マレーシアM&Aの2023年振り返りと2024年予測

福島 裕樹

日本M&AセンターIn-Out推進部

海外M&A
更新日:

⽬次

[非表示]

日本M&Aセンター海外事業部の福島です。マレーシアを中心としたクロスボーダーM&Aのサポートをさせて頂いております。
本コラムでは、2023年のマレーシアおけるM&A動向や日系企業の投資の動向を振り返りつつ、2024年の注目市場について所見をまとめました。

「海外・クロスボーダーM&A」って、ハードルが高いと感じていませんか?  日本M&Aセンターは、海外進出・撤退・移転などをご検討の企業さまを、海外クロスボーダーM&Aでご支援しています。ご相談は無料です。

2023年マレーシアのM&A動向の振り返り

2022年のマレーシア実質GDP成長率はコロナ禍の反動があったものの、8.7%とASEAN主要国の中でベトナムの8%を凌ぐNo.1の成長率でした。23年初めは2022年の反動で景気の落ち込みが予想されていましたが、23年Q1は前年同期比5.6%とフィリピンの6.4%に次ぐ2番目の成長率を維持し、好調に推移しています。7~9月は3.3%と落ち着いていますが、ASEANで特に成長率に注目をされるインドネシア、ベトナムにも引けを取らない堅調な成長を続けています。
※出典:ASEAN経済指標 2023年 11月(JETRO)

M&Aの件数でマレーシアを見てみると日本企業がマレーシア企業を買収したIn-Out件数は2023年1月~9月で7件と前年の11件よりも少なくなる可能性が高い状況です。しかし、In-Out件数の減少はマレーシアに限ったことではなく、シンガポールをはじめとした他のASEAN主要国のデータを見ても前年比割れをすると見込まれています。
大きな要因としては円安があると思われますが、私が現場で日系企業とお話をする限りではASEAN地域への投資意欲が減退したというよりは投資のタイミングを見計らっている企業が多いように感じます。
※出典:クロスボーダーM&Aマーケット情報(RECOF)

日系企業の対マレーシア投資の動向

2023年のM&Aを含めた対マレーシア投資の概要から、今後のマレーシアへの投資動向を予想してみたいと思います。2023年はM&A件数自体は前年比少なくなっているものの、多くの食品に係る企業がマレーシアへの投資が特に目立った1年でした。ここで、2023年に発表された日本企業のマレーシアでの動向をいくつか事例として紹介します。

事例①オタフクソース:マレーシアに新工場設立

オタフクソース(広島市)を主力とするオタフクホールディングス(同)は17日、主力のソースを生産するためにマレーシアに新工場を建設すると明らかにした。13億円を投じて2025年の稼働開始を予定し、イスラム教徒でも食べられる「ハラル認証」のソースを増やす。
出所:オタフクソース、マレーシア新工場を着工 25年稼働(日本経済新聞、2023年11月21日付)

オタフクソースマレーシアは、マレーシア国内を中心に、お好みソースなど鉄板粉ものメニューの調味料のみならず、さまざま な日本食に使用する酢やたれなどを、ハラール日本食レストランや量販店へ販売し、近年は日本市場への輸出や近隣国のムスリム市場へ販路を拡大しています。
出所:~ハラール調味料を世界へ~オタフクソースマレーシア(OTAFUKU SAUCE MALAYSIA SDN. BHD.)マレーシア新工場の着工式を開催(オタフクホールディングス株式会社/ニュースリリース)

事例②デュアルタップ:ハラル認証のエナジードリンクKIIVA販売開始

KIIVAは「日本ベンチャー発のエナジードリンク」ブランドとして初めて、JAKIM(マレーシアイスラム開発庁)によるハラル認証を取得しました。
JAKIMのハラル認証は非常に厳格、かつ権威あるものとしてイスラム諸国で認められているため、将来的に、KIIVAマレーシア版をイスラム教徒が多く暮らす他国へ輸出することも視野に入れています。
出所:デュアルタップの合弁会社「KIIVA MALAYSIA」が ハラル認証エナジードリンク「KIIVA Carbonated Functional Drink」を セブン-イレブン・マレーシアで販売開始(株式会社デュアルタップ/ニュースリリース)

事例③国分グループ:クアラルンプール近郊に4温度帯物流センターを増設

国分グループは、マレーシア国内で回転寿司チェーン店 SUSHI KING を 121 店舗展開するTexchem グループと低温物流事業会社のKokubu Food Logistics Malaysia Sdn. Bhd.(以下KFLM)を2016 年に合弁で設立し、同国の外食事業者、小売事業者の物流受託業務を行っています。

2020 年にはクアラ・ルンプール郊外に 4 温度帯物流センターを開設し、同国内における保管 / 配送拠点として顧客基盤を拡大してきました。今般、温度帯物流の需要増加に対応するため、低温倉庫を増設し、保管能力を13,000 パレットから18,000 パレットに拡大します。
出所:国分フードロジスティクスマレーシアがクアラ・ルンプール郊外の 4 温度帯物流センターを増設(国分グループ本社株式会社ニュースリリース)

事例④丸紅:大手コーヒーチェーン「ティムホートンズ」をシンガポール、マレーシア、インドネシアで店舗開発・運営すると発表

丸紅はシンガポールなど東南アジア3カ国で、カナダの大手コーヒーチェーン「ティム・ホートンズ」のフランチャイズチェーン(FC)展開に乗り出す。2033年までに数百店舗を展開し、同年時点の売り上げ規模として約3億ドル(約410億円)を目指す。東南アジアの消費者向けビジネスを新たな収益源に育てる。
出所:カナダ大手コーヒー店、丸紅が東南アジアでFC展開 10年で数百店(日本経済新聞、2023年2月28日付)

コーヒー消費量の増加は、世界的なトレンドとなっています。中でも東南アジアのコーヒー市場は、経済発展に伴う消費の拡大に加え、ミレニアル世代・Z世代を中心とした、コミュニティスポットとしてのカフェ利用やオンライン注文・デリバリー利用の拡大等、コーヒーショップの概念・利用方法の変化により、高い市場成長が見込まれています。
出所:東南アジアにおけるTim Hortons®コーヒーチェーンの展開について(丸紅株式会社/ニュースリリース)

事例⑤ニチレイロジグループ本社:出資先のNLコールドチェーン・ネットワークを完全子会社化

株式会社ニチレイロジグループ本社(東京都千代田区)は、株式の40%を保有しているNL COLD CHAIN NETWORK(M)SDN. BHD.(マレーシア プチョン、以下NLCCN)の発行済全株式を、2023年2月28日付けで取得し、完全子会社化した。
出所:ニチレイロジグループ本社、マレーシアのNLCCNを完全子会社化(日本M&Aセンター M&Aマガジン)

ニチレイロジグループ本社は、2022年にも日本M&Aセンターのサポートで、マレーシアの企業を譲受しています。日本M&Aセンターによる「M&A事例インタビュー」でもお読みいただけます。

2024年以降の日本企業による対マレーシア投資予測

対マレーシア投資を語るうえで、今外せないキーワードは「ハラール(ハラル)産業」です。

特定非営利活動法人 日本ハラール協会のウェブサイトによると「ハラールとは、神さまと預言者ムハンマドが(クルアーンとハディースの中で)ムスリムに対して許可したもの」とのこと。つまり、「ハラール産業」は、イスラム教徒向けの商品やサービスなどに関わる産業を指します。

ディスカウントストアとして人気の「ドン・キホーテ」のパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスでは、昨今、海外版店舗とも言える「DonDonDonki」をASEAN地域にて破竹の勢いで拡大しており、マレーシアの店舗増加と共にハラール商品の取り扱いも増やしています。

これは、世界的に認められたハラール認証機関(JAKIM、マレーシアイスラム開発庁)を持つマレーシアを、巨大なイスラム市場へのゲートウェイとして本格的に活用し始めた日系企業の先駆的な取り組みのひとつと言えるでしょう。

また、マレーシアは国策としてハラール産業を推し進めており、JAKIMと相互認証をしているハラール認証機関は全世界で46の国と地域で84団体にまで上るそうです。

現在、マレーシア国内だけだと人口3,000万人程度のハラール市場ですが、全世界では2030年までに22億人まで増加すると考えられています。欧米先進国やアジア新興国など、ムスリムが多数派を占めていない国においても人口増加が予測されており、現在ハラール産業にてフロントランナーであるマレーシアにおいては、輸出品やインバウンド需要においても重要性がさらに増すと考えられます。
※出典:レポート ハラール産業(SPEEDA)

ここで、M&Aに話を戻すと、この成長市場であるハラール市場において「ハラール × 日本食(製品)」という組み合わせでの需要は増加していくといえます。特に和牛などの肉製品はハラル認証を新たに取得する企業も増えてきており、日本からイスラム市場を擁する諸外国への輸出等も期待できます。それに付随して、食品卸等の流通、それに伴うコールドチェーン等への投資もますます進むものと想定しています。

また食品に限らず、医薬品やボディソープ等のトイレタリーもハラール認証製品は広がっており、今後ますますハラール関連の投資がマレーシアで活発になっていくと予想します。

日本M&Aセンターの海外クロスボーダーM&A支援

日本M&Aセンターでは、中立な立場で、譲渡企業と譲受企業双方のメリットを考慮にいれたM&Aの仲介を行っております。また、日本企業による海外企業の買収(In-Out)、海外企業による日本企業の買収(Out-In)、海外企業同士の買収(Out-Out)も数多く手掛けてまいりました。

海外進出や事業継承に関するお悩みはいつでもお問い合わせください。

「海外・クロスボーダーM&A」って、ハードルが高いと感じていませんか?  日本M&Aセンターは、海外進出・撤退・移転などをご検討の企業さまを、海外クロスボーダーM&Aでご支援しています。ご相談は無料です。

『海外・クロスボーダーM&A DATA BOOK 2023-2024』を無料でご覧いただけます

データブック表紙

中堅企業の存在感が高まるASEAN地域とのクロスボーダーM&Aの動向、主要国別のポイントなどを、事例を交えて分かりやすく解説しています。日本M&Aセンターが独自に行ったアンケート調査から、海外展開に取り組む企業の課題に迫るほか、実際の成約データを元にしたクロスボーダーM&A活用のメリットや留意点もまとめています。

【セミナー無料公開】「はじめの一歩」におすすめしたい成熟国マレーシア【東南アジアM&A最前線】



著者

福島 裕樹

福島ふくしま 裕樹ゆうき

日本M&AセンターIn-Out推進部

大手金融機関を経て2018年に日本M&Aセンターの海外事業部に入社。入社から一貫してクロスボーダーM&Aに従事。主に譲受をする日系企業に対してアドバイザリー業務を行う。2023年4月よりマレーシア担当となり、AESAN各国での成約実績に基づきマレーシアの魅力を発信している。

この記事に関連するタグ

「クロスボーダーM&A・海外M&A」に関連するコラム

ベトナムM&A成約事例:日本企業との資本提携でベトナムのリーディングカンパニーへ

海外M&A
ベトナムM&A成約事例:日本企業との資本提携でベトナムのリーディングカンパニーへ

ベトナムの成長企業が日本の業界大手企業と戦略的資本提携を実施日本M&AセンターInOut推進部の河田です。報道にもありましたように、河村電器産業株式会社(愛知県瀬戸市、以下「河村電器産業」)が、DuyHungTechnologicalCommercialJSC(ベトナム・ハノイ、以下「DH社」)およびDHIndustrialDistributionJSC(ベトナム・ハノイ、以下「DHID社」)の株

タイにおける日本食市場の2024年最新動向

海外M&A
タイにおける日本食市場の2024年最新動向

コロナ禍から復活最新のタイの飲食店事情日本M&Aセンターは、2021年11月にタイにて駐在員事務所を開設し、2024年1月に現地法人を設立いたしました。現地法人化を通じて、M&Aを通じたタイへの進出・事業拡大を目指す日系企業様のご支援を強化しております。ASEAN進出・拡大を考える経営者・経営企画の方向け・クロスボーダーM&A入門セミナー開催中無料オンラインセミナーはこちら私自身は、2度目のタイ駐

