2022年製造業(自動車業界)M&Aの回顧と今後の展望

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日本の製造業の根幹を支える自動車(部品)業界において昨年(2022年)は、初頭からウクライナ情勢の変化に端を発し、サプライチェーンの混乱(電装部品の供給不足)、エネルギー・商品価格の変動(高騰)、急激な円安化等による市況の変化への対応で足元の経営安定化に向けた舵取りに奔走する企業が増加しました。

コロナ禍の影響も未だ根深く、2022年初頭は、日本の大手自動車部品メーカーであるマレリ(旧カルソニックカンセイ)が私的整理に陥る等、大手・中小問わず業界全体が大きな逆風にさらされることになりました。

他方、企業提携を活用における明確な戦略を描く企業は、むしろ変化のためにM&Aを合理的に活用しており、企業成長に対する向き合い方の違いが特に浮き彫りになった年でした。

自動車業界といえば、国内・世界をとりまくサプライヤーネットワークに根差した分業型・ピラミッド型のビジネスモデル型ですが、それゆえに、どの企業と密に連携していくか?という企業間連携(M&A)が成長のためのキーポイントになります。

本コラムでは、自動車業界における戦略的なM&Aについて、2022年の事例をもとにいくつかの類型に分類したうえ、その傾向や理由を紐解き、今後(2023年~)の展望についても触れてまいります。

2022年の自動車業界における戦略的M&A

大手サプライヤーの再編

従来から、独立自治色の強かった各自動車メーカーのサプライヤーを統合することで、部品の共通化・合理化を促進していくという流れが系列問わず進んでいます。トヨタ紡織は、グループ会社のトヨタ車体精工に対する出資比率を高め完全子会社化に向けて動き出しています。

この数年でも、ホンダ系のビッグサプライヤー3社が統合し新会社(日立アステモ)を設立、アイシン精機とアイシンAWも部品別のカンパニー制を導入する等により開発や調達機能の統合を進めています。

ニューサプライヤーの参入

かつては、自動車業界でのメインプレイヤーではなかった企業が、M&Aにより市場に参入していくケースも近年非常に増加しており、その代表格が言わずと知れたM&A巧者 日本電産です。

日本電産は2022年2月に中小型マシニングセンターに強みをもつOKKを買収した上で同年イタリアの工作機械メーカー、PAMAを150億円程度で買収しました。
2021年に参入した工作機械事業で初めて海外企業のM&A(合併・買収)となります。
重電会社向けの大型部品用の工作機械にまつわるノウハウを獲得する中でモーター単品ではなく、駆体も含めたユニットベースでの開発ノウハウを更に強化しています。

従来の大手サプライヤーとして機械・要素部品をメインに手掛けるアイシン精機やデンソー等の、メカニックサプライヤーに対して、日本電産のようなEV化(電子化・電動化)に関連する部品を手掛けるエレクトリックサプライヤーとしての存在感は年々高まっており、この流れは今後しばらく続くでしょう。

またソニーはホンダとの協業という戦略のもと、今年年初に、新型EVブランド「アフィーラ」を発表しました。両社は昨年に合弁会社「ソニー・ホンダモビリティ」に向けた合弁契約書を締結しており、ソニーのイメージ・センシング技術×ホンダのモビリティ技術を掛け合わせて、技術革新(EV化)時代における国内パイオニアの座を狙っています。

総合技術化

昨今益々重要となる自動車の電子化・EV化に伴うビジネスモデルの変化に伴い、部品毎の固有技術を磨くのではなく、関連技術をかけあわせて新しい成長戦略を描くサプライヤーが目立っています。

日本電産と並ぶM&A巧者であるミネベア・ミツミ社は2022年、自動車関連大手サプライヤー3社をグループ化しました。本多通信工業が持つECU設計技術、キーレスシステム開発のノウハウを持つホンダロックの買収、住鉱テック(車載の高速伝送技術)を獲得することで、自社が掲げる8つのコア分野(ベアリング(軸受け)やモーター、センサー、アナログ半導体など)の強化を加速度的に進めており、同社の貝沼会長は、「部品業界のユニクロ」を目指すとコメントしています。

