2022年 食品業界のM&A 回顧と展望
⽬次
- 1. はじめに
- 2. 地域密着型企業のM&A
- 2-1. 【譲渡企業】La Madragu(喫茶店)×【譲受け企業】サンマルクホールディングス
- 2-2. 【譲渡企業】柏又(鰻屋)×【譲受け企業】鮒忠
- 2-3. 【譲渡企業】プラチノ(洋菓子店)×【譲受け企業】ホワイエ
- 2-4. 【売】松月堂(和菓子店)×【買】鈴木栄光堂
- 3. 事業承継プラットフォーマーの躍進
- 3-1. ヨシムラ・フード・ホールディングスのM&A
- 3-2. まん福ホールディングスのM&A
- 4. 外食企業のサプライチェーンの強化
- 4-1. 【譲渡企業】建部食肉産業(食肉加工)×【譲受け企業】木曽路
- 4-2. 【譲渡企業】松屋栄食品本舗(調味料・総菜)×【譲受け企業】ブロンコビリー
- 4-3. 【譲渡企業】綜合食品(水産卸)×【譲受け企業】SANKO MARKETING FOODS
- 5. 食のベンチャー企業による成長戦略型M&A
- 5-1. 【譲渡企業】バーチャルレストラン(フードデリバリー)×【譲受け企業】USEN-NEXT HOLDINGS
- 5-2. 【譲渡企業】SHI-MIZU(お芋スイーツ)×【譲受け企業】起源ホールディングス
- 6. まとめ
- 6-1. 著者
こんにちは。(株)日本M&Aセンター食品業界専門グループの高橋です。
当コラムは日本M&Aセンターの食品業界専門グループのメンバーが業界の最新情報を発信しています。
今回は高橋が「食品業界の2022年の振返りと2023年の展望」についてお伝えします。
はじめに
レコフM&Aデータベースによると、12月22日時点の2022年の食品業界のМ&Aの件数(「食品」「外食」「スーパー」「買収」「合併」「事業譲渡」の条件にてカウント)は前年と比べて約20%減少した結果となりました。
2022年は新型コロナウイルス感染拡大に伴う行動制限の緩和により、マーケットの回復も期待されていました。ただロシアによるウクライナ侵攻や円安による輸入品価格の高騰で様々なコストが上昇していくなど、先行き不透明感が強くなったため、保守的な行動をせざるを得ない環境下にあったため、М&Aの件数は減少傾向になったと想定されます。
一方で、外食業界においては、譲渡実施企業が前年の約30%増、譲受実施企業が前年の約20%増など、新型コロナウイルス感染拡大前の水準に戻りつつあります。
ゼロゼロ融資の返済期日が始まり、企業としてこれまでのやり方から抜本的にシフトチェンジしなければなりません。事業の存続と発展が危ぶまれる企業が多いなかで、そういった危機感が強い外食業界においては、現状打破のためのМ&Aが活発に行われたと想定されます。
このような全体感の中、2022年の食品業界ではどのようなM&Aが行われたのでしょうか?
