会社相続のポイントとは?相続の流れ、注意点をわかりやすく解説
既存の会社を後継者が継ぐ方法として事業承継、相続が挙げられます。いずれも「会社を継ぐ」という点では同じですが、その手続きやメリット・デメリットなどが異なります。本記事では、会社の相続に焦点を当て、事業承継で会社を継ぐ場合とはどのような点で違うのかを整理したうえで、相続する際の流れや注意すべき点などについて解説します。
会社の相続とは?
会社の相続で具体的に何を相続するのかというと、会社が発行している「株式」です。オーナー経営者が会社に出資した際に受け取った株式が、相続財産として相続の対象となります。
株主には株式の保有数に応じて、株主総会での議決権が与えられています。したがって株式を相続すれば、取締役の選任をはじめとする重要事項の決議に、自らの意思を反映させることが可能です。
こうしたことから、「株式の相続」が「会社の相続」とイコールになります。
なおオーナー経営者が亡くなった場合は、会社を継ぐ意思の有無とは関係なく、相続人の誰かが株式を相続する必要があります(相続放棄の場合を除く)。しかし相続人に、会社を継ぐ意思がないケースもあります。
こうした場合は、株主としての影響力は保持しつつ第三者に取締役などに就任してもらうか、M&Aにより株式を売却するか選択することになります。
この記事のポイント
- 会社の株式を相続すると議決権が得られ、経営に影響を与える。
- 法人相続は株式を、個人事業は資産・負債を相続する。
-相続後のトラブルを回避するには遺言書や生前贈与、家族信託で円滑な相続を促進する必要がある。
⽬次
事業承継との違い
会社の相続とは、オーナー経営者の意思とは関係なく、本人の死亡により相続人が会社を継ぐことです。
これに対し事業承継の場合は、オーナー経営者が自らの意思で、在職中に次の経営者に事業を承継することをいいます。
そのため、事後承継では承継時期を自ら決めることができ、後継者に教育や経験を積ませ、経営ノウハウなどを伝承したりすることも可能です。
一方で相続の場合は、その特徴から承継時期をあらかじめ決めることができません。また事業の引き継ぎやノウハウなどを伝えることもできません。
会社の相続の種類
「会社=事業」と考えた場合、その形態には「法人」と「個人事業」の2つがあります。したがって、会社の相続も2つにわかれます。
法人を相続する
法人を相続するためには前述の通り、オーナー経営者が持つ株式を相続人が相続しなければなりません。その結果、前経営者から後継者に株式の所有権が移転し、会社の相続が完了します。
しかしこの際、遺言書などで株式の相続人が指定されていなければ、後継者が会社を安定的に経営できるほどの株式を相続できるかどうかはわかりません。
たとえば、複数の相続人で株式を相続すると株式が分散してしまうため、会社の方針をめぐり株主の間で意見が対立し、経営の安定が保てなくなる恐れがあります。
個人事業を相続する
会社の資産・負債が会社(法人)の所有物であるのに対し、個人事業では、事業に関する資産・負債は事業主個人の所有物です。
したがって個人事業を相続する場合は、法人のように株式ではなく、事業に関する資産・負債を直接相続します。
なお個人事業を相続する場合は、前経営者の廃業届を、事業の納税地の税務署へ提出するとともに、後継者が開業届を出すことで相続は完了です。
ただし他に相続した財産がある場合はそれらを合算し、別途相続税の申告はしなければなりません。
会社を相続する流れ
ここでは法人を相続する場合の主な流れをご紹介します。
①相続により自社株を取得する
オーナー経営者が所有しているすべての株式を、後継者が単独で継ぐことが望ましいですが、そのことが難しい場合でも、最低でも過半数を相続しなければ、役員の選任などを単独で行うことができません。
また会社の事業目的や定款の変更、合併などの組織再編のように、会社の根幹に関わるような重要な事項を単独で決められるようにするには、発行株式の3分の2以上が必要です。
持ち株比率別の保有権利の一例
持ち株比率 | 保有権利 |
