シンガポールに代わる地域統括拠点 マレーシアという選択肢

福島 裕樹

プロフィール

福島裕樹

日本M&AセンターIn-Out推進部

海外M&A
更新日:

⽬次

[非表示]
ASEAN進出・拡大を考える経営者・経営企画の方向け・クロスボーダーM&A入門セミナー開催中

人件費、賃料、ビザ発行要件、すべてが「高い」シンガポール

ASEANのハブと言えば、皆さんが真っ先に想起するのはシンガポールではないでしょうか。
日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、シンガポールでは87社の統括機能拠点が確認されています。東南アジアおよび南西アジア地域最大の統括拠点の集積地として地位を維持しています(タイ:21社、マレーシア:11社、インド:5社)。リークアンユー首相の下で、少ない資源と国土で世界を戦っていくために、他のASEAN諸国に先立ちクリーンなビジネス環境整備、エリート教育の徹底、税制優遇をはじめとした積極的な外資企業の誘致が功を奏し、今日までに多くのグローバル企業がASEANのヘッドクォーターとしてシンガポールに拠点を設けています。

一方で、既に拠点を持つ企業は肌で感じているかもしれませんが、人件費や賃料の高騰が留まることを知らず、外国人に対するVISA発行要件も年々厳しくなっています。

特に年収基準は2022年9月から始まった新基準により、40代半以上の候補者は最大で月額11,500シンガポールドルの給与(年収138,000シンガポールドル/1500万円程度)をもらっていないとEP(エンプロイメントパス)の発行ができず、住宅費分を給与とみなすなどの工夫は可能ですが、他国に比べると厳しい基準となっています。

※出典:【記事】EP・Spass発給基準の引き上げと新ポイント制度「COMPASS」 (JAC Recruitment)

マレーシアへの拠点の移転が加速

上記の流れを受けて、今まで拠点をシンガポールに構えていた企業の他国への移転が近年増加しています。

例えば、既にマレーシアでM&Aを活用した営業活動を積極的に行っている加藤産業株式会社も2022年4月に地域統括会社を設置することを目的にTBD CONSULTANT SDN.BHDの買収を発表しています。
また、印刷インキメーカーのサカタインクス株式会社は既に多くの国へ進出をしている一方で、統括を目的とする会社はありませんでしたが、2024年2月にアジア事業の統括を目的とした100%持ち株会社をマレーシア・クアラルンプールに設立しています。

日本貿易振興機構(ジェトロ)が2024年3月に公表した日系企業対象の調査では、シンガポールに地域統括機能を持つ企業のうち、他国への移管を「実施した」と「検討している」の合計が31%と、前回の7.4%から大幅に伸びています。
出典:2023年度アジア大洋州地域における日系企業の地域統括機能調査報告書(ジェトロ 2024年3月)

成長性、安全性が高い国マレーシア

マレーシアを統括会社の移転先として選ぶ理由として、“税制優遇”、“ビジネスのしやすさ”を挙げる企業は非常に多いです。

マレーシアはシンガポール同様に積極的な外資の誘致を行っており、政府も2024年度の予算案にマレーシアに地域統括会社を置く企業に対し、5~10%の税制優遇措置を最大10年間与える「グローバルサービス・ハブ」制度を盛り込んでいます。また、“ビジネスのしやすさ”においても、多くのビジネスパーソンが英語を当たり前のように使い、財務税務の健全性が高いマレーシアは安心してビジネス活動ができる国として、シンガポールに引けを取らない魅力を持っています。
2024年度のGDP予想成長率は5%と、成長著しい他のASEAN諸国に対しても負けない力強い成長を続けています。

出典:Amro: Malaysian economy to expand by 5% in 2024; semiconductor upcycle to peak at year-end(The Edge Malaysia, 2024年4月8日)

クロスボーダーM&Aを活用した進出例

先にご紹介をした株式会社加藤産業のようにM&Aを通じて地域統括会社を設立する事例も多くみられます。従前は地域統括会社が実ビジネスを伴わず、あくまで統括目的で設立することが多かったですが、せっかく拠点を持つのであれば統括機能と実ビジネスを併せて持たせるという目的で現地の企業を買収する事例も出てきています

レカム株式会社は2023年6月にマレーシアのSin Lian Wah Electric Sdn. Bhd.を子会社化することを発表しました。同社は既にマレーシアに統括機能を持つ会社を保有していましたが、実ビジネスの強化を目的として本買収に実行しており、このような流れは今後も加速していくものと思われます。

「海外・クロスボーダーM&A」って、ハードルが高いと感じていませんか?  日本M&Aセンターは、海外進出・撤退・移転などをご検討の企業さまを、海外クロスボーダーM&Aでご支援しています。ご相談は無料です。

プロフィール

福島 裕樹

福島ふくしま 裕樹ゆうき

日本M&AセンターIn-Out推進部

大手金融機関を経て2018年に日本M&Aセンターの海外事業部に入社。入社から一貫してクロスボーダーM&Aに従事。主に譲受をする日系企業に対してアドバイザリー業務を行う。2023年4月よりマレーシア担当となり、AESAN各国での成約実績に基づきマレーシアの魅力を発信している。

