2024大統領選挙後のインドネシアと日本の役割

安丸 良広

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こんにちは、ジャカルタの安丸です。 インドネシアも3月11日より断食月(ラマダン)に入りました。

2024年はご承知の通り、世界的な大統領選挙年度です。

1月の台湾に始まり、2月は当地インドネシア、3月のロシア、4月のインド、そして11月のアメリカ総選挙へと続きます。
インドネシアでは皆様ご承知の通り2月14日に、10年振りにポスト現ジョコ大統領を決める大統領選挙が実施されました。

正式な結果はこの記事公開の約1週間後(3月20日頃)に決定される予定ですが、現政権の施策を継承するプラボウォ国防相の当選がほぼ確実(6割弱の票獲得)となりました。

今回の選挙では、副大統領候補としてギブラン氏(ジョコ氏長男。ソロ市長)を出馬させることを承認させる法制度の改正、政府機関を通じた特定候補への肩入れなど、民主主義の後退ともとれる事象も見られましたが、現在の国民の総意としては、ジョコ大統領の施策を継承する候補が勝利した選挙結果を、前向きに評価されている方が大半かと思います。

今回の選挙結果を踏まえて、インドネシアがどのように今後進んでいくか?
また日本が期待されている新政権への役割について、私見も交えて解説します。

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プラボウォ氏の人物像

多民族国家であるインドネシア共和国に国のまとまりが生まれたのは比較的新しく、狭義には、第二次世界大戦後の独立戦争を経てということになります。

1998年に第二代大統領であるスハルト氏がクーデターにより辞任に追い込まれ、インドネシアは独裁国家から民主化国家へと舵取りをすべく再スタートしました。

2004年には初の直接大統領選挙も実施され民主化国家への一歩がしるされ、現在のジョコ政権へ引き継がれました。この初の大統領直接選挙から丁度2024年で、20年が経過したことになります。

現在72歳で国防大臣を務めているプラボウォ氏、元々軍人のため、直線的に進むことを恐れず、断固とした思い切りの良さがあるとの評判があります。

プラボウォ氏は、失脚したスハルト元大統領の娘婿。スハルト政権時代は華麗なスピード出世、失脚後は軍籍剥奪の汚名を着せられ、その後中東ヨルダンへの逃避行。帰国後、民主国家となったインドネシアで新政党を立ち上げ。
2009年、突如、天敵とも言えるメガワティ元大統領と組み、副大統領候補として出馬するも、残念ながら落選。
10年後の2019年には、2選目を目指すジョコ大統領の対抗馬として大統領選に出馬。またもや落選。ただ、この際、ジョコ政権の国防相として入閣が決まりました。

このように、人生の浮き沈みが非常に激しい人物です。ただそれでも三度目の正直で大統領となることを諦めなかった、相当根性のある方(いい意味で諦めの悪い方)といった印象です。

今回の選挙では、ミレニアル・Z世代を意識し、自身を丸っこいキャラクターにし、クラブ風音楽に乗せステップを踏む動画をSNSに拡散しました。
これが好評で、このイメージ戦略にて「かわいい」と古い世代ばかりではなく若者の支持票も上手く取り込んでようです。

なお、プラボウォ氏が党首のグリンドラ党は第一党の座を逃したため、今後は勢力拡大に向けての政党再編の動きが激しくなると予想されています。

インドネシアの経済面の行方

ジョコ政権を引き継ぐ経済政策を掲げるプラボウォ氏が当選確実となったことより、下記3つの主要施策が前政権からそのまま継続される見込みです。

主要政策

  1. インフラ開発
  2. 投資促進(規制緩和の推進や法整備)
  3. 人材開発

2期10年のジョコ氏の任期中、インドネシア国内の風景は大きく変化しました。

首都ジャカルタには都市高速鉄道(MRT)が走り、昨年10月には最高速度350キロで走行する国内初のジャカルタとバンドン間を結ぶ高速鉄道(ウーシュ)が中国の協力のもと開通しました。このように国民は肌で感じる成長を感じ、これがジョコ氏の政策を継承すると掲げたプラボウォ氏の高い支持率に繋がったものと考えられます。

