コラム

アクセンチュアとオープンストリームホールディングスのM&A | デジタル変革の推進力

鈴木 雄哉

日本M&Aセンター業種特化3部/IT業界専門グループ

業界別M&A
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皆さん、こんにちは。日本M&AセンターIT業界専門チームの鈴木雄哉と申します。
昨今はIT企業がM&Aを活用するシーンも増えてきており、今回は直近のM&Aの事例を基に解説させて頂ければと思います。

はじめに

2024年5月、アクセンチュア株式会社(東京都港区、代表取締役社長:江川 昌史、以下、アクセンチュア)は株式会社オープンストリームホールディングス(東京都新宿区、代表取締役社長:吉原 和彦、以下、オープンストリームホールディングス)の買収を発表しました。

オープンストリームホールディングスは、株式会社オープンストリーム(東京都新宿区、代表取締役社長:芝村 健太、以下、オープンストリーム)、およびニュートラル株式会社(愛知県名古屋市、代表取締役社長:小屋 晋吾、以下、ニュートラル)を傘下に持つ持ち株会社です。

このM&A(Mergers and Acquisitions、企業の合併・買収)は、ITコンサルティング市場において重要な出来事として注目したい内容です。

アクセンチュアは、グローバルなプロフェッショナルサービス企業であり、ストラテジー&コンサルティング、テクノロジー、オペレーションズ、インダストリーX、ソングの領域の幅広いサービスを提供しています。一方、オープンストリームは、AIとIoT技術に強みを持つ企業であり、特に日本市場におけるプレゼンスが高いです。

このコラムでは、アクセンチュアがオープンストリームホールディングスを買収する背景、その意義、期待されるシナジー効果、およびデジタル変革の未来について考察します。

買収の背景

アクセンチュアは、デジタル変革を推進するために戦略的なM&Aを積極的に行っています
2024年4月にも群馬県のIT企業と買収に合意したと発表がありました。

デジタル技術の進展は企業の競争力を左右する重要な要素となっており、特にAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)といった次世代技術は、ビジネスモデルの革新に大きな影響を与えます。アクセンチュアは、これらの技術を駆使してクライアントのビジネスプロセスを最適化し、新しい価値を創造することを目指しているようです。

オープンストリームは、クラウド、データアナリティクス、AI、IoT、セキュリティをはじめとする時代の先端技術や手法を駆使したシステム開発を生業とする日本の企業であり、特に流通業や小売業において強力なソリューションを提供しています。

オープンストリームの技術と知見は、アクセンチュアのグローバルなリソースと結びつくことで、より広範な市場に対して高付加価値のサービスを提供する基盤となります。

ニュートラルは、2021年にオープンストリームホールディングスのグループに参画しております。
主に製造業や医療業、公共系に向けたソリューションを提供しています。
またシステム開発やAI予測・因果探索・予知保全ツールの提供など、幅広い実績も築いています。

買収の意義

このM&Aの意義は、多岐にわたると思われます。
まず、アクセンチュアはオープンストリームホールディングスの買収を通じて、日本市場におけるプレゼンスを強化し、顧客基盤をさらに拡大することが期待されます。

日本は技術革新が加速している市場であり、特に製造業や流通業においてはAIとIoTの導入が急速に進んでいます。
オープンストリームホールディングスの技術は、これらの業界におけるアクセンチュアの競争力を大幅に高めるでしょう。

また、オープンストリームホールディングスの技術力を取り入れることで、アクセンチュアは自社のデジタルソリューションのポートフォリオを強化することができます。

特に、AIとIoTを駆使したスマートファクトリーやインテリジェントサプライチェーンといった先進的なソリューションを提供する能力の向上が見込まれます。
これにより、クライアントの生産性向上やコスト削減を実現するだけでなく、新たなビジネスモデルの構築を支援することが可能になるのではないでしょうか。

期待されるシナジー効果

この買収により、両社の技術とリソースが融合し、多くのシナジー効果が期待されます。
具体的なシナジー効果の例を以下に示します。

1. 技術の融合とイノベーションの加速

オープンストリームのAIとIoT技術は、アクセンチュアの広範なデジタルサービスと結びつくことで、より高度なソリューションを提供することが可能になります。
例えば、AIを活用した予知保全や品質管理、IoTによるリアルタイムモニタリングなど、先進的な技術を駆使した新しいサービスが生まれるでしょう。

2. 市場の拡大と顧客基盤の強化

オープンストリームの既存の顧客基盤とアクセンチュアのグローバルネットワークが融合することで、両社の市場範囲が広がります。特に、日本市場においては、アクセンチュアのプレゼンスが一層強化され、より多くの企業に対してサービスを提供することが可能になります。

3. 人材の共有と育成

オープンストリームホールディングスの専門的な技術者とアクセンチュアの多様なプロフェッショナルが協働することで、人材育成の面でも大きな効果が期待されます。特に、昨今デジタル分野の人材不足が課題となっている中で、優秀な人材の確保と育成は、両社の競争力を高める重要な要素となります。

4. 新しいビジネスモデルの構築

両社の技術と知見を結集することで、従来のビジネスモデルを超える新しい価値創造が期待されます。例えば、スマートシティの実現や、ヘルスケア分野におけるIoTとAIの活用など、多岐にわたる分野での革新が進むでしょう。

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M&Aコンサルタントとしての視点

この取引にはいくつかの重要なポイントが考えられます。

1. 方向性のデザイン

アクセンチュアとオープンストリームホールディングスの方向性のデザインは、このM&Aの成功を左右する重要な要素です。

アクセンチュアは既にデジタル領域で強力なポジションを築いており、オープンストリームのAIとIoTの専門知識は、アクセンチュアの戦略的目標と一致しています。
両社の技術とリソースが相互に補完し合うことで、競争力の強化が期待されます。

2. 組織文化の統合

M&Aの成功には、企業文化の統合が欠かせません。
アクセンチュアとオープンストリームはもちろん異なる企業文化を持っておりますが、アクセンチュアは過去のM&Aを通じて多様な企業文化の統合に成功してきています

この経験が今回のPMI(Post Merger Integration、M&A成立後の統合プロセス)においても有効に活用されると思われます。

3. リスク管理

M&Aには常にリスクが伴いますが、特にスキル系企業の買収ではスキルの変化や市場の動向に対するリスク管理が重要です。

アクセンチュアは、これらのリスクを管理するためのノウハウを持っており、オープンストリームホールディングスの買収後も持続可能な成長を確保するための適切な戦略を実施すると思われます。

4. シナジーの実現

シナジー効果の実現は、M&Aの成功を測る重要な指標です。
アクセンチュアとオープンストリームホールディングスの技術融合により、革新的なソリューションを市場に投入する能力が向上します。

これには、両社のリソースを最大限に活用し、共通の目標に向かって協働するための詳細な計画が必要です。

デジタル変革の未来

今回のM&Aは、デジタル変革が企業の競争力を左右する現代において、極めて重要な意味を持ちます。

アクセンチュアはオープンストリームホールディングスの技術と知見を取り入れることで、クライアントに対してより高度なデジタルソリューションを提供することが可能になります。
これは、単に技術の進歩だけでなく、ビジネスプロセスの最適化や新しいビジネスモデルの構築を支援するものです。

また、デジタル変革は単なる技術導入にとどまらず、企業文化や組織の変革も伴うものであり、これにはリーダーシップや変革マネジメントのスキルが求められます
アクセンチュアは、オープンストリームの買収を通じて、これらの側面においてもクライアントを支援する能力を強化するでしょう。

まとめ

アクセンチュアによるオープンストリームホールディングスの買収は、デジタルコンサルティング市場において重要な転換点となるのではないでしょうか。

両社の技術とリソースが融合することで、多くのシナジー効果が期待され、クライアントに対してより高付加価値のサービスを提供することが可能になります。
また、このM&Aは、デジタル変革の未来を見据えた戦略的な動きであり、企業の競争力を高める重要な要素となります。

このようなM&Aの事例は、今後より一層増加していくことになるでしょう。
デジタル技術の進展が更に加速する中で、アクセンチュアとオープンストリームホールディングスが、今後どのように新しい価値を創造していくのか、今後の展開が非常に楽しみです。

著者

鈴木 雄哉

鈴木すずき 雄哉ゆうや

日本M&Aセンター業種特化3部/IT業界専門グループ

静岡県出身。日本大学経済学部卒業後、国内大手生命保険会社にて3年間の個人・法人営業を経て社内最短6年目で営業部長へと昇進、3年間のマネジメント業務を経て、日本M&Aセンターに入社。現在はITソフトウェア業界を専門にM&A支援業務に取り組む。

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