訪日外国人観光客の増加が食品関連企業に与える影響とは?インバウンド需要回復と経営環境

江藤 恭輔

日本M&Aセンター業種特化2部 部長

業界別M&A
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当コラムは日本М&Aセンターの食品業界専門グループのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。 今回は江藤が「訪日外国人観光客の増加が食品関連企業に与える影響」についてお伝えします。

訪日外国人観光客の現在の状況

日本政府観光局の推計によると、2023年9月の訪日外国人観光客数は218万人(前年同月比+957%)と、8月に続き200万人を超えました。
また、この数字はコロナ直前期に当たる2019年9月の227万人とほぼ同水準であり、訪日外国人観光客数は、ほぼコロナ前の水準まで回復していると言えます。

なお、潮目が変わったのは2022年9月であり、それまで10万人台で推移していた訪日外国人観光客数は、9月に20万人を超え、年末の12月には137万人まで増加しました。
また、コロナが5類感染症に分類された2023年5月の翌月6月には、コロナ禍以降初めて、200万人の大台を突破しました。

参照:日本政府観光局「訪日外客統計」より㈱日本M&Aセンターが作成

2018年、2019年共に、年間の訪日外国人観光客数が3,100万人台(258万人/月)であったことから、今後更に伸びる余地があると考えられますが、いずれにしても、1年間で10倍近くになるという驚異的な伸びをチャンスと捉え、現在大きな逆風に晒されている食品関連企業は、インバウンド観光客のニーズを拾うためのビジネスモデルの転換が急務と言えるでしょう。

インバウンド需要:戦い方を変える

それでは、具体的にどのような方法でこれらのビジネスチャンスを掴んでいくべきなのでしょうか?より訪日外国人と直接的な接点が多い外食企業を例に考えて行きたいと思います。

円安を逆手に取る

まず大前提として、コロナ前後での為替動向について確認する必要があります。コロナ前の2018年における対ドルの為替推移は、1月1日が1ドル113円、12月31日が110円、直前期である2019年1月1日は1ドル111円、12月31日は109円56銭という水準となっています。
2023年11月現在は約150円前後で推移していることから、コロナ前に比べて現在36%ほど円安が進行していることになります。

つまり、訪日外国人は、コロナ前と同様の1ドル紙幣を出すことで、物価上昇分を一旦脇に置いて、その当時より約36%高い商品やサービスの提供を受けることが出来ると言えます。
そうすると、価格設定がコロナ前と同水準の飲食店においては、訪日外国人は非常に割安感を感じることになりますので、円安を逆手に取って価格の引き上げを検討してみる必要があると言えます。
原価が変わらず価格を引き上げることに成功すれば、それだけで粗利率は上がり、店舗の収益状態は大幅に改善します。

訪日外国人に強いグルメサイト、SNSの活用、近隣ホテル等とのタイアップ

例えば、日本国内で主流と言えるグルメサイトでも、宿泊サイトなどと同様、海外では全く利用されていないことが殆どであり、訪日外国人に対する訴求力は非常に低いと言えます。
訪日外国人客をより多く呼び込みたいと考えるのなら、それらに強いサイトの口コミ件数や評点のアップを図る、また、世界的に利用されているSNSでの露出を増やすなど、日本国内での戦い方とは異なるSNS戦略と取ることが重要となって来ます。

また、外国人観光客が多く宿泊するエリアのビジネスホテルなどとタイアップをし、そこから送客を得る仕組みなども、地道ではあるものの非常に有効と言えます。

出店立地の選定

一般的に飲食店を出店する場合、空中階より路面店、駅から距離がある店舗より駅近立地が好まれ、その分、家賃も高くなる傾向にあります。
原価同様、家賃比率が高くなると、その分、営業利益率の悪化を招いてしまうため、如何に安い立地に出店するかが、飲食店経営のカギを握っていると言えます。

その点、外国人観光客であれば、基本的に日本人のサラリーマン客やOLなどと違い、時間の制限は非常に少なく、目的とする飲食店に足を運ぶ時間と労力を惜しまない傾向にあると言えます。
そのため、対日本人顧客向けには敬遠されがちな立地でも、上記に記載した訪日外国人向けのグルメサイトやSNSをしっかり運用し、少し難しい立地に出店してみることも、検討してみてはいかがでしょうか。

リスクヘッジを忘れない

上記の通り、いかに訪日外国人が今後も増加していくことが明らかであるとは言え、そこに経営資源を全振りしてしまっては、万が一また、コロナのような未曽有のパンデミックや日本特有の天災などが起こり、再度訪日外国人数が激減してしまった際に、再起不能となってしまいます。そのため、コロナの教訓を忘れることなく、25兆円の外食マーケットだけでなく、中食や冷凍食品製造などの内食事業など、80兆円の食のマーケット全てにおいて事業ポートフォリオの分散を図り、万が一に備えることが重要です。そのための手法として、時間を買うM&Aは非常に有効であり、次の危機に備えて、事業ポートフォリオに万全を期すためのM&A戦略を、改めて検討してみてはいかがでしょうか。

いかがでしたでしょうか?
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著者

江藤 恭輔

江藤えとう 恭輔きょうすけ

日本M&Aセンター業種特化2部 部長

1982年12月、宮崎県生まれ。青山学院大学法学部卒業後、大手金融機関にて約10年法人営業に従事した後、2015年10月、日本M&Aセンターに入社。その後、食品業界専門グループを立ち上げ、大手外食企業のM&Aを中心に、数多くの食品関連M&Aを手掛ける。2023年4月には同グループを部署に昇格させ、メンバー全員で、全国の優れた食文化の存続と発展をサポートしている。代表的な成約実績は、トリドールHDとアクティブソース(立ち飲み居酒屋晩杯屋)、トリドールHDとZUND(ラーメンずんどう屋)、サッポロライオンとハンエイ(餃子専門店である大阪王)、佐賀県の老舗アイス菓子メーカーである竹下製菓と生クリームパンメーカーの清水屋食品、PEファンドであるエンデバー・ユナイテッドと関西レストランチェーンのアートオブウォー・バサラダイニングの資本提携など。

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