付加価値の高い技術を追求するための地場の企業同士の合従連携も加速しています。
車載計器大手の日本精機(新潟県長岡市)は、金型加工の共栄エンジニアリング(阿賀野市)を買収しました。共栄エンジニアリングは金型加工や切削などで精密な技術を持ち、主に自動車部品やデジタル機器向けなどの試作品を手がけております。EV化等の技術変革にキャッチアップするため部品の内製化や技術力強化を図っての経営統合です。

ベンチャー投資(新分野開拓)

多くの大手自動車関連企業を中心に、国内外問わず自動運転・IoT関連のベンチャー企業への出資を進めていきました。100%買収こそ少ないものの、大手企業とスタートアップ企業の連携がより加速しています。

スズキは電動化や自動運転のソフトウェアなどの技術に強みを持つオーストラリアのスタートアップ企業(アプライドEV)を買収することで次世代モビリティ用ソフトウェア開発にまつわる技術を強化しています。また日野自動車は国内IoTベンチャーLocationMindへの資本参加により位置情報のビッグデータ収集・解析技術等を獲得し、自動車用ギア等を製造する武蔵精密(愛知県)もインドにおけるEモビリティの普及を促進するため、現地のベンチャー企業ブーマ(Booma Innovative Transport Solutions Private Limited)に資本参加しました。

今後(2023年以降)の業界展望

大手企業の異業種連携(IT、電機、物流…)

Connected(コネクティッド)、Autonomous/Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)といった「CASE」と呼ばれる領域の浸透を見据えて、自動車業界は、他業種との結びつきが今後益々重要になることは間違いありません。「CASE」の実現のためには、バッテリー、センサー、モーター等のハードウェア技術のみならず、インターネットを介した、あらゆるシステム(物流・安全・金融)にまつわる総合的な知見が必要になっています。
その上で、部品単体の品質や精度を追求するために各メーカーがしのぎを削る時代から、業界や技術の垣根を越えた資本提携や開発協力における戦いは今後避けられない時代になってくるのではないでしょうか。

中堅・中小サプライヤーの生き残り戦略

冒頭で述べた近年の経営環境の変化(コロナ禍、半導体不足、円安等・・・)を経て、「単独で経営するより他の企業のグループで新たな成長機会を模索したい」と益々多くの中堅・中小オーナー経営者がM&Aによる「譲渡」を検討しています。

また新分野への進出や技術力の強化において、自前主義を脱却して「買収」による成長戦略の重要性が高まっています。

国内経済全体の成長が著しかった過去の時代においては、オーガニック戦略(単独での成長)が主流でしたが、これからの成長戦略の主流は、レバレッジ戦略(他社の力を活用する)は避けられないでしょう。

取り分け自動車業界のTier2~3に属する中堅・中小企業は、サプライチェーンの上流に位置する企業との結びつきが、業界全体の再編によって絶たれるケースもきっと増えてきます。優れた技術や、ネットワーク、営業力を相互に持ち合い、難局を乗り越えていくために、M&Aは最も重要な選択肢のうちの1つになるはずです。

長年築き上げてきたノウハウや成功モデルから、脱却するのは決して容易ではありませんが、業界環境に振り回されない強い経営基盤と技術基盤を作るためには、未来を見据えて、早い段階で次の一手を打てる企業なのではないでしょうか。

日本M&Aセンター業種特化事業部では、業界ごとに知見を持つ業種専門チームを組織し、M&Aのご支援をさせていただいております。買収のための譲渡案件のご紹介、株式譲渡の相談の他、上場に向けた無料相談も承っております。まずはお気軽にご相談いただければと思います。

著者

日本M&Aセンター 業種特化事業部コラム制作担当

日本M&Aセンター  業種特化事業部コラム制作担当 

業種特化事業部はIT、建設・設備工事、住宅・不動産、食品、調剤薬局、物流、製造、医療・介護といった各業界に特化し、日々新たな案件に取り組んでいます。各コンサルタントのノウハウや知見を集め、有益な情報発信に努めてまいります。

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