ベトナムM&A成約事例:日本の「ホワイトナイト」とベトナム企業

海外M&A
ベトナムM&A成約事例:日本の「ホワイトナイト」とベトナム企業

今回ご紹介するプロジェクトTの調印式の様子(左から、ダイナパック株式会社代表取締役社長齊藤光次氏、VIETNAMTKTPLASTICPACKAGINGJOINTSTOCKCOMPANYCEOTranMinhVu氏)ASEAN進出・拡大を考える経営者・経営企画の方向け・クロスボーダーM&A入門セミナー開催中無料オンラインセミナーはこちら私はベトナムの優良企業が日本の戦略的パートナーとのM&Aを通じて

シンガポールに代わる地域統括拠点 マレーシアという選択肢

海外M&A
シンガポールに代わる地域統括拠点 マレーシアという選択肢

ASEAN進出・拡大を考える経営者・経営企画の方向け・クロスボーダーM&A入門セミナー開催中無料オンラインセミナーはこちら人件費、賃料、ビザ発行要件、すべてが「高い」シンガポールASEANのハブと言えば、皆さんが真っ先に想起するのはシンガポールではないでしょうか。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、シンガポールでは87社の統括機能拠点が確認されています。東南アジアおよび南西アジア地域最大の統括拠

小さく生んで大きく育てる ベトナムM&A投資の特徴

海外M&A
小さく生んで大きく育てる ベトナムM&A投資の特徴

本記事では、ベトナムでのM&Aの特徴と代表的な課題について解説します。(本記事は2022年に公開した内容を再構成しています。)比較的に小粒である、ベトナムM&A案件ベトナムのM&A市場は、ここ数年は年間平均300件程度で推移、Out-Inが全体投資額の約6~7割を占め、その中で日本からの投資件数はトップクラスです(2018年:22件、2019年:33件、2020年:23件)。興味深いことに、1件当

インドネシアM&AにおけるPMIのポイント

海外M&A
インドネシアM&AにおけるPMIのポイント

本記事では、クロスボーダーM&Aで最も重要であるPMIについて、インドネシアの場合を用いてお話しします。(本記事は、2022年に公開した記事を再構成しています)M&Aのゴールは“成約”ではありません。投資側の日本企業と投資を受ける海外の現地企業両社が、思い描く成長を共に実現できた時がM&Aのゴールです。特にインドネシア企業とのM&Aは、他のASEAN諸国と比較しても難易度は高く、成約に至ってもそれ

「クロスボーダーM&A・海外M&A」に関連するM&Aニュース

ルノー、電気自動車(EV)のバッテリーの設計と製造において2社と提携

RenaultGroup(フランス、ルノー)は、電気自動車のバッテリーの設計と製造において、フランスのVerkor(フランス、ヴェルコール)とEnvisionAESC(神奈川県座間市、エンビジョンAESCグループ)の2社と提携を行うことを発表した。ルノーは、125の国々で、乗用、商用モデルや様々な仕様の自動車モデルを展開している。ヴェルコールは、上昇するEVと定置型電力貯蔵の需要に対応するため、南

マーチャント・バンカーズ、大手暗号資産交換所運営会社IDCM社と資本業務提携へ

マーチャント・バンカーズ株式会社(3121)は、IDCMGlobalLimited(セーシェル共和国・マエー島、IDCM)と資本提携、および全世界での暗号資産関連業務での業務提携に関するMOUを締結することを決定した。マーチャント・バンカーズは、国内および海外の企業・不動産への投資業務およびM&Aのアドバイス、不動産の売買・仲介・賃貸および管理業務、宿泊施設・飲食施設およびボウリング場等の運営・管

米ベインキャピタル、ティーガイアへのTOBが成立

米投資ファンドのベインキャピタルによる株式会社BCJ-82-1を通じた、株式会社ティーガイア(3738)への公開買付け(TOB)が2024年11月20日をもって終了した。応募株券等の総数(11,718,929株)が買付予定数の下限(7,076,300株)以上となったため成立している。また、ティーガイアは現在、東京証券取引所プライム市場に上場しているが、所定の手続を経て、上場廃止となる見込み。本公開

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース