食品卸売業界における変化とこれから求められること
⽬次
- 1. 食品卸業界で起こっている変化
- 2. 現代食品卸業界の課題
- 3. 加速するフルファンクション化
- 4. 2020年食品卸売業のM&A事例
- 4-1. 著者
こんにちは。(株)日本М&Aセンター食品業界支援室の高橋です
当コラムは日本М&Aセンターの食品専門チームのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。
今回は、食品卸売業界における変化とこれから求められることついて執筆させて頂きます。
食品卸業界で起こっている変化
日本の流通ビジネスは、卸売業という存在なしには語ることはできないものかと思います。
卸売ビジネスの仕組みは江戸時代から存在し、呉服や米などの生活物資は、大阪など中央都市の問屋→消費地の問屋→小売商人という、商品流通の仕組みが既に出来上がっており、アメリカや主要先進国に比べて早い段階で、生産者,卸,小売業という、垂直型のサプライチェーンが構築されていました。
卸売業が存在する理由としては
- 生産者と小売業者が多数で分散的であればあるほど、卸売業者の媒介による取引効率化の影響が大きい。
- 在庫を小売業者が分散的に保有するよりも、卸が集中的に保有したほうが少ない在庫で済む。
上記2点が大きな理由であり、中小企業が多い日本にとっては必要不可欠な存在として見られていました。
現代食品卸業界の課題
※上場企業各社の決算発表をもとに、株式会社日本M&Aセンターにて作成
※CAGR: 年平均成長率のことで複数年の成長率から、1年あたりの幾何平均を求めたもの。
- 小売業を中心に業界再編が加速しプレイヤー数が減少
- 小売業のPB品強化などによる介在余地の減少
- 人口減少などに伴う売上の伸び率の鈍化
- 人手不足に伴う物流費・人件費の高騰
- 卸売業と小売業のパワーバランスが逆転による収益性の悪化
上記など様々な逆風の中で、上場企業であってもコロナ前で売上年平均成長率3%未満、営業利益率1.5%未満が相場と非常に苦しい戦いを強いられています。
###インバウンド等の後押し
その一方で、近年の食品卸市場の推移は経済産業省の商業動態統計によると、食品卸業の市場はバブル崩壊の翌年以降から減少傾向にあったが、直近はインバウンド等が後押しとなり、2020年にはコロナショックによる内食需要の増加に伴いリーマンショック前の市場規模の水準となりました。
※経済産業省:商業動態統計より株式会社日本M&Aセンターが作成
市場が回復傾向にあるにも関わらず、前述させて頂いた外部環境の変化により収益性が向上しないため、多くの食品卸売企業はこれまでのビジネスの在り方から根本的に見直しをしていく必要性が生じてきています。
加速するフルファンクション化
このような厳しい環境の中で、大手食品卸が特に注力しているのが「フルファンクション化」です。
具体的には自社が取り扱える商品を増やし顧客に対する介在価値を上げるための「商品のフルライン化」や、生産・製造・物流などを自前で保有、DX(デジタルタルトランスフォーメーション)等によるサプライチェーンの効率化に伴うコスト削減を狙う「サプライチェーンの一元化」などがあげられます。
特に「商品のフルライン化」は重要視されており、「大手メーカーでは出来ない品揃え機能、大手小売では効率化できない品揃え機能」を持っているかどうかが食品卸売業としてのキーサクセスファクターとなってきています。
大手食品メーカーは多品種化、総合化を進めている一方で、主力商品以外はOEM生産が多く、すべての商品カテゴリーをカバーしているわけではありません。
また、大手小売業者が生産者との直接取引もしくは内製化を拡大しつつありますが、高い売上比率、高商品回転率、顧客吸引力の高い商品についてのみであり、売上規模が小さく商品回転率の低い多数の商品について生産者との直接取引もしくは内製化を行うことは効率的ではない側面があるため、ここにこそ食品卸売業の介在余地があります。
そのため「商品調達力の強化」こそ多くの食品卸売企業にとって今一度見直しが必要になっています。
「商品調達力の強化」のためには、全国各地の生産者・メーカーから様々な商品を仕入れられるリレーションの強化が必要である一方でこの取り組みには多大な時間と労力が必要となります。そのような課題を解決するために、М&A戦略が注目されており、同業同士もしくは食品製造業とのМ&Aが加速してきています。
中小企業においては1社単独ではこれらの課題を解決することが難しいため、大手や地場の中堅企業の傘下入りすることによりこれらの課題を解決し、成長を加速させるといった前向きな姿勢でのМ&Aが行われています。
2020年食品卸売業のM&A事例
2020年の食品卸売業界M&Aにおいて、象徴的であったのが西原商会によるМ&Aです。
西原商会は、鹿児島県鹿児島市に本社を置く業務用食品卸の企業で、「自ら作り、自ら仕入れ、自ら届ける。」といった一貫体制を強みに急成長しています。
その根幹になっているのが
- 商品を仕入れて販売するという商社機能(国内に60ヶ所・海外に5ヶ所の拠点を構え、10万点のアイテムを取り扱ってる)
- 自社工場でものづくりをおこなうメーカー機能(九州近郊や中四国、東海、関東、甲信越に合計18社20工場を構え、他にないオリジナルの商品開発と製造に取り組んでいる)
上記2点であり、これらを実現するためにМ&Aを積極的に活用しており、2020年コロナの影響を大きく受けていますが4件のM&Aを実行されております。
※株式会社西原商会ホームページより株式会社日本M&Aセンターが作成
2020年西原商会が実行したМ&Aは以下の通りです。
- 草加葵:1916年設立の埼玉県の企業でМ&A時の売上高約14億円。米菓、和菓子製造のほか、直営店などを通じて販売も手掛けている。
- 龍屋物産:1970年創業の神奈川県の企業でМ&A時の売上高約8億円。ドライフルーツやナッツ類、海鮮系のおつまみなどを取り扱っている。
- 松山製菓:1950年設立の岐阜県の企業でМ&A時の売上高約8億円。スナック菓子のほか、錠菓、粉末ジュースの製造を手掛けている。
- はやしハム:953年設立の埼玉県の企業でМ&A時の売上高約9億円。流通業のプライベートブランド(PB)の業務委託、食品加工品メーカーへのOEM提供をメインに、開発から納品まで一貫して提供している。
これらは全て食品製造業であり、前述した「自社工場でものづくりをおこなうメーカー機能」の強化、つまり「商品調達力の強化」をM&Aによって他社との差別化を行い、コロナ禍だからこそ次世代で勝ち残れる体質づくりをされた戦略かと思います。
上場企業でさえ売上年平均成長率3%未満の業界において、急速的に成長している西原商会の事例は全ての食品卸売企業にとって参考になるものかと思います。
これからの食品卸業界においてМ&Aは切っても切れないものかと思いますので、これを機に勇気をもってM&Aの取り組みをスタートして頂ければと思います。
いかがでしたでしょうか?
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