海外子会社・海外支店の税金のかかり方比較 ~グローバルなタックスプランニング基本②~
⽬次
- 1. 海外マーケットへの進出形態
- 1-1. 間接的な海外進出・直接的な海外進出
- 2. クロスボーダーM&Aの活用のメリット
- 3. 海外子会社vs海外支店、それぞれの場合の税金のかかり方
- 3-1. 「海外子会社」の場合
- 3-2. 親会社と子会社それぞれに課税
- 3-3. 「海外支店」の場合
- 3-4. 現地での課税
- 3-5. 日本での課税
- 3-6. 支店が赤字の場合
- 4. 海外子会社vs海外支店、メリットとデメリット
- 5. 海外進出に重要なポイント
- 6. 日本M&Aセンターの海外・クロスボーダーM&A支援
- 6-1. プロフィール
日本企業が直接的な海外進出を考えたときの代表的な二つの選択肢、「海外子会社」と「海外支店」について税金面を中心に比較します。
本記事は、「グローバルなタックスプランニングの基本①『外国子会社配当益金不算入制度』活用のすすめ」と関連する内容になっております。
海外マーケットへの進出形態
日本M&Aセンターでは、企業の成長戦略実現の一手法として、クロスボーダーM&Aを活用した海外進出を多数お手伝いさせていただいております。
日本企業が海外でビジネスを展開する場合、その進出のレベル感に応じてさまざまな手法が考えられますが、リサーチ段階を経て具体的な検討を行うにあたり、主な手法としては次の2つの形態に大別できます。
間接的な海外進出・直接的な海外進出
間接的な海外進出とは、現地の企業と代理店契約等を締結することで、他社を介して海外での製品販売やサービス展開を行うことです。
直接的な海外進出は、自社の海外子会社や海外支店を設立するなどして、自前で海外に出て、製品販売やサービス展開を実施します。
クロスボーダーM&Aの活用のメリット
事業の意思決定に係るスピード感を重視するのであれば直接的な海外進出に軍配が上がるでしょう。
ただし、事業ノウハウだけでなく文化から商習慣に至るまで、経験値の無い未知のエリアで一から事業展開するのは一定のリスクが伴います。成功に向けてヒト・モノ・カネといった企業のリソースを相応に投入し、中長期の時間軸で根気強く取り組んでいく必要があります。
そこで、既に一定のキャッシュ創出能力を有している現地のローカル企業の経営権をM&Aにより取得して子会社化する事例が増えてきています。
既に実績のある海外の現地企業を子会社化することで、自前での進出と比べて相応に確度の高いビジネスプランを手に入れることができます。
クロスボーダーM&Aの活用によって、未知のマーケットへの進出リスクを一定程度低減しつつ、時間を買う=スピード感のある事業展開を獲得することが可能になります。
海外子会社vs海外支店、それぞれの場合の税金のかかり方
ここで、日本企業が直接的な海外進出を考えたときに取りうる二つの選択肢、「海外子会社(=M&Aによる海外進出、自力での海外進出いずれも可能)」と「海外支店(=自力での海外進出)」について税金のかかり方を中心に事例を用いて比較します。
【事例】
・日本企業A社は、B国において自社製品を販売
・日本の法人税率35%、B国の法人税率20%
・日本での製品の原価60
・海外子会社への販売価格100
・海外取引先への販売価格140
「海外子会社」の場合
M&Aであれば進出国のローカル企業の株式を取得することで経営権を取得、自力であれば進出国に現地法人を設立(日本から出資)して事業展開することとなります。
いずれの場合も日本側で現地法人の株式を取得(もしくは日本から出資)し、子会社として運営します。
A社は自社製品をB国の現地法人C社に販売するという想定を基にすると、税金のかかり方は下記の通りとなります。
親会社と子会社それぞれに課税
現地法人C社は、日本の親会社A社から仕入れた製品をB国で販売します。
この場合、A社は日本側で現地法人への販売に係る利益を獲得し、現地法人C社はA社から仕入れた製品の販売に係る利益を獲得します。
A社には、A社の課税所得(以下、当該文章中は「もうけ」と表記)に対してのみ、35%の日本の税金がかかります。
さらに、現地法人であるC社では、C社のもうけに対し20%のB国の税金もかかることになります。