なおプラボウォ氏は外交面では、中立外交の維持を表明していて、「経済では中国、安全保障では米国との関係を深めてバランスを取る」というジョコ氏の施策を継承していくものと考えます。少し日本の影が薄いですね。

ちなみに2000年以降、いわゆる新興国で経済成長率がマイナスとなったことが無い国はインドネシアのみです(2020年のコロナ禍を除く)。2008年のリーマンショックの際でも、4%の成長率を保ちました。インドネシアが世界不況の中でもこのような経済成長率を保てたのは、高い内需主導型経済であることが理由です。

進行中の主要プロジェクト

次に主要政策のうち、現在進行中のプロジェクトについて軽く説明します。

インフラ開発

ご存じの通り、ジャカルタは、1,000万人超の人口を数え、渋滞の解消は政府の最重要課題でした。上述のMRT(地下鉄)が2019年に開通し、現在延伸工事(日本企業もサポート)が進行中です。

これに加え、ジャカルタ集中の抜本的な問題解決のため、首都をジャカルタからヌサンタラ(カリマンタン島)へ移転する開発プロジェクトがよりスピートアップすることになります。

現在ヌサンタラにおいては8月17日の独立記念日に向けて、大統領宮殿の建設が急ピッチで進められていますが、この資金を海外資金や民間資金によるPPP(Public Private Partnershipの略、官民連携)で主導する計画にて進行しています。

ただ、本当に資金集めができるのかの疑問が残ります。最悪国民の血税を投入する判断となった場合は、新政権の運営にも今後多大な影響がでる可能性もあり注視が必要です。

投資促進

2020年11月のオムニバス法(雇用創出法)施行により、外資規制の撤廃が図られました。また最低賃金や解雇規程及び退職金規程の改善も盛り込まれました。

外国企業にとっては透明性が高まり、以前よりは投資し易い環境が整ったかと思います。M&Aによる投資についても、外資規制の撤廃と法整備の充実により、支配権の移転を伴うか伴わないかに拘わらず、M&Aによる進出の投資環境はほぼ整ってきたかと思います。

なお当地のトピックスとしては、現在IPOブームが続いています。

IPO

インドネシア企業のIPO数は、2023年単年で79社を記録し、ASEAN諸国の中でも近年No.1の上場数を記録しています。2023年12月末のインドネシア証券取引所(IDX)への累計上場企業数は、906社となっています。日系企業がインドネシアにM&Aの手法にて進出し、その子会社を上場させていくといった経営手法が今後広がっていくのではないかと考えています。

人材開発

国土が大きく、地域の教育格差の是正が課題としてあげられています。このため、義務教育制度の見直し等対策が求められています。
農村部と都市部ではこの教育格差に起因した貧富の差の問題が顕著であり、この問題の解決のため、農村で人気の高いプラウボォ氏への期待が高まっています。

またITを中心とするテクノロジー分野に対する投資をする企業に対しては、税金面のサポート、人材紹介等のサポート等官民一体となり、色々な施策に取り組んでいます。

今後のインドネシアにおける日本の役割

次に、今後新政権下で、日本が期待されている役割についてコメントします。

インフラ開発

まずは、最大の国家プロジェクトである首都移転に対する貢献が求められています。

どちらかというと中国のサポートのもと、各種プロジェクトは進行中の印象ですが、首都移転の関連建設費用の約8割は投資などで賄う予定であり、もちろん中国だけのサポートでは成り立たない巨大プロジェクトです。その中で新政権が日本に一番期待しているのは、高い技術力のサポートかと思います。

日本政府も、単なるマネーの援助という形の貢献だけでなく、対等のパートナーとして、日本の技術力を売り込み、その結果としてインドネシア国の発展に寄与するという形のプロモーションを展開している印象です。この点中国等との関係に基づく、新政権と日本政府の対策にも今後注目してきたいと考えます。

脱炭素社会構築のためのサポート

その他のインドネシア国の長期的な国家施策は下記の3点です。

  1. 車のEV化促進
  2. 再生エネルギー事業
  3. カーボンニュートラルプロジェクト

基本的にプラボウォ氏の施策は前政権の施策の継承ですので、上記3点の重点施策をSDGsへの対策を含め当面推進していくものと考えられます。2017年にSDGsの達成に向けての大統領令が出され、2030年の達成に向けての戦略を、国家開発計画省(BAPENAS)を中心に作成しました。

EV化については、中国、韓国に日本は後れを取っている印象です。
特に中国のウーリン(WULING)社製のEV車は、渋滞対策のナンバープレート規制に引っ掛からない車種として人気を集めています。

また、電気自動車(EV)の工場建設計画が相次いでいます。
ベトナムのビンファストが年産5万台規模の工場建設を表明したほか、中国の比亜迪(BYD)、独BMWなども投資を計画しています。インドネシアはニッケルの最大生産国であり、この強みを生かした動きかと思います。

加えて、インドネシアの大手ライドシェアやタクシー会社が、脱炭素化の流れの中で、大胆なEV化目標を打ち出しています。例えばライトシェアのゴジェックは2023年までに全車両EV化することを発表していますし、タクシー大手のブルーバードも、2030年までには車両の10%をEV車とする目標を掲げています。

なお、インドネシアの電源構成の約6割は依然として石炭火力発電であり、脱炭素政策を進めるため、水力、地熱、バイオマス発電などの再生エネルギー技術を持つ、日本企業との連携が期待されています。カーボンニュートラルの達成に向けての、具体的な取り組み事例としては、PLN(国営電力会社)が2060年までに、化石燃料の段階的廃止、再生エネルギーの導入を進めています。

人的交流

2023年の日本を訪れたインドネシア人の数は約43万人(前年約12万人)であり、日本はインドネシア人の憧れの訪問国のひとつとなっています。観光を目的とした訪日だけではなく、技能実習生制度を利用した訪日も増加しています。

このように人的交流を通じた、日本の魅力のプロモーション、友好関係の深耕もより必要となってくるかと思います。

インドネシアとのクロスボーダーM&A事例

最後に、日本M&Aセンターが昨年9月末にお手伝いしました、インドネシアのM&Aの事例を紹介します。

日本の中堅菓子製造会社が、インドネシアの上場企業である菓子製造会社に出資した案件です。この日本の菓子製造会社は、出資の見返りとして、日本市場での専属販売代理権をインドネシア企業から得ました。

実際、既にインドネシア菓子製造会社の主力製品である下記写真のポテトチップスは日本に輸入され、順調に販売を増やしているということです。というか、品切れ状態の様子です。
当社は日本側企業のFAという立場で、本件のサポートをさせていだきました。

このディールを通じて、微力ですが、当社のビジネスが両国の発展のお役に立てたかと思っております。

tricks

ちなみに、この包装パッケージの写真の人物は、現ジョコ大統領の次男がモチーフとなっています。
今回のブログが大統領選についてのものでしたので、面白い繋がりかなと思っています。

日本の皆様も、もし店舗で見かけられましたら是非一度お買い求め下さい。

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プロフィール

安丸 良広

安丸やすまる 良広よしひろ

日本M&AセンターASEAN推進部

総合商社、監査法人を経て2002年日本M&Aセンターに入社。2013年に前身である海外支援室の設立に参画。これまでの成約案件は100件を超える。2019年インドネシアオフィスの設立に携わる。インドネシア駐在歴は、前職の商社時代を含め約10年となる。 米国公認会計士(USCPA)。

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