収益向上に有効な施策とは?3つの基本をわかりやすく解説

経営・ビジネス
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経営者にとって収益向上は最も優先すべき課題のひとつであり、多くの企業では収益向上を目指す取り組みが日々行われています。収益向上のためのアプローチにはさまざまな手法があり、企業の状況や目指す方向によって効果的な手法は変わるため、自社に最適な手法を見つけ、実施しなければなりません。

本記事では、収益向上の実現に効果的な手法や経営分析の方法、具体的な施策などを紹介します。

収益とは

収益とは、商品などの販売によって得られた資産の増加のことです。商品などを販売すると、その代金として現金や受取手形などを受け取ります。こうした資産の増加分を収益といいます。

会計上、収益は「営業収益」「営業外収益」「特別利益」の3つに分類されます。これらの収益の違いは、その発生の源泉です。

営業収益 :企業の主な営業活動から生じるもの
営業外収益 :本業以外の活動で経常的に得ている受取利息や受取配当金など
特別利益 :会社の業務活動に関係なく臨時的に生じた収益。固定資産売却益や保険差益など

このように、会計上分類されている収益は、企業にとってどれも向上すべき収益であることには変わりありませんが、本業の儲けとなる営業収益をここでは収益と定義します。

収益は企業の主な営業活動から生じるため、それを向上させるためには、売上を伸ばしながらコスト管理を厳密に行い、常に削減を目指すことが大切です。

この記事のポイント

  • 収益は商品販売による資産の増加で、営業収益、営業外収益、特別利益に分類される。主に営業収益が企業の儲け。
  • 収益向上は売上増加、新製品開発、営業力強化などで実現し、固定経費や変動費の削減も重要な施策である。
  • M&Aの活用により、他社の技術や資源を獲得し、短期間で収益向上を図ることが可能になる。

⽬次

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収益向上と収益改善の違い

収益向上と収益改善には、法律や会計原則などに基づく厳密な定義はありません。両者の間に明確な違いはなく、どちらも同じ意味で用いられることもありますが、厳密には以下のように区別できます。

収益向上
新製品の開発や新たなビジネスチャンスの創出など、売上を伸ばした結果として収益が増えること

収益改善
社内の業務効率など改善した結果として、収益が増えること

したがって収益向上と収益改善はどちらも、最終的に「収益を増加させる」という点では同じですが、そのプロセスが異なります。

収益向上を実現する3つの方法

収益向上を実現させるための主な方法は、次の3つです。

売上高を増やす

最も重要かつ基本的な方法は、売上高を増やすことです。収益は売上高から売上原価などの経費を差し引いて算出されるため、売上高を伸ばせば収益向上が実現できます。

ただし、売上高の伸びに比べ、仕入などの原価の伸び率が高ければ、たとえ売上高を伸ばしても収益を向上させることはできません。
したがって売上高を伸ばして収益向上を目指す場合は、後述でご紹介する各種分析方法を用いて、常に原価率や利益率などをチェックしておかなければなりません。

一般的には営業力やマーケティング力の強化、顧客満足度を高める商品の魅力の向上などにより、売上高を増やすことが可能になります。

固定経費を減らす

固定経費は、売上高の増減にかかわらず、常に一定程度発生する費用のことです。固定経費に該当する費用としては、人件費や地代家賃、水道光熱費、接待交際費、減価償却費などがあります。

例えば仕事が発生しなかったとしても、オフィスや工場などの賃料の支払いは発生します。こうした固定経費を減らせば、売上の伸びと関係なく収益が向上させられます。

固定経費の削減を実現するためには、まず固定経費を構成している要素をピックアップし、内容を詳細に検討したうえで個別に削減を目指すことが大切です。

固定経費は毎期計上される費用であるため、削減に成功すれば収益向上の効果を長期間にわたり実現できます。しかし固定経費を削減し過ぎると、たとえば従業員のモチベーションを低下させるなどの副作用が生じてしまうため、かえって売上高を減らす諸刃の剣となります。したがって固定経費の削減を検討する際には、専門家などのアドバイスを受けながら進めた方がよいでしょう。

変動費を減らす

変動費とは、売上高の伸び縮みと連動している費用のことです。たとえば、材料の仕入や消耗品費などは、売上高が伸びるほど増えていきます。こうした変動費を削減するのは簡単ではありませんが、それでも削減するためにはいくつかの方法があります。

