個人保証とは?メリットやデメリット、関連ガイドラインを解説
中小企業の経営者が金融機関から融資を受ける際、個人保証を求められることがあります。
個人保証に応じると融資が受けやすくなる反面、資金難に陥った場合は、経営者の個人資産を切り崩すなどの必要が生じます。
本記事では、個人保証の概要、メリットやデメリット、そして「経営者保証に関するガイドライン」について取り上げるほか、M&Aによる個人保証の解除についてもご紹介します。
この記事のポイント
- 個人保証は、企業が融資を受ける際に経営者が債務を保証する制度で、経営者保証とも呼ばれる。
- 個人保証は企業の与信力を補完し、融資を受けやすくするが、経営不振時には個人に負担がかかるリスクがある。
- M&Aを通じて個人保証を解除することも可能で、契約書に条件を明記することが重要である。
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個人保証とは
個人保証とは、企業が金融機関から融資を受ける際に、経営者など個人が企業に代わってその債務や責任を保証することを指します。
個人保証は「経営者保証」とも呼ばれ、多くの場合、経営者が会社の融資に対して保証人の役割を担うことになります。
なお、会社や経営者の与信能力が不足している、融資金額が多いなどといった場合には、経営者だけでなくその家族や親族なども保証人となることがあります。
個人保証の目的
個人保証の目的は、融資を受ける企業の与信力の不足分を補うことです。
資金を融資する金融機関の立場から考えると、経営者の個人保証がなければ、会社が返済できなくなってしまった時点で資金の回収が難しくなり、貸し倒れが起きるリスクがあります。
しかし、経営者に個人保証をつけることで貸し倒れのリスクを軽減することができます。
個人保証は、借り手である企業側にとってもメリットがあります。与信力が不足していても、個人保証を活用することで融資が受けやすくなるためです。
中小企業が金融機関から融資を受ける際には、多くのケースでこの個人保証制度が活用されています。
個人保証は「連帯保証」が基本?
個人保証には「単純保証」と「連帯保証」の2種類があります。
「単純保証」とは、主債務者の財産が差し押さえられても返済しきれない場合に限って、主債務者に代わって返済する責任を負うことをいいます。
したがって「単純保証」では、金融機関が主債務者となる会社の財産などを差し押さえたうえで、それでも返済しきれないといった事態にならない限り、保証人に債務の弁済は求められません。
これに対し「連帯保証」とは、主債務者と保証人が連帯して債務を負うことをいいます。したがって、連帯保証人本人が債務を負っている事と事実上同じです。
経営者が融資を受ける際、多くの場合は「連帯保証」となります。
個人保証のメリット
経営者は個人保証をつけることで、主に2つのメリットを享受することができます。
会社の与信力を補完できる
上場企業をはじめとする大企業は、市場から資金を調達するにあたって、投資家からの信頼を担保する必要があります。
そのためには監査法人による会計監査を受け、投資家が安心して投資が行えるように、企業の財政状態や経営状況、キャッシュフローなどが適正であることのチェックが行われることが一般的です。
対して中小企業は、オーナー経営者が経営を担う場合が多く、投資家保護の観点から決算書が作成されることは稀です。主に正しい税額を算出することを目的として、税務会計によって決算書が作成されています。
したがって、融資を行う金融機関から見ると、大企業と比べて決算書類などの信頼性が不十分と判断される傾向にあります。
このような理由から、中小企業では会社の与信力が不足する傾向にあります。そこで経営者が個人保証を行うことにより、不足した与信力を補完し、会社の信用を高めることが可能になるのです。
融資を受けやすくなる
上述のように、経営者が個人保証を行うと、不足している会社の与信力を補完できます。金融機関から融資を受ける際には審査が行われますが、この審査で会社の与信力が不足していたとしても、経営者個人の与信力が加わることで、信用度が高まり融資を受けやすくなります。
個人保証のデメリット
個人保証には特に注意しておかなければならないデメリットが3つあります。
経営不振の場合、個人に負担がかかる
上述のように、融資の際に個人保証(連帯保証)を行うと、融資を受けたのは会社であるにも関わらず、実質的には個人が借りたのとほぼ同じ状態になります。
そのため会社が経営不振に陥り、返済が難しくなった場合は、経営者個人が代わりに返済をしなければなりません。
したがって、老後の生活のために預貯金やマイホームなどの個人資産を準備していたとしても、それらを切り崩したり売却したりして、融資の返済に充てなければならない場合があります。
