2024年 製造業におけるクロスボーダーM&A展望

亀井 翔耶

日本M&AセンターIn-Out推進部

海外M&A
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こんにちは。日本M&Aセンター海外事業部の亀井です。
本コラムでは、2024年の製造業におけるクロスボーダーM&Aの課題やトレンド、今後狙うべき戦略について紹介します。

海外拠点を既にもつ製造業の課題

まず、日系企業の海外拠点での販売・調達・生産の課題を考えてみたいと思います。

ジェトロの「海外進出日系企業実態調査」によると、多くの海外進出企業が販売先の見直しを検討しており、特に現地市場向けの販売強化を目指しています。

また、調達の見直しに関しても、原材料費の高騰の影響もあり、現地調達にシフトする傾向となっています。生産に関しては、生産コスト適正化のための自動化・省人化の推進や、生産地の見直しとしての現地内での見直し・ASEANへの移転・日本国内回帰等がトレンドとして挙げられます。

海外製造現場の課題

私が前職時代にいたメキシコでは、自動車産業が盛んでしたが、物流費高騰や半導体不足等も相まって、現地では常に様々な課題がありました。
例えば……

  • 既存仕入先である日本から調達すると納期やコストが合わないためQCD(品質・コスト・納期 )で信頼できるローカル仕入先を探してほしい自動車産業のCASE※の流れに伴う国を跨いだ生産ライン移転の予定がある
  • 自動車産業のCASE※の流れに伴う国を跨いだ生産ライン移転の予定がある
  • 日系バリューチェーン・大口顧客の進出に併せて現地に進出したものの思うようにビジネス拡大が進んでおらず外資系・ローカル系への販路獲得が急務となっている
    ※「Connected(コネクテッド)」「Autonomous(自動運転)」「Shared & Services(シェアリングとサービス)」「Electric(電動化)」の頭文字

製造現場でのお客様とのディスカッションでは、上述にように、現地調達化・生産拠点移転・ローカル販路獲得についてが、常に挙がる課題となっておりました。

製造業クロスボーダーM&Aのボトルネックと打開策

海外拠点におけるこうした課題に関して、即効性がある解決策の一つがクロスボーダーM&Aと言えます。

特に東南アジアでは親日的な国が多いことに加えて、日本の技術力・品質力・生産管理の改善活動など、特に製造業だからこそ日本のものづくりのノウハウを吸収して成長していきたいというマインドを持っているローカル企業のオーナーは多いです。
一方で、製造業のクロスボーダーM&A(In-Out)は国内M&A(In-In)と比較して極端に少なく、非製造業のクロスボーダーM&Aよりもハードルが高く思われる傾向にあるようです。

それでは、製造業のクロスボーダーM&Aのボトルネックとはどのような点があるのでしょうか。
お客様とのディスカッションでよく聞かれるのは、「現地オペレーション懸念」「品質担保への懸念」の2点です。

現地オペレーション懸念

「現地オペレーション懸念」については特に言語の問題が指摘されます。
私が実際の現場を見てきた経験では、技術者同士は感覚で通じる部分もありますし、派遣されるマネジメント陣で言語に不安があるようであれば、通訳を雇う事で現地でのコミュニケーション問題が解決し、それによりオペレーションも円滑に進められるようになります。
逆に海外意欲が強く言語に長けているもののマネジメント経験が少ない人材を派遣されるのであれば、現地オーナーに留任して頂き、徐々にPMIを進める方向も一案です。

品質担保の懸念

「品質担保の懸念」については、高い品質レベルを追求する日系企業だからこそシビアに捉えられている点ではあります。
日本M&Aセンターでは、工場内設備が日系ブランドメインとなっている企業や、日系大手企業との長期間での取引実績があり品質を高く評価されている企業の案件も多く扱っています。

製造業の場合、自前で海外進出するとなると、現地調査から工場立ち上げ、事業を軌道に乗せるためにかなりの時間・費用・労力がかかります。
このような問題こそ、クロスボーダーM&Aを活用する事で、スピードを重視した複数の課題解決が可能になります。

製造業クロスボーダーM&Aの狙い

ここからは、製造業クロスボーダーM&Aで狙うべき戦略について、3つのパターンに分けて深堀りしていきましょう。

① 既に海外に進出済みの場合

生産地の見直しとして、チャイナプラスワンの観点でASEAN諸国は、進出先・移転先候補として根強いニーズがあります。
既存海外拠点に地の利がある場所で、新たな拠点を設ける事で、生産能力・設備稼働・人材の融通や、仕入れの共通化によるコスト削減等様々なメリットがあります。
製造バリューチェーンにおいて部品加工の会社であれば組立も取り組む等、川上川下での対応力向上も視野に入れる事も、海外戦略としては重要です。

② 海外にこれから進出する場合

新たに海外に土地を確保し工場を建設するような自前での進出は、現地市場調査・見込み客獲得から始まり、工場建設・設備導入・現地人材確保・現地製造ライセンス獲得等、工場立ち上げまでに多くの時間、費用、労力を要することになります。
クロスボーダーM&Aの活用によって、既に現地で生産を行い、ローカル企業や日系企業と取引がある企業を取り込む事で、立ち上げプロセスを省けるだけでなく、売上のトップライン・海外売上比率を一気に上げられる事になり、海外戦略における即効性は甚大です。

