M&A提携仲介契約時の「重要事項説明」とは?
⽬次
- 1. なぜ今、中小M&Aで重要事項説明が義務化されたか
- 2. 重要事項説明のポイント
- 3. 重要事項説明を徹底するために求められる姿勢
- 4. 日本M&Aセンターの対応
- 5. 誰が重要事項説明を担当するか
- 6. 重要事項説明の内容は
- 7. 重説プロジェクトで実現したいこと
- 7-1. プロフィール
中小企業庁は2023年秋に「中小M&Aガイドライン」を改訂し、M&A支援機関による提携仲介契約時の重要事項説明が義務化されました。また、業界自主規制団体「一般社団法人M&A仲介協会」も国の要請に合わせて自主規制ルールを設け、「契約重要事項説明規程」など4規程を制定しました。
協会幹事会員である日本M&Aセンターは、これまでもお客様に対して、M&Aの流れや提携仲介契約における注意点を丁寧に説明してきました。M&A仲介のリーディングカンパニーとして、今回の重要事項説明の義務化に対応するべく、社内プロジェクトを発足させて、お客様への説明方法を一部変更しています。当社の取り組みについて、M&A仲介協会事務局として自主規制ルールを取りまとめた横井伸法務部長と、当社で全コンサルタント向けの研修を担っている品質本部の齋藤秀一副本部長に聞きました。
なぜ今、中小M&Aで重要事項説明が義務化されたか
中小企業によるM&Aが急速に広がるにつれてトラブル等も増加していることから、中小企業庁は2023年9月、「中小M&Aガイドライン」を改訂して、M&A支援機関に対して重要事項説明の義務化を盛り込みました。M&A業界では中小企業庁に登録するブティック(仲介会社等のM&A支援機関)が700事業者(2024年3月時点)と急増し、実稼働する数百社で過当競争となっています。2021年に当社などが中心となって発足させた自主規制団体よりも、国の問題意識が先行した形と認識しています。そのため自主規制団体でも国の要請に応えるために、契約重要事項説明、倫理、コンプライアンス、広告・営業の4つの自主規制ルールを2023年12月に策定しました。
自主規制ルールの効力を高めるために、協会の会員数増加の誘致活動も進めて、この1年で18社から100社近くまで増やすことができました。協会の会員は大半が中小企業庁登録のM&A支援機関であるため、中小M&Aガイドラインと自主規制ルールの遵守が必須となりました。官民で中小M&Aの推進に取り組み、我々としてはお客様の権利を守り、業界発展のために誠心誠意、対応していくことが求められています。
日本M&Aセンター法務部長の横井伸弁護士
重要事項説明のポイント
M&Aプロセスの入り口に当たる提携仲介契約締結時に、M&A支援機関がお客様に対し重要事項を説明するものです。重説は顧客保護の仕組みで、契約の内容が複雑かつ多岐にわたる場合に、初めての契約事項のリスク等をしっかりと認識してもらうことが目的となります。不動産売買時にも重要事項説明がありますが、不動産という”商品”における重要事項説明とは異なり、M&Aの場合は提携仲介契約に伴う契約重説です。
個人的な話になりますが、入社15年目を迎えたM&A仲介会社の法務担当者として、経営者の譲渡後のリスクをいかにして減らすかに注力してきました。今回、譲渡後のリスクについて説明する内容を自主規制ルールの広告・営業規程12条に盛り込みました。これからもお客様である経営者の権利保護はM&A支援機関にとって生命線となります。
重要事項説明を徹底するために求められる姿勢
リーディングカンパニーとして、当社が高いレベルで重要事項説明を行うことは大前提です。ただ当社だけ取り組んでいれば良いかという問題ではありません。当社の重要事項説明のノウハウを業界に提供することも選択肢として考えていかなければなりません。ただし業界に前例がないだけに重要事項説明は決して簡単なものではなく、形式的に契約の注意点を告知するだけでは決して十分ではありません。重要事項説明を担うコンサルタント一人ひとりが常に業務においてレベルアップし、スキルを上げていかなければなりませんし、関係する法律なども勉強しなければなりません。お客様からの質問に応え、しっかりと理解してもらうためには高いスキルが必要だからです。重要事項説明の対応にも精一杯応えていく必要があります。
日本M&Aセンター品質本部の齋藤秀一副本部長
日本M&Aセンターの対応
社内の弁護士や公認会計士、コンプライアンス担当役員など計13人が参加するプロジェクトで、重要事項説明のルール化や説明方法を検討し、研修等を企画しています。重要事項説明をしっかりと現場に落とし込むことをミッションとしました。2024年2月からコンサルタント向けに、1コマ90分間の研修会を各拠点で計十数回にわたって実施し、約600人のコンサルタントが参加しました。当社はこれまでもお客様にしっかりとM&Aの注意点を説明してきた経緯もあるので、大きく変わるということはありませんが、お客様がより理解しやすい内容に変更することが求められています。お客様と現場のコンサルタントが混乱しないように、バランス感覚を持って重要事項説明を徹底することを心掛けています。
誰が重要事項説明を担当するか
説明者はもちろん誰でもいいわけではありません。重要事項説明は一定の経験年数・実績のある資格者が必ず実施しなければなりません。当社では社内の上級試験に合格し、成約実績があるコンサルタントが重要事項説明をするように仕組化しました。経験豊富なコンサルタント200人が重要事項説明を担うことになります。全国の商談に同行したり、オンライン面談で出席したりして、基本的には譲渡希望と譲受け希望のお客様全てにご説明します。
重要事項説明の内容は
お客様の視点に立って、M&Aで分かりにくいポイントを13項目に分類しました。13項目は下記の通りです。
① 仲介とFAの違い
② 業務の範囲
③ 報酬
④ 実費について
⑤ 契約期間
⑥ 存続条項
⑦ テール条項
⑧ 専任条項
⑨ 直接交渉の制限
⑩ 秘密保持(インサイダー)
⑪ 契約の解除
⑫ 免責条項
⑬ 利益相反のおそれのある事項
上記項目に加えて、M&Aの流れに沿って説明することでお客様が理解しやすい内容を意図しています。説明するパンフレットに重要事項説明の内容を盛り込んでいます。これまでの当社の商談数から予想すると、年間で約5,000回の重要事項説明を実施することを想定しており、営業日で換算すると1日当たり20回程度、全国の経営者にご説明する流れです。2024年4月から、すでに現場では重要事項説明を実施しており、お客様やコンサルタントから意見を聞きながら方法について改良していきます。
重説プロジェクトで実現したいこと
多くの経営者にとって、基本的にはM&Aは初めての経験で、なかにはご高齢の方もおられます。お客様に合わせて重要事項説明を徹底することで、未知のM&Aに対する不安も払拭でき、顧客満足度も高まっていくと考えています。それは当社が掲げるパーパス「最高のM&Aをより身近に」の実現にもつながります。当社だけではなくM&A支援機関がしっかりと重要事項説明に取り組むことで、M&A業界全体の信頼感の醸成にも結び付けていきたいです。