この記事に関連するタグ

「海外M&A・クロスボーダーM&A」に関連するコラム

大槻代表に聞く!新たなファンドコンセプトを持つAtoG Capital本格始動

広報室だより
大槻代表に聞く!新たなファンドコンセプトを持つAtoG Capital本格始動

2024年9月、日本M&Aセンターグループの一員として新たな一歩を踏み出した「株式会社AtoGCapital」。新たなファンドコンセプトを持つ会社ですが、どのようなコンセプトなのか、その取り組みや設立への想いをAtoGCapital代表取締役の大槻昌彦さんに聞きました。※会社設立は2023年12月、ファンドの1号ファンド設立は9月20日、出資実行完了は2024年10月23日AtoGCapital代

ベトナムM&A成約事例:日本企業との資本提携でベトナムのリーディングカンパニーへ

海外M&A
ベトナムM&A成約事例:日本企業との資本提携でベトナムのリーディングカンパニーへ

ベトナムの成長企業が日本の業界大手企業と戦略的資本提携を実施日本M&AセンターInOut推進部の河田です。報道にもありましたように、河村電器産業株式会社(愛知県瀬戸市、以下「河村電器産業」)が、DuyHungTechnologicalCommercialJSC(ベトナム・ハノイ、以下「DH社」)およびDHIndustrialDistributionJSC(ベトナム・ハノイ、以下「DHID社」)の株

タイにおける日本食市場の2024年最新動向

海外M&A
タイにおける日本食市場の2024年最新動向

コロナ禍から復活最新のタイの飲食店事情日本M&Aセンターは、2021年11月にタイにて駐在員事務所を開設し、2024年1月に現地法人を設立いたしました。現地法人化を通じて、M&Aを通じたタイへの進出・事業拡大を目指す日系企業様のご支援を強化しております。ASEAN進出・拡大を考える経営者・経営企画の方向け・クロスボーダーM&A入門セミナー開催中無料オンラインセミナーはこちら私自身は、2度目のタイ駐

ベトナムM&A成約事例:日本の「ホワイトナイト」とベトナム企業

海外M&A
ベトナムM&A成約事例:日本の「ホワイトナイト」とベトナム企業

今回ご紹介するプロジェクトTの調印式の様子(左から、ダイナパック株式会社代表取締役社長齊藤光次氏、VIETNAMTKTPLASTICPACKAGINGJOINTSTOCKCOMPANYCEOTranMinhVu氏)ASEAN進出・拡大を考える経営者・経営企画の方向け・クロスボーダーM&A入門セミナー開催中無料オンラインセミナーはこちら私はベトナムの優良企業が日本の戦略的パートナーとのM&Aを通じて

小さく生んで大きく育てる ベトナムM&A投資の特徴

海外M&A
小さく生んで大きく育てる ベトナムM&A投資の特徴

本記事では、ベトナムでのM&Aの特徴と代表的な課題について解説します。(本記事は2022年に公開した内容を再構成しています。)比較的に小粒である、ベトナムM&A案件ベトナムのM&A市場は、ここ数年は年間平均300件程度で推移、Out-Inが全体投資額の約6~7割を占め、その中で日本からの投資件数はトップクラスです(2018年:22件、2019年:33件、2020年:23件)。興味深いことに、1件当

インドネシアM&AにおけるPMIのポイント

海外M&A
インドネシアM&AにおけるPMIのポイント

本記事では、クロスボーダーM&Aで最も重要であるPMIについて、インドネシアの場合を用いてお話しします。(本記事は、2022年に公開した記事を再構成しています)M&Aのゴールは“成約”ではありません。投資側の日本企業と投資を受ける海外の現地企業両社が、思い描く成長を共に実現できた時がM&Aのゴールです。特にインドネシア企業とのM&Aは、他のASEAN諸国と比較しても難易度は高く、成約に至ってもそれ

「海外M&A・クロスボーダーM&A」に関連するM&Aニュース

ルノー、電気自動車(EV)のバッテリーの設計と製造において2社と提携

RenaultGroup(フランス、ルノー)は、電気自動車のバッテリーの設計と製造において、フランスのVerkor(フランス、ヴェルコール)とEnvisionAESC(神奈川県座間市、エンビジョンAESCグループ)の2社と提携を行うことを発表した。ルノーは、125の国々で、乗用、商用モデルや様々な仕様の自動車モデルを展開している。ヴェルコールは、上昇するEVと定置型電力貯蔵の需要に対応するため、南

マーチャント・バンカーズ、大手暗号資産交換所運営会社IDCM社と資本業務提携へ

マーチャント・バンカーズ株式会社(3121)は、IDCMGlobalLimited(セーシェル共和国・マエー島、IDCM)と資本提携、および全世界での暗号資産関連業務での業務提携に関するMOUを締結することを決定した。マーチャント・バンカーズは、国内および海外の企業・不動産への投資業務およびM&Aのアドバイス、不動産の売買・仲介・賃貸および管理業務、宿泊施設・飲食施設およびボウリング場等の運営・管

京三製作所、中国子会社の京上貿易を完全子会社化

株式会社京三製作所(6742)は、子会社である京上貿易(上海)有限公司(中国・上海市、以下:京上貿易)の持分を追加取得し、完全子会社化した。京三製作所は、鉄道信号システムや道路交通管制システムの生産および販売を行っている。京上貿易は、半導体製造装置に実装される産業機器用電源装置の修理・保守などを手がけている。目的京三製作所グループの中国における産業機器用電源の修理・保守業務の充実を図る。持分の状況

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース