コロナを乗り越えて、今後外食M&Aマーケットはどうなって行くのか

江藤 恭輔

日本M&Aセンター業種特化2部 部長

業界別M&A
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日本М&Aセンター食品業界専門グループの江藤 恭輔です。
当コラムは日本М&Aセンターの食品業界専門グループのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。
本日は江藤が「コロナを乗り越えて、今後外食M&Aマーケットはどうなって行くのか」についてお伝えします。

コロナ禍の外食M&Aの状況と代表的な事例

2020年、新型コロナウィルスが世界中で大流行した後、それまで順調に増え続けていた外食M&Aの件数は、一気に落ち込みました。

コロナ前後の外食M&Aの件数

出典:レコフM&Aデータベースより日本M&Aセンターが作成(2019/1/1から2022/12/31、外食、買収・事業譲渡(営業譲渡))

上記の通り、レコフM&Aデータベースによるとコロナ前の2019年は公表ベースで約50件のM&Aが実施されましたが、コロナ禍に突入して以降、2021年には約3分の1まで減少しました。一方、2022年は春から夏にかけて行動制限が大幅に緩和されたこと、年末にはインバウンド客も大きく戻ってきたことなどから、飲食店の売上も大きく回復し、それに伴いM&Aの件数も増えています。
また、それぞれの年度におけるM&Aの内容は非常に特徴的であったと言えます。

2020年内に実施された代表的な事例

  • 壱番屋(日本最大のカレーチェーン)×大黒商事(北海道の超有名ジンギスカン店)
  • イートアンド(全国で大阪王将を展開)×一品香(横浜市内に展開するタンメン発祥の企業)
  • SASAYA(マルチブランドで飲食店を展開)×雄渾キャピタル・パートナーズ(投資ファンド)
  • アークランドサービス(全国でかつやを展開)×コスミックダイニング(冷凍食品の製造)

上記の通り、2020年はコロナウィルスの影響がそこまで長期化するとは考えられていなかったことから、同業同士の前向きなM&Aや、事業ポートフォリオを補完するM&A、成長戦略の一環として投資ファンドを組むM&Aなどが実施されました。

2021年内に実施された代表的な事例

  • エー・ピーHD(塚田農場などの居酒屋を全国で展開)×オイシックス・ラ・大地(食料品の宅配事業)
  • ロイヤルHD(ロイヤルホストやホテル事業などを展開)×双日
  • 京樽(吉野家HDの子会社)×FOOD&LIFE COMPANIES(全国でスシローを展開)
  • なすび(静岡県の地場中堅外食企業)×AFC-HDアムスライフサイエンス(健康食品OEMメーカー)
  • GYRO HD(居酒屋を中心に90以上のブランドで飲食店を運営)×パシフィック・アライアンス・グループ(香港の投資運用会社)

上記の通り、コロナの長期化や出口の見えない先行き不透明感の蔓延により、大手外食企業への資本注入や事業の選択と集中、投資ファンドによる大型買収などが増加しました。

2022年内に実施された代表的な事例

  • サンジェルマン(関東でベーカリー事業を展開)×クリエイト・レストランツ・HD(東証プライムに上場する総合外食企業)
  • バーチャルレストラン(ゴーストレストラン事業をFCで展開)×USEN-NEXT HD
  • イノダコーヒ(京都の老舗喫茶店)×アント・キャピタル・パートナーズ(PEファンド)
  • La Madrague(食べログ喫茶店百名店2021選出)×サンマルクHD(全国でカフェを中心としては飲食事業を展開)

2022年は、特に後半、コロナの収束がある程度現実的になり、かつ、外食店への客足も一層戻ってきたことが数字からも顕著に表れるようになってきたため、前向きなM&Aや、異業種によるフードテック企業のグループ化、ファンドによる事業承継型のM&Aなどが実施されました。

2023年内に実施された外食M&Aと今年度の着地予想

それでは、2023年1月~3月で既に実施されたM&Aはどのようなものがあったのか、今年度の傾向や着地について考察して行きます。

2023年1月~3月に実施された外食業界M&A

  • ロッテリア(全国でハンバーガーチェーンを展開)×ゼンショーHD(総合飲食企業)
  • アートオブウォー(関西エリアの中堅飲食チェーン)×エンデバー・ユナイテッド(PEファンド)
  • ニュールック(神奈川で焼き肉、ホルモン、焼き鳥店を展開)×あみやき亭(上場焼肉チェーン)
  • NIS(テイクアウト唐揚専門店を展開)×SRSHD(関西を中心に和食チェーンを展開)

上記が主なM&A成約事例になります。特徴としては、案件自体の大型化が進行していることが挙げられます。コロナ前であれば、年商1桁億規模の企業でも、成約事例は多数ありました。これは、規模が小さい飲食ブランドでも、投資する側の企業にない業態であれば、事業ポートフォリオの拡充や、老舗ブランドの取得という観点から、M&Aを実施して自社グループに迎え入れたい、という意思決定が可能だったからです。ところが、コロナから開けた2023年度は、如何に事業そのものの安定性が高いか、という部分を、投資する側の企業が重視してくる傾向に変わってくることが想定されます。そうすると、株式を譲り渡す側の企業の売上規模なども、必然的に年商10億円以上など、大型化が進んで行くと考えられます。

2023年度は、外食M&Aのニーズ自体は2022年に比べて大幅に高まりますが、件数そのものについては、横ばい又は微増となることが想定されます。

アフターコロナにおける、外食企業オーナーが採るべき選択と、外食M&Aマーケットの未来

世界的な新型コロナウィルスの蔓延により、一時期は瀕死の危機に面した外食業界も、急激なコロナ脅威の減退やインバウンド需要の回復により、昨今ではコロナ前を上回る売上を記録する飲食店も多く出てきています。しかし、特に2022年前半から全ての食品原材料や水産加工品、包装資材の値上げ、更には人件費の止まることを知らない高騰により、飲食企業は新型コロナウィルスを上回る脅威に晒されていると言えます。その証拠に、多くの中堅中小外食企業では、売上は過去最高ながら、粗利益や営業利益率は過去最低と言った企業も数多く出て来ています。このように、トップラインの確保が難しかったコロナ禍とは全く違った形で、中堅中小飲食企業は非常に難しい経営環境となっているのです。

コロナ前においては、年商1,000億を超える外食大手のマーケットシェアが約12%で、これから本格的な業界再編時代に突入することが予想された外食業界でしたが、それもコロナ禍で一旦ストップしました。しかし、コロナ渦による経営環境の悪化から立ち直ったばかりの飲食業界に、よりインパクトの大きな原材料の値上げ、人件費の高騰という、終わりの見えない巨大な壁が立ちふさがってきています。上述の通り、2023年は更に年商数十億規模の外食企業が大手外食企業や投資ファンドのグループ入りするケースが増えて行くことを勘案すると、中期的にそのような成長戦略を描いていた中堅中小外食企業のオーナーは、一日でも早く、そのような選択肢を再度考えてみる必要があると言えます。というのも、業界再編が進めば進むほど、年商1桁億規模の外食企業は、M&Aマーケットにおける譲渡企業にはなりにくくなり、大手企業や投資ファンドのグループ入りを果たすことが困難になってくる傾向にあるからです。

コロナ前より、将来的には株式を譲渡して他社資本のもとで自社のブランドを更に成長させて行きたいと考えていたオーナーは、業界再編の波に乗り遅れないよう、一刻も早く、M&Aによる成長戦略を検討することをお勧めします。

いかがでしたでしょうか?
今後も食品業界専門グループから最新の業界情報のお届けをさせて頂きます。

食品業界のM&Aへのご関心、ご質問、ご相談などございましたら、下記にお問い合わせフォームにてお問い合わせを頂ければ幸甚です。
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また、上場に向けた無料相談も行っております。お気軽にご相談ください。

著者

江藤 恭輔

江藤えとう 恭輔きょうすけ

日本M&Aセンター業種特化2部 部長

1982年12月、宮崎県生まれ。青山学院大学法学部卒業後、大手金融機関にて約10年法人営業に従事した後、2015年10月、日本M&Aセンターに入社。その後、食品業界専門グループを立ち上げ、大手外食企業のM&Aを中心に、数多くの食品関連M&Aを手掛ける。2023年4月には同グループを部署に昇格させ、メンバー全員で、全国の優れた食文化の存続と発展をサポートしている。代表的な成約実績は、トリドールHDとアクティブソース(立ち飲み居酒屋晩杯屋)、トリドールHDとZUND(ラーメンずんどう屋)、サッポロライオンとハンエイ(餃子専門店である大阪王)、佐賀県の老舗アイス菓子メーカーである竹下製菓と生クリームパンメーカーの清水屋食品、PEファンドであるエンデバー・ユナイテッドと関西レストランチェーンのアートオブウォー・バサラダイニングの資本提携など。

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