具体的には、材料の調達を安い業者へ変更する、外注先を変更する、値引き交渉や在庫の管理方法などの見直しを行うなどが効果的です。またM&Aを活用して事業規模を拡大すれば、スケールメリットによる仕入単価の値下げや外注費の削減などが望めるため、さらなる変動費の削減が可能になります。

自社の収益性を確認するための経営分析


収益向上を目指すためには、常に収益性や原価率、利益率などを確認しておかなければなりません。そのために有効な経営分析には、主に以下の4つがあります。

収益性分析

収益性分析とは、対象企業が利益を生み出す力をどの程度保有するのかを測る経営分析の手法です。
売上高に対して、利益の増減や固定経費などの指標を比較することで、さまざまな角度から企業収益性を分析できます。

代表的な指標としては、企業の所有する総資産に対してどれだけの利益を上げたのかを示す「総資本経常利益率(ROA)」や、株主資本に対して、どれだけの利益を上げたのかを示す「自己資本当期純利益率(ROE)」などが挙げられます。

財務分析

財務分析とは、資産や負債、資本などの構成や比率を見て、会社の返済能力や財務面の安全性、安定性などを測る経営分析の手法のことです。

融資などによる資金調達により、負債を増やしてレバレッジをかけ過ぎた企業経営を行うと、収益を向上させる前に会社の体力が厳しい状態に陥ってしまうことがあります。
こうした状況を回避するために、資産や負債、資本などの構成をチェックし、企業経営を財務面から安定させなければなりません。

なお財務分析を行う際には、流動比率や当座比率、資本調達構造の分析などを行い、財務基盤の安定をチェックします。

生産性分析

生産性分析とは、会社がもつ労働力や資本力などのリソースが、売上を増やすために有効に活用されているかを判断する経営分析の手法です。

生産性分析で用いられる代表的な指標としては、従業員1人あたりの付加価値を算出する「労働生産性」や、事業に対して投入された資本がどれだけの付加価値を生み出したかを測定する「資本生産性」などが用いられます。

成長性分析

成長性分析とは、成長の度合いや今後の成長性を測る経営分析の手法です。これまでの業績の変化を見ることで、企業の成長性がわかります。

具体的には、前期に対する売上高の伸び率から算出する「売上高増加率」や、経常利益の伸びから算出する「利益増加率」、総資産の伸び率から算出する「総資産増加率」などの指標を用いて、自社の成長性を多角的に判断します。

収益向上のために有効な5つの施策


収益向上にとって有効な施策のうち、特に大きな効果が見込める施策をご紹介します。

付加価値の高い製品やサービスを提供する

市場のニーズや潜在的需要などを正確に分析したうえで、多くの顧客から受け入れられる製品やサービスを提供することが大切です。特に付加価値の高い商品やサービスの提供が実現できれば、収益を劇的に向上させることも可能です。

例えば、10万円の製品を販売して1万円の収益を上げている場合、同じ売価で3万円の収益を上げられる商品やサービスが開発できれば、売上高は同じでも収益を3倍に伸ばすことができます。

売上高を伸ばすには営業など人員増員が必要です、売上高を増やさずに収益だけ伸ばせるのであれば、人件費など固定経費を増やす必要もなくなります。

こうした付加価値の高い製品やサービスの開発には、高い技術力だけでなく、既存の発想に捉われない柔軟な発想力や新しいアイデアを形にする力を活用しなければなりません。

また、自社のブランド力強化に成功することも、付加価値の高い製品やサービス提供の実現に効果的です。
そのためには、製品やサービスの開発・販売などを通じ、自社がどのような事業を行い、どのような価値を社会に提供しているのか戦略的に発信していく必要があります。

多角化戦略により新規事業などへ参入する

収益を向上させるためには、多角化戦略によって新規事業へ参入することも効果的です。
新規事業へ参入し新たな収益の柱を作り上げれば、収益向上につながるだけでなく、経営を安定させるリスクヘッジの効果も期待できます。

ただし自社単独で行うのであれば、既存の技術やノウハウなどが転用しやすい周辺分野の事業から始めることで、成功までの時間を短くできるだけでなく、コストやリスクも抑えることが望めます。

自社単独で新規事業へ参入するのはコストもリスクも大きいうえに、安定させるまでには時間が必要です。
そのため自社のリソースを活用しにくい分野への進出を検討するのであれば、M&Aが非常に効果的です。一定の市場シェアを保有する企業をM&Aで取りこむことで、ゼロから立ち上げるよりもスピーディーに事業に参入できるだけでなく、自社のノウハウなどを活用したシナジー効果の創出も望めます。

営業力を強化する

収益向上には、営業力の強化も有効な手段のひとつです。営業力を強化すれば売上高の増加が見込めるため、その結果収益の向上も実現できます。

ただし営業力を強化するためには、優秀な人材の獲得や獲得した人材の教育強化が必要です。

多くの中小企業は大企業とは違い、定期的に人材獲得をし続けていないことなどから、人材の獲得や教育に関するノウハウの蓄積があまりありません。

したがって本格的に営業力を強化する際には、人材の獲得や教育のノウハウをもつ専門家に相談したり、優秀な営業社員を抱える企業をM&Aで買収したりすることを検討した方がよいでしょう。

マーケティングにより顧客のニーズを把握する


売上高を伸ばしたり、利益率の高い製品やサービスを販売したりするためには、徹底したマーケティングが必要です。顧客が今求めているニーズを正確につかめれば、既存の顧客の単価向上や新規顧客を獲得が期待できます。

ただし、こうしたマーケティングは定期的に行わなければなりません。なぜなら顧客のニーズは常に変化するため、一度成功したからといって、同じ手法や同じ種類の商品などが長期間にわたり収益を生み続けるとは限らないからです。

なおマーケティングを正しく行うためには膨大なデータの処理が必要であり、その分析には高度な専門知識や独自のノウハウも必要となります。

こうした作業を社内の人員だけで行うのは難しいため、マーケティングや経営分析などに詳しい専門家に依頼するとよいでしょう。

コスト削減に努める

収益は、売上高と、製造原価や一般管理費などの経費との差額であるため、同じ売上高であったとしても、コストを削減すれば収益向上が達成できます。したがってコスト削減は、収益向上に直結する極めて有効な施策といえます。

またコストは主に固定経費と変動費によって構成されているため、コスト削減を検討する際には両者の内訳を詳細に分析し、削減できるコストには何があるのかをピックアップしていくとよいでしょう。

ただし人件費のように、削減することで労働意欲が低下し、かえってマイナスの効果を生む場合もあります。そのためコスト削減を実際に行う際には、削減によるデメリットにも注意を払わなければなりません。

またDXを促進させると業務の効率化が進み、人件費などの削減にもつながるため、IT人材を積極的に採用したりDXに向けた設備投資を行ったりすることなども効果的です。

収益向上をM&Aで実現させるには


収益を向上させるためのポイントや具体的な施策についてご紹介してきました。そのほかM&Aの活用も、収益向上を短時間で実現する選択肢の一つになりえます。

例えばM&Aによって大手傘下にグループ入りをした場合、親会社の資本力や独自の技術、最新の設備、そしてグループシナジーで新たな製品やサービスの開発につながる可能性が高まります。

また親会社のブランド力や採用システム、業務管理システムなどの活用で、人材採用や業務の効率化が進む可能性も高まり、こうした点からも収益向上が期待できます。

一方、M&Aによって他社の買収を行った場合、対象企業の技術やノウハウ、熟練の技術や資格を持った人材などをグループとして獲得することができます。
M&Aによってこれまで自社にはない技術などリソースを獲得することで、短期間で収益向上が望めるでしょう。

また、対象企業が同業であれば、事業規模やシェアの拡大が望めますし、反対に他業種であれば新規事業参入による多角化経営が実現できます。

その他、材料や消耗品などの仕入を共通化すればコストメリットが期待できます。また、労務・業務管理などを共通化できれば、両者のコスト削減が見込めるでしょう。

こうしたシナジー効果が業務に関するさまざまな場所で創出できれば、短期間での収益向上が実現できるでしょう。

終わりに

収益向上を実現させるためには、本記事で述べたように、さまざまなアプローチや施策があります。また、短期間での収益向上を目指すのであれば、M&Aも非常に有効な手段となるでしょう。

いずれの方法が自社にとって最も効果的なのかは、会社の状況や目指す目標、達成までに予定する時間などによって大きく異なります。

したがって、収益向上のための施策を検討する際には、専門家による客観的な意見を積極的に取り入れながら進めていくのがよいでしょう。

M&Aは収益向上のほか、様々な経営課題を解決する選択肢の1つとして高い注目を集めています。どのような事例があるのか、最新情報など詳しくはコンサルタントまでお問合せください。

著者

M&A マガジン編集部

M&A マガジン編集部

日本M&Aセンター

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