増加する老舗外食・食品企業のM&A
⽬次
- 1. 老舗食品企業の2023年 M&A公表事例と傾向
- 2. 2023年老舗企業のM&Aまとめ(公表日ベース、右が譲渡企業)
- 2-1. 山本海苔店(創業1849年)×高岡屋(創業1890年)老舗海苔同士のM&A
- 2-2. 厳しい環境だからこそ同業で手を取り合って次の100年を
- 2-3. ベルーナ(総合通販会社)×谷櫻酒造(1848年創業の酒造メーカー)
- 2-4. 総合通販会社による異業種参入
- 2-5. エバラ食品工業×丸二(1967年創業広島の調味料メーカー)
- 2-6. 大手企業によるM&A
- 2-7. いなば食品×三共食品(1952年創業、レトルト食品製造業)
- 2-8. 社長35歳!成長戦略型M&A
- 2-9. PEAKS×山本味噌醸造場(1916年創業味噌メーカー)
- 2-10. インターネットマッチングを使ったベンチャー企業のM&A
- 3. 当社事例から見る老舗企業和食企業のM&A(当社事例)
- 3-1. 鮒忠×柏又(2022年6月)
- 3-2. 「老舗店舗の事業承継」
- 3-3. 日本橋玉ゐ(バレンタインブルーコーポレーション)×外食企業(2022年4月)
- 3-4. 「穴子店の成長戦略」
- 3-5. 富山ホーム食品×MZOホールディングス(2023年6月)
- 3-6. 「味噌・豆腐業の生き残りへ、異業種との提携を」
- 4. 業界全体の流れ
- 4-1. 著者
日本М&Aセンター食品業界支援グループの岡田享久です。
当コラムは日本М&Aセンターの食品専門チームのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。
今回は老舗外食・食品企業のM&Aを解説します。
老舗食品企業の2023年 M&A公表事例と傾向
2023年度の食品業界のM&Aにおいて業界全体の約4割が創業50年以上の企業です。背景として、長年日本の食卓を支えている醤油や海苔、味噌といった日本独自の食文化の担い手が人不足・原材料費の高騰、経営者や従業員の高齢化に伴う営業力の衰えなど様々な課題を抱えている現状があります。そんな2023年度のM&Aの代表的な老舗食品企業の事例を考察付きで紹介します。
2023年老舗企業のM&Aまとめ(公表日ベース、右が譲渡企業)
山本海苔店(創業1849年)×高岡屋(創業1890年)老舗海苔同士のM&A
厳しい環境だからこそ同業で手を取り合って次の100年を
山本海苔店は2021年に40歳の若さで社長に就任した山本社長が経営する海苔製造販売の会社です。
ここ数年の温暖化による海苔の品質の低下と不作により厳しい経営環境に置かれている海苔業界ですが、山本海苔店は高級海苔ギフト市場に強みを持ち、高岡屋は海外の販路に強みを持ちます。
販路のクロスセルだけでなく、物流面や人材面の交流を通してシナジーが見込めるものと想定されます。
海苔業界は、海外需要の伸びが2020年の141億ドルに対して、2028年には249億ドルに到達すると予測されます。
日本では生産環境の悪化も懸念されていますが、海苔の栄養価の高さや、ビーガンへの移行といったトレンドによりアジアだけでなく、北米市場でも需要が高まりつつあります。
そんな市況下で、国内のパイの争奪ではなく、海外のシェアを取れる企業同士のM&Aとなりました。
参考: Global: Seaweed Market: Major Drivers and Challenges
ベルーナ(総合通販会社)×谷櫻酒造(1848年創業の酒造メーカー)
総合通販会社による異業種参入
谷櫻酒造は業歴175年の4代目社長が運営する山梨の酒造メーカーです。
高度な技術を要する酒蔵は日本だけでなく、海外の企業も注目されています。
そんな中、日本酒の輸出額は2022年時点で、2013年の251億円から約5.5倍の1390億円まで伸びています。
谷櫻酒造は2022年6月期の売上は約1億円と酒蔵として高いマーケットシェアを持っている企業ではないですが、八ヶ岳南麗の豊かな自然と清らかな湧水を使用できるといった、酒造に適した地の利が評価されたと想定されます。
買い手となった、ベルーナは衣食住領域のネット販売における強みを持つ総合通販会社であり、谷櫻酒造の良質な日本酒をより広い消費者に届けることが実現できると想定されます。
参考:国税庁 最近の日本産酒類の輸出動向について
エバラ食品工業×丸二(1967年創業広島の調味料メーカー)
大手企業によるM&A
丸二は焼きそばソースやうどんスープなどの粉末製品、お茶漬けやふりかけの原料となる顆粒(かりゅう)製品、液体スープなどのOEM(相手先ブランドによる生産)を主事業としています。
黄金の味が主力商品のエバラは小容量商品の生産能力の向上を目指すことを目標としており、丸二として資本提携を行うことで、東日本と西日本の地域性による製造ノウハウの取得、両社の製造商品の類似性という意味でもシナジーが見込めます。
いなば食品×三共食品(1952年創業、レトルト食品製造業)
社長35歳!成長戦略型M&A
三共食品はいなば食品のOEMも行う会社です。
社長の森琢史氏は1988年生まれの35歳であり、一族経営に執着せず、会社を伸ばすために~地元の有名食品メーカーに譲り渡すことで取引基盤、経営の安定化を図ったものと思われます。
物価高騰で新規での工場の設備投資費用がかさむ中、食品製造工場のM&Aは今後さらに増えると想定されます
