2025年問題とは?何が起こるのか、企業への影響、対策を解説

経営・ビジネス
更新日:

戦後日本の人口は増加を続け、1967年には初めて1億人を超えましたが、2008年の1億2,808万人をピークに減少に転じました(※)。この少子高齢化による人口減少は長期的に続く傾向にあり、いまだ抜本的な対策は見つかっていません。こうした人口構成の極端な変化は、医療・介護の現場だけでなく、ビジネスのさまざまな場所でも深刻な影響を及ぼし始めています。本記事では、これら諸問題のひとつである2025年問題について解説します。

※出典:「人口推計(2021年(令和3年)10月1日現在)結果の概要」/総務省統計局

2025年問題とは?=超高齢化社会により起きる諸問題

2025年問題とは、国民の5人に1人が後期高齢者(75歳以上)という超高齢化社会を迎えることで、雇用や医療、福祉など社会にもたらす諸問題を指します。

日本の人口は2008年にピークを迎え、2010年からは急激な人口減少が続いています。一方、若年層の非婚化・晩婚化により少子化はさらに加速しており、この人口減少の傾向は当分の間続くと見られています。

このように総人口が縮小を続ける中、人口構成比で見ると増加し続けている層がいます。これが団塊の世代です。団塊の世代とは、1947年から1949年のいわゆる「第1次ベビーブーム」に生まれた世代のことで、現在の日本の人口構成比の中で最も大きなボリュームゾーンを占めています。

この団塊の世代の人数は約800万人と言われていますが、2025年にはそのすべてが後期高齢者(75歳以上)となるため、日本社会は国民の5人に1人が後期高齢者という「超高齢化社会」を迎えます。

2025年以降はこれら後期高齢者を社会全体で支えることになり、社会保障や介護・福祉、年金などはおそらく限界を迎え、社会のあらゆる場所にさまざまな影響が及ぶことは避けられないでしょう。

この記事のポイント

  • 2025年には国民の5人に1人が75歳以上の後期高齢者となる「超高齢化社会」を迎える。
  • 2025年問題は、医療・介護、雇用、福祉などに深刻な影響を及ぼし、人材不足や後継者問題、医療費の増加が予測される。
  • 各業界(運送、建設、医療・介護、IT)では人手不足が加速し、DX推進や労働環境の整備が求められる。M&Aによる事業承継も一つの解決策となる。

⽬次

[非表示]

「2040年問題」との違い

「2040年問題」とは、団塊の世代の子ども世代にあたる「団塊ジュニア世代」が2040年頃に65歳を迎える結果、65歳以上の高齢者の人口割合が最大化し、同時に生産年齢人口の急減する結果、国内経済や社会制度の維持が危機的状況に陥ると予測される問題のことです。

どちらも高齢者の増加により社会のあらゆる場所で既存システムの維持が難しくなるという点では同じですが、2025年問題が75歳以上の後期高齢者の増加を原因とする諸問題であるのに対し、2040年問題では65歳以上の高齢者の増加を原因とする諸問題である点で両者は異なります。

2025年問題 2040年問題
75歳以上の後期高齢者の増加を原因とする諸問題 65歳以上の高齢者の増加を原因とする諸問題

2025年問題が社会や企業に与える影響

では次に、2025年問題が具体的にどのような影響をもたらすのか見ていきます。2025年問題によって引き起こされる問題をご紹介します。

人材不足の深刻化

2025年問題が及ぼす影響のうち最も大きなものが、人材不足の深刻化です。非婚化・晩婚化などにより少子高齢化は加速しており、成人して就業する人口よりも、高齢化して退職する人口の方が多い状況が続いています。

団塊の世代の大量離職にともなう労働力人口の減少は、昨今見られるあらゆる業種での人手不足から見ても明らかです。そのため業種を問わずあらゆる企業で人手不足が生じることが予想されます。

こうした人材不足は、労働力人口だけにとどまりません。中堅・中小企業においても、経営の担い手となる後継者不足は今以上に深刻化し、その結果業績が良くても廃業を選ばざるを得ない企業が増えていくことが考えられます。

こうした事態が続くと、最悪の場合、日本の経済規模が縮小してしまう恐れがあります。

後継者問題による廃業の危機

また2025年には、経営者が70歳以上の中小企業が約245万社にまで増加すると言われており、そのおよそ半数を占める約127万社では、いまだに後継者が決まっていません。

この後継者不在問題に対する有効な対策が打てない状態が続けば、最終的に約650万人の雇用が失われ、約22兆円にも及ぶGDPが失われると予測されています。

医療費の増加・介護体制維持の困難化

2025年問題は、医療や介護の分野にも大きな影響を及ぼします。後期高齢者が増加するため、病院などの医療施設や介護施設の利用者が増えると考えられますが、上述の人材不足の深刻化は医療・介護分野にも大きく影響するため、人手不足により十分な医療サービスが提供できない可能性が考えられます。

また、これと併せて考えられるのが、医療費の問題です。

後期高齢者が負担する医療費は、一部を除き、基本的には1割負担です。そして、残りの9割を現役世代が支えています。この後期高齢者が急激に増加し、病院や介護施設の利用者数が増えるため、社会保険料負担が増大することが見込まれています。

同時に、診療報酬の見直しなども行われることが予想されるため、病院やクリニック経営が難しくなり、最悪の場合は廃業や閉鎖に追い込まれる病院が増えることも考えられます。これらが重なると現状の制度の維持が難しくなり、制度そのものを見直さなければならないようになるでしょう。

2025年問題が各業界にもたらす影響

2025年問題が各業界にどのような影響をもたらすのか、特に影響が大きいと考えられる業界について見ていきます。

①運送業界の場合


運送業界では、2024年4月1日から改正労働基準法が施行され、以後はトラック運転手の時間外労働時間の上限が960時間までに制限されることになります。その結果、運送会社の収益減少や運賃の値上げ、残業ができないトラックドライバーによる離職が起こると言われています。さらに2025年には高齢の従業員が次々と離職していくため、今以上に人材の確保が困難になるでしょう。

なお、運送業界では「2024年問題」が取り上げられることもあります。こちらも人手不足が加速する点では共通していますが、2024年問題がドライバーの労働時間制限、それに伴う離職が原因であるのに対し、2025年問題ではドライバーの高齢化による「引退」が原因である点が違います。

いずれにしても、解決には新たな人材の確保だけではカバーしきれません。そのため、DX推進も並行して行う必要があります。運送管理のシステムを抜本的に見直し、本格的なDX推進により2025年問題を乗り切ることが望まれています。

②建設業界の場合


国土交通省の「最近の建設業を巡る状況について【報告】」(※)によると、建設業に従事する29歳以下の割合は減少を続け、令和2年には全体の約1割となりました。対して55歳以上の従事者は増え続けており、同年で全体の約3割を占めています。

また、1997年には約685万人だった建設業従事者が2020年には約492万人まで減少しており、建設業界は人手不足と高齢化に長年悩まされてきました。

こうした状況の中で2025年問題を迎えた場合、さらなる人手不足が進むことは間違いありません。建設業界を長年支えてきたベテラン社員の多くが退職するため、人手不足はさらに深刻化するものの、有効な対抗策が見つからなければ新たに若年層を建設業界に迎え入れることは容易ではありません。

そこで、こうした事態に対応するためには、高齢者や女性、外国人などを新たに雇用するための制度を整備するとともに、労働環境を改善して若年層の労働者の取り込みを行い、またDX推進により業務の省人化に取り組むことが大切になるでしょう。

※出典:「最近の建設業を巡る状況について【報告】」令和3年10月15日 不動産・建設経済局/国土交通省

③医療・介護業界の場合


医療・介護業界では、上述のように後期高齢者の増加により、医療や介護サービスの需要が高まることが予想されます。しかし、医師や看護師をはじめとする人材の確保は今以上に難しくなるため、現状の制度を維持するのは極めて難しいと言えるでしょう。

