するはずです。

しかし、M&Aの効果が現れる前に償却だけが進んでしまうと、数年間は企業の業績にインパクトを与え続ける可能性も考えられます。

実際のビジネス状況を正しく反映しきれない場合もある

のれん償却は、のれんの価値を規則的に減少させます。しかし現実には、企業の価値は変動的要素を多く含むため、実態は必ずしも均等に減少するわけではありません。

したがってのれん償却は、時には現実のビジネス状況を正確に反映しない場合がある点に留意が必要です。

のれん償却の仕訳


次に「日本会計基準」における、のれん償却の仕訳について見ていきます。

例えば、M&Aによって発生した「のれん100万円」を10年間で償却する場合、決算期には以下のような仕訳を行います。具体的には、毎期均等(正確には月割均等)で減らしていきます。

借方 金額 貸方
金額 摘要
のれん償却 100,000円 のれん
100,000円 のれん1,000,000円を
10年間の定額償却(1年目)

なお、上記の「のれん償却額」は損益計算書の「販売費及び一般管理費」として計上されるため、のれん償却額が増えるほど影響を受けるのが営業利益です。

営業利益とは、企業が本業で稼いだ利益であり、これがのれん償却によっては大幅に減少してしまうと、銀行や投資家から「本業が上手く行ってないのではないか?」と思われてしまう可能性があります。

そのためM&Aの規模が大きくなるほど、のれん償却を何年で行うか判断することが、その後の財務諸表や決算書に大きな影響を与えることになります。

なお、のれんの償却年数は前述の通り 最長20年以内と決められていますが、会社の恣意的判断を避ける必要があり、実務上は監査法人などと相談しながら決めるのが一般的です。

「国際会計基準(IFRS)」におけるのれん償却

国際会計基準(IFRS)とは、国際会計基準審議会が定める世界共通の会計基準です。

日本の企業は、日本の会計基準と国際会計基準(IFRS)、米国会計基準などを選択することが認められています。

国際会計基準(IFRS)では、のれん償却は見積もりが必要となり、恣意性が介入しやすいと考えられているため、日本会計基準のように、毎期決まってのれんの償却を行うことはありません。のれんの償却を行わない代わりに、毎期のれんの減損テストが行われます。

日本会計基準では、減損の兆候があった際に減損テストが行われるのに対し、国際会計基準では、減損の兆候があった時だけでなく、年に一度必ず減損テストが行われ、その都度のれんの帳簿価格とM&Aによる将来の投資回収額が比較されます。そして回収額の方が少なければ、その金額分だけ減損処理することになります。

のれん償却の税務上の取扱い


上記で述べたのれんは会計上、連結財務諸表において資産計上されるものです。こののれんを減額させるために、費用として計上されたのれん償却は、法人税を計算する際には損金に算入されません。したがって、どれだけのれんを償却したとしても、税金の計算に影響を与えることはありません。

しかし、事業譲渡や非適格分社型分割などによってM&Aが行われた場合は、税務上ののれんが生じるため、のれん償却によって税務でも大きな影響が生じます。

なお税務上、事業譲渡や非適格分社型分割によって生じる差額について、正ののれんは「資産調整勘定」、負ののれんは「差額負債調整勘定」と呼ばれます。

「資産調整勘定」、「差額負債調整勘定」は会計上の勘定科目ではないため、決算書上に表記されることはありません。また、これらはともに5年間にわたり月割で償却されます。

のれん償却の注意点


最後に、のれん償却の際の注意点についてご紹介します。

のれん償却の期間は最長20年と定められていますが、実際に上場企業で20年償却を行っている企業は、それほど多くありません。

なぜなら、企業買収によるのれんの効果が、20年間も発現することは非常に難しいと考えられるため、と言えます。

しかし償却期間を短めに判断してしまうと、のれん償却費が多額となるため、営業利益に大きな影響を与えてしまいます。

また、株価にも大きな影響を及ぼす可能性が高く、資金調達も困難になるおそれもあります。

このように、のれん償却は企業会計に対して大きな影響を与える可能性が高いため、のれんの評価、償却期間の決定は慎重に行う必要があります。

終わりに

以上、のれん償却について概要をご紹介しました。

日本国内では中小企業を中心に、M&Aによる業界再編が加速すると予想されています。その中で超過収益力が大きな優良企業の買収が進めば、のれんの金額は大きくなっていきます。

国際会計基準と違い、日本会計基準ではのれんを規則的に償却していくため、のれんが大きくなればなるほど、その償却額も増えていきます。

したがって、事業計画や収益の予測には、必ずのれん償却を組み込んでおく必要があります。

のれん償却が営業利益に大きなインパクトを与え、最終的には企業の株価や資金調達力にも影響を及ぼすリスクを考えると、M&Aを検討する段階から専門家を交え、M&A後の「のれん償却」について十分に考慮しておくことをおすすめします。

日本M&A センターではM&A に精通した公認会計士・税理士を多数擁しています。また、過去の膨大なM&A ディールから得られるナレッジ・ノウハウ・統計データ等を活用することにより、高い品質で安心・安全なM&A を実現するよう取り組んでいます。

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監修

山崎 祐慶

山崎やまざき 祐慶ゆうけい

企業評価総合研究所 /公認会計士

大手監査法人、税理士法人(FAS事業部)でのDD・バリュエーション業務等を経て、2015年日本M&Aセンターへ入社。 累計関与案件1,000件超の経験をもとに、M&A実務の教育研修活動を社内外で行うなど、M&A業界全体の品質向上に精力的に取り組んでいる。 2024年4月より現職。

佐潟 直弥

佐潟さがた 直弥なおや

日本M&Aセンターコーポレートアドバイザー2部/公認会計士

大手監査法人を経て、2023年当社へ入社。監査法人では11年にわたり、上場企業、外資系日本子会社のIFRS/US/日本基準のパッケージ監査、 PCAOB監査業務にマネージャーとして従事し、新規監査ツール開発部署の業務も兼務。

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