なぜ非上場企業が増えている?上場と非上場の違いを解説

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企業は、株式市場に上場している「上場企業」と「非上場企業」の2種類にわかれます。日本企業の約9割以上は非上場企業であるとも言われます。

本記事では、上場企業と非上場企業の違い、近年増えている非上場化の動きについてご紹介します。

日本M&Aセンターでは、M&Aをはじめ様々な経営課題の解決に向けて専門チームを組成し、ご支援を行っています。詳しくはコンサルタントまでお問合せください。

上場、非上場とは?

上場とは、自社が発行する株式を、証券取引所が運営する株式市場で売買できるようにすることです。証券取引所が定める上場基準を満たし、審査を経ることで上場することができます。

新規の公開株式を発行することを指すIPO(Initial Public Offering:新規公開株式)も、上場とほぼ同義で用いられます。

一方、日本企業の多くを占める非上場企業は証券取引所で売買を行うことができません。なお、非上場企業の株式のように公開されていない株式を「未公開株」と呼び、企業の役員や社員などが保有しているケースが多く見られます。

上場区分

証券取引所は全国に5ヶ所あり、上場している会社の規模などから、かつては「東証一部」「東証二部」「JASDAQ」「マザーズ」の4つに分類されていました。

しかし、各市場でターゲットとなる企業の層が重複していることなどから市場の再編が行われ、2022年4月4日以降は「プライム」「スタンダード」「グロース」およびプロ投資家向けの「TOKYO PRO Market」の4つに分類されることになりました。

上場区分 概要 該当企業例
プライム市場 東京証券取引所における最上位の市場であり、かつての東証1部に相当する市場

上場のための審査基準が他の市場と比べて厳しいが、市場規模も流動性も大きいため、資金調達にはもっとも有利な市場であると言える
トヨタ自動車、ソニーグループなど
スタンダード市場 かつての東証二部とJASDAQ(スタンダード)に相当する市場

審査基準はプライム市場ほど厳しくないがが、市場規模も株式の流動性も十分にあり、多くの企業が目指す市場のひとつとなっている
日本マクドナルドホールディングス、日本オラクルなど
グロース市場 かつての東証マザーズやJASDAQ(グロース)に相当する市場

高い成長性が期待されるベンチャー企業や、創業から間もない新興企業などが対象となるため、リスクを許容できる投資家が中心となって株式の売買が行われている
ライフネット生命、freeeなど
TOKYO PRO Market 2009年に開設された、プロ投資家のみが株式の取引を行える市場

一般市場よりも柔軟な上場基準(制度設計)になっている
アーバンライク、サトウ産業など

上場企業数

日本取引所グループ(JPX)によると、2024年3月末日時点で、3,938社が上場を果たしています。その内訳は、以下のとおりです。

(単位 : 社) カッコ内は、うち外国会社

合計 プライム スタンダード グロース TOKYO PRO Market
3,942 1,651 1,609 576 102
(6) (1) (2) (3) (0)

※出典:日本取引所グループ ホームページ「上場会社数・上場株式数」

もっとも古いデータとして残っている1990年の上場企業数が1,752社(うち外国企業125社)であることから考えると、約30年で倍以上の数に増えていることが分かります。

上場企業と非上場企業の違い


上場企業と非上場企業は「株式公開の有無」のほか、以下の点で違いが見られます。

資金調達の選択肢

前述の通り上場企業は取引市場で株式を売却し、直接金融による資金調達が可能になります。
もちろん非上場企業でも投資家からの資金調達は可能ですが、非上場企業の株式は市場で売買できないため、出資を募るのは現実的には難しいといえるでしょう。
したがって多くの場合、非上場企業の資金調達は、金融機関からの融資を中心に考えざるを得ません。

しかし、上場企業であれば、融資以外にも市場から幅広く資金を調達することが可能です。この点が上場企業と非上場企業とでは大きく異なります。ただし株式市場からの資金調達は、融資のような間接金融と比べると調達コストが上がります。したがって、株価をある程度以上の水準に保っておかなければ、市場からの新たな資金調達は望めません。

情報開示と透明性

株主に与えられた権利は、上場企業・非上場企業ともに同じです。したがって、基本的に株式の持株比率によって、株主として行使できる権利の内容が変わります。

ただし非上場企業では、株主が経営者とその一族で占められているケースが多くあり、主要な株主グループに属していれば、株主の意見が通りやすいといえます。いっぽう、上場企業の株主は幅広く不特定多数であることがほとんどのため、非上場企業のように特定の株主の意見が通りやすいという事は原則ありません。

