コスト削減のアイデア、改善ポイントをわかりやすく解説
経営者として事業を拡大させていくために必要なのは、利益の最大化です。利益を最大化するためには当然ながら売上を伸ばすことが大切ですが、それだけでは十分でありません。売上が伸びたとしても、その分コストも増えてしまっては、思い通りの利益が得られないためです。したがって、利益を最大化するためには、売上を伸ばすことと並行してコスト削減に取り組まなければなりません。
本記事では、企業がコスト削減をするためのさまざまな方法やポイントについて解説します。
コスト削減とは?その目的
企業経営におけるコスト削減の主な目的は「利益の最大化」「業務の効率化」「成長の促進」の3つです。それぞれについて見ていきます。
利益の最大化
経営者として事業を拡大し続けていくためには、持続可能なビジネスモデルでなければなりません。
売上は伸びても、それ以上にコストが増えるようでは、事業の拡大を維持し続けることはできないためです。
したがって、事業拡大と並行してコスト削減も継続的に行わなければなりません。売上の最大化とコストの最小化をセットで行うことで、利益の最大化が達成され、持続可能なビジネスモデルが構築できるようになります。
業務の効率化
コスト削減を行うためには、業務フローを徹底的に見直し、あらゆる場所で無駄を省かなければなりません。
材料の仕入れや運送にかかる費用、人件費などのさまざまな部分を必要に応じて削減し、会社の持つリソースの投入を最小限に抑えていくことが重要です。こうしたコスト削減プロセスを経た結果、その副産物として業務の効率化が達成できます。
業務を効率的に行うことはあらゆる企業で重要になりますが、それを達成するのは決して簡単なことではありません。しかし、コストの削減を目指して業務プロセスの見直しを行うことで、相乗効果的に業務の効率化を達成することが望めます。
成長の促進
コスト削減に成功し利益を最大化できれば、競業他社との競争で優位に立てるようになります。
また、キャッシュフローも改善されるため、大型の設備投資なども行えるようになります。その結果、事業の成長を促進させ、ひいては企業の存続や発展が望めるようになるのです。
また、コスト削減によって獲得した資金を使えば、新規事業への参入や新製品の研究開発、優秀な人材採用が望めます。これらを原資に、さらなる会社の成長が期待できるでしょう。
この記事のポイント
- コスト削減の主な目的は、利益の最大化、業務の効率化、成長の促進であり、企業は売上を伸ばしつつコストを最小化する必要がある。
- コスト削減の方法には人件費やオフィスコスト、採用コストの見直しがあり、業務効率化や無駄の排除が重要である。
- 成功するためには全従業員の協力が不可欠で、必要なコストまで削減しないことや、コスト削減の目的を明確にすることが重要である。
⽬次
コストの種類
企業は事業を行ううえで、さまざまな部分に多くのコストを投下しています。コストを削減するためには、投下されたコストのあらゆる部分を見直すことが重要ですが、いきなりすべてに手を付けるのは、リソースに限りのある中小企業にとって現実的な手法ではありません。そこで、コスト削減に取り組む際には、最も重要な部分から始めていくことをおすすめします。効果が出やすい部分からメスを入れ、一定の成果が出たところで徐々に対象を広げていくと良いでしょう。
人件費
人件費は企業が負担するコストの中でも大きな割合を占めます。一方で削減が難しいコストの1つです。
人件費の見直しを行うことで削減できるのは、給料や賞与の支払いだけにとどまりません。たとえば給料や賞与を支払う際に、会社側は従業員などから預かる社会保険料と同額を負担しています。したがって、人件費がコストダウンできれば、こうした社会保険料などの法定福利費や福利厚生費、退職給与引当金などのコストもあわせて引き下げられます。
ただし、企業収益の源泉は人材にあります。単に人件費を削減するだけでは、将来的に収益が先細ってしまいかねません。そのため、人件費の見直しにあたっては、自社の事業戦略に最適化したものでなければなりません。
オフィスコスト
オフィスコストとは、IT機器関連費やさまざまな消耗品費などを含めたもので、その対象はオフィスの賃料や水道光熱費、コピー機などのリース料、システムの管理維持費、事務用品費などさまざまです。
オフィスコストの削減は、一つひとつに劇的な効果があるわけではありませんが、対象が幅広いだけに、細かいコストの見直しを積み上げることで大きな成果を挙げることが期待できます。
採用コスト
採用コストとは、新規人材を採用するためのコストのことです。近年は少子高齢化により、さまざまな業種で人手不足が深刻になっており、人材の採用コストは上がり続けています。こうしたコストを抑えられれば、大きな効果が期待できます。
コスト削減の方法・アイデア