上で示した図の事例だと、A社C社それぞれのもうけに対して各所在国の税金がかかっていますが、B国の低い税率の恩恵を受けて、(2)の海外支社の場合より、グループとしての手残りは多くなっています。
「海外支店」の場合
「海外支店」の場合は、進出国にA社の事業拠点として支店aを設立します。
支店aはA社の一拠点としてB国で事業展開しますが、この場合の事業に対する課税のルールに留意が必要です。
現地での課税
ある国に国外から支店を設立して事業展開を行う場合、その拠点が所在する国では支店を「恒久的施設(PE)」として取り扱い、課税対象とすることが一般的です。
すなわち、事業拠点である支店がその国で稼いだもうけについては、その国の税金を課す取扱いが一般的です。
この場合でも、B国でA社の支店aが稼いだもうけについて、B国の税金(もうけに対し20%)がかかります。
なおB国におけるA社の支店aのもうけは、B国内で得た売上から、現地で生じた費用や本社経費の付け替え分を控除して計算します。
日本での課税
ただし、課税はそれだけでは終わりません。
この支店aはA社の一部なので、A社が所在する日本では「支店aのもうけも含めたA社全体のもうけ」に対して日本の税金(もうけに対し35%)がかかることになります。
日本とB国の両方で税金がかかってしまうため、二重課税の状態が生じますが、日本側では外国税額控除という制度の適用があります。
日本のもうけにかかる税金から外国のもうけにかかった税金を控除する形で、実際の税率が日本の税率である35%となるように調整されます。
このように、支店による海外進出の場合、日本より低い税率の国で事業展開したとしても、現地の低税率を享受できないということになります。
上に示した図でも、A社としての手残りは、(1)の「海外子会社」の場合と比べて、少なくなっています。
支店が赤字の場合
一方で、支店による海外進出によるメリットもあります。支店の事業が赤字となってしまうケースです。この場合、支店aの損失はA社全体のもうけを計算する中で合算され、日本で課される税金を減らす効果が生じます。
なお、国によっては外資規制等で国外からの支店形態による進出を認めていないことがあるため、あわせて留意が必要です。
海外子会社vs海外支店、メリットとデメリット
ここでは、日本企業が直接的な海外進出を考えたときに取りうる二つの選択肢である「海外子会社」と「海外支店」について改めて比較をしてみます。
主なメリット・デメリットは次の通りです。
また、上記の事例はあくまで分かりやすいよう簡易的に説明したものであり、「海外子会社」「海外支店」どちらかを推奨するものではありません。
実際にはそれぞれのメリット、デメリットを踏まえ、各国の規制や海外進出を計画している企業の状況によって慎重に検討を進める必要があります。
海外進出に重要なポイント
海外M&Aでは、自社ビジネスの強みと課題を見極め、大きな戦略の元でトライ&エラーを繰り返しつつ、勝てる市場・勝ちたい市場に素早く展開していくことが最も重要と考えます。
国内外に関わらず魅力的な市場への参入を検討する中で、事業価値を向上させるために国際間の税率差活用等といった、適切なストラクチャー検討ができれば理想的でしょう。
日本M&Aセンターの支援事例においても、クロスボーダーM&Aを活用した海外進出により、自力での進出と比較してスピード感のある事業展開を可能にするとともに事業価値を高めている企業様が多数いらっしゃいます。
M&Aはどんな課題も解決できる万能の経営ツールではありませんが、海外への直接進出を考えたときに有力なソリューションの選択肢になる可能性があります。
海外進出をはじめ、M&A活用による事業価値向上の選択肢をお考えになられた際には、ぜひとも日本M&Aセンターにご一報いただければ幸いです。
日々の業務で蓄積した情報や支援実績と共に、皆さまの成長戦略実現の一助となれればたいへん嬉しく思います。
日本M&Aセンターの海外・クロスボーダーM&A支援
日本M&Aセンターでは、中立な立場で、譲渡企業と譲受企業双方のメリットを考慮にいれたM&Aの仲介を行っております。また、日本企業による海外企業の買収(In-Out)、海外企業による日本企業の買収(Out-In)、海外企業同士の買収(Out-Out)も数多く手掛けてまいりました。
海外進出や事業継承に関するお悩みはいつでもお問い合わせください。
【本記事は、2022年3月に公開したものを再構成しています。】