---|---|
100% | すべて自分の意志で決定する事ができる(完全子会社化) |
66.7%以上(2/3以上) | 株主総会の特別決議(※)を単独で成立させられる (※会社の合併、事業譲渡の承認など) |
50.1%超(1/2超) | 株主総会の普通決議(※)を単独で成立させられる (※取締役の選・解任、配当など) |
33.4%以上(1/3以上) | 株主総会の特別決議を単独で阻止できる |
3%以上 | 株主総会の招集、会社の帳簿等、経営資料の閲覧ができる |
1% | 株主総会における議案提出権 |
これらの点を踏まえたうえで自社株を相続しなければなりません。
オーナー経営者が遺言書を遺している場合は遺言書の内容に従います。遺言書が無い場合は法定相続人同士の話し合い(遺産分割協議)によって、誰が株式を相続するのかを決めます。
遺産分割協議において、後継者が全株式を取得することで意見が一致すれば問題ありませんが、相続人同士で意見が対立した場合、最終的には法定相続分で株式を相続することになります。
その場合は会社相続後の経営が安定しなくなる可能性があるため、話し合いの機会を十分に設け、後継者に株式を集中させるようにしましょう。なお相続する株式の評価額については、後述の評価方法により算定します。
②株式の名義を変更する
後継者である相続人が株式を相続した後、株式名簿の名義をオーナー経営者から後継者へ変更します。その際に、会社の登記簿謄本をもとに「株券発行会社なのか、不発行会社なのか」を確認しておく必要があります。
株券発行会社の株式を相続するためには、株主名簿を書き換えるだけでなく、実際に株券そのものを取得しなければなりません。その場合は、株券の取得と株主名簿の名義変更の両方を行わなければ、株式の手続きは終了しません。
もし株券が見つからない場合は、定款の変更と登記を行い株券不発行会社としたうえで、株式の名義変更のみを行います。
③後継者を決定し、代表としての地位を確立する
株式を取得した段階ではまだ株主であるであるため、会社を相続するためには株主総会を開催し、後継者として代表取締役に就任しなければなりません。
相続する会社が取締役設置会社である場合は、株主総会で後継者を取締役として選任し、取締役会の決議によって代表取締役に就任します。
取締役設置会社でない場合は、定款の定めにより株主総会の決議などで代表取締役に就任します。
代表取締役に就任後、2週間以内に法務局で登記を行う必要があります。
④金融機関や許認可の変更手続きを行う
法務局での変更登記が完了し、新しい登記簿謄本を取得したら、金融機関や許認可などの変更手続きを行います。
法人名義の銀行口座の代表者変更だけでなく、許認可や免許などが必要な事業の場合は、その代表者変更の手続きも行わなければなりません。
また取引先に対して代表取締役の変更を通知するとともに、主要な取引先などへの周知もしておいた方が良いでしょう。
会社の相続にあたっての注意点
会社を相続する際の主な注意点は、以下の通りです。
株式が分散し、経営権を掌握できないことがある
株式会社の場合、株主総会での議決権の数は持株比率に応じて決まります。
そのため会社を相続する後継者が、発行する株式の100%を相続するのがもっとも理想的です。そうすれば、株主の意志と経営者の意志を完全に一致させられるため、株主総会の運営に悩まされることはありません。
全株式の相続が難しい場合でも、全体の3分の2以上を相続できれば、定款の変更や営業の譲渡、合併契約の承認、減資など、会社の根幹に関わる重要事項の決議を、後継者1人の意志で決められます。
なお、遺言書で株式の相続を指定されていなければ、後継者の意志でその比率を決めることはできません。
遺言書がない場合、法的にはそれぞれの相続人が法定相続分の財産を相続する権利を持っているため、法定相続人同士で話し合って後継者に株式が集中するようにしなければなりません。
もし他の相続人からの了解が得られなければ、最終的には複数の法定相続人によって株式が相続され、株式が分散してしまいます。
こうなると、後継者の支配権が弱まるため、会社の相続後に経営の混乱や業績の悪化につながる恐れあります。
借入金などの負債まで相続する可能性がある
相続した会社に金融機関などからの借入金があることは、珍しいことではありません。中小企業がこうした融資を受ける場合、経営者が個人保証をしていることがあります。
会社を相続するにあたり、新たに就任した経営者が前経営者から引き継いで、個人保証の継続を求められることがあります。しかし個人保証を引き継ぐと、会社に何かあった場合はそのすべてを個人で背負わなければなりません。会社の相続にはこのようなリスクが生じる場合があることを、十分に理解しておく必要があります。
後継者以外の親族とのトラブルになる可能性がある
会社の相続を希望する者が親族間に複数人いる場合、相続人同士で対立が生まれることがあります。
また後継者に株式を集中させようとした結果、相続財産の金額が相続人の間でアンバランスになってしまうことも珍しくありません。
こうしたケースにおいて有効な対策を講じておかなければ、後継者以外の相続人が法定相続分を相続できないため、トラブルが生じる可能性があります。したがって、会社の相続を円滑に行うためには、次章で紹介する対策を講じておくことが大切です。
会社の相続を円滑に行うための対策
会社の相続を円滑に行うために、多くの企業ではさまざまな対策が講じられています。
兄弟などの遺留分に配慮した遺言状を作成しておく
遺言書を作成し、会社の株式や相続税の納税資金などを後継者に相続させるように指示しておくと、会社の相続をスムーズに進められます。
遺言書を作成しておけば法定相続分で財産を分ける必要がなくなるため、後継者に確実に株式などを相続させることが可能です。
ただし、後継者に偏り過ぎた遺言書は作らないように注意しなければなりません。
法定相続人には遺留分が認められているため、最低でも法定相続分の2分の1を相続する権利が付与されています。兄弟などの遺留分に配慮しながら、遺言書を作成するように心がけましょう。また遺留分を算定するためには、相続財産の評価を正しく行う必要があるため、税理士などの専門家に相談しながら進めていくのがよいでしょう。
生前贈与をしておく
株式を生前に後継者に贈与しておくことも、会社の相続を円滑に進めるためには有効です。
贈与であれば経営者の意思が周囲にも伝わるため、経営権や相続財産をめぐるトラブルも未然に防ぐ効果が期待できます。
また生前贈与を行う場合、贈与財産の金額によっては贈与税を支払わなければなりませんが、事業承継税制を活用すれば贈与税が猶予され、最終的に免税にすることも可能です。
なお民法上、贈与は必ずしも書面を作成する必要はなく、口頭のみでも効力を生じると定められています。しかし生前贈与後のトラブルを避けるためには、贈与契約書を作成し、証拠として残しておくこと方がよいでしょう。
家族信託
家族信託とは、家族に自分の財産の管理や運用、処分を任せる制度のことです。家族信託は会社の相続対策としても有効です。
また家族信託の委託者と受益者を現経営者に、受託者を後継者にしておけば、株式の生前贈与と同様の効果を持たせることも可能になります。
終わりに
以上、会社の相続についてご紹介しました。
事業承継であれば経営者の意思を反映することが可能ですが、相続の場合は、経営者の意思を完全に反映させることが困難な場合が多くあります。
また相続する会社に借入金などがあると、それが原因で後継者へのスムーズな承継が難しくなることも考えられます。
このように後継者への相続が難しい場合には、M&Aを選択肢として検討してみることをお勧めします。
M&Aであれば、経営者の意思を事業承継に反映させられるだけでなく、売却益を経営者自身が受け取ることも可能です。
M&Aによって会社はそのまま存続し、従業員は仕事を継続できますし、取引先とも変わらず仕事が続けられます。また、これまで築き上げてきた技術・ノウハウ等も次世代に引き継がれるため、後継者が会社を相続しやすいように準備を進めるとともに、事業承継も相続と合わせて検討しておいた方が良いでしょう。