ここで、コスト削減の方法について紹介します。対象を人件費とオフィスコスト、採用コストの3つに絞り、どうやってコスト削減を達成するのかを解説します。
人件費の削減① 業務の見直し、効率化
人件費を削減するための1つ目のアイデアは、業務の効率化です。業務のやり方そのものを見直し、効率化を進めることで人件費を削減できます。
具体的には、オフィスに出勤しなくても働ける職種についてはテレワークを促進し、人件費を削減します。それ以外にも、書類のペーパーレス化や業務のマニュアル化、アウトソーシングの活用などを行うことで業務を効率化させ、人件費の削減を目指します。
人件費の削減② 交通費や出張費の見直し
人件費の削減をするための2つ目のアイデアは、交通費や出張費の見直しです。上述のテレワークを促進し、出勤をしなくてもできる業務に関しては、場所にとらわれず従業員の好きな場所で行ってもらいます。そうすれば、交通費を支払う必要がありません。
また、出張については相手方と直接会う必要がある場合を除き、Web会議などでできるかぎり代用します。そうすれば、出張費を大幅に削減できるでしょう。
オフィスコストの削減① 無駄遣いの見直し
次は、オフィスコストの削減についてです。オフィスコストの削減をするためには、無駄遣いの見直しが効果的です。
具体的には文房具などの消耗品の見直しや、LED化による節電などを行い、無駄遣いをなくします。また社内の隅々まで周知し、全社で無駄遣い削減を徹底させることも大切です。そうすれば、従業員のコスト削減意識が高まり、大きな成果につながるでしょう。
オフィスコストの削減② リース・レンタル・固定費の見直し
オフィスコストを削減するためのもうひとつのアイデアは、コピー機やソフトウェアなどのリースやレンタル、固定費などの見直しです。
コピー機をはじめとするリース物件のランニングコストを見直し、リースやレンタルでなく購入する方が良いものに関しては切り替えを行います。反対にリースにした方が安く済むものがあれば、そちらに切り替えましょう。
また、電気やインターネットなどは毎月使うサービスであるため、これらの契約先を見直すことも大きなコスト削減につながります。特に近年では電気代が高騰しているだけに、定期的に契約を見直すことが大切です。
採用コストの削減① 採用手法の見直し
次は、採用コストの削減です。面接回数を見直したり、インターンシップ制度を導入したりすることで選考プロセスを見直します。また新卒一括採用だけでなく、中途採用やシニア人材の活用など、あらゆる方法を組み合わせて自社の状況に最適な採用方法を構築していくことも大切です。
これら以外にも、会社説明会などをオンラインで行い、求人広告や採用ホームページ、会社紹介の資料作成費などを見直すことも採用コストの削減に効果的です。
採用コストの削減② 人材の定着率を向上
採用コストを削減するためには、人材の定着率を向上させることも重要です。どれだけ採用しても、すぐに離職してしまうようでは、採用コストを削減できません。
定着率を向上させるためには、従業員のモチベーションを上げるとともに、働きやすい職場づくりを行うことが大切です。そうすれば、徐々に定着率が上げられるでしょう。
コスト削減を含むM&Aによるシナジー
M&Aを行うと、さまざまなシナジー効果が創出できます。同業他社を買収できれば事業規模が一気に拡大しますし、他業種を買収すれば新規事業への参入が果たせます。このようにM&Aによって創出されるシナジー効果のひとつが「コストシナジー」です。
たとえば、仕入れを共同で行えばコスト削減や価格値下げの交渉力が強化されるため、購買のシナジー効果が創出できます。また製造ノウハウや技術を共有すれば、製造プロセスの合理化や内製化が進み、製造コストが下げられるでしょう。
物流も統合すれば、運搬コストが下げられますし、販売に関しても設備の共有や販路拡大などによりコストが下がるはずです。
M&Aを上手に活用できれば、こうしたシナジー効果の創出により、さまざまなコスト削減効果が期待できます。
コスト削減を行う流れ
次に、具体的にコスト削減をどのような手順で行うのかについて解説します。コスト削減を行う場合、その流れは以下のようになります。
①現状のコストの把握、削減プランの策定
まず、現状をできるだけ正確にチェックし、どこにどれだけのコストがかかっているのかを正確に把握することから始めます。調査内容を踏まえたうえで、削減できそうな項目を徹底的に洗い出します。
その際には、上述の人件費やオフィスコスト、採用コストの削減などを中心に洗い出していくと効率よくターゲットが見つけられるでしょう。
次に、洗い出した項目ごとにコスト削減目標を設定し、それを実現させるためにはどうすれば良いか具体的なプランを策定します。
②プランの実行・社内共有
次に、策定したプランを実際に実行します。なお実行にあたっては、コスト削減に向けた意志を社内の隅々まで共有しておくように心がけましょう。
全社員がコスト削減に取り組まなければ、思い通りの成果が出ないだけでなく、策定したプラン自体に問題があったかどうかさえ分からないからです。
③結果の分析・検証・改善
最後に、実施した結果を細かく分析し、何ができて何ができなかったのかを把握・分析していきます。その分析結果をもとに、達成できなかった項目について何をすべきかを検討し、改善策を策定・実施します。
なお、こうした一連の作業は、定期的に行うようにすることが大切です。どの部分のコストを優先的に削減すべきなのかは、会社の状況によって異なります。したがって、定期的に内容を見直し、実施していく必要があるのです。
コスト削減のポイント
次は、コスト削減を成功に導くためのポイントについて解説します。コスト削減に成功するために注意すべき点の中で、特に重要なのが以下の3点です。
全従業員が一丸となって取り組む
コスト削減は、日常業務のあらゆる場所で実施しなければなりません。そのため、コスト削減を全社員に周知させ、全従業員が一丸となって取り組む必要があります。
また、常にコスト削減の意識を従業員に持たせるためには、従業員のモチベーションを維持することも大切です。したがって、コスト削減が従業員に対して具体的にどのようなメリット(昇給など)をもたらすのかを、明確にしておく必要があるでしょう。
必要なコストまで削減しない
コスト削減は大切ですが、必要な部分には、コストを十分にかけなければなりません。一般的にコスト削減の成果が出ると、必要なコストまで削減しがちです。そのため、こうした過剰な部分には経営者が常に目を光らせておきましょう。
また、コスト削減を優先した結果、生産性やサービス品質などを犠牲にしないように注意しておくことも大切です。
コスト削減をしたその先まで考える
コスト削減は利益を最大化するために必要な手段のひとつではありますが、削減に成功すれば、必ずある程度のところで頭打ちになります。
コスト削減が手段でなく目的となってしまわないように、コスト削減によって最終的に何を達成したいのかを明確にしておくようにしましょう。
コスト削減の成功事例
最後に、コスト削減の成功事例を3例紹介します。
HJハインツとクラフト・フーズ・グループの合併事例
米食品大手のクラフト・フーズ・グループとケチャップで有名な米HJハインツは、2015年に合併を行い、合併後に新会社となったクラフト・ハインツ社は、食品・飲料業界で北米3位、世界5位の規模となりました。
売上の大半を米国外で稼ぐグローバル企業のハインツと売上の大半を北米事業が占めるクラフト・フーズ・グループが合併したことにより、原材料の調達コストの削減とハインツの販路を使ったクラフトの商品を販売が達成されました。
サイゼリヤの事例
外食チェーン大手のサイゼリヤは、値上げをせずに客単価を伸ばすユニークな取り組みを行っています。原材料の高騰が続く中、値上げに頼らず通常メニューの品目を減らしたり使う食材を絞り込んだりすることで廃棄コストを減らし、お値打ち感を出して1組あたりの客単価の上昇を目指しました。
その結果、2023年8月期決算では、売上高が前年比27%増の1,832億円、営業利益が前年の4億円から大きく増えて72億円にまで伸ばすことに成功しました。
日本航空の事例
リーマンショックの影響により2010年に会社更生法の適用を申請したJALは、京セラの稲森和夫氏を会長に迎え、再建に向けて徹底したコスト削減を実行します。
大型機メインの機材構成を中型機・小型機メインに切り替えて維持費を下げ、路線の見直し、バランスシートの見直しも行いました。さらには債務放棄により金利などの支払いも大幅に削減しました。その結果、急激なV字回復を見せ、2012年9月には再上場を果たしたのでした。
終わりに
企業にとってコスト削減は、利益の最大化や業務の効率化、成長の促進を達成する手段として欠かせない手法のひとつです。コスト削減の対象は日常業務のあらゆる場所に及ぶため、役員以下全社員に対して周知を徹底し、コスト削減に向けた意思統一をすることが重要です。また、どのコストを削減するべきなのかは会社の状況によって変わるため、計画も定期的に見直さなければなりません。
コスト削減を実施する方法は、本記事で紹介したようにさまざまな方法がありますが、M&Aによるコスト削減は特に効果が大きい手法のひとつと言えます。中小企業においては、M&Aはコスト削減だけでなく事業承継などにも使えるため、積極的に検討をしてみる価値は十分にあると言えるでしょう。
ただし、コスト削減を目的とする場合、どのようなM&Aを行うのが最適かは会社によって異なります。したがって、M&Aを検討する際には、専門家のアドバイスを積極的に取り入れながらどうすべきかを判断することをおすすめします。