M&Aと近年加速するAIを活用した収益性向上戦略
⽬次
- 1. 【人とソフトウェアの共進化】
- 2. AIによる業務変革
- 3. 駐車場機器メーカーを事業承継
- 4. M&Aが業界変革のきっかけに
- 5. AIに仕事を取られてしまうのではないか?
- 6. PKSHAグループと相性が良い企業
- 6-1. 著者
皆さん、こんにちは。株式会社日本М&Aセンター IT業界専門グループの田中樹です。
2023年12月5日、6日に経営者、起業家向けのセミナーイベント「経営活性化フォーラム」をハイブリッド開催いたしました。
当イベントの目的は、M&Aの戦略的アプローチ、成功事例の共有、業界別の専門知識、中小企業の支援策に焦点を当て、ビジネスの未来を探求することです。
その中で当社IT業界専門グループ グループリーダー 竹葉 聖との対談形式で、株式会社PKSHA Technology代表取締役 上野山 勝也氏に「M&Aと近年加速するAIを活用した収益性向上戦略」というテーマで語っていただきました。
本コラムでは、セミナーの要点をお伝えします。
【人とソフトウェアの共進化】
PKSHA Technologyは東証スタンダード上場のAIベンチャー企業で、これまで4件のM&Aを実行しています。
「人とソフトウェアの共進化」をVISIONに掲げ、AIの社会実装において国内トップクラスの実績を誇っています。
人とソフトウェアが共に成長するということはイメージが難しいですが、以下のような例が挙げられます。
例えば、小学生がChatGPTを使って英語を学習すると、人とソフトウェアが対話をすることで、小学生の英語力が向上していきます。
対して、ChatGPTはユーザーが聞きたいデータを蓄積・学習し、ソフトウェア自身が進化していきます。このように、「人とソフトウェアを共進化」させ、相乗効果をデザインすることを、PKSHAグループは目指しています。
PKSHAグループはM&Aを通して、自社のソフトウェアをジョインした企業に活用してもらうことで、生産性の劇的な向上、収益モデルの根本的な変革を目指してきました。
AIによる業務変革
AI領域において、直近の1年間というのは、過去5年間分と同等の大きな変化が起きているとも言われています。生成AI含め技術革新が起こることで、業務効率化できる幅が広がり、会社活動の様々な場面において、AIの活用による業務改革が起こりつつあります。
PKSHA Technologyは様々なAIの研究開発を進めており、様々なニーズに対してソフトウェアであるAIエージェント(チャットボット、ボイスボット等)を提供しています。従業員数は約500名ですが、およそ12倍である約6000体のAIエージェントを日本中の人手不足の企業に派遣しているとも表現できます。
主な業務内容は、単純な事務作業や電話応答などであり、AIエージェント1体当たり年間200万円ほどで稼働しています。この金額は、日本の平均年収の約半分です。労働人口が減少の一途を辿る中、AIを活用することで、収益性の向上を目指しています。
駐車場機器メーカーを事業承継
過去に実行した4件のM&Aの中で、株式会社アイテック(以下、アイテック)の事例を紹介します。
アイテックは、創業30年の駐車場機器メーカーで、創業オーナーから譲り受けました。
「より便利でより安全な駐車場を一早くお届けしたい」という思いで、車両の出し入れ時の事故や損傷リスクを減らすことを目指し、ナンバー認証システムによるロックレス駐車場を開発した会社で、都内中心に13万車室にデバイスを設置しています。
PKSHAグループにジョイン後に創出された事業シナジーは大きく2点挙げられます。
1点目は、バックオフィスオペレーションの改善です。前段でも述べたように、AIエージェントを活用することで平均年収の約半分のコストで1人分の労働力を獲得することができます。つまり、今までと同じコストで2倍の労働力を確保することができるため、人材不足の解決・オペレーションの安定が実現されています。
2点目は、収益構造の改善です。デバイスを作れる競合会社は多く存在するため、市場環境としては価格競争が起こっていました。そのため、駐車場のどこが空いていて、どういう属性の人が利用していて、どれぐらい稼働率になっているのか、それによって駐車場利用料は上げるべきなのか下げるべきなのかを分析できるSaaS(Software as a Service)をデバイスとセットで販売する方向に舵を切りました。
基本的に価格競争で勝負が決まっていた市場に、ソフトウェアとセットで販売するという、駐車場を管理して空間の収益を上げるようなサービスに進化していることが差別化になり、着実に売上を伸ばしています。
M&Aが業界変革のきっかけに
また、新たなサービスも展開しています。例えば、車を駐車する際、ほとんどの場合は予約もできないため、空車かどうかは直接現地に行かないと分からない、行ってみたら空いていない、というような場面に遭遇された方も多いのではないかと思います。
しかし、アイテックのデバイスにはセンサーがついており、集約されたデータを全てクラウドに吸い上げることで、13万端末の空間データ(空車かどうか)を把握することが可能です。そのため、初めは駐車場管理サービスとして販売していましたが、データを活用することで駐車場利用者向けのモバイルアプリを開発しました。
このアプリでは、利用者が駐車場の予約や決済が可能であり、大変便利なサービスと言えます。
このように既存のデバイスにソフトウェア+送客機能を持つアプリが追加されることによって、市場のゲームチェンジャーになり得るサービスが完成しました。
これは1つの例ですが、トラディショナルな業態をAI・ソフトウェアによって変革するということは、様々な業界で可能だと考えられます。
そこに必要なのはソフトウェアチームとAIを作ることができるチームですが、そういった人材を採用し、プロダクトを内製化することは、とてもハードルが高いと言えるでしょう。
しかし、M&Aによって、経営の承継、業態のDX化、ソフトウェアチームの組成、人材採用の課題解決、といった様々なパーツを組み合わせることが可能となり、企業の成長にレバレッジをかけることが可能となります。
AIに仕事を取られてしまうのではないか?
圧倒的に人手不足な世の中において、AIは問題解決の糸口になります。
仮にAIがセールス担当4人分の働きをした場合、他4人の仕事に取って代わったと捉えるのか、1人のセールス担当の能力が5倍になったと捉えるのか、2つの捉え方ができるかと思います。
いずれにせよ、労働人口が減少し続けていく日本において、経済活動を維持・成長させるためには、生産性の向上が不可欠であり、そのためにはAIとの共存や活用は大きな意味を持つのではないでしょうか。
一方で、デザインやイラスト、漫画等といったクリエイティブな仕事は、簡単にはAIには取って代わられないだろうと予想されていましたが、真っ先に足を踏み入れられました。
InstagramやX(旧Twitter)などのSNSでは、AIによって生成された画像や動画が溢れています。そのため、クリエイティブな産業については大きな変革期を迎えるだろうと考えられます。
PKSHA Technologyは、AIをポジティブに社会に適用させていきたいという思いがあります。人が足りている仕事をAIで補うのではなく、問題解決の手段として、AIの活用を目指しています。
AIやデジタルというのは一過性のブームではなく、産業革命と同じような不可逆な変化と言えるでしょう。今まで培われた日本企業の強みや、大切にしているものを拡張するソリューションとして、積極的にAIを活用すべきではないでしょうか。
ソフトウェアとは人がデザインした「ソフト」なテクノロジーです。AIやデジタルを無機質なものとして扱うのではなく、作り手自身が、社会や会社がこうなってほしいと願うことが重要だと上野山氏は語っています。
PKSHAグループと相性が良い企業
AIなどのテクノロジーを活用していくことを、「面白い、ワクワクする」と感じてもらえるような企業であれば、どのような業界であっても、相乗効果が期待できるのではないかと考えられます。M&Aはあくまでもご縁ですが、ソフトウェアやAIの活用は、あらゆる業態において、ポジティブな方向へと進められる可能性を大いに秘めているのではないでしょうか。