③ 新規で海外における製造機能を獲得する場合

例えば製造業向け等の専門商社として現地ビジネス拡大を考える際は、現地の製造業を譲受しメーカー機能を獲得することで、Buy-Process-Sellの付加価値ビジネスを展開する事が可能になります。とはいえ、餅は餅屋で、生産ノウハウ等に懸念がありメーカーの検討は難しいとなる場合もあります。
そのような場合でも、同業である卸系の会社でも、フィールドエンジニアを抱えている会社を取り込む事で設備のアフターサービスを提供できたり、自動化推進が出来るエンジニアリング会社の取り込みで顧客の痒い所に手が届く工場内の困りごと解決の提案できたり、現地での付加価値創造の幅が広がります。

直近の製造業クロスボーダーM&Aのトレンド

日本M&Aセンターがご支援させて頂いている製造業のクロスボーダーM&Aでは、資本提携により複数の相乗効果を実現されている例が多くあります。

現地の製造拠点獲得・ローカル販路獲得だけでなく、事業領域の拡大や展開を狙っていた分野への新規進出など、クロスボーダーM&Aを通じてチャレンジングな課題を同時に解決されています。
また直近では、企業における脱炭素化が重要視されてきている事もあり、SGDsに即した工場運営に力を入れている会社やカーボンクレジット事業に注力している会社の買収検討ニーズも高まってきております。

政策から読み取るASEAN主要国での事業拡大のヒント

日本M&Aセンターが拠点を構えるASEAN主要各国での政策にも、製造業としてASEANでの事業拡大のポイントが詰まっています。今回は、その一部を紹介します。

タイランド4.0(Thailand 4.0)

タイでは、2016年にタイランド4.0(Thailand 4.0)政策を宣言し、ハイテク産業やサービスに投資を促しています。次世代自動車、スマート・エレクトロニクス、医療・健康ツーリズム、農業・バイオテクノロジー、未来食品、ロボット産業、航空・ロジスティック、バイオ燃料・バイオ化学、デジタル産業、医療ハブとなる産業が投資対象です。たとえば、タイのバイオプラスチックレジンの輸出量は2018年の新工場操業にともない2019年に世界第3位まで急成長を遂げる※2等、国をあげた製造業への注力度合が垣間見られます。
※2 BIOPLASTICS(Thailand Board of Investment)

マレーシアのインダストリー4.0(Industry4WRD)

マレーシア政府は、2018年にインダストリー4.0に関する国家政策「Industry4WRD」を発表し、マレーシア地場中小企業の生産性向上及びスマートマニュファクチャリング化(デジタルを包括的に活用した製造)を目指す方針を示しています。
マレーシアは、東南アジアで唯一国産自動車ブランドを有しており、その代表格であるプロトンは、2023年にタイにEV工場建設の検討している旨を発表しています。
日系進出も多いエレクトロニクスや自動車分野だけでなく、航空機産業の育成を国家戦略として位置付けており、欧米大手航空機メーカーも部品の製造拠点として進出しています。マレーシアは国としても会計・財務の透明性も高く、M&A難易度は比較的低いと言われている事もあり、進出先として非常に魅力的な国と言えます。

日本の製造業の未来を一緒に考えましょう

製造業のクロスボーダーM&Aというと、大手企業による大規模M&Aばかりが注目を浴びますが、日本M&Aセンターでは日本円で1億~数十億規模の中小規模からの比較的取り組み易い規模の案件を中心にご紹介できます。

実際に案件をご検討頂き、現地視察を行う事で、ローカル企業との資本提携に対する懸念が払拭できたり、新たな相乗効果が考えられたりと、海外戦略に関する視野も広がる事もあるかと思います。
ぜひ海外展開の一つの選択肢としてクロスボーダーM&Aを入れて頂き、お気軽にお声をかけて頂けましたら幸いです。

日本M&Aセンターの海外・クロスボーダーM&A支援

日本M&Aセンターでは、中立な立場で、譲渡企業と譲受企業双方のメリットを考慮にいれたM&Aの仲介を行っております。
また、日本企業による海外企業の買収(In-Out)、海外企業による日本企業の買収(Out-In)、海外企業同士の買収(Out-Out)も数多く手掛けてまいりました。
海外進出や事業継承に関するお悩みはいつでもお問い合わせください。

「海外・クロスボーダーM&A」って、ハードルが高いと感じていませんか?  日本M&Aセンターは、海外進出・撤退・移転などをご検討の企業さまを、海外クロスボーダーM&Aでご支援しています。ご相談は無料です。

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中堅企業の存在感が高まるASEAN地域とのクロスボーダーM&Aの動向、主要国別のポイントなどを、事例を交えて分かりやすく解説しています。
日本M&Aセンターが独自に行ったアンケート調査から、海外展開に取り組む企業の課題に迫るほか、実際の成約データを元にしたクロスボーダーM&A活用のメリットや留意点もまとめています。

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著者

亀井 翔耶

亀井かめい 翔耶しょうや

日本M&AセンターIn-Out推進部

専門商社にて、中国・韓国・台湾向けの電子部品業界への海外営業、メキシコ駐在にて自動車業界向けの現地化推進に従事した後、日本M&Aセンターの海外事業部に入社。それまで日系メーカーの海外進出をサポートしてきた経験を活かし、製造業向けのクロスボーダーM&A推進をサポートする。

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