また非上場企業の場合は、主要な株主グループ以外の株主に対し、情報開示や経営の透明性が確保されるケースは多くありません。
一方、上場企業では、多くの株主に対し情報開示を行い高い透明性を確保することや、株主など利害関係者に説明責任を果たすことが求められます。

経営の自由度と意思決定

非上場企業はオーナー経営者である場合が多いため、経営者の意思が会社経営にダイレクトに反映しやすいといえます。

これに対し上場企業の場合は、不特定多数の株主によるさまざまな意見に耳を傾ける必要があり、株主に配慮しながら経営方針を決めなければなりません。したがって、経営の自由度や意思決定のスピードにおいて異なると言えます。

株主への利益還元

経営者は株主から経営を任せられているため、株主の利益を最大化するために業務を執行しなければなりません。この点は、上場企業も非上場企業も基本的に同じですが、上場企業の場合は所有と経営の分離が成立しているのに対し、非上場企業の場合はオーナー経営者であるケースが多いため、必ずしも所有と経営の分離が成立しているとはいえません。

したがって、上場企業には株主への利益還元に重点を置きながら企業経営を行うことが求められます。

もちろん、株主だけでなく従業員にも利益を還元しなければならないだけに、上場企業の経営者には非常に難しいかじ取りが求められるといえるでしょう。

非上場企業が増えている背景


上場を目指す企業がいる一方で、近年は非上場企業に戻る選択をする企業も増えています。その背景には、主に2つの理由があります。

①新たな資金調達が難しい、上場維持の費用もかかる

上場を維持するメリットのひとつとして、資金調達に有利な点が挙げられます。しかし、株価が思うような価格で維持できなければ、新株を発行して市場から新たに資金を調達するのも難しくなってしまいます。

また株式市場に上場し、それを維持し続けて行くためには高額な費用が必要です。上場維持費はどの市場に上場するかによって違いますが、おおむね年間で数千万円単位の金額が必要だといわれており、会社の規模によっては年間1億円以上かかることも珍しくありません。

そのため、高額な維持費を支払い続けるメリットが得られないと感じる企業の中には、非上場企業に戻る選択をする企業もいます。

②意思決定の円滑化や事業承継

上場企業は不特定多数の株主から意見を伺う必要があり、最終的な意思決定までに時間を要する傾向があります。一方、非上場企業は上場企業に比べ、経営陣によるスピーディーな意思決定が期待できます。

また事業承継を円滑に行うためには、後継者に株式を集中させなければなりません。しかし上場を維持すると不特定多数が株主となるため、後継者に株式を集中させることはできません。

上場する主なメリット


企業が上場することで得られるメリットは、主に以下の3つです。

社会的信用の向上により、資金調達や人材確保がしやすくなる

上場すると、株式は多くの投資家によって売買されるようになるため、知名度は上がり、社会的信用も向上します。

知名度や社会的信用が向上すれば、株価も高く維持しやすくなり、新たな資金調達や新規の取引などが有利になります。また、優秀な人材も集めやすくなります。

社内の管理体制が強化される

上場をするためには、厳しい審査基準をクリアしなければなりません。そのためには、コンプライアンスの遵守や内部統制などの構築が必要です。

したがって、上場を目指す過程で社内の管理体制が強化され、業務の効率化や不正防止などに向けた取り組みが進められます。

キャピタルゲインの獲得が期待できる

非上場企業の株式は、市場で売却することができません。したがって、オーナー経営者の持っている株式を現金化することは容易ではありません。

これに対し、上場するとオーナー経営者の持つ株式を市場で売却することが可能になります。したがってオーナー経営者等が保有する株式を売却し、キャピタルゲインを現金で獲得することができます。

上場するリスク・注意点

上場するにあたり、知っておかなければならないリスクや注意点は以下の4つです。

多額の費用と維持費がかかる

上場を申請する際には上場審査料が、そして上場する際には新規上場料が必要となります。それ以外に、証券会社や監査法人に対して支払う費用も必要です。

こうした費用は上場時だけでなく、上場後も上場料として年間数百万円程度は必要となります。また、監査法人に支払う監査費用や内部統制に関連する費用、IR関連の費用などを合計すると、年間数千万円程度の維持費が必要です。

社会的責任が一層求められるようになる

上場すると社会的な地位や知名度が上がる分だけ、社会的責任が一層求められるようになります。そのため、財務内容の説明や事業内容の開示、コンプライアンスの厳守など、非上場企業と比べるとそのハードルは数段上がります。

このように、企業に求められる社会的責任が上がることにより、さまざまな手間やコストがかかる点には注意が必要です。

経営責任が追及される場合がある

非上場企業は経営者自身が主要株主である場合が多いため、特別に株主を意識した経営を自覚することはあまりありません。しかし、上場すると不特定多数が新たに株主となるため、経営者として株主の利益を守る責任が重くなります。

そのため、業績不振や経営判断のミスなどが続き、株主の利益を棄損するようなことがあれば、株主代表訴訟によって経営責任が追及される場合もある点には注意しておかなければなりません。

買収リスクが増大する

上場すると不特定多数の投資家が自社の株式を買えるようになりますが、その結果、望ましくない買収者によって株式が買い占められる可能性があります。建設的な意見であれば経営者として耳を傾けるべきですが、短期的な利益のみを求める敵対的買収者の発言力が強くなってしまうと、買収リスクが増大してしまいます。

このように、上場すると買収リスクが生じるため、適切な買収防止策を講じておかなければなりません。

上場の流れ


最後に、上場するまでの流れについて解説します。株式公開の検討をスタートし、実際に上場するまでの流れは主に以下のとおりです。

①株式公開の検討を行い、社内体制を整備する

株式公開を検討し、実際に上場するまでにはおおむね3~5年程度の時間が必要だといわれています。したがって、上場を目指す場合は、逆算して最低でも3年前までには上場に向けた準備をスタートしなければなりません。

そのためにまず必要なのが、株式上場に向けた意志決定と、会計監査を受けるための監査法人の選定です。IPOに向けてスタートするにあたり、何が問題なのかを専門家と話し合い、課題を把握できるようにすると良いでしょう。

また、上場に向けた社内体制の整備も必要です。監査の受け入れに対応するための人材確保をはじめ、会社の規模に応じて上場に必要となる管理体制を構築することなどが求められます。

②主幹事証券会社の選定と事前審査

次に必要なのが、主幹事証券会社の選定です。主幹事証券会社とは、株式公開前から公開後に必要となるスケジュールの管理やアドバイス、資料の作成などさまざまな役割を中心的に担う証券会社のことです。

上場にあたり発行する株式の募集や売り出し、販売等を行う幹事会社の中でも引受量がもっとも多く、全体的な作業の運営やスケジュール管理などに中心的役割を果たす証券会社が主幹事証券会社となります。この主幹事証券会社をどこにするのかを選定し、上場を申請するための書類の作成したうえで、主幹事証券会社による事前審査がはじまります。

また、上場企業と同等の管理体制の整備を進めながら、監査法人による監査も受けなければなりません。

③上場申請を行い上場する

上場申請書類をはじめとするさまざまな書類の作成が完了したら、証券取引所に上場申請を行います。証券取引所による審査は、おおむね2~3ヶ月の期間が必要です。この期間の審査を経て証券取引所から上場の承認がおりれば、株式上場が無事達成です。

なお、株式上場にあたり株式の公募や売出しを行うためには、有価証券届出書を作成しなければなりません。また監査法人とは監査契約を締結し、引き続き監査を受けることが求められます。

終わりに

上場すると、自社が発行する株式が市場で売買できるようになります。そのため、融資だけに頼らない新たな資金調達の手段を手に入れることが可能になります。この点は経営者にとって非常に魅力ですが、株式上場には買収リスクや訴訟リスクなどのデメリットが生じるため注意が必要です。

また近年は事業承継などを目的とする上場企業の非上場化も増えています。したがって、上場すべきかどうかの判断は慎重に行わなければなりません。

なお、上場を目指さなくてもM&Aをイグジットとして創業者利益を獲得することは可能なため、上場を検討する際にはM&Aを選択肢の1つに検討しておくのが良いでしょう。

日本M&Aセンターでは、M&Aをはじめ様々な経営課題の解決に向けて専門チームを組成し、ご支援を行っています。詳しくはコンサルタントまでお問合せください。

著者

M&A マガジン編集部

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