PEAKS×山本味噌醸造場(1916年創業味噌メーカー)
インターネットマッチングを使ったベンチャー企業のM&A
こちらのМ&Aは、インターネットマッチングサイトのバトンズを活用した事例となります。
PEAKSは次世代の発酵食品メーカーを目指し京都で設立されたバイオ系スタートアップ企業です。
代表の金崎氏は生物学や分子生物学、免疫学の知見を持ちます。
山本味噌は1916年創業で、現在直江津地区に唯一残る味噌製造業です。
後継者がおらず、「自分が元気なうちに『山本味噌』のみそ作りが続く形にしたい」と会社の譲渡を50歳の社長が決断しました。
既存の生産設備と販売網は維持しつつ、金崎氏は製品開発と経営を行うという形で後継者不在の解決に至りました。
当社事例から見る老舗企業和食企業のM&A(当社事例)
インバウンド需要の復活し、コロナ前以上に国内外で和食の需要は増えると想定されます。
一方、伝統的な食ビジネスである和食の担い手や、新規参入者はビジネスが多様化している現代においては、減少していると想定されます。
更に、老舗和食企業の経営者は高齢な方が多いため、M&Aという手法を知らずに廃業という選択肢を選ぶ方も多いと想定されます。
そんな中、弊社で仲介を行い、お相手を見つけた老舗和食企業の事例を紹介します。
鮒忠×柏又(2022年6月)
「老舗店舗の事業承継」
1つめの事例が、神奈川県小田原市にて業歴100年超の老舗うなぎ屋を1店舗運営する柏又を、焼き鳥・鰻メインに飲食店を運営する鮒忠が買収した事例です。
柏又は、後継者不在により、先代から受け継いだお店を残す為にM&Aを検討されました。
鮒忠としては、過去、草津亭という浅草の老舗料亭を譲受した経験もあり、老舗ブランドのM&Aを積極的に行っておりました。
また、鮒忠のうなぎをさばいたり、焼く技術を持った店長を送り込むことで、地元に名店を残した事例となります。
日本全国にもこういった地元の名店はたくさんある一方で、人知れず閉店を選択するお店も多いかと思います。
地方の名店を残していきたい企業は全国に多くあるため、このような老舗外食企業にはМ&Aという選択肢を歴史・技術の承継といった視点で検討頂きたいと思っています。
日本橋玉ゐ(バレンタインブルーコーポレーション)×外食企業(2022年4月)
「穴子店の成長戦略」
2つ目が、穴子の箱飯を主力商品とする”日本橋玉ゐ“らを展開するバレンタインブルーコーポレーション を、外食企業が買収した、穴子という和食をさらに広めていく成長戦略を目的としたM&A事例です。
買手企業は「玉ゐ」という高級和食のブランド力を生かし、自社とは違う出店形態を取る業態を、グループインさせることでグループとしてブランドポートフォリオの幅を広げることを狙った事例となります。
M&A後にはバレンタインブルーコーポレーションの持つ海外出店の強みに加え、買手企業とコネクションの強い商業施設に出店を実現していくことで、”玉ゐ“のブランドをスピード感を持って展開していくこと想定します。
富山ホーム食品×MZOホールディングス(2023年6月)
「味噌・豆腐業の生き残りへ、異業種との提携を」
3つめが、富山県で豆腐、厚揚げ製造を行う富山ホーム食品をITTO個別指導のFCを全国に60以上運営するMZOホールディングスが買収した、醤油や豆腐、味噌といった日本食には欠かせない事業を継承した事例です。
富山ホーム食品は、地方の豆腐製造業が相次いで倒産していくことから、業界の先行き不安を感じ譲渡を検討しておりました。
MZOホールディングスの全国の拠点を使った販売網の確保や、システム面のデジタル化を通じ、合理化を図っていくことで、富山ホーム食品を発展させていく狙いとなります。
また、 MZOホールディングスとしては、設備投資や長年の商習慣が独特で参入障壁が高い食品製造業を新規で立ち上げるより、工場、取引先、従業員を既に確保した状態の企業を引き継げることは魅力的であったという背景もあります。
歴史ある老舗企業の内部体制やシステム面の導入が遅れ、生産性という課題を抱えるケースは多くあります。従来のやり方に囚われない、異業種との資本提携を行うことで、閉塞的な環境下から脱却することが出来ると想定されます。
業界全体の流れ
食品業界は誰もが目に見える業界です。
だからこそ、地元の人たちから愛され、長い歴史のある魅力のある企業が数多く存在します。
ただ、業界の先行き不安や、価格転嫁の遅れなど課題が多いことも現状です。
さらに伝統食の担い手は地方であることも多く、人不足、後継者不足も深刻です。
山本味噌の事例のように、社長はまだ50代でまだまだビジネスはやれるという年齢でも、将来的な後継者不足を見越して早めに譲渡するオーナーも増えています。
今までは一人で経営していた会社ですが、譲渡後はともに経営を考えるパートナーを得ることが出来るのもM&Aのメリットです。
また、PEAKSやMZOホールディングスの事例のように異業種とのマッチングの場合、参入障壁の高い業種にM&Aで入り込むことも可能です。
経営のノウハウや、別の知見と組み合わせることにより、周りの企業との差別化にも繋がります。自社だけでは解決できないことも、同じ食品業界だけでなく、幅広い業種と手を組むことで、次の50年・100年を作れることもM&Aの面白さの一つです。
いかがでしたでしょうか?
今後も食品業界専門チームから最新の業界情報をお届けさせて頂きます。
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