2022年の事例からみる食品卸売業界のM&Aと今後の展望
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株式会社日本М&Aセンター食品業界専門グループの下平 健正です。
当コラムは日本М&Aセンターの食品業界専門グループのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。
今回は下平が「2022年の事例からみる食品卸売業界のM&Aと今後の展望」というテーマでお伝えします。
2022年の食品卸売業界M&A事例
まず初めに、2022年の食品卸売業界のM&Aを代表する事例をご紹介します。
【売:外食】日本ピザハット・コーポレーション×【買:食品卸】ヤマエグループホールディングス(2022年8月)
ヤマエグループホールディングスは、福岡に本社を置き、総合流通業を行う売上5000億円を超える企業です。一般加工食品や菓子、酒類、冷凍食品はもちろん、飼料や畜産物、水産物など幅広い商品の流通を手掛けています。
日本ピザハット・コーポレーションは、お馴染みの「ピザハット」を全国で約500店舗展開し、ドミノピザやピザーラに次ぐ業界第3位の規模を持つ企業です。
投資ファンドのエンデバー・ユナイテッドから全株式を取得する形で、買収を実施しました。
ヤマエグループホールディングスは、主に九州を基盤としていますが、小売り分野などのM&Aを行うことによる事業の全国拡大と、ピザハットの買収で知名度を上げ、今後のM&Aの加速に繋げていこうという狙いかと思われます。
中期経営計画でも、M&Aによる新規事業分野への参入を掲げており、今後もさらにM&Aを加速していくものと思われます。小麦を扱った卸売業を行っていることから、シナジーも見込まれます。ヤマエグループホールディングスは、フードサービス事業への着手は初めてであり、どう相乗効果を引き出していくかが注目のポイントです。
【売:青果物卸】神果神戸青果×【買:精米卸】神明(神明ホールディングス)(2022年12月)
神明ホールディングスは、1902年創業で精米卸売業を行う神明に始まり、今では川上から川下まで幅広く事業を展開する企業です。
神果神戸青果株式会社は、神戸市場本場、明石市場、尼崎市場を拠点として青果物の卸売業を行う企業です。卸売業者の企業が同業を譲受ける少ない事例の中の1つです。
集荷や物流を活用でき、それに伴う取扱数量の増加、取引高の拡大など、卸売業者のM&A件数は少ないですが、シナジーが相応に見込まれることは容易に想像できます。
2022年の事例からみる食品卸売業界のM&A
卸売業界において「仲介役」として介在価値を発揮できるかというテーマは、卸売業の永遠のテーマであると言われています。
一昔前は、情報のキャッチアップの早さへの希少性が高く、そこにマージンを乗せて商売を行うなどの介在価値がありました。しかし現代は、インターネットの普及に伴い、情報のキャッチアップが一般化しているため、マージンを乗せられず売上が低迷したり、取引先が川上の業者との直取引を行ったために中抜きされてしまったり、という話はよく聞きます。
一方で卸売業界のM&Aは、「仲介役」であるため、手を組む業種の選択肢の幅が広いとも言えます。同じ卸売業で未開拓地域の会社を買収する「面を取っていく」方法や、自社で製造機能を持ち付加価値を上げていく方法、より拡販する機能を持つために小売業と手を組むなど、方法は様々です。
出典:農林水産省「国内外における農産物流通等の状況に関する調査について」より日本M&Aセンターにて作成
レコフM&Aデータベースによると、1996年1月1日から2022年12月31日までの間に、食品卸売業の企業が譲渡した件数は94件、譲受けた件数は97件と公表されています。
他業種と比較してみると、食品製造業の企業が譲渡した件数は1112件、譲受けた件数は994件であり、外食の譲渡した企業の数は635件、譲受けた企業の数は522件であることから、食品卸売業界のM&A件数は比較的に少ないことがわかります。件数が比較的少ないのは、市場規模によるものが大きいと思いますが、一方で、着目すべきは「卸売業同士のM&A件数が少ない」という事実です。
出典:レコフM&Aデータベースより日本M&Aセンターが作成
(1996年1月1日から2022年12月31日)(食品, スーパー, 外食、買収・事業譲渡(営業譲渡)にて抽出)
食品卸売業の会社は、食品製造または外食の企業を譲受けるケースがほとんど
1996年1月1日から2022年12月31日までの間に、食品卸売業の企業が譲受けた97件(公表ベース)のうち、約10%(9件)を西原商会、7件をアルビス、5件を神戸物産、5件を神明ホールディングス、4件をスターゼン、その他、複数回譲受けた企業が、5社と、複数回買収した企業が全体の40%弱を占めます。
上記に名を挙げた神戸物産までの3社が行うM&Aの中で、食品卸売業の企業を買収しているという事例は極めて少ないことがわかります(下記表を参照)。
出典:レコフM&Aデータベースより日本M&Aセンターが作成
(1996年1月1日から2022年12月31日)(食品, スーパー, 外食、買収・事業譲渡(営業譲渡)にて抽出)
公表されている97件を見ても、卸売業界の企業を譲受けるというケースはほとんどありませんでした。また、食品製造業や食品加工業を行う企業を買収するというケースが多いこともわかります。卸売業として、いかに介在価値を獲得していくかということを考えたときに、自社で製造機能を持つということがトレンドとなっています。
出典:レコフM&Aデータベースより日本M&Aセンターが作成
(1996年1月1日から2022年12月31日)(食品, スーパー, 外食、買収・事業譲渡(営業譲渡)にて抽出)
食品卸売業の会社が、食品製造業の企業を買収した事例として、2017年に起きたマルキュー食品(売:食品製造業)とニチモウ(買:生鮮魚介卸売)の資本提携をあげたいと思います。
ニチモウ株式会社は、日本を代表する水産物の専門商社です。マルキュー食品は、福岡で辛子明太子やたらこを製造販売する企業です。ニチモウグループの販売体制の増強が狙いと考えられています。
ニチモウグループは水産商社としての卸売機能のみならず、国内外の委託工場先で製品加工を行い、日本国内に広く展開しています。また水産系の食品のみならず、海上機械資材の販売や、漁網・漁具・各種ネットの販売、研究開発など、保有する機能は多岐にわたり、卸売業者としての介在価値が高い企業だと考えます。
まとめ
2022年の事例をもとに食品卸売業界のM&Aについて分析してきました。食品卸売業の会社が同業の会社を買うというケースは少なく、製造機能や加工機能を保有することが主流であることがわかりました。
「食品卸売業者としての機能を如何に増やせるか」が今後さらに重要になってくると考えます。これを機に我々と共にディスカッションを深め、M&Aを活用頂くきっかけにして頂けますと幸いです。
食品業界のM&Aへのご関心、ご質問、ご相談などございましたら、お問い合わせフォームにてお問い合わせを頂ければ幸甚です。
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