食べログ100名店の喫茶店のM&A ~真の事業承継とは~
⽬次
- 1. 事業承継に本気で取り組む食べログ100名店の喫茶店
- 2. 新しい力で次の時代を切り開く
- 3. サンマルクホールディングスにとっても歴史的なM&A
- 4. 非連続な成長のためにもM&Aを
- 4-1. 著者
日本M&Aセンター食品業界専門グループの渡邉です。
当コラムは日本M&Aセンター食品業界専門グループのメンバーが業界の最新情報をお届けします。
今回は2022年12月26日に予定されていた式会社La Madrague(京都府京都市)と株式会社サンマルクホールディングス(3395)のM&Aについて考えていきたいと思います。
事業承継に本気で取り組む食べログ100名店の喫茶店
今回のM&Aで譲渡した側となる株式会社La Madragueは非常に面白い業態です。
そのHPを見ると、並々ならぬ情熱を感じます。
一部抜粋させていただくと、下記のような取り組みを行っています。
『京都の街には脈々と続く伝統や工芸とはまた違う、市井の人々の文化交流の場として広く親しまれた喫茶店が多数存在しますが、そんな喫茶店が今、大きな岐路に立たされています。
経営者の高齢化や外資系カフェの進出で売上げ低下による経営難などの現状に対して、新しい戦略を経営に取り入れる事への資金投入が難しいうえに、体力的な問題など、喫茶店を取り巻く様々な問題の前に、歴史的にも重要な店がなす術もなくいつの間にか消滅し続けています。
このような状況の中「京都喫茶文化遺産チーム」は上記の様な「街に残していきたい喫茶店」を守り、受け継いで行く為に結成された団体です。
経営者の方とコミュニケーションを重ねながら、経営の引き継ぎや後継者の育成や派遣、それによって生まれる経営者への家賃収入や機材の買い取り等での体力面や精神面、資金面での支援をする事により、私達が過ごし癒されてきた喫茶店文化を保存し、今後も若い世代へバトンを渡し繋げて行く。決してレトロ喫茶等ではない「昔から続く伝統のある街の喫茶店」を残し、続けて行きたい。そう言う想いの元で活動しています。』
株式会社La Madragueが運営する喫茶マドラグは京都で長く続く名店からメニューを譲り受け、後世にその味を残す取り組みをしています。食べログの100名店にも選出されている京都を代表する喫茶の名店です。普段はメニューを「譲り受ける」側の彼らが企業を「譲り渡す」背景には、どのような想いがあったのでしょうか。
新しい力で次の時代を切り開く
マドラグのオーナーの山﨑三四郎裕崇氏は様々なメディアでインタビューを受けています。それらを見ると、彼らが大切にしていることが見えてくる気がします。様々なカフェがオープンするなど、いつしか若い世代からの支持率が低くなってしまった喫茶店。ただ、喫茶店の世界には独自の古き良き残すべき文化が存在します。彼らは若い世代の力で、その文化を後世に残し、文化を守っていくことに挑戦しているのです。
そこから考えると、今回、東証プライム上場企業であるサンマルクホールディングスの傘下に加わったことは、彼ら自身もまた「新しい力」を得ることで、喫茶文化の地位向上に更にドライブをかけようとする想いを感じます。
よく「停滞するということは相対的に退化している」と言われます。時代が大きく変化する中で変わらないままでいることは、周囲の変化に取り残されてしまいます。彼らが志す「業界の地位向上」を目指すのであれば、時代の変化を超える進化が求められるのです。彼らもまた、自らを「変革」し、新しい力を迎え入れることによって大きな「進化」を実現しようとしたのではないでしょうか。
自社が老舗のメニューを引き継ぎ、守り、進化させてきたように、自社も他社と手を取り合うことで更なる発展が実現できるということを山﨑氏は知っていたのかもしれません。
サンマルクホールディングスにとっても歴史的なM&A
意外とも言える事実ですが、実はサンマルクホールディングスは過去に適時開示されたM&Aはありません。今回のM&Aは同社としても初の試みとなります。
サンマルクホールディングスはサンマルクカフェ、倉式珈琲店と2つの喫茶ブランドを所有しています。今回のマドラグの譲り受けによって、第3のブランドが誕生したことになります。
飲食業界はコロナ禍で不採算店舗の清算や業態変更等が余儀なくされています。食べログ100名店にも選ばれる有力なブランドをグループに迎え入れたことは、今後の業態変更や新規出店の際の大きな選択肢となることが見込まれます。同社が掲げる2026年3月期の営業利益60億円にマドラグがどれだけのインパクトを与えるのか、今から目が離せません。
マドラグ本店は毎日行列ができ、食材が売り切れると夕方でも閉店する名店です。近年は大丸など大手百貨店にも出店し、大型店舗も構えています。百貨店型の業態はサンマルクホールディングスでも導入しやすいのではないかと考えられます。顧客のターゲット層が異なるため、サンマルクホールディングスとしても、顧客層を広げることが期待できます。マドラグの希少性を担保するうえで、どれくらいの出店を見込んでいるかは現時点では不明ですが、一部地域でしか食べられなかった商品が、今後多くの地域で提供されることは我々、消費者にとっても大変嬉しいことです。
これからのサンマルクホールディングス傘下となったマドラグの大きな飛躍に期待しましょう。
非連続な成長のためにもM&Aを
日々、食品業界の譲渡を検討するオーナーと話す機会をいただいている立場として、企業を譲渡するということは本当に大きな意思決定だと感じます。
個人事業主の延長のような小さな組織からスタートした会社の歴史は、オーナーの歴史そのものです。店舗のメニューや雰囲気からはオーナーのこだわりが感じられ、店はまさにオーナー自身と言っても過言ではないでしょう。
だからこそ「自分でやり続けたい」「仕事は大変だけど楽しい」と考えて譲渡を戸惑うオーナーの気持ちは大きく揺れ動きます。素晴らしい店舗を築き上げてきたオーナーでしたら尚更です。
そのような中で、店舗が食べログ100名店に選出されるほどに成長を遂げてきた中で、他社のグループ入りを目指した山﨑氏の決断には、大きなチャレンジに映りました。店舗が更に良くなり、ブランドが広く世の中に浸透し、喫茶業界の地位向上に資する。そんな未来を描いたことでしょう。そのためには、必ずしも自分ひとりで悩みを抱え込み、経営する必要はないご判断されました。勇気ある判断を私も陰ながら応援したいです。
こうしたM&Aが広がることで、世の中に美味しいものがさらに広がることになります。私たち日本M&Aセンターの食品業界専門グループは「日本全国に点在する優れた食文化をM&Aで存続させ、全国に広める」ことを目的としています。今回のM&Aは、まさにその一つになったと考えています。
いかがでしたでしょうか?
今後も食品業界専門グループから最新の業界情報をお届けさせて頂きます。
次回のコラムは食品業界専門グループ・高橋よりお送りいたします。
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