今さら聞けない「PBR1倍割れ」とは?日本企業がとるべき対策は?

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2023年3月、東京証券取引所(東証)から「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」が発表され、上場企業の多くで「PBR1倍割れ」が起きていること、資本収益性や成長性の観点で課題があることなどが指摘されました。

東証が上場企業に対してこのような積極的な要請を行うのは異例として、大きな話題となりました。
そして、東証が指摘したさまざまな課題のなかでも、特に注目を集めているのが「PBR1倍割れ」問題です。

このコラムでは、「PBR1倍割れ」が何を意味するのか、どこが問題なのか、企業に求められている対策は何かなどの主要なポイントを解説します。

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「PBR1倍割れ」とはどういうこと?

「PBR」とは

PBR(Price Book-value Ratio)は 株価純資産倍率 とも呼ばれ、企業の株価と純資産の比率を指す指標です。
株価をBPS(Book-value Per Share)で割ることで算出することができます。
BPSは純資産を発行済み株式数で割った「一株当たり純資産」を指します。

PBRの計算式

この記事のポイント

  • 2023年3月、東京証券取引所は「PBR1倍割れ」の問題を指摘し、上場企業の資本収益性や成長性に課題があると報告した。
  • 「PBR1倍割れ」とは、企業の株価が純資産を下回り、解散価値が株式価値より高いと評価される状態で、成長に対する市場の期待が低いことを示す。
  • 企業は成長投資や事業ポートフォリオの見直し、ガバナンス向上などの対策を講じる必要があり、定期的なポートフォリオ再編が企業価値向上に寄与する。

⽬次

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「PBR1倍割れ」は何が問題なのか

「PBRが1倍を上回る」ということは、企業の資産が付加価値を生んでいる状態と言えます。

一方、「PBRが1を割る・下回る」ということは、理論上は株式価値よりも解散価値の方が高い、今後事業継続して得られる価値よりも、会社が解散した場合に株主に分配される金額が高いと評価されてしまっているということになります。

つまり、現状では今後の成長に対して市場の評価・期待が低いことの表れとも言えます。

PBR1倍割れが問題となっている背景

東証改革の一環としての「PBR1倍割れ」指摘

東証は世界における東証の国際競争力を高め、海外投資家を呼び込むため、2022年4月の市場区分の再編をはじめ、さまざまな改革に取り組んできました。

各市場の上場基準・上場維持基準等を見直し、市場の移行を進めました。
上場企業に対しては、持続的な成長と企業価値向上のための取り組みや、投資家との対話を促しています。

「PBR1倍割れ」の指摘・改善要請も、そうした東証改革の流れの一環と考えることができます。

東証は、対象企業に対して、改善の方針を示すこと、そして進捗を開示することも求めています。

また、対応を進めている企業の状況を投資家に周知し、企業の取り組みを後押しする観点から、
年明けをめどに、要請に基づき開示している企業の一覧表を公表するとしています。

参考:東京証券取引所上場部「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議 第12回資料」(2023年10月11日)

世界と比べてみた「PBR1倍割れ」現象

前述の東証発表のなかでも、日本国内の上場企業はプライム市場でも約5割、スタンダード市場でも約6割の企業がPBR1倍割れの状態であることが指摘されました。

欧米の主要マーケットと比較しても、顕著にその割合が多いことが分かります。(下図)

出所:東京証券取引所上場部「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議第五回参考資料」(2022年12月28日)より、日本M&Aセンター作成

特に、日本の上場企業は多角化企業・大企業になるほど経営効率・収益率に問題があるのではないかという指摘もあります。

下図のように売上規模と多角化のレベル別に営業利益率を比べてみると、米国や欧州と比べて日本企業の営業利益率が相対的に低いことが分かります。

営業収益率比較
参考:経済産業省「第1回事業再編研究会(2020年1月31日)」資料より日本M&Aセンター作成

「PBR1倍割れ」解消へ 対策・改善策

「PBR1倍割れ」への具体的な対策の種類はさまざまですが、主な取り組みとしては以下が挙げられています。

  • 成長投資
  • 株主還元策(自社株買いなど)
  • サステナビリティ対応
  • 人的資本投資
  • 事業ポートフォリオ見直し
  • 政策保有株(株式持ち合い)の縮減
  • ガバナンス向上
  • IRの強化

参考:東京証券取引所上場部「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議第11回資料」(2023年8月29日)

これらの「PBR1倍割れ」対策の多くは、企業の資本収益性、あるいは株価や市場評価にアプローチするものですが、やはり中長期的な企業価値の改善につながる本質的な取り組みが欠かせません。

なかでも、グループ企業や多角化企業が今取り組むべき課題として注目が集まっている、「事業ポートフォリオ見直し」について、簡単にご紹介していきます。

「PBR1倍割れ」への根本対策、事業ポートフォリオ変革のススメ

「事業ポートフォリオ見直し」とは

事業ポートフォリオとは、企業の事業の一覧・組み合わせを指します。
企業が所有する事業を適正に評価し、戦略に沿って組み替えていくことを「事業ポートフォリオを見直す」「事業再編」などと言います。

事業ポートフォリオ変革がなぜ「PBR1倍割れ」対策になるのか

下図は「PBR1倍割れ」改善に有効と思われる主要な施策をマッピングしたものです。
PBR改善策のマッピング
出所:加来一郎. 坂上隆二. 企業価値を高める事業ポートフォリオ強化. 中央経済社 Accounting 企業会計 2023年8月号 より日本M&Aセンター作成

不採算事業からの撤退や、M&Aを含む成長分野への投資など、事業ポートフォリオの見直しを起点とした「選択と集中」の取り組みが、株価収益性(PER)と資本収益性(ROE)の両面に対して改善効果を発揮することが分かります。

四象限フレームワークの活用

事業ポートフォリオ見直しは、自社の現状を把握することから始まります。

各事業または事業セグメントの分類に使えるフレームワークの一つが、四象限フレームワークと呼ばれるものです。

経済産業省がまとめた「事業再編実務方針」(事業再編ガイドライン)でも、成長事業、現在の主力事業、成熟事業、低収益・低成長の旧来事業に分類する手法が紹介されています。

以下は、日本M&Aセンターにて用いているフレームワークの一例です。
戦略適合性・収益性の二軸を用い、積極投資が必要な成長分野、再構築が必要なノンコア分野を明確にすることができます。

四象限フレームワーク
右上から①戦略性・収益ともに高い「主力事業」、②主力ではないが収益力が高い「キャッシュ創出事業」、③収益が不十分だが戦略的に重要な「成長事業」、④戦略性・収益ともに低い「再構築事業」の四つに分類

日本M&Aセンターでは、顧客企業の業態や規模、課題などに沿って、オーダーメイドのポートフォリオ診断・コンサルティングサービスを提供しています。
また、特定の子会社や事業の売却や切り離しのシナリオや論点にフォーカスした分析も行います。

ノンコア事業の切り離し➡注力領域への投資のサイクル

積極投資が必要な成長分野、再構築が必要なノンコア分野を明確にすることで、ノンコア事業の切り離しや、成熟事業から得られる収益や売却益を、成長分野への投資に回していくといった積極的なポートフォリオ戦略を描くことが可能になります。

新たな成長の芽に投資し、主力に育てる。その一方で過去の買収案件や新規事業なども含めたノンコア事業や不採算分野の再編を果断に決断していく

そうした事業ポートフォリオ見直し・再編のサイクルが定期的に行われ、企業価値を高めていくのが、理想的なポートフォリオ経営の姿と言えます。

経産省の「事業再編実務方針」では、持続的な成長のための事業再編が進むよう、経営陣や取締役(特に社外取締役)、投資家の役割についても解説しています。

まずは事業ポートフォリオ総合分析から

日本M&Aセンターでは、上場企業向けに事業ポートフォリオ見直し支援サービスを行っています。

2020年より本格的に開始し、2023年4月には、専門スタッフからなる「成長戦略開発センター」を設立し、サービスを一段と強化しています。
今年度も既に100社以上の上場企業にて、サービスをご利用いただいています

グループ全体を総点検できる「事業ポートフォリオ総合分析」では、なかなか目が行き届かないグループ全体の事業について、注力領域/非注力領域を明確化。
「選択と集中」の進め方、売却あるいは買収先候補まで具体的にシミュレーションしていきます。

特定の子会社や事業についても、「カーブアウト個別分析」で売却や切り離しのシナリオを詳細にアドバイスいたします。

今なら、ご相談はもちろん、ポートフォリオの簡易分析等を無料で受けられます
お気軽にご相談ください。

著者

M&A マガジン編集部

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