会社を廃業する時、従業員への対応とは?給与や退職金、保険について解説

経営・ビジネス
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会社の廃業を選択した場合、従業員の解雇やそれに伴う手続きなど、注意すべき点が複数存在します。本記事では、会社の廃業を選択した場合に従業員へ行うべき対応や、注意点を解説します。

会社を廃業する場合は、従業員を解雇する必要がある

廃業とは、経営者が自らの意思で自主的に事業を止め、最終的に法人を消滅させることを指します。
会社を廃業するためには株主総会での解散決議や資産・債務の整理を行う必要があります。様々な事務手続きを行い、会社の財産を清算したうえで、最終的には税務署や法務局で閉鎖手続きを行います。

会社を廃業すると法人が消滅してしまうため、会社と従業員との間で交わした雇用契約は継続できません。したがって会社を廃業する場合は、従業員を解雇する必要が生じます。

この記事のポイント

  • 会社を廃業する際は、従業員を解雇する必要があり、整理解雇として法的要件を満たす必要がある。解雇予告は30日前に行い、書面での通知が推奨される。
  • 従業員の給与や退職金の支払い、未消化の有給休暇の扱いについても計画的に準備が必要で、解雇予告手当の支払い義務もある。
  • 廃業に伴うリスクを最小限に抑えるため、従業員への丁寧な対応や再就職支援が重要で、必要に応じて専門家に相談することが推奨される。

⽬次

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会社を廃業する場合は「整理解雇」となる

従業員が会社を退職する場合、その退職は大きく2つに分けられます。1つは「自己都合退職」、もう1つが「会社都合退職」です。
会社を廃業するために従業員に辞めてもらう場合は、会社都合であるため後者になります。

解雇には主に次の3種類があり、会社を廃業に伴う従業員の解雇は、整理解雇に該当します。

種類 概要 理由
普通解雇 整理解雇、懲戒解雇以外の解雇
(労働契約の契約が困難な事情がある場合に限る)
会社都合
整理解雇 会社の経営悪化により、人員整理を行うための解雇 会社都合
懲戒解雇 従業員が重大な規律違反や非行を行った場合に懲戒処分として
行うための解雇
自己都合

参考:東京労働局「しっかりマスター 労働基準法 解雇編」

ただし、整理解雇が企業側に乱用されると従業員との労働契約に抵触する恐れがあるため、会社都合による整理解雇はどのような場合にでも認められるわけではありません。整理解雇が法的に成立し、解雇が認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。


整理解雇の要件
①人員削減の必要性
人員削減措置の実施が不況、経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づいていること

②解雇回避の努力
配置転換、希望退職者の募集など他の手段によって解雇回避のために努力したこと

③人選の合理性
整理解雇の対象者を決める基準が客観的、合理的で、その運用も公正であること

④解雇手続きの妥当性
労働組合または労働者に対して、解雇の必要性とその時期、規模・方法について納得を得るために説明を行うこと


出典:厚生労働省「労働契約の終了に関するルール(3.整理解雇)」より抜粋

これらすべての条件を満たすことで、会社都合による解雇が不当解雇ではなく整理解雇として認められることになります。

万が一、これらの条件が満たされていない段階で従業員を解雇してしまった場合は、訴訟などの問題が生じる可能性があります。そのため、経営者は事前に十分な確認・検討をしておく必要があります。

従業員に解雇を通知するタイミング


労働基準法では、解雇を行う際には少なくとも30日前に解雇の予告を行う必要があると定められています。その際、従業員に対して解雇の説明を十分に尽くして理解してもらうことが大切です。

解雇予告は口頭でも有効ですが、後々にトラブルを回避するためにも解雇する日と具体的理由を明記した「解雇通知書」を作成することが理想です。
また、従業員から作成を求められた場合は、解雇理由を記載した書面を作成して本人に渡す必要があります。

廃業するタイミングから逆算したうえで、スケジュールに余裕をもった状態で予告し、従業員に十分納得してもらうような説明、対応が経営者には求められます。

会社を廃業する際の、従業員の給与について

当然ながら、整理解雇後は、会社から給与や賞与が支払われなくなります。

当面の間は後述の失業保険の給付に頼ることもできますが、それだけでは解雇前の収入の5~6割程度しか維持できません。

そのため従業員に支払う給料に関しては、何があっても未払いとなることを回避し、退職時にトラブルが起きないようにしなければなりません。

また従業員が少しでも早く次の就職先を見つけられるように、会社側もできる限りのサポート体制を構築することが大切です。

会社を廃業する際の、従業員の退職金について

会社を廃業する場合、給与とは別に、従業員に対して退職金を支払う準備が必要です。
退職金の金額に関しては、退職金規程や就業規則などに定められた算定方法に基づき、支払うべき金額を算出します。人数が多ければ算出に時間がかかるため、あらかじめ余裕をもって間違いのないように準備をしておきましょう。

万が一、規程や規則などで退職金の支払いを定めていない場合は、退職金を支払う法的な義務はなく、最終的に支払うかどうかは経営者による判断となります。

また、解雇する30日以上前に解雇予告をしていない場合は、会社側は従業員に対して退職金とは別に解雇予告手当を支払うことが労働基準法で義務付けられています。解雇予告手当の金額は、30日に満たない日数分の平均賃金を支払うと定められています。


(解雇の予告)
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。
但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
※労働基準法 第二十条より抜粋

会社を廃業する際の、従業員の有給休暇について

会社が廃業すると、従業員の有給休暇は消滅します。しかし整理解雇を告げた段階で、従業員が有給休暇を未消化である場合は、どのように扱えば良いのでしょうか。

廃業が事前に通知されている場合、未消化分の有給休暇については、廃業の日までに消化することができます。

企業による有給休暇の買い取りは、原則として認められていません。有給休暇の買い取りを企業側に認めてしまうと、従業員が十分に休息をとる機会が失われてしまう恐れがあるため、法律違反であると考えられているためです。

行政通達(昭和30年11月31日、基収4718号)では「年次有給休暇の買上げの予約をし, これに基づいて法第39条の規定により請求し得る年次有給休暇の日数を減じ,ないし請求された日数を与えないことは,法第39条の違反である」としています。

しかし、廃業の日までに消化しきれないほど有給休暇が残っている場合など、例外的に認められてるケースもあります。

有給休暇の買い取りは法律上企業に課された義務ではなく、経営者の判断に委ねられています。退職後のトラブルにつながる可能性もあるため、基本的には従業員が有給休暇を消化できることも考慮し、廃業までのスケジュールを組む必要があります。

会社を廃業する際の、従業員の年末調整について


年末調整は、雇用者(会社)が1月〜12月の一年間の給与にかかる税金額を算出し、あらかじめ天引きされた税金額(源泉徴収)との差額を精算する手続きです。

例えば11月に廃業し、12月時点で、従業員が勤務していない場合、会社側は年末調整を行う必要はありませんが、この場合11月に廃業するまでの期間分について源泉徴収票を発行しなければなりません。従業員は発行された源泉徴収票をもとに、新たな勤務先で年末調整を行うか、自分自身で確定申告を行う必要があります。

会社を廃業する際の、従業員の保険について

従業員は、勤めている会社を通じて失業保険(雇用保険)や社会保険に加入しています。廃業後は、従業員が自ら手続きを行わなければなりません。
会社が廃業する際の失業保険と社会保険について、それぞれ見ていきます。

失業保険(雇用保険)

廃業にともない従業員を整理解雇する場合は、会社がハローワークを通じて手続きを行うとともに、従業員は解雇後に、当該従業員の住所地を管轄するハローワークで受給手続きを行わなければなりません。

失業保険の受給は、退職理由が、従業員本人の自己都合か、会社側都合かで条件が大きく異なります。
会社を廃業する場合、前述の通り従業員は会社都合の退職(整理解雇)になり、自己都合による退職に比べ手厚いサポートを得ることができます。
(倒産、解雇の場合は、勤務年数が1年未満の従業員が失業保険を受け取るためには、離職前1年間に被保険者期間が通算して6か月以上必要です。)

例えば自己都合による退職の場合、受給資格の決定を受けて7日間の待機期間後、2ヶ月(5年以内に自己都合の離職を2回以上した場合は3ヶ月)の給付制限期間を経て失業保険が支給されますが、会社都合の場合は7日間の待機期間後に受け取ることができます。

なお、整理解雇を理由とする失業の場合は「特定受給資格者」に該当するため、失業保険の受給日数は勤務年数(被保険者であった期間)に応じて以下のように定められています。

失業保険1日あたりの支給額は、離職直前6ヶ月間の月給を180日で割った金額の50~80%程度といわれています。

社会保険

従業員が会社を通じて加入している社会保険は、「健康保険」と「厚生年金」の2種類で構成されています。これらが解雇により脱退となるため、健康保険は「国民健康保険」に、厚生年金は「国民年金」にそれぞれ加入し直さなければなりません。

国民健康保険の手続きについては、当該従業員の住所地を管轄する市区町村役場で行います。また国民年金の手続きは、同様に住所地を管轄する日本年金機構の年金事務所で行います。

ただし、従業員の配偶者が健康保険の被保険者であり、かつ厚生年金の第3号被保険者であった場合は注意が必要です。従業員の失業にともない配偶者も健康保険と第3号被保険者から脱退することになるため、従業員だけでなく配偶者も国民健康保険と国民年金の加入手続きが必要となります。

また、加入手続きにともない保険や年金の負担が従業員側に生じることになります。従業員には十分に説明を行い、納得してもらえるよう丁寧な説明を心がけましょう。

会社を廃業する際の、従業員の雇用(再就職)について

ひとつの事業所で1ヶ月以内に30人以上の離職者を生じさせる場合、会社側はハローワークに再就職援助計画を提出しなければなりません。

再就職支援計画を提出し、ハローワークから認定されると、解雇された従業員を再雇用した雇用主側の企業に助成金が支払われます。そのため、整理解雇された従業員は他の求職者よりも有利となり、再就職がしやすくなります。

この再就職援助計画は離職者が30人未満の場合でも提出が可能なため、解雇する従業員数が30人以上であるか否かに関わらず、解雇時にはハローワークに再就職支援計画を提出すると良いでしょう。

また、こうした公的支援とは別に、希望者には転職エージェントなどを紹介することにより、ハローワーク以外のルートから再就職先を斡旋してもらうことも可能になります。いずれにしても、退職時にトラブルが起きないように、従業員の再就職探しにはできるだけ積極的に協力するように心がけましょう。

廃業する際、従業員への対応における留意点


最後に、従業員への対応における留意点についてご紹介します。

会社を廃業するにあたり従業員を解雇する場合、さまざまなリスクが生じる可能性があります。具体的には、従業員から訴訟を起こされるリスクや、これまで長年にわたり培ってきた自社独自の技術やノウハウなどが流出されるリスクなどです。

こうしたリスクを最小限に抑えるためには、従業員に対して丁寧な対応を心がけることが重要です。従業員にはできるだけ早めに廃業予定を伝えるとともに、可能な限りの再就職支援を行うようにすると良いでしょう。

しかし、すでにトラブルが顕在化しているなど、会社と従業員、当事者同士だけでの問題解決が難しい場合には、外部機関へ相談することをおすすめします。弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談すれば、従業員を解雇する際に生じる法律上の問題点などについてアドバイスやサポートを受けることができます。両者が歩み寄れる最適な解決方法が提示してもらえるでしょう。

終わりに

会社の廃業を選択した場合、従業員を解雇しなければなりません。解雇にあたっては、従業員からの訴訟リスクも生じるため、あらかじめ十分な準備と対策を行ってから廃業を発表した方が良いでしょう。

たとえば、これまでに残業代の未払いが累積しているのであれば、廃業を発表する前にそれらを支払っておいた方がリスクを下げられるはずです。また、解雇時に支払う退職金とは別に、廃業のための建物や機械設備などの処分費なども必要となるため、最終的にどれくらいの費用が必要になるのかをあらかじめ試算しておくことも大切です。

こうしたリスクマネジメントや廃業に必要な費用などの試算は、経営者やその周辺だけで行うのは難しいため、少しでも難しいと感じた場合は積極的に社外の専門家を活用することをおすすめします。廃業にあたり生じるリスクを抽出し、事前に対処できるようになるほか、M&Aによる会社売却など廃業以外の選択肢を提示してもらえる可能性もあるでしょう。

廃業か事業承継か、会社のこれからをご検討されている場合、 当社コンサルタントがご相談を承ります。ご相談は無料、秘密厳守で対応いたします。

著者

M&A マガジン編集部

M&A マガジン編集部

日本M&Aセンター

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