「負ののれん」とは?発生する原因や会計・税務上の処理を解説
「負ののれん」とは ?
M&Aにおいて算出する買収対象企業の価値は、企業が保有する有形資産(土地、建物、機械等)だけでなく、無形資産(ブランド、特許、ノウハウ等)も含みます。
企業会計基準において、のれんは「取得原価が、受け入れた資産及び引き受けた負債に配分された純額を上回る場合には、その超過額(※)」であるとされ、「下回る場合には、その不足額は負ののれん(※)」である、と説明されています。
※出典 「企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準第31項」
時価純資産額を買収価格が上回れば「(正の)のれん」が発生し、時価純資産額を買収価格が下回れば「負ののれん」が生じます。
つまり「負ののれん」は、対象企業の将来的な収益力や価値が低いことを理由として、支払対価が時価純資産よりも低くなった場合に差額として表れます。
「のれん」と「負ののれん」は前述の通り、どちらもM&Aの買収価格と対象企業の純資産額との差額を示しますが、その発生理由と処理方法は異なります。
この記事のポイント
- 「負ののれん」は、買収価格が対象企業の純資産額を下回る際の差額で、主な原因には簿外債務や訴訟リスクがある。
- 発生した場合は、損益計算書に特別利益として一括計上され、貸借対照表には計上されない。
- 税務上は「差額負債調整勘定」として認識され、60か月間で均等償却されるため、会計上との違いに注意が必要である。
⽬次
「負ののれん」が発生する原因
貸借対照表上、将来において費用又は損失が発生することが見込まれる場合に、当期に帰属する金額を当期の費用又は損失として処理し、それに対応する残高を引当金等として計上します。しかし、すべてのリスクを認識し計上できるわけではありません。
「負ののれん」が発生する背景には、こうしたリスクを負っていること等が挙げられます。ここでは考えられる主な原因をご紹介します。
簿外債務を抱えている
簿外債務は、財務諸表上には明示されていないものの、企業が将来的に支払いを余儀なくされる可能性のある債務です。
中小企業でよく見られるケースでは、債務保証、未払給与や退職給付債務等が挙げられます。
本来はこれらを負債として識別した上で時価純資産とする必要がありますが、これらを負債計上しない状態で、かつ、買収企業が当該金額分を考慮した買収価格により買収を実行する場合は、当該買収価格が純資産額を下回る可能性があります。稀なケースですが、これも負ののれんが発生する原因の1つに挙げられます。
訴訟リスクを抱えている
対象企業が損害賠償請求等の訴訟リスクを抱えている場合、そのリスクによって将来的に大きな費用・損失が生じる可能性があります。そのため、買収企業はそのリスクを考慮して買収価格を下げることがあるため、「負ののれん」が発生する可能性があります。
対象企業側の意向
対象企業のオーナーの意向により、純資産額を下回る買収価格でも取引が行われることがあります。
具体的には、オーナーの健康不安等の事情で、急いで売却する必要がある場合、あるいは従業員の雇用の維持や、価値観の合う譲渡先という目的を優先し「価格にこだわらず売却したい」という場合等が挙げられます。
その他事業リスクを抱えている
対象企業が自然災害やパンデミック等、予期せぬ状況で事業リスクを抱える可能性がある場合、買収価格が純資産価値を下回る可能性があります。その結果、買収企業はそのリスクを考慮して、低い買収価格で取引を行うことがあります。
「負ののれん」と「のれん減損」の違い
「負ののれん」と「のれん減損」は、ともに企業価値に関連しますが、それぞれ異なります。
前述の通り「負ののれん」は、買収価格が対象企業の純資産の時価を下回った場合に生じます。この場合、買収した企業は損益計算書にこの差額を利益として計上します。
一方「のれん減損」は、のれんに計上された価値が「過大」であったと判断され、その価値を減額することを指します。
具体的には、買収後のビジネスパフォーマンスが予想に反し低い場合、買収時に予想された将来の利益が実現しない可能性が高まり、その結果としてのれんの価値が下落すると考えられます。この価値の下落を企業は減損損失として計上します。
「のれん減損」は、企業の経済的な健全性や財政状態に影響を及ぼすため、投資家やアナリストはこの減損を重要な指標として評価します。一方、企業自身も適切なタイミングで減損を認識し、適切な情報開示を行うことが求められます。
「負ののれん」が発生した場合の会計処理
「(正の)のれん」は取得時に貸借対照表上の資産の部に計上されます。一方「負ののれん」は発生する可能性が低く、経常的な利益でないという特徴から、取得時に譲受け企業(買い手)の損益計算書上の「特別利益」に一括計上され、貸借対照表には計上されません。そのため、数年にわたり「負ののれん」を償却するという会計処理が行われることはありません。
「(正の)のれん」と「負ののれん」の会計処理を行う上での違いは以下の通りです。
正ののれん | 負ののれん | |
---|---|---|
貸借対照表 | 「無形固定資産」として計上 | 計上しない |
損益計算書 | 20年以内の効果の及ぶ期間で 定額償却 (※償却費は「販売費及び一般管理費」 の「のれん償却費」として計上) |
特別利益の「負ののれん発生益」 として一括利益計上 (※重要性が低い金額の場合は 「営業外収益」で計上) |
合併を例にすると、会計処理は次のようになります。
譲受け企業(買い手)の会計処理
受入資産と引受負債の差額としての時価純資産と、合併対価の額との差額をのれん又は負ののれんとして計上します。
買収契約に基づく純資産価値の評価には、専門家の意見や判断が含まれることがあります。
「負ののれん」については、譲受け企業(買い手)は損益計算書上、特別利益として計上します。
譲渡企業(売り手)の会計処理
譲渡企業(売り手)は、消滅企業となり、会計処理は不要となります。
また、日本の会計基準と国際会計基準(IFRS)では、負ののれんの会計処理が異なります。
日本の会計基準では、前述の通り負ののれんは特別利益として計上しますが、IFRSには営業利益と特別利益の区分がないため、営業利益に計上します。
「負ののれん」が発生した場合の税務処理
税務上、交付対価の額と時価純資産との差額は、「資産調整勘定」「差額負債調整勘定」 と呼ばれます。
対価が時価純資産額を上回る場合は、税務上の「正ののれん」として資産調整勘定が認識されます。
反対に対価が時価純資産額に満たない場合は、税務上の「負ののれん」として「差額負債調整勘定」が認識されます。
この税務上の「負ののれん」である「差額負債調整勘定」は、60か月(5年間)の均等償却となります。
税務上の「差額負債調整勘定」は、受入資産や引受負債の算定方法や性質の違いによって、必ずしも会計上の「負ののれん」と一致しません。このように会計上と税務上の金額が異なる可能性のある点に、注意が必要です。
終わりに
以上、「負ののれん」について概要をご紹介しました。「負ののれん」は買収対象企業のリスクや将来の不安を要因として生じることが多く、これらのリスクや要因を特定し、企業評価において適切に反映することが重要となります。そのためには、専門的な支援を求めることが不可欠です。
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