2022年食品業界の中でも注目すべき事例を4つのカテゴリーに分けて紹介をさせて頂きます。
地域密着型企業のM&A
地域に密着する企業が、事業承継問題の解決や、地域で培ってきたブランド力・味をより広く世の中に広げていくためのM&Aが行われました。
【譲渡企業】La Madragu(喫茶店)×【譲受け企業】サンマルクホールディングス
La Madraguは2017年に設立した、食べログ百名店に選ばれた実績を持つ、「喫茶マドラグ」を関西圏で直営4店舗展開している年商約1億の企業。サンマルクホールディングスはこれまでのブランドで培った店舗展開ノウハウや経営資源を活用し、「喫茶マドラグ」事業の拡大を目指すM&Aとなりました。
【譲渡企業】柏又(鰻屋)×【譲受け企業】鮒忠
柏又は1870年に創業した、老舗の鰻屋であり、名だたる文豪等が通っていたお店。事業承継に課題を抱えていたなか、同じく鰻に強みを持ち、外食事業、食品卸売事業、割烹店舗事業の3つを基幹事業として展開して鮒忠が譲り受け、老舗鰻屋の技術の伝承と鮒忠グループのポートフォリオの強化を目指すM&Aとなりました。
【譲渡企業】プラチノ(洋菓子店)×【譲受け企業】ホワイエ
プラチノは1991年に設立した、洋食店であり、チーズケーキ「アンジュ」がロングセラー商品となっている企業。後継者不在であった中、ホワイエはライン生産が可能な工場設備を持っており、実店舗による自社製品販売とブランド力の強化を推進するためのM&Aとなりました。
【売】松月堂(和菓子店)×【買】鈴木栄光堂
松月堂は1907年に創業した、岐阜・中津川の代表銘菓「栗きんとん」を販売する年商約3億の和菓子企業。鈴木栄光堂は年商約110億の企業。グループ全体で全てのスイーツ製品が製造できるオンリーワン企業として、顧客のニーズにワンストップで応えられる商品作りを進めるためのМ&Aとなりました。
事業承継プラットフォーマーの躍進
事業承継を目的とした企業による、積極的なM&Aにより、既存の業界勢力図とは違った形でのグループ形成が加速していきました。
ヨシムラ・フード・ホールディングスのM&A
ヨシムラ・フード・ホールディングスは、2008年に設立した、後継者不足などの問題を抱える中小食品企業のグループ化を進めることを目的としている上場企業です。
▽ヨシムラ・フード・ホールディングスが譲受けた企業
林久右衛門商店(削り節)
林久右衛門商店は1885年に創業した、最中に入った吸物を主力商品とし、削り節、だしの製造加工・販売を行う、年商約12億の企業。
丸太太兵衛小林製麺(餃子の皮等)
丸太太兵衛小林製麺は1979年に創業した、餃子の皮の製造、たれなど調味料の販売を行う、年商約6億の企業。
細川食品(冷凍食品)
細川食品は1963年に設立した、国産野菜を使用したかき揚げ、チヂミなどの冷凍総菜や赤飯などの冷凍米飯製品を製造する、年商約21億の企業。
小田喜商店(栗加工品)
小田喜商店は1971年に設立した、栗・和洋菓子向け栗加工品・製菓原料など製造を行う、年商約4億円の企業。
これらの企業のM&Aはヨシムラ・フード・ホールディングスの経営ノウハウや中小企業支援プラットフォームを活用し、グループの食品メーカー各社との相乗効果を生み出すためのM&Aとなりました。
まん福ホールディングスのM&A
まん福ホールディングスは、2021年に設立した、「うまい」でこの星をしあわせ一杯に。をミッションとする食に特化した事業承継を行う企業です。
▽まん福ホールディングスが譲受けた企業
札幌海鮮丸(宅配寿司)
札幌海鮮丸は北海道内に直営・FC合わせて51店舗、道内宅配寿司チェーン店舗数No.1を誇る企業。まん福ホールディングスはオペレーションの改善とシステムの開発、新商品開発などによるリブランディングと北海道ブランドとしての認知向上、店舗開発の強化と東京進出も含めた新たな立地創造の3点を軸に置き、競合との差別化を進めるためのM&Aとなりました。
オグラドルフィン(唐揚げ専門店)
オグラドルフィンは、唐揚げ専門店「おぐらの唐揚」を運営しており、熊本県内に9店舗を展開している企業。まん福ホールディングスは店舗オペレーション改善や仕入れの工夫による既存商品の「うまい」の追求とサービスレベルの向上、差別化と新規顧客開拓に繋がる新商品開発、全国への出店戦略による販路の拡大の3つを軸に成長を目指すМ&Aとなりました。