また、社会保険料の増加は医療・介護業界にとっても大きな問題となるため、診療報酬の引き下げなどが進めば、経営が厳しくなる病院などが増えることが考えられます。

こうした状況に対処するためには、カルテの電子化や遠隔医療などを促進し、医療・介護現場にもさらなる効率化を求める必要があるでしょう。

④IT・情報サービス業界の場合


ITエンジニアは常に人手不足が続いていますが、2025年問題以降は今以上に深刻化することが予想されます。また、システムの老朽化が進むものの、このままでは対応が間に合わないため、老朽化したシステムの管理コストは上がってしまいます。さらに、技術開発の遅れやセキュリティの低下、既存サポート業務の縮小なども懸念されます。

M&Aの目的、検討ポイントは業界・業種によって異なります。各業界・業種に精通した専門チームがあなたの会社のM&Aをご支援します。詳しくはコンサルタントまでお問合せください。

2025年問題に向けて企業が取り組むべき対策

問題解決に向けて企業が取り組むべき対策は様々ありますが、どの業界にも共通する対策は以下の3つです。

労働環境の整備

2025年問題によって労働力人口の減少が起こり、人手不足が深刻になることが予想されます。こうした状況では、人材の確保が企業の存続に直結するため、従業員にとって働きやすい環境を作ることが重要です。

また、介護サービスが受けられない親族を持つ従業員も、今後は増えていくことが考えられます。こうした事態に対処するために、仕事をしながら介護もする「ビジネスケアラー」にとって働きやすい勤務形態が導入できれば、従業員が親を介護するようになっても退職せずに仕事が続けられるでしょう。

さらに、シニア人材を積極的に活用することも大切です。業務プロセスを詳細に見直せば、シニア人材が有効に活用できる業務も見つかるはずです。

ただし、従業員に多様な働き方をしてもらうためには、それに即した就業規則などの作成が必要です。新しい労務制度を導入する際には、専門家に相談しながら進めていくのが良いでしょう。

既存システムの見直し、DX推進

労働環境の整備だけでは、残念ながら人手不足は解消できません。日本の人手不足は構造上の問題であり、即効性のある解決手段はいまのところ見つかっていません。

したがって、DX推進により業務全体を効率化し、できるだけ人手を必要としない体制を作り上げておくことが大切です。ただし、既存システムの見直しのように抜本的な改革を行う場合は、社内の限られたリソースだけですべてを実行するのは難しいため、外部の専門家とも連携しながら進めていくのが良いでしょう。

M&Aを視野に入れた事業承継の取り組み

親族内や会社内などに後継者が見つからない場合は、M&Aに取り組む検討を始めてみましょう。

M&Aであれば、会社の資産・負債だけでなくこれまで培ったノウハウや技術力、ブランド力など自社が築き上げてきたものを受け継ぐことができます。また、従業員も職を失うことなく、経営者自身も売却益が得られるため、検討してみる価値は十分にあると言えるでしょう。

2025年問題の解説動画

2025年問題について当社コンサルタントによる解説を、動画でもご覧いただけます。



終わりに

2025年問題は目前に迫り、ご紹介したような様々な問題が懸念されています。こうした事態を防ぐためには、廃業によって労働者の雇用が失われることを防がなければなりません。特に、業績は好調であるにも関わらず、経営者の年齢や体力などを理由に廃業してしまうケースは避けなければなりません。

後継者不在にお悩みの場合は、廃業を選択する前に、外部へ承継するという選択肢も検討されることをお勧めします。

廃業を決断する前に、会社を存続させる方法について話を聞いてみませんか? 様々な事業承継をご支援してきたコンサルタントがご相談を承ります。ご相談は無料、秘密厳守で対応します。

