コラム

飲料業界の動向とM&A戦略|食品M&A

伊東 勇一

日本M&Aセンター食品業界専門グループ

業界別M&A
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いつも当コラムを楽しみにしていただいている皆様、ありがとうございます。

日本M&Aセンターの伊東と申します。 当コラムは日本M&Aセンターの食品業界専門グループのメンバーが、業界の最新情報を分析し執筆しております。今回は「 飲料業界の動向とM&A戦略 」について解説いたします。

1.飲料業界の動向、直近のトピックス

2024年6月28日、飲料業界で199品目の値上げが発表されました。 原材料価格の高騰が原因で、値上げの波が広がっています。

キリンビバレッジは2024年10月に「生茶」や「午後の紅茶」などの飲料を値上げする(希望小売価格を6~25%)予定です。 アサヒ飲料も「三ツ矢サイダー」「カルピスウォーター」などの商品を10月から値上げする(希望小売価格を4~23%)ことを発表しています。 伊藤園も10月に緑茶飲料「お~いお茶」などを値上げする(希望小売価格を2~36%)予定です。

この1~2年での各メーカー商品の値上げをきっかけに、比較的手頃な価格のプライベートブランド商品との間で競争力が高まっています。

そのような中、各メーカーは、販売数量の多い緑茶飲料にテコ入れをして刷新することで、プライベートブランド商品との差別化を図っていることが注目されています。

緑茶飲料は、健康ニーズを捉えて伸長を続け、清涼飲料市場の中で最も販売数量の多い無糖茶飲料を代表するカテゴリーですが、大手量販店等の安価なプライベートブランドが過去5年間で最高の売上を記録する中、2023年の緑茶市場は2022年比で4%滅の2億6,300万ケースであり、メーカー商品は減少しました。

10年前からは約15%増加していますが、この数年は頭打ち状態で2024年も減少傾向は続くとみられます。 そこで、日本コカ・コーラの「綾鷹」やサントリーの「伊右衛門」などの有名ブランドは、ほぼ全製品が容器・デザイン・中身とフルパッケージでのリニューアルに踏み切りました。

苦くて渋い印象のあった緑茶飲料が、近年は技術の向上や利用者のニーズに合わせた味覚に合わせたことなどにより、どれも飲みやすい商品となったものの、消費者にとっては差別化された点が伝わらず、陳腐化しています。

この現状を打破すること、最盛期前のブランド力強化が今回の各社リニューアルの背景にあります。 このような状況の中、付加価値がある商品を打ち出せるか、ブランド商品として差別化を図ることができるかがカテゴリー再建のカギを握ります。

2.飲料業界の課題と解決策

新商品開発と市場への定着

少子高齢化の加速による将来的な国内人口減少に加えて、若者のアルコール離れ、RTDコーヒーの影響などにより、酒類や缶コーヒー、炭酸飲料の売上が減少しています。

打開策として、新商品の開発がありますが、既に市場には多くの商品が存在し、定番商品も多く新商品を市場に定着させるには、ブランドとしての派生商品を広げていくこと、広告やさまざまな販促を用意し、発売後もフォローを欠かさないことが必須です。

国内の飲料市場規模縮小における海外への展開

将来的に国内市場の縮小が避けられない中、海外への展開・進出する企業も増加してきました。

海外への展開には、新しい技術や素材の導入を通じて商品を差別化し、該当地域での課題を見つけ出し、開拓する必要があります。 また、消費者の健康志向や環境への配慮も重要であり、低カロリー、無添加、リサイクル可能なパッケージなどのトレンドに対応することが求められています。

現地での生産・販売を原則として、進出先に工場や事業所を作り雇用を生み出すことで、40か国以上に展開しているヤクルトや、乳酸菌飲料として100年以上続くブランドを誇り、海外7拠点で30か国以上への輸出を実現させているカルピスなどが成功例としてあげられています。

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国内の飲料市場規模縮小における業種の拡大

国内市場の縮小が避けられない現状で、既存市場での新商品の開発だけでは生き残ることが難しいと考えるメーカーが増えており、特に飲料と関連性の高い食品分野への進出が目立ちます。 例えば、アサヒの「ディアナチュラ」やサントリーの「セサミン」のように、メーカーの知見を応用した健康食品の開発や、飲料開発で得た知識を活かして医薬品の分野に進出する企業も存在します。

少子高齢化による国内人口の減少を考慮しながら、サプリメントをはじめとする食品業界、医療やバイオケミカル分野への進出など、経営の多角化を進めています。

冒頭に申し上げた、原材料価格高騰やプライベートブランド商品の台頭以外にも、物流の2024年問題や、環境問題への意識改革、EC戦略など様々な課題が挙げられます。

近年の各メーカーの対応や戦術

これらを解決するために、各メーカーは以下のような対応をしております。

  1. 配送拠点の集約、ライバルと手を取り合い共同配送
  2. ラベルレス商品の販売、ペットボトルの100%リサイクルによりプラスチック削減
  3. オンラインチャネルに適した製品展開、カスタマーとの連携強化

また、M&Aを用いて解決した事例を下記にて解説させていただきます。

3 .M&Aによる戦略

事例:【譲受】ダイドーグループHD

【譲渡】Wosana S.A(ポーランド) 【目的】海外飲料事業の利益基盤強化、欧州のグループ企業との協業 ダイドーグループHDは、2024年2月にWosana S.A.の株式を100%取得し子会社化しています。

Wosana S.Aは、果汁飲料やミネラルウォーターなどの清涼飲料の製造工場を所有し、自社ブランドの製造・販売に加え、他社飲料ブランドやPBの受託製造を担っており、自動化の進んだ生産ラインが強みです。

ポーランドは直近10年間のGDP年平均成長率が6%と経済成長を持続しており、ノンアルコール飲料の市場規模は年率7.8%成長する見込みで、安定した利益を生み出す事業を獲得し、海外飲料事業全体の利益基盤の強化を図ることが目的です。

また、トルコ飲料事業を中心したダイドーグループHD内の企業との協業や、本件を足掛かりとして欧州への事業拡大を進める狙いです。 (参照ニュース

事例:【譲受】キリンホールディングス

【譲渡】ファンケル 【目的】ヘルスサイエンス事業を柱に掲げてグループ全体の成長を促進させる 2019年にキリンとファンケルが資本業務提携を結び、キリンの議決権割合は33%となっていましたが、2024年6月にキリンがTOBにより株券等を取得することを決定しました。

キリンは長期経営構想において、食領域、医領域に加えヘルスサイエンス領域で事業を立ち上げ、健康課題を成長機会に変えることにより、世界のCSV先進企業となることを掲げています。2023年には健康食品事業を展開する豪州企業のBlackmores Limitedを買収し、海外市場における強固な事業基盤を獲得しています。

2024年2月にキリンHDの代表取締役に就任された南方健志氏は、協和発酵バイオ社の社長を歴任、Blackmores Limitedの取締役も兼任しており、ヘルスサイエンス事業を重要な柱に掲げていることを明言されています。

今回のファンケル社とのM&Aにより、国内外の事業基盤や購買データの相互活用の強化、共同研究の深化、環境技術の水平展開など、様々なシナジー効果を狙っています。 (参照ニュース

また、キリンは2024年8月にグループ内のキリンビバレッジにて、花王グループから、茶飲料「へルシア」事業を譲り受ける予定です。

花王グループは、中期経営計画の目標達成に向け、抜本的な構造改革を実施しており、事業ポートフォリオを推進する中でヘルシア事業の譲渡を決定しました。 ヘルシアは2003年に茶系飲料として初めて特別保健用食品として販売し、健康茶飲料市場を創造するとともに、累計31億円本の販売実績があります。

両社の研究員は以前から交流があり、研究などのリソースには両社の遺伝子が近いことも協業するひとつの要因となりました。 キリンは免疫研究のリーディング企業である知見と、ヘルシアのブランド力を生かして商品展開を行い、市場環境の変化に対応しながら、当事業を更に発展をさせていく予定です。

4.最後に

国内の市場規模縮小や健康志向の高まりへの対応、原材料の高騰など、さまざまな課題を抱えている飲料業界ですが、こういった課題を解決するために、M&Aを活用した戦略が増加しています。 M&Aを通じてブランド力の強化や海外販路の確保を図ることで、新たなビジネスチャンスやシナジー効果を生み出すことができ、1社単独では実現困難な取り組みも、他社と手を取り合うことでブランドイメージの強化や強固な基盤の構築が可能です。

事例として、海外での事業拡大、他業種との協業やブランドをより強化発展する事例をご紹介させていただきましたが、国内において主要メーカー数だけみても供給過剰の状況にある中で、資金力や開発力のある企業への寡占化が進行すると予想されます。

10年以上前のキリンとサントリーの統合は幻に終わりましたが、チチヤス乳業、タリーズが伊藤園グループへ入ったり、サッポロがポッカと経営統合したように、原材料高騰によるスケールメリットの追求や、他業種との協同が増加していくことが想定されます。

海外への事業拡大や成長を加速化させる狙いから、更にM&Aが増加する傾向は続くと予測いたします。

日本M&Aセンターでは、事業売却をはじめ、様々な手法のM&A・経営戦略を経験・実績豊富なチームがご支援します。詳しくはコンサルタントまでお問合せください。

著者

伊東 勇一

伊東いとう勇一ゆういち

日本M&Aセンター食品業界専門グループ

大阪府出身。10年間、飲料メーカーでの流通営業・法人営業・マネージャーを経て、日本M&Aセンターへ入社。ヘルスケア領域でのM&A・事業承継の支援業務に取り組み、現在は食品業界を専門に企業の存続と発展に向けたM&A支援に取り組んでいる。

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