ホールディングス化とは?メリット・デメリットをわかりやすく解説

経営・ビジネス
更新日:

近年、企業規模に関わらずホールディングス化を行う動きが活発に見られます。本記事では、ホールディングス化の概要、メリットやデメリットについてご紹介します。

ホールディングス化とは?

ホールディングス化は、持株会社(ホールディングス)が傘下の事業会社の株式を保有してグループ全体の戦略策定・管理に専念し、中核事業等の運営は各事業会社が行う企業形態を指します。

企業同士の資本関係には、お互いに資本を持ち合う「資本提携」や、どちらかの企業がもう一方の企業の株式を保有する親子会社などさまざまな形があります。本記事で紹介するホールディングス化も、こうした資本関係の一種です。

国内におけるホールディングス化の歴史は古く、戦前の財閥グループにもホールディングス化は導入されていましたが、「自由な市場競争を阻害する」などの理由から、戦後は持株会社の設立が禁止されていました。しかし独占禁止法改正(1997年)により純粋持株会社が解禁され、現在は600社以上の上場企業が持株会社体制を採用していると言われています。

この記事のポイント

  • ホールディングス化は、経営資源の最適化や迅速な意思決定を図る企業形態であり、600社以上の上場企業が採用している。
  • メリットには経営の効率化、リスク分散、M&Aや事業承継の準備が含まれるが、デメリットとして管理コストの増加やセクショナリズムの弊害がある。
  • ホールディングス化の手法には株式交換方式、株式移転方式、会社分割方式があり、各手法に応じたメリットが存在する。

⽬次

[非表示]

ホールディングス化の目的


企業がホールディングス化を行う最大の目的は、「経営資源の最適化」です。企業は、限りある経営資源を有効活用し競争力、企業価値の向上を目指さなければなりません。

ホールディングス化を行うと、持株会社自身はグループ全体の戦略策定や各社の管理に専念でき、傘下の事業会社はそれぞれの事業運営に集中することができます。また、各事業は法人格を持ち独立しているため、権限と独立性を保ちながら事業運営を進められます。

このようにホールディングス化では、持株会社と各事業会社との役割分担が進み、お互いの業務に専念できるようになるため、経営資源が最適化され生産性や収益性が最大化すると言われています。

そのほか後述のように「M&A」や「意思決定の迅速化」「グループシナジーの創出」「経営責任の明確化」「経営と執行の分離」などが代表的な目的として挙げられますが、近年は「コーポレートガバナンスの強化」を目的の1つに挙げる企業が増加傾向にあります(※)。

会社法では、取締役会の職務として、取締役の職務執行の監督や代表取締役の選定及び解職の他に、業務執行の決定が規定されています。そのため取締役会を経営監督機能にフォーカスし、意思決定の迅速化につなげることは、コーポレートガバナンスの観点からも有用であるため、近年増えているものと考えられます。

※出典:大和総研コンサルティングレポート「持株会社を通じたコーポレートガバナンスの強化」(2023年10月2日)

「M&A」を目的としたホールディングス化

さらにホールディングス化の目的として着目したいのは「M&A」です。M&Aによる新規事業参入や既存事業の拡大に、ホールディングス化が向いていることが挙げられます。

ホールディングス化した企業グループは、各事業会社がそれぞれ独立性を保っているため、M&Aで買収した企業をそのままの形で取り込みやすい性質を持っています。また各事業会社に上下関係がないため、買収した企業にとって馴染みやすく統合しやすい形であるとも言えます。

さらに事業会社を手放したいと思った場合も、事業ごとに会社が分かれているため、自社グループからの切り離しが難しくありません。こうした積極的なM&A戦略に向いた形態であることが、ホールディングス化が増えている背景の1つに挙げられます。

ホールディングス化のパターン


ホールディングス化にはいくつかパターンがありますが、代表的なパターンは以下の通りです。

① 既存の会社を持株会社と、その子会社に分ける

既存の会社を親会社と子会社に分け、親会社を持株会社、子会社を事業会社としてホールディングス化する方法です。
複数の事業を運営する場合は子会社をさらに事業部門ごとに分社化させ、最終的に持株会社を頂点とするホールディングスグループを形成します。

② 複数のグループ会社の上に、持株会社をつくる

新たに持株会社を設立し、すでに存在している複数のグループ会社の株式を持株会社が取得する方法です。企業グループの組織再編により、経営と事業を分離して迅速な意思決定や業務の効率化を加速させられるようになります。

③ 既存の会社を事業部門ごとに複数の子会社に分社化し、その上に持株会社をつくる

複数の事業部門を持つ既存の会社を事業部門ごとに分社化し、新たに設立した持株会社がその株式を保有する方法です。既存会社のオーナーが保有していた株式は持株会社が保有することになるため、自社株の持ち方や事業承継の際の譲り方に関する課題が解決しやすくなります。