事業撤退が難しくなる
個人保証をつけていると、経営状態が悪化した場合、上述のように個人の財産にも影響するため、事業整理、撤退など思い切った事業転換に踏み切れない状況に陥るケースもあります。
事業承継が難航する
また、事業承継の後継者となるためには個人保証を引き継がなければなりません。候補者自身が個人保証を嫌がる、もしくは子どもや親族に負担を背負わせたくないと考える経営者も多いため、相続や事業承継が進みにくくなるケースもあります。
起業して事業を拡大させていくためには、資金調達が欠かせません。多くの中小企業では金融機関からの融資による資金調達が活用されています。しかしながら、連帯保証のリスクを負うのは難しいと考える起業家も増えています。
経営者保証に関するガイドラインとは
個人保証に躊躇するものの、中小企業の経営者は金融機関からの資金調達を行わずに事業を発展させていくことは容易ではありません。
個人保証が企業の活力を阻害するという面があることが指摘され、これらへの対応として経営者保証に関するガイドラインの運用が2014年から開始されました。
『経営者保証に関するガイドライン』とは、中小企業の経営者保証に関する契約時や履行時のルールをとりまとめたものです。
このガイドラインは、全国銀行協会と日本商工会議所が策定したもので、法的拘束力のない自主的なルールですが、実際に融資を行う側である銀行側が中心となって策定されていることから、個人保証(経営者保証)を行う際における一定の枠組みとして示されています。
「経営者保証に関するガイドライン」には、中小企業の経営者が経営者保証なしでの融資を希望する場合に「中小企業に求められる経営状況」が記載されています。
中小企業の経営者は、該当する経営状況であれば、個人保証(経営者保証)なしでも融資を受けられる可能性が高まります。
経営者保証に関するガイドラインを活用するメリット
経営者保証に関するガイドラインを活用して融資を受けた場合のメリットは、以下の通りです。
- 信用情報機関に登録されない
- 万が一の場合でも最低限の財産が確保できる
- 事業承継がスムーズに行える
金融機関からの融資が返済できなくなると、連帯保証人である経営者の情報も、信用情報機関に登録されることになります。
しかしガイドラインを活用すれば、信用情報機関に個人情報が登録されることがないため、万が一の場合でも経営者が再生を図りやすくなります。
また、保証人が事業再生や事業清算を進める中で、生計を支えるための最低限の財産を確保できます。
経営者保証ガイドラインに従えば一定期間の生計費の保持が認められるだけでなく、金融機関の保証債務しか対象とされないため、住宅ローンの支払いを継続できます。
さらに、後継者が個人保証を引き受けることが難しく、事業承継が進まないような場合にも有効です。経営者保証ガイドラインを活用して個人保証を引き受ける必要がなくなれば、事業承継もスムーズに進みます。
経営者保証に関するガイドラインの注意点
経営者保証ガイドラインは、中小企業、経営者、金融機関の間で共通の自主的なルールとして位置付けられたものです。
したがってこのガイドラインは、関係者が自発的に尊重し遵守することが期待されるものではありますが、法的拘束力はありません。
もちろん、全国銀行協会が策定に関わっていることから、要件を満たしていればある程度は期待できますが、必ずしも無担保無保証で融資が受けられるわけではありません。
2020年施行の民法改正や廃業時における経営者保証に関するガイドラインの基本的な考え方の改定、「経営者保証改革プログラム」の策定などにより、個人保証をなるべく行わないで融資を実行するための枠組みづくりが少しずつ進んでいます。
しかしながら個人保証が禁止されたわけでないため、保証なしで必ず融資が受けられるわけではありません。それでも適用条件に符合すれば、今後は保証なしで融資が受けられる可能性が高くなるでしょう。また、将来的には事業のビジネスモデルなどが、融資の際により重要視されるようになるでしょう。
個人保証は、M&Aで解除できるのか
個人保証を解除するには、経営者保証ガイドラインの活用以外にも、M&Aという選択肢があります。
一般的には、M&Aの交渉を経て、譲渡オーナーの個人保証は譲渡先に引き継がれることが一般的です。
中小企業のM&Aにおいては売り手の債務に関わる個人保証の解除は、基本合意書の中でも必ず定められる条件です。
M&Aを検討する場合は、契約書や法的アドバイスを確認し、個人保証の継続や解除について明確な情報を得ることが重要です。
終わりに
個人保証は融資を受ける際には有利になる点も多いですが、その分、経営者やその親族などの個人資産がリスクにさらされることになります。また個人保証は、事業の拡大や事業承継にも支障をきたす場合もあります。