ハッピー商会(食肉加工)※まん福ホールディングスの傘下浜田屋が譲受け
ハッピー商会は食肉加工品の製造、販売を行い、店舗では精肉のほか惣菜も常時約30種類を取り揃えている企業。浜田屋は同じ神奈川県の企業で、仕出し弁当屋「ちがさき濱田屋」を運営をしており、肉商品の強化、新商品の発売と地域に根差した経営活動を目指すM&Aとなりました。
外食企業のサプライチェーンの強化
新型コロナウイルス感染拡大の影響でビジネスモデルの在り方の見直しを余儀なくされた外食業界において、サプライチェーンの強化を行うことで、内部コストの削減、調達力・商品力の強化等を目論む動きが加速していきました。
【譲渡企業】建部食肉産業(食肉加工)×【譲受け企業】木曽路
建部食肉産業は1985年に設立した、流通大手、学校給食、飲食店向けに食肉加工品を販売している、年商約9億の企業。木曽路は既存業態の今後の出店強化にあたり、衛生管理、品質管理が徹底された食肉を安定して確保するためのM&Aとなりました。
【譲渡企業】松屋栄食品本舗(調味料・総菜)×【譲受け企業】ブロンコビリー
松屋栄食品本舗は1976年に設立した、たれやドレッシングなどの調味料や惣菜を製造する年商約9億の企業。ブロンコビリーは①業容拡大に対応するための工場の能力の拡充、②新業態で提供するソースや総菜類の差別化の強化、③ソース・ドレッシング類の外部販売により自社ブランドの認知度の強化を目指すM&Aとなりました。
【譲渡企業】綜合食品(水産卸)×【譲受け企業】SANKO MARKETING FOODS
綜合食品は1947年に設立した、豊洲市場で7社しかない水産物卸売会社(大卸)の1社であり、年商約32億円の企業。SANKO MARKETING FOODSは豊洲市場の集荷・分配の機能を持つことで、水産事業6次産業化モデルの構築スピードを向上させ、市場取引に関わる荷主や顧客との太いパイプラインの獲得につなげるためのM&Aとなりました。
食のベンチャー企業による成長戦略型M&A
オンライン販売の一般化、SNSの盛り上がり、生活様式・消費者嗜好の変化などに伴い、新たなビジネスチャンスが生まれたことにより、若手起業家の台頭と急成長に伴うパートナー戦略を目的とした成長戦略型のM&Aが行われた。
【譲渡企業】バーチャルレストラン(フードデリバリー)×【譲受け企業】USEN-NEXT HOLDINGS
バーチャルレストランは2020年に設立した、フードデリバリーブランドのフランチャイズ事業を展開している、年商約5億円の企業。USEN-NEXT HOLDINGSはグループの販売チャネルを活用したバーチャルレストランの新規顧客開拓などによりシナジー効果を見込むM&Aとなりました。
【譲渡企業】SHI-MIZU(お芋スイーツ)×【譲受け企業】起源ホールディングス
お芋スイーツ専門店「高級芋菓子しみず」運営のSHI-MIZUは2018年にオープンして以来、全国に28店舗展開している企業。起源ホールディングスは高級食パン専門店「乃が美」の創業者である阪上雄司氏が設立した企業であり、これまで培ってきた展開ノウハウを活用して更なる発展を目指すM&Aとなりました。
ほかにも数多くのM&Aが行われてきましたが、中小企業のM&Aということに焦点を絞ると、上記4つのカテゴリーに集中していたのではないかと思われます。
まとめ
2023年は、①「外食業界は更にM&Aが活性化」し、②「2023年下期から市場の変化の度合いが緩やかになり、食品業界全体としてもM&Aに対して再度攻勢になる」ことで、2023年の食品業界のM&A件数は過去最高の水準になるのではないかと予測しております。
食品業界においては、非公表の事例も含めると年間300件以上のM&Aが行われています。
他社と協調しながら成長していくというのが“当たり前”になってきている中で、M&Aという視点で業界を見つめて頂き、自社が進むべき方向性の検討材料にしていただけたら幸いでございます。
いかがでしたでしょうか?
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