著者

M&A マガジン編集部

M&A マガジン編集部

日本M&Aセンター

M&Aマガジンは「M&A・事業承継に関する情報を、正しく・わかりやすく発信するメディア」です。中堅・中小企業経営者の課題に寄り添い、価値あるコンテンツをお届けしていきます。

この記事に関連するタグ

「解説」に関連するコラム

自社株買いとは?メリットやデメリット、株価上昇につながる仕組みを解説

経営・ビジネス
自社株買いとは?メリットやデメリット、株価上昇につながる仕組みを解説

自社株買いとは?自社株買いとは、企業が自社の株式を市場から買い戻す行為を指します。自社株買いを行うと、市場に出回る株式の数が減少するため、結果的に株価の安定・上昇の可能性が高まります。買い戻された自社株は、通常「消却(無効化)」されるほか「金庫株」として保管することもができ、従業員などに付与するストックオプションとして活用することができます。一般的に上場企業は主に株式市場での取引、あるいは公開買付

生産性向上とは?メリットや取り組み例を解説

経営・ビジネス
生産性向上とは?メリットや取り組み例を解説

少子高齢化による労働力人口の減少に直面する中、企業が継続的な成長を遂げるには、限られた資源で成果を最大化する「生産性向上」が必須の課題となっています。本記事では、生産性向上の概要、企業が直面している背景や具体的な取り組み、生産性向上によるメリットなどについて紹介します。生産性向上とは?生産性向上とは、時間、労働力、資金、設備といった限られた資源を最大限に活用し、生産物やサービスの量や質を向上させる

従業員持株会とは?配当金など仕組み、メリットを解説

経営・ビジネス
従業員持株会とは?配当金など仕組み、メリットを解説

従業員持株会とは従業員持株会とは、従業員から会員を募り、会員の毎月の給与や賞与などからの拠出金を原資として自社株を共同購入し、会員の拠出金額に応じて持分を配分する制度を指します。なお、会社に従業員持株会があっても、持株会への加入は従業員の任意とされています。従業員持株会の会員資格は「当該会社の従業員」であり、取締役や執行役などの経営陣は、会員となることができません。持株会を採用する企業や加入者は年

 合同会社とは?設立のメリット・デメリットや株式会社との違い

経営・ビジネス
 合同会社とは?設立のメリット・デメリットや株式会社との違い

合同会社とは?合同会社とは、出資者が会社の所有者(経営者)として経営を行う、つまり所有と経営が一致した会社形態です。少人数で比較的小規模に事業を行う場合、例えば知人と会社設立費用を抑えて、お互い対等な立場で起業する、などのケースで合同会社が選ばれる傾向にあります。現在、日本における会社形態は「株式会社」「合同会社」「合名会社」「合資会社」の4種類あり、会社法では「合同会社」は、「合名会社「や「合資

ROE(自己資本利益率)で何がわかる?ROAとの違い、ROEを高める方法とは

経営・ビジネス
ROE(自己資本利益率)で何がわかる?ROAとの違い、ROEを高める方法とは

限られた資源で、経営効率を上げ利益を生み出せるかは、企業の成長と持続性に直結します。そのため経営者や投資家にとってROEは非常に重要な指標になります。本記事では、ROEの概要、高めるポイント等をご紹介します。ROE(自己資本利益率)とは?ROE(ReturnonEquity)は、自己資本利益率のことを指します。「株主が拠出した自己資本を活用して、企業がどれだけ効率よく利益をあげているか」、つまり株

ステークホルダーとは?意味や使い方、種類をわかりやすく解説

経営・ビジネス
ステークホルダーとは?意味や使い方、種類をわかりやすく解説

ステークホルダーとはステークホルダーとは、企業経営において直接・間接的に影響を受ける利害関係者のことを指す言葉です。具体的には株主、従業員、顧客、取引先企業のほか、行政や地域社会など広範囲に存在します。企業はこうしたステークホルダーの利益を考慮しながら、事業運営を行う必要があります。そのためステークホルダーとの連携、対応を考えるにあたって、まずは自社のステークホルダーを把握、認識することが求められ

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース