外食業界に起きたМ&Aの3つの波

高橋 空

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高橋空

日本M&Aセンター業種特化2部/食品業界専門グループ

業界別M&A
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株式会社日本М&Aセンター食品業界専門グループの高橋です。
当コラムは日本М&Aセンターの食品業界専門グループのメンバーが業界情報を執筆しております。
今回は高橋が「外食業界に起きたM&Aの3つの波」についてお伝えします。

大手の市場占有化が加速する外食業界

業界再編というキーワードを最近よく耳にするが、個人店などが多い外食業界はあまり関係ない話ではないか?

このように思われている外食業界の経営者は多いのではないかと思います。しかし、公益財団法人食の安全・安心財団が公開している外食業界の市場規模と外食上場企業の各社IRから、毎年の外食業界の売上高上位10社の市場規模に対する占有率を調査した結果、2000年当時4%だった市場占有率が、2020年には13%となっており、外食業界も着実に業界再編が進んでいるのです。

■上位10社の市場占有率
出典:一般社団法人 日本フードサービス協会「外食産業市場規模推移」、各社IR情報より日本M&Aセンター作成

外食業界における上位企業の市場占有率が上がっている理由として、2つの要因が考えられます。

①新規参入プレイヤーが減少、市場撤退プレイヤーの増加

1971年からの脱サラブームで、外食などの娯楽産業で起業をするサラリーマン等が増加し、個人店といわれる飲食店が増加した。

しかし近年は1995年からのネット起業ブームなどに始まり、IT業界などでの起業が主流となり、外食業界で起業するプレイヤーは以前と比べると減少していった。

それに付随して、1971年頃から外食業界の市場規模がピークとなる1996年までに、続々と起業していったプレイヤーが高齢化等に伴い、近年は市場から撤退する動きも加速していくことになります。

結果として、新規参入のプレイヤーが減少し、市場から撤退するプレイヤーが増加することとなり、外食産業の中心的存在であった個人店などが減少し、代わりに大手資本の飲食店が増え、市場シェアが大手企業に寄っていったと想定されます。

②外食業界におけるM&Aの日常化

レコフM&Aデータベースによると、2002年~2021年の20年間で外食業界のM&Aは公表ベースで700件以上行われており、外食業界においてM&Aが日常化していった。

大手外食企業を中心として、多く会社がグループ体を形成していき、大手の市場占有率が高まっていくこととなります。

それに伴い、業界内での売上高の序列も変化することとなるが、以下からは、外食業界におけるM&Aの3つのブームについて解説する。

■外食M&Aの推移
出典:レコフM&Aデータベースより日本M&Aセンター作成

第一次外食M&Aブーム(2004年~2008年)

外食業界におけるM&Aブームはどのような状況で起こるのでしょうか?
2004年からの第一次外食M&Aブームは以下のような背景で発生しました。

1997年11月に起こった、三洋証券、北海道拓殖銀行、山一証券などの経営破綻に伴う金融危機に伴い、それまで安定して市場規模を増加させていっていた外食業界は、2005年まで毎年平均3%市場規模を縮小させ、2004年に国内の人口がピークに達したことにより将来的な市場の拡大の見通しも悪くなり、冬の時代が到来しました。

それに伴い、外食業界の企業間でのマーケットシェアや人材、物件の取り合いが激化。更には売上減少に伴うコスト削減や新規市場への参入が急務になる中で、M&Aが注目されるようになる。
第一次M&Aブームの特徴としては、以下の3つが上げられる。

①M&Aによるグループ規模拡大戦略を行う企業の出現

ゼンショーやコロワイド、ジーテイストなど、自社で開発した業態の展開だけでなく、M&Aによるグループ規模の拡大を主要戦略として位置づける企業が続出していった。
ゼンショーは当時の外食業界を象徴する企業のM&Aを積極的に行い、2010年にはそれまで、国内外食業界首位であった、日本マクドナルドホールディングスの売上高を追い抜く形となった。

【ゼンショーの主なМ&A】
2000年 ココスジャパンを譲り受け
2001年 牛庵を譲り受け
2002年 ココスジャパンがビッグボーイジャパンを譲り受け
2005年 なか卯を譲り受け
2006年 米国内におけるココスレストランを展開する企業を譲り受け
2007年 ジョリーパスタを譲り受け
2008年 華屋与兵衛を譲り受け

②外食市場から周辺市場への参入

外食市場が縮小していく中で、外食市場以外への市場にチャレンジしていく動きも加速していくこととなります。

代表的な事例としては、レインズインターナショナルによる、エーエム・ピーエム・ジャパンや成城石井の買収です。
当時レインズインターナショナルは飲食店経営で培ってきた商品開発ノウハウやフランチャイズ展開ノウハウを活かし、小売市場に参入するという動きを行っていきました。

③PEファンドによる大手外食企業の活性化

それまで外食産業に対してあまり目立った動きの無かったPEファンドが、現在を代表する外食企業へ介入していき外食業界を活性化させていきました。

主な事例としては、

  • 【売り手】すかいらーく×【買い手】CVCキャピタル・パートナーズ
  • 【売り手】コメダ×【買い手】アドバンテッジパートナーズ
  • 【売り手】あきんどスシロー×【買い手】ユニゾン・キャピタル

など、これまで外食業界にはあまり馴染みの無かったPEファンドとの資本提携を耳にするようになったのもこの時代です。

第二次外食M&Aブーム(2016年~2020年)

2016年からの第二次外食M&Aブームは以下のような背景で発生しました。

2003年に政府はビジット・ジャパン・キャンペーンを立ち上げ、国を挙げて観光の振興に取り組み、観光立国を目指す方針を示しました。
それから10年たった2013年に訪日外国人客数が目標であった年間1000万人を突破すると、新たに2020年までに2000万人、2030年までに3000万人にするという目標が掲げられます。同年に2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催が決定し、円安も追い風となり、2015年には訪日外国人客数1973万7000人を記録。
2000万人まであと一歩に迫ると同時に、大阪万博が開催された1970年以来45年ぶりに、入国者数が出国者数を上回った。縮小傾向だった外食市場はインバウンド需要の増加により、2013年増加傾向へと反転しました。

一方で国内人口減少に伴う人材不足、物件不足などで出店が鈍化していったのもこの時期です。更には消費者のニーズが多様化していったことにより、総合型の業態から専門性の高い業態が求められ、業態開発の難易度が上がっていきました。

この時代において、譲受け企業においてはポートフォリオを強化するためのM&Aが増加し、譲渡企業においても成長戦略型のM&Aという概念が普及していったことにより、M&Aが活性化していったのです。

①単一業態多店舗展開から多業態多店舗展開の主流化

ポートフォリオ経営の加速
これまでは、単一業態を国内に何百店舗展開するという単一業態多店舗展開が主流戦略でしたが、この時代は消費者のニーズが多様化し、移り変わりも早くなり、展開できる物件も限定的になったことに伴い、多業態多店舗展開のポートフォリオ経営を取り入れる企業が増加していきました。

単一業態多店舗展開は、業態に合った物件を取得するという、業態ありきの戦略であったものが、多業態多店舗展開は出てきた物件に対して、その物件にあった業態を展開するといった、これまでとは発想を逆転させたものです。

ポートフォリオ経営とは

このポートフォリオ経営を積極的に取り組んでいたのが、クリエイト・レストランツ・ホールディングスであり、「グループ連邦経営」を掲げ、数多くのМ&Aを実行しました。

クリエイト・レストランツ・ホールディングスのМ&A

②成長企業における成長戦略型のM&A

当時のM&Aのイメージはまだまだ、後ろ向きなイメージが拭えなかった中で、30代~40代の若手経営者が自身の会社を成長させるために、大手との資本提携を目論む成長戦略型のM&Aという概念が普及していきました。

特に、外食経営においては店舗数が30店舗近くになると、人事・財務など管理コストが増大し、新規出店に偏った投資が困難になり、利益率が急激に減少していく傾向にあり、これまで培ってきた経営ノウハウだけでは、乗り切ることが困難な“崖”が経営者の前に立ちはだかることがあります。

30店舗の崖

そういった中で、2017年には立ち飲み居酒屋の急成長中ブランドの「晩杯屋」をМ&A当時25店舗展開していたアクティブソースと、関西の有名ラーメンチェーン「ずんどう屋」をM&A時に30店舗展開していたZUNDが、成長戦略型のM&Aを目論み、丸亀製麺などを展開するトリドールの傘下に入る選択を行いました。

両ブランドともM&A後に約2倍近く店舗数を増やすなど、1社単独では難しい世界観を大手の資本を活用することで実現させています。

③PEファンドによる中堅企業への投資が加速

それまでのPEファンドは比較的規模の大きな会社への投資が中心であったが、国内におけるPEファンドの数の増加などに伴い、中堅企業への投資が加速していき、外食経営のプロ化が加速していった時代であるともいえる。

PEファンドによる中堅企業への投資事例

出典:レコフM&Aデータベースより日本M&Aセンター作成

第三次外食М&Aブームは到来するのか?

2021年はコロナショックの影響で外食業界のM&Aは激減したものの、2022年はコロナ前と同水準程度に回復傾向にあります。

未だかつて経験したことのない、環境下におかれた外食業界において、何をすべきか?ということが定まっていなかったため、M&Aなどの大型投資は控えめな傾向であったが、2022年に入りジリ貧な環境下からの脱却を目論み新しい時代への体制構築を目的としたM&Aが行われるようになり、今後も増加傾向に入るではないかと推測されます。

2022年に行われた事例をいくつかピックアップします。

①既存事業の深堀に向けたサプライチェーンの強化

  • 【売り手】建部食肉産業(食肉加工)×【買い手】木曽路
  • 【売り手】綜合食品(水産卸)×【買い手】SANKO MARKETING FOODS
  • 【売り手】松屋栄食品本舗(調味料・総菜)×【買い手】ブロンコビリー

など、自社の主要業態のサプライチェーンの強化を行い、商品力の強化と内部コストの削減などを行うことで、既存業態やこれから展開する業態のコアコンピタンスを高める動きが活発的に行われていった。

②既存領域の拡張とポートフォリオの見直し

鳥貴族ホールディングスがサントリーホールディングス子会社の全国約500店の「やきとり大吉」を展開するダイキチシステムの譲り受けを行いました。

鳥貴族ホールディングスは、「焼鳥屋 鳥貴族」と「やきとり大吉」はともに焼き鳥を中心とした飲食店だが、出店立地・主要顧客層が異なるため両ブランドの共存できるとしています。

今回の子会社化で小~中商圏における店舗網を確保することができ、さらには焼き鳥飲食店の運営に係るあらゆる共通点、同社のフランチャイズノウハウ、両社の独立制度などを生かしたい考えのものとM&Aが実行されました。

更に、クリエイト・レストランツ・ホールディングスは日本たばこ産業の子会社のベーカーチェーンを運営するサンジェルマンの譲り受けを行った。

クリエイト・レストランツ・ホールディングスは、2021年7月に掲げた中期経営計画において「アフターコロナを見据えたポートフォリオの見直し」を第一の柱と定め、「日常」、「定番」、「地域密着」をキーワードに新たなポートフォリオの獲得を目指しており、それに伴いサンジェルマンの譲受を行いました。

このような既存領域の拡張とポートフォリオの見直しに向けたM&Aは今後も増加していくのではないかと考えられます。

③食のベンチャー企業のイグジット

コロナショックが与えた影響は必ずしも負の影響だけでなく、コロナショックが追い風となり急成長する企業も出現した。

その背景として、フランチャイズビジネスへの問い合わせ件数の増加、中食市場の拡大などが上げられ、このような時流を捉えた企業は短期間の間でビジネスを拡大させていった。

そういった中、この波を単発で終わらせるのではなく、永続的なものへと昇華させるために、自社単独で攻め切り急成長させていくのではなく、大手やファンドの資本を受け入れ守りの体制を構築するための食のベンチャー企業のイグジットも2022年は目立っているのです。

例えば、フルーツ大福弁才天を展開する「弁才天」がPEファンドに株式の過半数を譲渡した事例や、デリバリーブランドを複数展開する「バーチャルレストラン」がUSEN-NEXT HOLDINGSの子会社となった事例など、共に創業して数年でのM&Aと、非常に短い期間であるものの、急成長している現状に甘んじることなく、更なる安定的な成長を目指して、外部の資本を活用するといった取り組みが行われた。

時代の移り変わりが激しい現代においては、このようなアーリーイグジットの事例は今後も加速していくのではないかと考えられます。

コロナの終焉・インバウンド需要の回復など、これから市場が明るくなる要素を多分に含んでいる外食業界においては、市場の回復に伴い、この勢いで第三次М&Aブームが起こるのではないかと想像をしています。

いかがでしたでしょうか?
食品業界のM&Aへのご関心、ご質問、ご相談などございましたらお問い合わせを頂ければ幸甚です。
買収のための譲渡案件のご紹介や、株式譲渡の無料相談を行います。
また、上場に向けた無料相談も行っております。お気軽にご相談ください。

著者

高橋 空

高橋たかはし そら

日本M&Aセンター業種特化2部/食品業界専門グループ

1991年9月、神奈川県生まれ青山学院大学経営学部卒業後、株式会社船井総合研究所にてフードビジネス専門のコンサルティングに従事した後、日本M&Aセンターに入社。食品業界専門グループにて、食のベンチャー企業のイグジット支援から創業100年を超える老舗企業の事業承継支援まで幅広くM&A支援に携わる。

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