どの方法が選択されるかは状況によって異なりますが、分散した株式の集約や事業承継の準備ができることなどから、中小企業では3つ目のパターンを選択するケースが多く見られます。

ホールディングス化のメリット


ホールディングス化を行うことで期待できる主なメリットは、以下の通りです。

経営の効率化

前述の通り、ホールディングス化することで持株会社は総合的な経営判断を行い、事業会社は事業に専念することができ、経営の効率化を実現できます。
また、1つの会社の事業が各事業会社となった場合、事業部門ごとの収益が把握しやすくなり、経営指標を参照しやすくなります。

意思決定の迅速化

ホールディングス化を行うと、持株会社によりグループ全体の経営判断に必要な意思決定が迅速に行えるようになります。

意思決定の迅速化は、持株会社の経営判断にとどまりません。各事業会社はそれぞれ別法人として独立しており、権限も委譲されているため、事業に関する意思決定は基本的に各事業会社が行います。したがって、事業部門単位の意思決定がスピーディーに行えるようになります。

またホールディングス化を進めると、各事業部門の権限は子会社に委譲されるため、自らの意思で主体的に行動できる自律型経営が行えるようになります。こうした企業風土は、経営人材の育成にもよい影響をもたらすことになります。

リスク分散

ホールディングス化を行うと、各事業会社が独立した存在となるため、何か問題が生じた際に他の法人に及ぼす影響を最小限に抑えられます。

1社でさまざまな事業部門を抱えていると、リスクのすべてを1社が抱えなければなりません。そのため、ある事業部門が出した業績悪化や品質不良が原因となり、会社全体が経営危機を迎える可能性もあります。場合によっては行政の規制を受けて業務停止をせざるを得ない場合もあります。こうしたケースでは、一部の事業部門が受けたペナルティが全体に大きな影響を及ぼしかねません。

こうしたリスクを未然に防げる点も、ホールディングス化のメリットの1つとも言えます。

分散した株式の集約

中小企業の多くは株式に譲渡制限が設けられているため、取締役会や株主総会で認められなければ、株式を第三者に譲渡することはできません。しかし、株主が亡くなった場合、株式は相続財産として相続人に相続されます。

もし複数の相続人に株式が相続される場合、株式は分散し、株主が増えるため、将来的に企業経営が難航するリスクが高まります。

このように株式が分散した状況の場合、ホールディングス化を進めれば、株式の集約に向けて、少数株主を説得する機会が設けられます。また、株式の買い取り資金が調達できれば、分散している株式を買い取って集約することも可能です。

M&A・事業承継の準備

これまで述べてきた通り、ホールディングス化を行うと、持株会社を頂点に、傘下に事業会社が並び企業グループを形成します。そのため、M&Aにより外部から企業を買収した場合、会社はそのままにグループ内に取り込みやすくなります。

また、事業承継の準備にもホールディングス化は有効です。たとえば後継者候補に事業会社のひとつを任せれば、独立した会社の経営者として、実際に経営を学ぶチャンスが得られます。複数の親族に事業を継がせたい場合でも、ホールディングス化をしてあれば、各人が事業会社を継ぐことも可能でしょう。

ホールディングス化のデメリット・リスク

ホールディングス化を行う際のデメリット・リスクについてご紹介します。

管理コストの増加

ホールディングス化を行うと法人の数にともない、グループ全体の管理コストが増えます。したがって、ホールディングス化することで、増加する管理コストを上回るだけの効果が得られるか、事前に検証しておく必要があります。

求心力の低下

企業グループをホールディングス化すると、経営判断は持株会社が行うものの、業務に関する権限は各子会社に委譲されます。したがって、それぞれの意思決定の迅速化になる反面、それぞれが強い権限を持った結果、グループにおける経営者の求心力が働きにくくなることも考えられます。

こうした求心力の低下を防ぐには、日頃から持株会社と各事業会社がビジョンを共有しておく必要があります。

セクショナリズムの弊害

セクショナリズムは、ホールディングス内の子会社間での利害の対立や競争が生じ、協力やシナジーの創出が妨げられる状況を指します。セクショナリズムが発生すると、子会社間での情報共有や協力が制約され、組織全体の成果や競争力が低下する可能性があります。

セクショナリズムの弊害を回避するためには、公平な利益配分の確保、経営資源の公正な配分、組織文化の統合やコミュニケーションの促進が重要です。また、競合関係を適切に調整し、各子会社が協力し合う文化を醸成することも重要です。

ホールディングス化のスキーム

ホールディングス化を行う際の主なスキームについてご紹介します。

株式交換方式

株式交換方式とは、売り手側の全株式を買い手側の株式と交換することにより、100%の親子関係を生じさせる企業再編の手法です。親会社から子会社の株主に支払われる対価は、親会社の株式であるため、資金を準備することなく持株会社化ができる特徴があります。

株式移転方式

株式移転方式とは、既存の会社が完全親会社を設立し、保有する株式のすべてを親会社に移転して完全子会社となる代わりに、親会社の株式の割り当てを受ける企業再編の手法です。

完全親会社(持株会社)を設立するにあたり、各子会社(事業会社)の株主は、現金の出資に替えて各子会社の株式を現物出資します。その結果、株式移転後は持株会社を頂点に、事業会社が100%の完全子会社としてホールディングスグループを構成することになります。

会社分割方式

会社分割方式とは、会社の一部またはすべての事業を切り離して、別会社に移転する手法のことです。移転する先が新設会社の場合は「新設分割」、既存会社の場合は「吸収分割」となります。

ホールディングス化の際に会社分割方式が用いられる場合は、既存会社から管理部門だけを残し、本業を分社化して下に切り出す形でこの手法が用いられています。

ホールディングス化の事例


最後に、ホールディングス化の事例をご紹介します。

凸版印刷の事例(2023年)

2023年10月1日、凸版印刷は持株会社体制へ移行しました。

ホールディングス化に伴い、持株会社の商号を「TOPPANホールディングス株式会社」とし、凸版印刷の事業を継承する事業会社の商号を「TOPPAN株式会社」「TOPPANデジタル株式会社」にそれぞれ決定しました。

【ホールディングス化の目的】
ホールディングス化によってグループガバナンスを強化しグループシナジーの最大化を図ることを目的に掲げられています。

グループ企業各社が持つ様々なリソースやビジネス、サービスを組み合わせ、成長分野であるDX、SX、フロンティアの事業を拡大し、事業ポートフォリオの変革をさらに推進していくことを目指します。

パナソニックの事例(2022年)

2022年4月1日、パナソニックは持株会社体制へ移行しました。

【ホールディングス化の目的】
大手電機メーカーのパナソニックは、2019年5月に策定した中期戦略に基づき、低収益体質からの脱却を目指していました。利益成長を実現するためのリソース強化や、固定費削減や構造的赤字事業への対策などの経営体質強化を推進するとともに、2022年4月よりホールディングス化しました。

移行後は経営と事業を分離し、分社化された各事業会社は、より責任と権限が明確になりました。その結果、外部環境の変化に応じた迅速な意思決定や、事業特性に応じた柔軟な制度設計などを通じて事業競争力の強化に取り組み、収益の改善を目指せるとしています。

終わりに

以上ホールディングス化について概要をご紹介しました。ホールディングス化は、経営統合のほか、経営の効率化、意思決定の迅速化、近年はコーポレートガバナンスの強化などを目指す際に有効な手法です。また、リスク分散や事業承継の準備など、経営戦略における重要な選択肢として位置づけられます。

日本M&Aセンターでは、M&Aをはじめ、中堅・中小企業から上場企業の様々な経営課題の解決に向けて専門チームを組成し、ご支援を行っています。詳しくはコンサルタントまでお問合せください。

著者

M&A マガジン編集部

M&A マガジン編集部

日本M&Aセンター

M&Aマガジンは「M&A・事業承継に関する情報を、正しく・わかりやすく発信するメディア」です。中堅・中小企業経営者の課題に寄り添い、価値あるコンテンツをお届けしていきます。

この記事に関連するタグ

「M&A・持株会社・組織体制」に関連するコラム

会社売却とは?メリットや注意点、流れを解説

M&A全般
会社売却とは?メリットや注意点、流れを解説

会社売却とは?会社売却とは、会社の事業や資産を第三者に売却し、対価を受け取るプロセスを指します。近年は、企業規模に関わらず、中小企業の会社売却の件数も増加傾向にあります。中小企業において、会社売却が検討される具体的な場面としては「後継者が身近にいないため、外部に引き継ぎ手を求めるケース」「自社単独での成長に限界を感じ他社と手を組むケース」が考えられます。この記事のポイント中小企業における会社売却で

【広報誌「MAVITA」Vol.4より】 私たちにおまかせ!拠点紹介 ――日本M&Aセンター 九州支店

広報室だより
【広報誌「MAVITA」Vol.4より】 私たちにおまかせ!拠点紹介 ――日本M&Aセンター 九州支店

博多駅の真向かいという好立地ビルを拠点に、約30人のメンバーが九州各地に繰り出す活気あふれる九州支店。九州出身者や、当地に移住を決めたメンバーも多く、地域に根ざした営業活動を展開しています。2023年度の成約件数が前年度の2倍になるなど、勢いに乗る九州支店を取材しました。(日本M&Aセンターが発刊する広報誌「MAVITA」Vol.4より転載)九州支店の情報はこちら[mokuji]支店長が語る九州地

【広報誌「MAVITA」Vol.4より】 心に残る成約式 vol.2

広報室だより
【広報誌「MAVITA」Vol.4より】 心に残る成約式 vol.2

<譲渡企業>株式会社きちみ製麺代表取締役吉見光宣さん<譲受け企業>八戸東和薬品株式会社代表取締役髙橋巧さん(役職はM&A実行当時)最終契約書が交わされるその日、日本M&Aセンターでは「M&A成約式」というセレモニーを執り行います。譲渡企業にとっては経営者人生の締めくくりです。譲受け企業にとってはM&Aを成功させる覚悟ができます。一つとして同じものがない「心に残る成約式」をご紹介します。(日本M&A

中小企業がM&Aを行う背景や目的とは?手法や成功のポイントをわかりやすく解説

M&A全般
中小企業がM&Aを行う背景や目的とは?手法や成功のポイントをわかりやすく解説

急速に高齢化が進み、2025年問題が目前に迫る中、中小企業によるM&Aの件数は増加傾向にあります。本記事では、中小企業のM&Aの現状とその目的、用いられる手法、中小企業のM&Aを成功に導くポイントについて紹介します。この記事のポイント中小企業のM&Aが増加傾向にある背景として、経営者の高齢化による「後継者不在問題」と、人口減少による「縮小する国内市場への対応」が挙げられる。中小企業がM&Aを選択す

【広報誌「MAVITA」Vol.4より】 スポーツビジネスとM&A  Bリーグ初制覇を果たした広島ドラゴンフライズ

広報室だより
【広報誌「MAVITA」Vol.4より】 スポーツビジネスとM&A  Bリーグ初制覇を果たした広島ドラゴンフライズ

日本プロバスケ界の歴史に残るシンデレラストーリーに——。クラブ創設10年目で、バスケットボールBリーグで初優勝を飾った広島ドラゴンフライズは、シーズン王者を決めるチャンピオンシップ(CS)で順位が上回るクラブを次々と撃破し、見事〝下剋上″を成し遂げました。2018年に日本M&Aセンターによる仲介でM&Aを実行、NOVAホールディングスを親会社に迎え、安定したクラブ経営の実現とチームの急成長の先に手

【広報誌「MAVITA」Vol.4より】 地方発 世界に誇るブランド企業 Vol.2 小田陶器株式会社

広報室だより
【広報誌「MAVITA」Vol.4より】 地方発 世界に誇るブランド企業 Vol.2 小田陶器株式会社

陶磁器の生産で日本一を誇る「美濃焼」。美濃焼の窯元として100年以上の歴史をもつ小田陶器(岐阜県瑞浪市)が2024年、世界を見据えての新たな一歩を踏み出しました。(日本M&Aセンターが発刊する広報誌「MAVITA」Vol.4より転載)伝統と革新が織りなす美濃焼の至宝古来より生産が行われ、現在、国内食器生産におけるシェアが5~6割とも言われる美濃焼。生産地である岐阜県・東濃エリアには、数百もの窯元が

「M&A・持株会社・組織体制」に関連する学ぶコンテンツ

「M&A・持株会社・組織体制」に関連するM&Aニュース

京成電鉄、タクシー事業の再編を実施へ

京成電鉄株式会社(9009)は、タクシー事業の再編を発表した。京成電鉄は、鉄道による一般運輸業、土地・建物の売買及び賃貸業を行っている。再編の目的京成グループでは、東京都東部、千葉県、茨城県を中心とした事業エリアにおいて、鉄道事業を中心に、株主や地域社会を含む全てのステークホルダーのため、事業を多角的に展開している。今般、グループビジョンの確実な達成に向けて、東京都・千葉県下においてタクシー事業を

古河電気工業、光ファイバ・ケーブル事業のグループ内組織再編へ

古河電気工業株式会社(5801)は、同社の完全子会社(名称未定、以下「新会社」)を設立し、会社分割(吸収分割)の方法により、同社の光ファイバー・ケーブル事業及び完全子会社であり光ファイバー・ケーブル関連事業を行っている株式会社正電成和(東京都品川区)の発行済株式の全部を、新会社に継承させることを決定した。別途、完全子会社(名称未定、以下「持株会社」)を設立し、新会社、完全子会社であるOFSFite

GMOインターネットグループ、持株会社体制への移行等を発表

GMOインターネットグループ株式会社(9449)は、インターネットインフラ事業(ドメイン事業、クラウド・ホスティング事業、アクセス事業)及びインターネット広告・メディア事業(以下「対象事業」)を吸収分割により、連結子会社であるGMOアドパートナーズ株式会社(4784、以下「GMO-AP」)へ承継すること(以下「本吸収分割」)を決定した。GMOインターネットグループを吸収分割会社、GMO-APを吸収

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース